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第4話 最初の資金
しおりを挟む1980年の夏が近づいていた。
証券会社の空気にも、どこか熱がこもり始めている。景気は緩やかに上向き、投資家たちの表情も明るい。
「佐伯さん、最近よく当てるね」
先輩社員が感心したように言う。
「いえ、たまたまです」
私は笑ってごまかす。
未来を知っている、とは言えない。
だが確信はあった。
小さな改変なら、反動は軽い。
私は“的中率七割程度”を意識して助言している。
完璧に当てない。
不自然にならない。
それでも、少しずつ信頼は積み上がる。
その日の帰宅後、私は机に向かった。
バイト代はまだ少ない。
だが貯金と合わせれば、初期投資は可能だ。
「まずは任天堂」
未来では1983年、ファミリーコンピュータ発売。
爆発的ヒット。
今はまだ過小評価。
私は鑑定を使う。
【任天堂:将来成長率 極大】
【最適保有期間:1980~1989】
【推奨仕込み時期:今】
「よし」
翌日、少額だが株を購入する。
手が震えた。
これは単なる投資ではない。
未来の種まきだ。
だが帰宅途中、妙な感覚に襲われた。
視界の端が、わずかに揺らぐ。
道路脇の工事現場。
足場がきしむ音。
一瞬、崩落のイメージが脳裏をかすめる。
私は立ち止まる。
――未来で、この場所に事故はあったか?
記憶を探る。
ない。
私は数秒迷い、作業員に声をかけた。
「すみません、あの足場、緩んでませんか?」
怪訝な顔をされたが、確認が入る。
そして数分後。
「おい、ボルト一本外れてるぞ!」
小さな騒ぎになる。
もしそのままなら、事故になっていたかもしれない。
私はその場を離れる。
胸がざわつく。
これも改変だ。
夜、ニュースを見る。
事故の報道はない。
代わりに別のニュースが流れる。
「都内で軽微なガス爆発、けが人一名」
私は凍る。
本来なら、その爆発はなかった。
代わりに、さっきの足場事故があったはずだ。
「……置き換わってる?」
小さな災厄は、別の形で発生する。
まるで総量が決まっているかのように。
背筋が冷える。
時間は、バランスを取ろうとしている。
私はノートを開く。
未来改変計画に新たな項目を書く。
――仮説:災厄保存則。
一定規模の不幸は、形を変えて発生する可能性。
もし本当なら。
単純に事故を消すだけでは意味がない。
被害を“最小化”する方向へ誘導する必要がある。
翌週。
任天堂株がわずかに上昇する。
数%。
小さな利益。
だが私にとっては象徴的な一歩。
「……始まった」
資金はまだ微々たるもの。
けれど流れは掴んだ。
同時に、私は別の準備を始める。
アイテムボックスに水を大量保存。
缶詰、米、医薬品。
少しずつ、気づかれない量で。
未来の震災に備える。
母が部屋をノックする。
「真理、最近ずいぶん真面目ね」
「そう?」
「将来、やりたいことでもあるの?」
私は一瞬、言葉に詰まる。
やりたいこと。
一周目では答えられなかった質問。
だが今は違う。
「……あるよ」
「何?」
「守りたいものを、守ること」
母はきょとんとした後、笑った。
「変な子」
その夜、また夢を見る。
崩れる街。
だが前回よりも、瓦礫の量が少ない。
揺れもわずかに弱い。
夢の中の誰かが言う。
――干渉は可能。ただし代償を理解せよ。
目を覚ました私は、静かに息を吐く。
恐怖はある。
だが同時に、確信もある。
未来は固定ではない。
動かせる。
完全に消せなくても、弱めることはできる。
昭和55年、夏。
私の資産はまだ小さい。
だが準備は進んでいる。
次の一手は――
より大きな資本。
そして、制度そのものへの介入。
未来を書き換える戦いは、まだ始まったばかりだ。
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