『リスタート1980 ― 四十歳OL、昭和で未来を書き換える ―』

momo

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第12話 均衡の向こう側

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 1985年、春。

 昭和60年。

 桜が舞う東京の街は、どこか浮き足立っていた。

 そしてその空気を決定づける出来事が起きる。

 ――プラザ合意。

 主要国による為替協調。

 急激な円高の始まり。

 

 新聞を握る私の手が、わずかに震える。

「やっぱり来た……」

 

 未来の記憶では、この円高が引き金となり、金融緩和へ、そして本格的なバブルへと向かう。

 だが今回は違う。

 国内の融資はやや抑制的。

 不動産レバレッジも控えめ。

 

「どう動く……?」

 

 

 証券会社では混乱が広がっていた。

「円高で輸出企業が厳しいぞ!」

「いや、内需拡大だ!」

 怒号が飛び交う。

 

 私は静かにモニターを見つめる。

 為替ヘッジとして少額仕込んでいた外貨建て資産が光る。

 “反動”への備え。

 

 

 夜。

 倉庫に向かう。

 備蓄契約は四十二社。

 地域ネットワークは十二区。

 

 棚の間を歩きながら、私は考える。

 円高は企業を圧迫する。

 だが同時に、海外投資の好機でもある。

 

 

 私はノートを開く。

 “海外技術提携支援”

 円高で買いやすくなる海外技術。

 日本企業に橋渡しできれば、競争力は高まる。

 

 

 投資先の見直し。

 安定軸は変えない。

 トヨタ自動車。

 為替に強い体質を持つ。

 

 ソニー。

 世界展開の先駆者。

 

 そして成長種。

 東京エレクトロン。

 

 

 私は深く息を吸う。

「守りと攻め、両方」

 

 

 その晩、夢を見る。

 1987年。

 株価は急上昇するが、以前の記憶ほど狂乱ではない。

 だが別の影。

 地方経済の格差拡大。

 

「……均衡の反動」

 

 守った分、別の場所が歪む。

 

 

 翌日、田辺と会う。

「円高で土地が動かん」

「短期は厳しいです」

「だが借入が少ない分、耐えられる」

 

 田辺は私を見る。

「お前、本当に何者だ?」

 

 私は笑う。

「慎重なだけです」

 

 

 帰り道。

 私は自問する。

 私は歴史を良くしているのか。

 それとも形を変えているだけか。

 

 

 倉庫の奥。

 アイテムボックスを開く。

 中の魔導通信石が、かすかに脈動している。

 

 鑑定。

【世界均衡干渉値:上昇】

 

 

 私は目を閉じる。

「もう後戻りはできない」

 

 

 そのとき、ひとつのひらめき。

 

 災害備蓄、通信、技術投資。

 すべては国内中心。

 

「地方を救わないと」

 

 未来では、地方衰退が深刻化した。

 バブル後、資本は都市へ集中。

 

 ならば今から、地方企業を支える。

 

 

 私は新たなリストを作る。

 地方の優良中小企業。

 技術力はあるが資金不足。

 

 小さな種を、全国へ。

 

 

 鑑定スキル。

【未来改変進行度:55%】

 

 ついに半分を越えた。

 

 

 だが同時に表示。

【均衡揺り戻し確率:増大】

 

 

 夜空を見上げる。

 昭和60年の春。

 人々は円高ショックを語りながらも、まだ未来を楽観している。

 

 私は知っている。

 ここから先が、本番だ。

 

 

 私は倉庫の扉に手を置く。

「未来は完全には変えられない」

 

 だが。

 痛みを減らし、再起を早めることはできる。

 

 

 均衡の向こう側へ。

 私は一歩、踏み出す。
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