『リスタート1980 ― 四十歳OL、昭和で未来を書き換える ―』

momo

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第14話 頂点の影

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 1987年、秋。

 昭和62年。

 街は明らかに熱を帯びていた。

 株価は連日高値を更新し、不動産価格は天井知らずと噂される。

 証券会社のフロアは戦場のようだ。

「買いだ! まだ行ける!」

 怒号と笑い声が交錯する。

 

 私は静かにモニターを見つめる。

 ――未来では、この年の世界的株価急落が一度訪れる。

 いわゆるブラックマンデー。

 

 だが今回はどうなる。

 

 

 昼休み、屋上。

 秋風が吹き抜ける。

 私は鑑定スキルを発動。

【均衡揺り戻し発生確率:高】

 

「……来る」

 

 

 数日後。

 海外市場で暴落。

 パニックの波が東京にも押し寄せる。

 だが。

 

 未来の記憶より、下落幅が小さい。

 

「耐えてる……」

 

 融資抑制、分散投資、技術シフト。

 小さな改変が効いている。

 

 

 しかし。

 その夜、夢を見る。

 1990年。

 株価は崩れる。

 だが急落ではなく、じわじわと下がり続ける。

 

 長期停滞の影。

 

「衝撃は弱く、苦しみは長い……」

 

 

 翌日、田辺と会う。

「暴落、思ったほどじゃなかったな」

「でも終わりではありません」

「まだ言うか」

「はい。頂点は近い」

 

 田辺は深く息を吐く。

「一部、利益確定する」

 

 大きな決断。

 

 

 私は自社の動きも加速させる。

 セーフティ・シードは備蓄拠点を三倍に拡張。

 地方ネットワークは三十地区。

 

 さらに新規事業。

 “企業向け事業継続計画(BCP)コンサル”

 まだこの言葉は一般的ではない。

 だが未来では必須となる概念。

 

 

 投資先も整理。

 中核は維持。

 トヨタ自動車。

 ソニー。

 NTT。

 

 過熱銘柄は縮小。

 

 

 夜。

 アイテムボックスを開く。

 異世界貿易で手に入れた“耐震補助金具”。

 鉄より軽く、強度が高い。

 

「これを出せれば……」

 

 だが1987年の技術水準では説明不能。

 私は歯を食いしばり、再び収納する。

 

 

 鑑定スキル。

【未来改変進行度:71%】

 

 だが同時に。

【停滞年数予測:増加】

 

 

「……やっぱり」

 

 急激な崩壊を抑えた分、回復が遅れる。

 

 

 夜の街。

 高級車が走り、ブランド店に列ができる。

 誰もが頂点を信じて疑わない。

 

 だが私は知っている。

 頂点は、常に崩壊と隣り合わせ。

 

 

 私は倉庫の中央に立つ。

「衝撃を減らすか、苦しみを短くするか」

 

 両立は難しい。

 

 

 四十歳の記憶。

 長い不況で削られた心。

 孤独。

 

「……長引かせたくない」

 

 

 私は決意する。

 次は“再起を早める施策”。

 景気後退後の起業支援。

 技術ベンチャー育成。

 

 

 夜空を見上げる。

 昭和62年。

 熱狂の光の裏で、影は濃くなっている。

 

 均衡の揺り戻しは、まだ終わらない。

 

 だが私は、逃げない。

 

 頂点の影を見据えながら、次の一手を打つ。
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