老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第303話 双子、誕生日を迎える④

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「はーい♪」
「あー♪」
「あうー? ……あう♪」

 シエラが敷物に腰を掛けると、リヒトとライルが近づき抱っこされているユリウスの顔を覗き込む。
 一瞬、ライルが『誰?』という顔をしたが、兄のリヒトが抵抗なく挨拶をしていたので、全員がにっこりと笑いあっていた。

「早速、交流をしておるわい」
「ライル君、パッと見た感じだとあまり気づかないですけど、よく見るとリヒト君そっくりですね」

 シエラが両脇からユリウスを覗き込む双子の顔を見比べて言う。
 髪の色が違っているためパッと見たところ別人に見えるが、ちゃんと顔を見るとそっくりなのである。

「シエラとユリウスを助けてくれた英雄だからなリヒト君は」
「あい!」
「うぉふ」
「あうー?」
「ふふ、元気のいいお返事ね♪」

 名前を呼ばれ、反射的に手を上げて返事をするリヒト。
 そのまま後ろにこけそうになったがヤクトがクッションになってくれた。ライルはその様子を見て首を傾げていた。

「だー!」
「ユリウスも遊ぶの?」

 そこでユリウスが手をバタバタさせて二人を掴もうとしていた。シエラは遊びたいのかと敷物の上にお座りをさせた。

「はーい♪」
「わん♪」
「あー♪」
「あう♪」

 するとユリウスはハイハイでルミナスに突撃し、背中に抱き着いてほわっと笑っていた。ふかふかの暖かい布団のようなのでご満悦である。
 リヒトとライルも真似をしてルミナスに抱き着き、ルミナスがもみくちゃになっていた。

「赤ちゃんたちが揃うと可愛いものだ。次のユリウスの誕生会にはぜひ来てほしい」
「もちろん行くぞい。あれだけ仲が良いと将来、いい友人になれそうじゃ」
「そうですね。……あの日、リヒト君がダル君と追いかけてこなければこんな平和な日は訪れなかったかもしれないですもの」
「わほぉん……」

 オルドライデが目を細めていい光景だと呟き、シエラが当時のことを思い返してダルを撫でる。ダルは気にした風もなく大あくびをしていた。

「まったくだ。プレゼントはここに置いておきますので、良かったら後で見てください」
「ありがとうオルドライデ殿。二人も喜ぶじゃろう」
「それじゃあ次の方に……ユリウスおいで」
「だうー……」
「ええ、嫌なの?」

 シエラが移動するためユリウスを呼ぶと、ルミナスに抱き着いたままいやいやと首を振っていた。

「シエラはここでユリウスを見ていてくれ。私はモルゲンロート様に挨拶をしてくる」
「いいですかディランさん?」
「もちろんじゃ。リコットも来るじゃろうし、赤ん坊をここで面倒を見るのも悪くない」
「ありがとうございます。会が始まるまでお邪魔しますね!」
「あーい♪」
「ぴよー♪」

 ユリウスもこのまま敷物の上で遊べるとわかりリヒトが喜ぶ。ひよこ達もこの上なら自由にしていいとわかり各自散開して遊びだした。

「そろそろ私の番でいいかしら?」
「うむ。フラウ、久しぶりじゃな」
「お待たせしました!」

 そこへドルコント国へ常駐しているリーフドラゴンのフラウが挨拶に来た。

「あら、トワイトは?」
「今は料理を作っておる。すぐ戻ってくるじゃろう。オルドライデ殿達を乗せて来たのか」
「ええ! いつもお世話になっているからこれくらいはね」
「ふふ、王妃様とお庭の手入れをしていると、ウォルモーダ陛下が気を遣うんですよ」
「そういえば母親と似ていると言っておったな。生活は楽しそうじゃのう」

 フラウが周囲を見てトワイトを探す。
 ディランが今は居ないことを告げて、オルドライデ一家を乗せて来たのか尋ねると手を合わせてにこやかに答えていた。シエラが王妃とフラウも仲がいいことを話す。
 
「竜の里にいたころよりやれることが多いから楽しいわね。里も平和で良かったけど、お花をたくさん育てられるのは嬉しいわ。ユリウスちゃんもお花が好きみたいだし。双子ちゃん、おはよう♪」
「あーい♪」
「あうー♪」
「ふふ、よくできました! はい、どうぞ」
「「あー」」

 竜の里に居た時は個人の土地がそれほど取れなかったので花を育てるのが難しいとのことだった。しかし今は庭があるため色々な花を咲かせられて楽しいと語るフラウ。
 そこでリヒトとライルへ挨拶をし、手品のように手から花をだしていた。
 双子は急に出てきた花にぽかんと口を開けて凝視する。

「最初のユリウスちゃんも同じ反応だったわ♪ 可愛いわねえ」
「うむ。まあ、なんにせよ楽しくやれているなら良かったわい」
「あなた達には感謝しているわ。竜の里もどうなっているか気になるけど」
「それは――」
「その内、あそこは見に行く予定だよフラウ」
「ゾンネアか」

 フラウが双子の頭を撫でて笑い、ディランも良かったと口にする。
 出てきた竜の里がどうなっていて、どうなるのか気にすることを話したところでスピリットドラゴンのゾンネアが現れた。

「あら、ゾンネアじゃない!」
「久しぶりだねえフラウ。元気そうだ」
「あなたもね。旅をしているから向こう百年くらいは会わないと思ったけど」
「これも縁だろうね。その子達が引き合わせてくれたのだと思うよ」

 ゾンネアを摑まえることが難しいことを知っているフラウが握手をしながら困った顔で言う。
 ゾンネアは双子の巡り合わせと口にし、こういうのは分からないものだと返していた。

「竜の里へ戻るの?」
「……気になることがあってね。若い衆が君たち年寄りを追放した理由を聞いてみたいと考えている」
「ふうん? あの子たちも広い土地が欲しかったんじゃないかしら?」
「さて……ね。まあ、この話はまた今度だ。今日はこの子たちが主役。そして久しぶりの人間も連れて来たよ」

 ゾンネアがそういうと、ディラン達は少し後ろで控えていたユリと目が合う。

「む」
「あー♪」
「あーう♪」
「こけー!」
「わほぉん!」
「うぉふ!」
「わん!」
「「「ぴよー!」」」
「ああ、みんな久しぶりー! 元気そう!」

 その瞬間、双子とペット達が大きな声で歓迎した。
 ユリはガルフやモルゲンロートと同じく、この国に来て最初に仲良くなった人間なのだ。

「ダルがネクタイと帽子をかぶってる……! 可愛い~♪」
「わほぉん」
「え、抱っこしちゃダメなの?」

 ユリは早速お気に入りのダルを見つけ、おめかししていることに喜ぶ。抱っこしようとした矢先、ダルは前足上げて「待った」という感じで制止した。

「ドレスが汚れるからだろう。ユリ、はしゃぐのは分かるがアトレオン様の前だぞ。ディランさん、お久しぶりです」
「あ、そ、そうか……」
「はっはっは。ユリもキレイになったもんじゃな」
「え、そう? ありがとディランさん♪」

 さらにパーティ用に着込んだヒューシも登場した。スカートが短いドレスは元気なユリに合っているとディランが笑う。

「ディラン殿、その節はどうも!」
「アトレオン殿か、よう来てくれた。サリエルド帝国は三人か」
「いえ、あそこに」
「ふむ」

 アトレオンが片手を上げて気さくに挨拶をする。テリウス皇帝や第一王子のアベニールは居ないのか尋ねてみる。
 するとテリウスはモルゲンロートに絡んでいた。

「なるほど」
「兄上はお留守番ですね。全員が離れるわけにもいきませんし」
「あやつらは?」
「……さすがに向こうから断りましたよ。また魔法で焼かれちゃたまらないでしょうしね」
「そうか」
「あーい?」
「あーう?」

 ダニーとキーラのことを暗に聞いてみた。アトレオンは一応、声はかけたらしい。
 しかし、プライドか恐れをなしたかで来なかったとのこと。
 思うところはあるだろうが、孫の一歳の誕生日は二度と来ない。それは祝っても良かったのではないかとディランは思っていたが叶わなかったかと目を瞑る。
 双子はそんなディランを見ながら首を傾げていた。

「ううー……着替えたい……着替えてみんなを抱っこしたい……」
「まあ、パーティが落ち着いたら着替えるといいよ。私は構わないけど、メイド達が怒るからねえ」
「そうします……」
「ゆっくりしていってくれ。ガルフ達が会いたがっておったぞ」
「そうですね。僕たちはその件もあってきました。先に話をしておこうか」
「私も行くよ。ユリとヒューシの友人なら、私にとってもそうだ。ディラン殿、後でまた」
「うむ」

 ダル達は尻尾を振ってユリたちを見送った。

「結構集まってきたのう。後は――」
「うおお……! 間に合ったか……!?」
『……!』
『……!?』
「あーい♪」
「あーう!」

 ディランが後はザミールと両親かと口にしようとしたところで、馬車が会場へ駆け込んできて、転がるようにザミールとソル、エレノアが飛び出してきた。
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