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第2話 未来を知る者の最初の一手
しおりを挟む食卓には、焼き鮭と味噌汁、卵焼き。
湯気が立ちのぼる光景に、私は思わず息を詰めた。
「どうしたの? ぼーっとして」
母が笑う。
若い。元気だ。
未来では病気で亡くなる母が、ここにいる。
「……なんでもない」
胸の奥が熱くなる。
守れる。
未来を知っているなら、母の病気だって早期発見できる。
それだけでも、やり直す価値はある。
食後、私は自室に戻る。
状況整理だ。
1980年4月。私は20歳。
短大に通いながら、将来は地元企業に就職する予定だった。
そしてそのまま、流されるように生きる。
――一周目と同じ道は、選ばない。
まず資金を作る。
だが今は学生。大きな投資はできない。
「……バイト、か」
一周目では、なんとなく書店で働いていた。
今回は違う。
将来の人脈と情報が集まる場所にする。
銀行、証券会社、不動産。
特に証券会社は有力だ。
未来の株価の流れを知っている私は、いわば“歩くインサイダー”。
もちろん露骨にやれば怪しまれる。
時間をかけて、自然に。
ふと、机の上の週刊誌が目に入る。
経済特集。
私は鑑定スキルを意識してみる。
【特集企業:任天堂】
【将来成長率:極大】
【推奨保有期間:1980~1989】
頭の中に情報が流れ込む。
「本当に未来補正付きなんだ……」
つまり私は、未来記憶+鑑定の二重保証。
負けようがない。
だがその瞬間、胸の奥に小さな違和感。
未来は固定なのか?
それとも変動するのか?
試してみる。
私はアイテムボックスを開き、水の入ったコップを収納した。
――一時間後、取り出す。
氷も溶けず、水温も変わらない。
「時間停止、完璧」
もしこれを大量物流に使えば?
生鮮食品を劣化ゼロで保存できる。
冷蔵技術に頼らない流通革命。
災害備蓄も無限。
これは株どころの話じゃない。
だが同時に理解する。
急激にやれば、歴史が歪む。
未来が大きく変わると、何かが起こる気がする。
一周目で経験した南海トラフ。
あれは偶然だったのか?
それとも時間の収束?
「……慎重にいこう」
まずは小さく。
翌日、私は駅前の証券会社に向かった。
昭和の街並み。
自動改札はない。
公衆電話が並ぶ。
若い自分の足で歩きながら、妙な感覚に襲われる。
懐かしいのに、二度目。
「アルバイト募集の件で来ました」
受付の男性が私を見る。
「大学生?」
「はい」
面接は簡単だった。
数字に強いこと。
計算が速いこと。
そして何より――
株価の予測が妙に的確だったこと。
「君、経済学部?」
「いえ、文学部です」
笑顔の奥で、私は思う。
未来を知っているだけです。
その日の夕方、私は採用された。
時給は安い。だが重要なのは内部情報。
市場の空気。
投資家の心理。
そして、資金の流れ。
帰宅途中、空を見上げる。
1980年の空は、やけに青い。
「さて……」
私は小さく呟く。
最初の目標は1985年までに資金一億円。
バブル直前で仕込む。
ピークで抜ける。
そして不況期に買い戻す。
それと並行して、アイテムボックスを活かしたビジネスモデルを構築。
物流か、医療か、災害対策か。
未来を変えるには、資本がいる。
家に着くと、母がテレビを見ていた。
ニュースでは景気回復の兆しを伝えている。
誰も知らない。
十年後、崩壊することを。
「真理、今日どうだった?」
「うん、バイト決まった」
「まあ、すごいじゃない」
母が笑う。
この笑顔を守る。
それが最優先。
部屋に戻り、私はノートを開く。
タイトルを書く。
――未来改変計画。
第一段階:資金形成。
第二段階:物流革命。
第三段階:災害回避。
「今度は、傍観者にならない」
四十歳で諦めた夢。
今度は、自分の手で掴む。
昭和55年。
歴史はまだ、動き出したばかりだ。
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