老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第249話 竜、会ったばかりでまた会う

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「おや、ディランさん? 先日はどうもありがとうございました。今日はどうされましたか?」
「バーリオ殿、ご機嫌ようじゃ。モルゲンロート殿に会いに来たのじゃが忙しいかのう」

 お昼を食べた後、ディラン達は空を飛んで再び王都へとやってきた。
 デランザの発着場で降りてから徒歩で城まで行くと、ちょうど門のところでバーリオに出会った。

「今日は謁見がいくつかあるので夕方までは空かないはずですぞ」
「あら、残念ね」
「あーう」
「申し訳ない。はて、そちらのお嬢さんは初めて見ますな」

 いつも来れば会えるが、今日は大変に忙しいと返された。トワイトが頬に手を当てて呟くと、ヤクトに乗っていたリヒトが真似をしていた。
 そこでバーリオがシルヴィアスを見てほほ笑み、尋ねてきた。

「ああ、アタシはシルヴィアス! ここの王様に居住の許可を貰いに来たんだ」
「なんですと? ディラン殿、もしや……」
「ドラゴンではないぞい。氷狼じゃ。まあ、ドラゴンワシらに匹敵する力はあるが」
「なるほど……」

 バーリオは理解すると同時に、また大変な存在を連れて来たなあと苦笑していた。 

「暴れたりしなければ大丈夫とは思いますよ。やはり変身されるのですか?」
「ああ。見る?」
「陛下に見てもらうのが先でしょうな。しかし、まだ時間がありますが」

 シルヴィアスがにこっと笑って姿を現すというが、バーリオは片手を振って今は大丈夫と返していた。
 時間がまだ余っていると口にしたところで、受付の女性が声をかけてきた。

「バーリオ様。ザミールさんが来るからその時に一緒でもいいのではありませんか?」
「今日は来る日か。そうだな、あいつなら販売がメインだし、知らない顔でもないか。一緒でもいいですかな?」
「もちろんじゃ。そういえばこの前の宴にザミールは呼んでいなかったのう」
「こちらでお待ちください。ガルフ達が呼びに行ったのですが、遠征に行っていたようですな」

 先日の話をしながらディラン達は受付の近くにある芝生へと案内された。
 早めに来た者を待たせるためのテーブルセットがあり、バーリオを含めた四人で座る。

「わほぉん……」
「あーう」
「アー」
「こけー……」

 リヒトとペット達は芝生に駆け出し、ダルは早速丸まって日向ぼっこを始めた。
 遊ぶつもりだったリヒトが鼻を撫でても一瞬薄目を開けただけですぐに閉じてしまう。
 グラソンは遊ぶ気だが、ジェニファーはあくびをしてダルの近くにしゃがみこんだ。いい天気なのでお昼寝日和だ。イルカは残念ながら置いてきた。

「ぴよー」
「うぉふ」
「あい!」
「わふ」

 そこでまだまだ元気なひよこ達とヤクト、ルミナスグラソンが集まった。
 ひとまず遊ばせておこうかとディラン達は話を続ける。

「山の麓に村があるじゃろ? あそこに別荘を作ってたまに遊びに来ると言っておるのじゃ」
「ほほう、今のお住まいは?」
「極北の氷海にある島だね。草木もあるけど、一年の半分以上は雪に覆われているよ」
「あんなところから!?」
「ああ。別に仕切っているわけでもないけど、魔物と動物は守っているんだよ。あいつも元々ウチの島に居たし」
「ああ……」

 バーリオはグラソンを見て、納得したと相槌を打った。
 ベノムキマイラなどもいるため今さら、氷狼やカイザーペンギンで驚いたりはしないのである。
 
「あの村も今は発展中ですし、定住でなければ許可は下りると思いますがね」
「だとありがたいね。いい男探しもしたいし」
「ほう?」
「シルヴィアス、そういうのはいいから」

 目的を口にしてトワイトに諫められていた。そこで城の入り口から憤慨した声が聞こえて来た。

「まったく、モルゲンロートめ。今はそっちに回す者が居ない、だ。帝国を恐れてのことだぞ。戦争だ、戦争!」
「皇帝陛下、今は南の国と膠着状態。適当ぶっこくのはやめてください」
「なんだとうぅ、そこへなおれアトレオン!」
「そういうのはいいですから、早く帰りますよ」

 視線をそちらへ向けると立派な装束、かつ機能的な服に身を包んだ金髪の中年男性と、これまた立派な鎧に身を包んだ青い髪の男が居た。
 どう見ても中年男性は高貴な身分と分かる感じだが、青い髪でアトレオンと呼ばれた男は面倒くさそうに耳をほじりながら返していた。

「どこかの貴族かのう」
「ああ、あれは――」

 ディランが一行を見て貴族かとバーリオに問う。返事をしようとしたところでバーリオがぎょっとする。

「あーう!」
「お、なんだ? 赤子ではないか、どこから来たのだ?」
「おや、勇ましいね」
「あらあら」

 いつの間にかリヒトがヤクトに乗って中年男性のところへ行っていた。
 ペット達総動員だが、ダルは芝生の上である。

「私がサリエルド帝国のテリオス・サリエルドと知って立ちはだかったのか、坊主?」
「赤ちゃん相手に大人げないですよ陛下」
「うるさいぞ!」
「あーう!」
「おう!?」

 テリオスが声を上げると、リヒトは太鼓を叩いて窘めるように言う。そこでアトレオンがしゃがんで目線を合わせてから話しかけた。

「どうしたんだい? ウチの陛下はすぐ怒るからそれが気になるのかな?」
「あい」
「みたいですよ?」
「わかるものか!? しかし、この私を前に怖がらず立ちふさがるとは見込みがあるな」
「というかこれ、犬じゃなくてアッシュウルフですよ。あ、でもひよこはひよこか。こっちの変な奴はなんだろ? 魔物?」
「アー!」
「吠えたぞ。お前が変だとか言うから」
「悪い悪い」
「あい♪」
「おお、笑ったぞ。やはり私が怒っていたのがいけなかったのか……?」
「あう」
「おう!?」

 テリオスもしゃがんで目線を合わせて首を傾げる。怒りの気配が消えたのえリヒトは笛を吹いてダルのところへと戻っていった。

「なんなんだ……?」
「あ、もう一頭いる。いいなあ日向ぼっこ」
「テリオス様、謁見が終わられたようですね」
「む? お、バーリオ殿か。うむ、モルゲンロートめ、ドラゴンはもう居ないと言いおった。帝国に回したくないと見える」
「いや、今は派遣できるドラゴンはおらんぞい」
「なに? お前は何者だ?」
「ワシはディランという。この国に住まわせてもらっているドラゴンじゃよ」
「なに!?」

 ディランが名乗るとテリオスは目を丸くして驚いていた。
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