『リスタート1980 ― 四十歳OL、昭和で未来を書き換える ―』

momo

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第18話 世界標準の攻防

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 1996年、春。

 研究チームの新型通信チップは、ついに実証段階に入った。

 掌サイズの端末で、従来比三倍の通信速度。

 消費電力は半分以下。

 

 私は試作機を手に取り、静かに息を吐く。

「ここまで来た」

 

 

 だが、ここからが本番だ。

 技術は優れているだけでは足りない。

 “標準”を握らなければ、勝てない。

 

 

 会議室。

 ホワイトボードには大きく書かれている。

 国際規格会議対策

 

 海外企業が同様の通信方式を提案しているという情報が入った。

 アメリカ勢。

 巨大IT企業。

 

 

 私は資料をめくる。

「先に特許を押さえたのは、私たちです」

 

 弁理士が頷く。

「出願網は完璧です」

 

 

 私は胸の奥でつぶやく。

 未来では、日本は標準争いで敗れる。

 技術はあっても、戦略で負ける。

 

「今回は負けない」

 

 

 鑑定スキルを発動。

【国際標準化成功確率:62%】

 

 微妙だ。

 

 

 夜、自宅。

 アイテムボックスの奥にある“演算結晶”を取り出す。

 未来の計算処理を飛躍させる装置。

 

「これを投入すれば、確率は跳ね上がる……」

 

 だが同時に、世界の均衡を崩す可能性。

 

 

 私は迷う。

 未来改変率は既に94%。

 残り6%。

 

 

 翌日。

 私は演算結晶を分解し、地球技術に偽装可能な範囲だけを抽出。

 アルゴリズムの効率化という形で研究チームへ提供する。

 

「処理速度が二倍に……?」

 技術者たちが息を呑む。

 

 

 鑑定スキル。

【国際標準化成功確率:79%】

 

 よし。

 

 

 1997年。

 アジア通貨危機。

 円も揺れる。

 海外市場が不安定になる。

 

 私は事前に外貨分散していた。

 異世界貿易スキルで確保した希少資源も売却せず温存。

 

 社員が言う。

「本当に、未来を見ているみたいですね」

 

 私は苦笑する。

「見ているのは、最悪の可能性です」

 

 

 国際規格会議当日。

 私は表舞台には立たない。

 若い技術者がプレゼンを行う。

 

 スライドに映る数値。

 圧倒的性能差。

 

 会場がざわめく。

 

 

 数日後――

 結果通知。

 

 日本案、暫定採用。

 

 

 私は深く息を吐く。

 完全勝利ではない。

 だが主導権は握った。

 

 

 鑑定スキル。

【未来改変進行度:97%】

 

 三%。

 

 

 夜。

 夢を見る。

 2008年。

 世界的金融危機の影。

 

「まだ、あれがある……」

 

 

 私は目を覚ます。

 リーマンショック。

 あれは世界規模。

 日本単独では止められない。

 

 

「でも、被害は減らせる」

 

 

 セーフティ・シードは金融リスク管理部門を設立。

 海外資産の安全比率を引き上げる。

 実体経済中心の投資へシフト。

 

 

 通信チップは正式に世界標準へと近づいている。

 国内企業が連携し、量産体制を整える。

 

 私は倉庫に立つ。

 静かな空間。

 

 未来は、ほぼ変わった。

 

 

 だが胸の奥に小さな違和感。

 

 改変率が上がるほど、“私の存在”が未来から薄れているような感覚。

 

 

 鑑定スキルを恐る恐る自分に向ける。

【存在安定度:不明】

 

「……?」

 

 

 世界を変える代償は、何だ?

 

 残り三%。

 それは、未来そのものではなく――

 

 私の居場所なのかもしれない。
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