『リスタート1980 ― 四十歳OL、昭和で未来を書き換える ―』

momo

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第11話 見えない反動

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 1984年、初夏。

 昭和59年。

 街はさらに浮き足立っていた。

 株価は上昇を続け、不動産の値段は「まだまだ上がる」が合言葉のように語られる。

 

 証券会社の応接室。

「真理さんの推す銘柄、堅実ですねえ」

 常連客が感心したように言う。

「大きくは跳ねませんが、長期では安定します」

 私は微笑む。

 短期の爆益より、崩れない土台。

 それが今の私の軸。

 

 

 だが、違和感はあった。

 銀行の融資は以前より慎重。

 地価上昇は続いているが、レバレッジはやや抑えられている。

 

「効きすぎてない……?」

 

 バブルは膨らんでいる。

 だが未来の記憶ほど、狂気じみていない。

 

 

 その夜。

 夢を見る。

 1991年。

 株価は暴落する。

 だが、急降下ではなく段階的。

 

 ――その代わり。

 

 1993年。

 景気低迷が長く続き、回復が遅い。

 企業は倒れにくいが、成長も鈍い。

 

「これは……副作用」

 

 私は飛び起きる。

 

 

 完全な崩壊を防げば、長期停滞が伸びる可能性。

 未来改変は、常にトレードオフ。

 

 

 翌日、倉庫。

 備蓄契約は三十五社。

 地域ネットワークは八地区。

 

 私は棚を見上げる。

「守るだけじゃ足りない」

 

 攻めも必要だ。

 

 

 私は新しい計画を立てる。

 “技術投資支援”

 バブル期の資金を、実体経済へ流す。

 土地ではなく、研究開発へ。

 

 候補企業を並べる。

 半導体装置の東京エレクトロン。

 通信機器の三菱電機。

 

 そして、これから台頭するであろうソフトウェア企業群。

 

「土地から技術へ……」

 

 

 田辺に提案する。

「不動産の利益の一部を、技術系に回しませんか?」

「今さら製造業か?」

「将来、世界と戦うのはそこです」

 

 田辺は腕を組み、しばらく黙った。

「……お前の勘は外れんからな」

 

 資金の一部が、実業へ流れる。

 

 

 その晩、鑑定スキル。

【未来改変進行度:48%】

 

 半分目前。

 

 

 だが同時に表示。

【歴史均衡反動:発生予兆】

 

 心臓が凍る。

 

「反動……?」

 

 

 数日後、小さなニュース。

 「海外市場の不安定化」

 本来より早い為替変動。

 

 私は気づく。

 国内の過熱を抑えれば、外部から揺さぶりが来る。

 歴史はバランスを取ろうとする。

 

 

 夜。

 私はアイテムボックスを開く。

 魔導通信石が淡く光る。

 

 異世界との取引履歴が増えている。

 向こうの商人が言っていた言葉を思い出す。

 “均衡は常に揺り戻す”

 

「どの世界も同じか……」

 

 

 窓の外。

 昭和のネオンが輝く。

 人々は好景気に酔っている。

 

 私はその影で、均衡と戦っている。

 

 

 未来は一本道ではない。

 だが、反動が来るなら備える。

 

 私はノートに書く。

 “為替ヘッジ戦略”

 “海外分散投資”

 

 

 守るだけでなく、吸収する。

 衝撃を和らげるクッションになる。

 

 

 深夜。

 鑑定スキルがもう一度光る。

【改変安定化まで残り閾値:大】

 

 まだ遠い。

 

 

 私は静かに息を吐く。

「焦らない」

 

 四十歳で終わった人生。

 今は二十四歳。

 時間はまだある。

 

 

 守る未来。

 育てる未来。

 揺り戻しに耐える未来。

 

 そのすべてを、少しずつ積み上げる。

 

 

 1984年の夜は静かだ。

 だが見えない波は、確実に動いている。

 

 私はその波を読みながら、次の一手を考え続けた。
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