『リスタート1980 ― 四十歳OL、昭和で未来を書き換える ―』

momo

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第19話 消えゆく観測者

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 1998年、冬。

 世界標準を巡る攻防は、日本優位のまま進んでいた。

 新型通信チップは量産体制に入り、国内企業が連携する新コンソーシアムが発足する。

 未来では見られなかった光景。

 

 私はそのニュースをテレビで見つめながら、静かな違和感を抱いていた。

 

 鑑定スキル。

【未来改変進行度:98%】

 

 あと二%。

 

 

 だが同時に表示される別の項目。

【存在安定度:低下中】

 

 胸がひやりとする。

 

 

 夜、自宅の机。

 完全記憶スキルで、元の未来を思い出そうとする。

 リーマンショック。

 長期デフレ。

 スマートフォン革命。

 

 だが――

 

 映像がぼやける。

 

「思い出せない……?」

 

 

 改変率が高まるほど、元の未来の情報が薄れていく。

 私は“観測者”だったはず。

 だが未来が変われば、観測対象も変わる。

 

 

 翌日、セーフティ・シード本社。

 金融リスク管理部門の報告。

「海外の金融商品に異常な膨張が見られます」

 

 私は資料を見て息を呑む。

 未来で“サブプライム”と呼ばれる構造に似ている。

 

「早すぎる……」

 

 鑑定スキル。

【世界金融危機発生確率:上昇傾向】

 

 

 私は決断する。

「海外投資を段階的に縮小。実体資産中心へ」

 

 社員が驚く。

「利益が減ります」

「守るためです」

 

 

 夜、倉庫。

 アイテムボックスを開く。

 演算結晶の残骸。

 異世界通信用の小型核。

 

 もし本気で世界金融を安定させるなら、これらを使えば可能かもしれない。

 

 だがそれは――

 世界のバランスを壊す。

 

 

 私は自分に鑑定をかける。

【存在安定度:73%】

 

 数字が出た。

 

 

「私は、消えるの?」

 

 

 夢を見る。

 2010年。

 日本経済は安定成長。

 通信分野で世界トップ。

 だがそこに“私”はいない。

 

 セーフティ・シードの創業者は別の名前になっている。

 

 

 目が覚める。

 息が荒い。

 

「未来が自己修正している……」

 

 

 未来改変が臨界に近づくほど、“起点である私”が不要になる。

 

 

 翌日。

 研究チームの若い技術者が報告に来る。

「海外大手と正式提携が決まりました!」

 

 私は笑顔を作る。

「おめでとう」

 

 胸の奥で、何かがほどける感覚。

 

 

 鑑定スキル。

【未来改変進行度:99%】

 

 一%。

 

 

 その瞬間、頭の奥に強いノイズ。

 

 ――観測者の役割、終了間近。

 

 

「まだ、終わらない」

 

 私は最後の一手を考える。

 

 世界金融危機。

 あれを軽減できれば、完全改変。

 

 

 だが、それと引き換えに――

 

 存在安定度が再表示される。

【存在安定度:65%】

 

 

 夜空を見上げる。

 1999年の星。

 

 世界は確かに良くなった。

 失われた十年は、短縮された。

 技術は世界を牽引している。

 

 

「それで十分なのか?」

 

 

 残り一%。

 それは未来の完成か、私の消失か。

 

 

 遠くで電話が鳴る。

 海外市場で異変の兆候。

 

 最後の選択が、迫っていた。

 
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