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第17話 揺らぐ予測線
しおりを挟む1993年、初夏。
景気は底を打った――と新聞は書いた。
だが街の空気はまだ重い。閉店する店、縮小する部署、未来を語らなくなった大人たち。
それでも。
“崩壊”ではない。
私はそれだけで胸を撫で下ろしていた。
セーフティ・シード本社の会議室。
ホワイトボードには新しい言葉が並ぶ。
「通信」「半導体」「海外展開」
「回復は緩やかです。なら、私たちが加速させます」
社員たちは、もう迷わない目をしている。
起業支援第二号は、ネットワーク制御ソフトの開発チーム。
第三号は小型半導体設計ベンチャー。
私は出資先の研究室を回り、静かに背中を押す。
ある研究室で、若い技術者が言った。
「海外企業に勝てると思いますか?」
私は微笑む。
「勝つ必要はありません。標準を作ればいい」
投資先の一角に、再び名を刻む。
東京エレクトロン。
装置技術の底上げ。
未来では韓国や台湾勢が躍進する。
だが今なら、日本の装置技術は世界を牽引できる。
夜、自宅。
鑑定スキルを発動。
【景気回復予測:緩慢/技術分野のみ先行】
悪くない。
だが数字が揺らぐ。
さらに深く未来を覗く。
2001年。
インターネット関連企業の急成長。
だが同時に“過熱”の影。
「ITバブル……?」
私は額を押さえる。
未来を変えれば、別の泡が生まれる。
翌日。
異世界貿易スキルを使い、試験的に超高効率電源モジュールを調達する。
地球技術に偽装できる範囲に分解。
研究チームへ提供。
「これは……革命的だ」
目を輝かせる技術者。
私は慎重に言う。
「急ぎすぎないで。市場に合わせて」
1994年。
携帯電話加入者数が増加。
通信需要が伸び始める。
私は密かに通信インフラ企業へも出資を拡大する。
NTT。
鑑定スキル。
【未来改変進行度:92%】
九割を超えた。
だが同時に、新たな不確定領域が拡大。
夜の倉庫。
アイテムボックスの奥に、まだ使っていない“演算結晶”がある。
未来で言えば量子計算の基礎装置。
「これは切り札……でも、出せば世界が変わりすぎる」
夢を見る。
2005年。
日本発の通信企業が世界市場を席巻。
だが別の未来では、海外IT企業が圧倒的支配力を持つ。
分岐が増えている。
翌朝。
私は決断する。
「世界標準を日本で握る」
国際特許戦略を開始。
ベンチャーに弁理士を常駐させ、知財を固める。
社員が笑う。
「まるで未来を知ってるみたいですね」
私は少しだけ笑い返す。
「知っているのは、失敗の形だけ」
1995年。
景気は緩やかに持ち直す。
失業率は未来より低い。
だが、阪神・淡路の震災が起きる。
私は即座に動く。
アイテムボックスから耐震補助金具と非常食を提供。
セーフティ・シード名義で支援物資を送る。
鑑定スキル。
【社会安定度:改善】
胸が詰まる。
救えた命がある。
だが未来改変率は頭打ち。
【未来改変進行度:94%】
六%。
最後の壁。
夜空を見上げる。
「未来は守れた。でも……」
私個人の未来は?
結婚もせず、ただ未来を修正するために生きている。
その時、研究チームの一人から連絡が入る。
「新型通信チップ、完成しました」
胸が高鳴る。
世界は変わりつつある。
だが予測線は揺らいでいる。
次に待つのは、飛躍か、それとも――
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