老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第258話 竜、里が怪しいと言われる

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「ふうむ、若い連中がそんなことを」
「というわけじゃな。まあ、創設したと言っても年月は経っておったし、ワシが創ったことを知らん者も多いからいいかと」
「意外とあっさりしているな……」

 かくかくしかじかとゾンネアにここまでの経緯を話した。
 彼女は訝しんで眉を顰めるが、当のディランはその時、憤慨していたことと合わせて、まあいいかと出て行ったことを気にしていない感じだった。
 テリオスは権力的なものを失ったことを後悔していないディランに驚いていた。

「人間と違ってお金をそれほど必要としていないからかな? 権力と財力があっても使い道がない。里を作った時から、今でも物々交換が主流だよな?」
「ハバラの言う通りじゃ。ワシらは強さを持って権力とするところがある。だが、個々のドラゴンは別に国が無くても勝手に生きていけるからそれほど国……集団になる必要は無いのじゃ」
「へえ、でも竜の里は作ったんですね?」
「当時……といっても人間が国を作るかどうかという時代じゃが、ちょっとドラゴンが暴れまわっていたころでな。まとめる必要があったという感じじゃ」
「すごく興味のあるお話ですね」
「ドラゴンのちょっとって大災害じゃない?」

 アルベールが目を輝かせて興味があると口にし、ユリが笑いながら肩を竦めていた。

「確かに。それでゾンネアさん、納得はいったのかな?」
「……ディランはこういう奴だし、トワイトものほほんとしているから里を出たこと自体は納得したよ。だけど、動機だ」
「動機?」
「そう、若い連中が年寄りを追い出す動機がしっくりこない。よく考えてもみてくれ、里が狭くなるという話だが里のある土地は存外広い。そして長寿のドラゴンはそれほど子を産むことは無い」
「ゾンネアさんやあたしがそうだもんね。まだいいかなーってなるし」
「ぐぬ……いささか引っかかるが、まあそういうことだ。将来を見据えていたとしても、年寄りが多くなるのは五百から千年単位だ。今、全部の年寄りを追い出す必要はまったくない」

 ゾンネアはトーニャと頬同士を指でぐりぐりしながら説明をした。アトレオンは顎に手を当ててなるほどと推測を口にする。

「確かに、人間と違って百年単位で物事を見るのであれば十年から五十年に一人程度を外に出すだけでも十分な気がする」
「そうだね。となると、裏で糸を引いている者が居ると考えるべきかもしれない」
「恐らくは。一度、若い衆を詰めた方がいいのかもしれないね」

 アトレオンに続けてアベニールもそう告げる。王族として、人間や領地の把握といったことに近いせいか色々と推測が浮かぶようである。

「一度、竜の里に戻って若い衆を問い詰めた方がいいかもしれないね」
「ふむ、ワシは戻るつもりはないがロクローかフラウ、ボルカノあたりに調査してきてもらうか」
「お父さんは目立ちますからね」
「あーう」
「わほぉん」

 ドラゴンの姿は間違いなく目立つ。
 もし黒幕が居るならディランが戻った場合、息を顰める可能性がある。
 そのためディラン一家は戻らない方がいいだろうとゾンネアは口にした。

「話はこれくらいじゃな。里についてはまた考えよう。それで、どうしてまたワシらを呼んだのじゃ? クリニヒト王国へ来れば良かったのに」
「深い意味はない……と、言いたいところだけど、ボクの目に映る魂たちがどうも落ち着かない感じがあってね。少し様子を見たかったのさ」
「魂……見えるのですか?」
「実に興味深い……」

 ゾンネアは帝国の死者達が騒いでいるように感じると口にした。そのため、ここにしばらく残るとのこと。
 魂が見えるという言葉に、ヒューシとアルベールが詳しく聞きたそうにしていた。

「なにかあったらここから北にあるクリニヒト王国のキリマール山にワシらは住んでおる。飛べばすぐ来れるじゃろう」
「分かったよ。竜の里へ戻るときは途中まで一緒に来てくれ。ボクもいく。ロクローさんやボルカノさんも一緒だと助かる」
「わかったわ」

 ひとまず今後の予定を決めて話が終わる。
 各国の老ドラゴンが里の様子を見ることで何か掴めるかもしれないと。
 ディランとトワイトは後方支援をすることになる。

「ふう……良かったぁ。ディランさんに恨みを持つ相手とかじゃなくて」
「わほぉん」
「訪ねて来ないドラゴンは警戒してしまうものな」
「はは、これで陛下も安心できるだろう」

 話がいち段落したところでユリが息を吐いて肩をだらんとさせた。そんなユリの足をダルが前足でポンポンと軽く叩く。
 ヒューシも大きな出来事の可能性を考慮していたようで、気を抜いた。
 バーリオも竜の里は気になるが、危惧していたような国を揺るがすような話では無かったことを安堵する。

「ボクがそうならもっと直接的にやるさ。ディランや他のドラゴンの居る国も覚えたし、準備が整ったら行こう」
「分かった。では帰るとするか」
「そうね」

 後はいつ里へ行くかを話し合う必要はあるが、急ぎでもないため今度ということにした。帰ろうとディランが口にしたところで、アルベールが口を開く。

「お急ぎでないならお食事でもいかがでしょう? 帝都がどういった国かも散歩を通じてご案内したく思います」
「そうだな。私達がドラゴンを戦力にするとモルゲンロートに思われていたが、今は争いは起こっていない。まあ、向こう次第ではあるがドラゴンが住むには土地も多いぞ」
「だいたい陛下はカッコいいという理由で来て欲しいですから」
「うるさいぞアトレオン!?」
「仲がいいですねー」
「そうだよユリさん。リヒト君におもちゃをプレゼントしたいし、ダル君とも遊びたいところだ」
「それはいいですね……!」
「あーい」
「おう……!? 不吉な人形……?」

 テリオス達、帝国の一家は歓迎を兼ねて状況を見て欲しいと言い、引き止めて来た。
 モルゲンロートと仲が悪いわけではないが、やはり戦闘国家としての側面が強いため、王として派遣を見送った。テリオスは実際、国を見てもらえれば問題ないことがわかるだろうと言う。

「バーリオ殿、良いか?」
「まあ、私達は使者として来ていますし、構いませんよ。モルゲンロート様へ、テリオス様の意図を伝えるためにもいいかもしれません」
「では、少しお世話になろうかしら」
「ソレイユが待っているから早い方がいいけど……」
「すぴー」

 そんな調子で一家たちはサリエルド帝国で見聞を広げることにした。
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