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一番目の天国には、燃えるケモノが住んでいた
赤い原稿用紙
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大分県警別府警察署の屋上から見える空は、どこまでも青く、それでいて軽く、だから手が届かないのだろうか、と熊野御堂二は考えていた。
天に見える小さな太陽が、無限にも思える光の粒子を撒き散らし、冬空の下に憩いの場を作っている。
「お疲れ様」
そう言って背後から近づいてきた明日葉春が、微笑んでいた。
熊野御堂は、「お疲れ様」と、言葉を返す。「休憩?」
「うーん。サボりかな」と、春。手に持っていた缶コーヒーを差し出す。「はい、これ」
「ああ、ありがとう」熊野御堂は、受け取った缶コーヒーがアイスコーヒーだった事に驚きながら、もしかして怒っているのだろうか、と考えた。
缶コーヒーを一口飲んで、熊野御堂は、「柳原、素直に自供している」と、呟く。
「……へえ、そっか」と、春が興味なさげにこたえた。
「柳原は、廣瀬冬美に対して恩義があったようだよ。警察官になれたのも、彼女の熱心な指導があったからだそうだ。その彼女の死に、柳原は疑問を感じ、調べていたらしい。柳原の正義が、許さなかったんだな」
春が、熊野御堂の横に立って言った。
「廣瀬陸斗とは、知り合いだったという事?」
「それが、そうではないようなんだ」
熊野御堂は、供述する柳原啓一郎の神妙な顔を思い出す。「二人の元にも届いたようだよ。赤い封筒に入れられた、真っ赤な原稿用紙」
「それって、廣瀬社長に届けられたのと同じ物?」
「処分してしまったらしいが、恐らく送り主は同じだろう」
春が、指先で鼻頭を掻く。
「つまり、あの原稿用紙を廣瀬社長に送った人物は、二人以外ってことなんだ」
「封筒に入っていた爪も、二人の物ではなかったよ。持ち主は、不明なままだ」
「そもそも、二人が知り合う事になった経緯は分かっているの?」と、春。
熊野御堂は、そこでもう一口、缶コーヒーを飲んだ。冷たい苦味が、舌を刺激する。
「それが、柳原の供述でも、要領を得なくてね。なあ、『原稿用紙』っていうWEBサイトがあるのを知っている?」
「原稿用紙?」と、春。
「そのWEBサイトは、赤い原稿用紙だけが表示されていて、白い文字で書き込む事が出来るらしい」
「まさか、そこに柳原は、書き込んだの?」
春が、眉間に皺を寄せていた。
「自分が知ってしまった事を、告発するつもりだったらしいんだけれど。数日したら、自宅に赤い原稿用紙が届けられたそうだよ。個人的な情報は書き込んでいないにも関わらず……。そこに、廣瀬社長の殺害方法から日時の指定まで、計画の全てが書かれていたらしい」
「じゃあ、廣瀬陸斗も?」と、春。
「同じように、WEBサイトで書き込んだ。赤い原稿用紙が届き、二人は共に計画を進めたんだ。……ただね、見つからないんだよ、そのWEBサイト」
「閉鎖されたって事?」
「柳原が使用していたPCも解析に回してみたけれど、痕跡は見つかっていない」
春が、眉間を指先で摘み、双眸を閉じる。
「うーん、なんだか、雲を掴むような話だね。ああ、もう、考えすぎで、高級なお肉しか喉を通らない」
「……全く緊張感がないな」と、熊野御堂。
「今日は、二十九日だよ? 今年最後の肉の日なんだから。ふふふ、仕方がない、そこまで言うなら、熊野御堂に奢らせてあげようじゃないか」
春が、元気を取り戻したのか、口角を上げている。
食べ物で機嫌が良くなるなら安い物だな、と熊野御堂は、薄っすらと笑みを浮かべ、青い空を見上げた。
その澄んだ美しさに、天国があれば良いのに、と思わずにはいられなかった。
天に見える小さな太陽が、無限にも思える光の粒子を撒き散らし、冬空の下に憩いの場を作っている。
「お疲れ様」
そう言って背後から近づいてきた明日葉春が、微笑んでいた。
熊野御堂は、「お疲れ様」と、言葉を返す。「休憩?」
「うーん。サボりかな」と、春。手に持っていた缶コーヒーを差し出す。「はい、これ」
「ああ、ありがとう」熊野御堂は、受け取った缶コーヒーがアイスコーヒーだった事に驚きながら、もしかして怒っているのだろうか、と考えた。
缶コーヒーを一口飲んで、熊野御堂は、「柳原、素直に自供している」と、呟く。
「……へえ、そっか」と、春が興味なさげにこたえた。
「柳原は、廣瀬冬美に対して恩義があったようだよ。警察官になれたのも、彼女の熱心な指導があったからだそうだ。その彼女の死に、柳原は疑問を感じ、調べていたらしい。柳原の正義が、許さなかったんだな」
春が、熊野御堂の横に立って言った。
「廣瀬陸斗とは、知り合いだったという事?」
「それが、そうではないようなんだ」
熊野御堂は、供述する柳原啓一郎の神妙な顔を思い出す。「二人の元にも届いたようだよ。赤い封筒に入れられた、真っ赤な原稿用紙」
「それって、廣瀬社長に届けられたのと同じ物?」
「処分してしまったらしいが、恐らく送り主は同じだろう」
春が、指先で鼻頭を掻く。
「つまり、あの原稿用紙を廣瀬社長に送った人物は、二人以外ってことなんだ」
「封筒に入っていた爪も、二人の物ではなかったよ。持ち主は、不明なままだ」
「そもそも、二人が知り合う事になった経緯は分かっているの?」と、春。
熊野御堂は、そこでもう一口、缶コーヒーを飲んだ。冷たい苦味が、舌を刺激する。
「それが、柳原の供述でも、要領を得なくてね。なあ、『原稿用紙』っていうWEBサイトがあるのを知っている?」
「原稿用紙?」と、春。
「そのWEBサイトは、赤い原稿用紙だけが表示されていて、白い文字で書き込む事が出来るらしい」
「まさか、そこに柳原は、書き込んだの?」
春が、眉間に皺を寄せていた。
「自分が知ってしまった事を、告発するつもりだったらしいんだけれど。数日したら、自宅に赤い原稿用紙が届けられたそうだよ。個人的な情報は書き込んでいないにも関わらず……。そこに、廣瀬社長の殺害方法から日時の指定まで、計画の全てが書かれていたらしい」
「じゃあ、廣瀬陸斗も?」と、春。
「同じように、WEBサイトで書き込んだ。赤い原稿用紙が届き、二人は共に計画を進めたんだ。……ただね、見つからないんだよ、そのWEBサイト」
「閉鎖されたって事?」
「柳原が使用していたPCも解析に回してみたけれど、痕跡は見つかっていない」
春が、眉間を指先で摘み、双眸を閉じる。
「うーん、なんだか、雲を掴むような話だね。ああ、もう、考えすぎで、高級なお肉しか喉を通らない」
「……全く緊張感がないな」と、熊野御堂。
「今日は、二十九日だよ? 今年最後の肉の日なんだから。ふふふ、仕方がない、そこまで言うなら、熊野御堂に奢らせてあげようじゃないか」
春が、元気を取り戻したのか、口角を上げている。
食べ物で機嫌が良くなるなら安い物だな、と熊野御堂は、薄っすらと笑みを浮かべ、青い空を見上げた。
その澄んだ美しさに、天国があれば良いのに、と思わずにはいられなかった。
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