老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第365話 竜、絡まれる

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「次はどこへ行くんだ?」
「お料理に使う調味料が欲しいからお醤油屋さんね」
「ショウユ……?」
「ケイレブとギーラは料理を作るところを見ておらんかったか。魚の煮つけなんかに使うんじゃ」
「興味がありますね……」
「美味いのか……?」

 おばあさんのお土産屋さんを後にすると、ギーラが次の目的地を尋ねてきた。
 その言葉にトワイトが顔だけ振り返ってから答える。
 このケイレブとギーラの二人はほとんど料理に関わっていないためなんのことか分からない。
 醬油そのものに興味があるケイレブと食べるだけのギーラで差がついた気がする。

「あーい♪」
「わほぉん」
「あはははは! もう、リヒト君、ダル君止めてー」
「あーう♪」

 そんな道中、赤べこを頭に乗せたダルが頭を揺らしていた。それを見ていたシスがトワイトの袖を掴んで大笑いする。
 ダルもシスが笑うのが楽しいのかわざわざ目の前でやるのだ。

「ほれ、落として失くしたら困るぞい。鞄に入れておくのじゃ」
「あい!」
「あーう」
『……?』

 見かねたディランが苦笑しながら鞄に入れておくように言う。リヒトは手を挙げて返事をし、さっと鞄にへしまう。そこでライルが鞄を見て声を上げた。

「どうしたのライル?」
「あう」
「あーい?」
「鞄が欲しいのかな、リヒト君みたいなやつ」
「あう♪」

 シスが首をかしげて言うと、ライルが笑顔で肯定した。お兄ちゃんがおもちゃを持つことに異論はないが、お揃いの鞄が欲しいようである。

「そうみたいだね。この鞄、ドラゴンの素材だ。ディランさんのですか?」
「うむ。盾としての機能もあるぞい」
「そりゃ爺さんの鱗なら剣も魔法も簡単にゃ通じねえだろうな。俺ので作るか? 鞄」
「あう」
「いいって♪」
「冷たいよなあ……」

 ケイレブが苦笑しながらリヒトの鞄を見る。すぐにディランの素材で出来ていることに気づいた。
 ギーラが恐ろしい鞄だと言いつつ、自分の鱗で作るかとライルへ尋ねる。しかし、ライルは首を振って丁重にお断りした。
 がっくりを肩を落として双子に口をとがらせていた。

「これ、往来で広がるのではない」
「邪魔だぞ」
「あ?」
「む、すまぬな。みんな、道を開けるのじゃ」

 通りで笑っていると、後ろから身なりのいい着物の男が二人、声をかけてきた。
 後ろには馬車が待っており、ディランはそれに気づくとリヒトとライルを抱っこし、ペットたちをトワイトが連れて行った。

「よく見れば異国人か。まったく、旅行者が増えたが常識が無い者は困るというものだ」
「ええー? 道は広いしわかっているなら避けてほしいわ。こっちには赤ちゃんもいるんだし」
「あーい!」
「口答えをするのか娘……! 赤子もか!」
「ちょ、ちょっと、剣を抜くつもり!?」

 男の一人が鼻を鳴らして面倒くさそうにしっしと手をやりながら追いやる仕草をした。しかしシスが口を尖らせて抗議をした。
 リヒトも同じく嫌な雰囲気を感じ取って口を尖らせると、男は刀に手をかけた。

「なんだ、おっさん。偉そうによう」
「や、やめなよギーラ……ここだと僕たちはよそ者だし……」
「貴様も逆らうか?」
「むう、若い者がすまんな。道を開けたから行くがいい。待っているのではないか?」
「なに――」
「どうした? なにをモタモタしている」

 けんか腰のギーラをケイレブが止める。もう一人の男が訝しんだ目をギーラに向けると、ディランが前に出て間に入った。
 すると馬車から若い男の声があり、男二人はぎょっとしてキャビンへと駆ける。

「ハッ、申し訳ありませぬ! 異国人が道を塞いでおりまして、注意をしていたところでした」
「そうか。終わったのなら行くぞ。報告をしに屋敷に急がねばならんのだからな」
「御意」

 若い男がそう告げると刀を下げた二人は頭を下げてすぐに馬を引き出した。

「ふん、運が良かったな」
「次に会ったらただではおかんからな!」
「なによ、いきっちゃって! ウェリスだけで十分だっての」
「さあ、行ってくれ。悪かったのう」
「じじいは物分かりがいいじゃないか。そうだ、タケマル家の馬車であるぞ、気を付けるのだな」
「チッ」

 ディランがうなずきながら手をかざすと、男たちは満足げに進みだす。ギーラ達を見る目は蔑んだようなものだった。
 舌打ちをするが、それには気づかれなかったようだ。そのまま見送ると、キャビンの窓から男がこちらを見ていた。

「異国人といっても下民のような感じか」
「まあ」
「よいよい。言わせておけ」
「……」

 男がやはり侮蔑した言い方をすると、トワイトが眉を上げた。だがディランはフッと笑い、気にするなと口にした。
 若い男は笑みを消し、ディランを睨んでいた。そのまま姿が見えなくなると、ギーラがキレた。

「なんだあの野郎ども。蹴散らしてやればよかったのによ」
「ならん。向こうが手を出してきたならやぶさかではないが、こちらから手を出すと問題になる」
「面倒くせえなあ」
「あれはいわゆる貴族、というやつでしょうか?」
「まあ、そうじゃな。この地域じゃとダイミョウと呼ばれているのう。人間の世界はこういう面倒ごともあるから一長一短というのも覚えておくとええ。もう関わることもなかろう」
「うんうん! それじゃショウユのお店にいきましょ! ね、ケイレブさん」
「そ、そうだね。そっちのほうが楽しみだよ」
「あーう♪」
「ぷひー♪」

 ちょっとしたアクシデントだとディランが口にし、一行は醬油店へと足を運ぶのだった。
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