老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
366 / 385

第366話 竜、舌鼓を打つ

しおりを挟む
「あ、ここね。二十年前と変わっていないわ」
「さすがにお主達は中へ入れんから外じゃな」
「あーい?」
「あうー」
「とても繊細な食材だから、毛とかあると大変なの。ごめんなさいね」
「わほぉん」
「こけ」
「ぴよ」
「アー」
「ぷひ」

 大名と出会った後、再び醤油のお店を目指していた一行は無事に到着した。
 トワイトが変わっていないとほほ笑むが、すぐに真顔になった。
 理由は簡単で食材を扱うお店へは立ち入れないと伝えた。
 もちろんダル達は了承し、お店の前でずらりと並んで待つことを示唆している。

「賢いー」
「アッシュウルフやカイザーペンギンはともかく、ニワトリとひよこの聞き分けが良すぎるような……」
「ちなみにこやつはアヒルの子じゃ」
「ぴよー♪」
「あ、そうなの? 確かにちょっと大きいかも?」

 お座りをしたダル達の前にジェニファー達が並んでいた。ケイレブがジェニファーとひよこは魔物じゃないから賢すぎる気がすると口にしていた。
 そこでディランはソオンを手に乗せてアヒルだと言う。

「あ、はい……アヒルの雛でも賢すぎる気がします……」
「まあいいじゃねえか。それじゃ中へ入ろうぜ!」
「適当だなあ……あれ? ディランさんは入らないのですか?」

 ギーラは気にした風もなく早く中へ入ろうと笑う。ケイレブが呆れていると、ディランが動かないことに気づいた。

「ワシはこやつらと一緒におるからええぞ。油断しているとさらわれてしまうからのう」
「あー、子豚ちゃんとかニワトリは食べられちゃいますもんね……」
「こけー……」
「ぷひー……」
「うむ。悪い奴はどこにでもおるからのう。ワシとて人間だからといって手放しで信用しているわけではない」
「……なるほど」

 目を光らせていないと小さい動物は割とさらわれることがあるらしい。貧しい国では無くなったが、そういう風習のようなものは残っているとのこと。

「それじゃギーラ、ケイレブ君、シスちゃん行くわよ」
「あーい!」
「あうー」
「リヒト達も一応連れて行ってくれ。飽きてそうならワシが面倒を見るわい」
「ええ」
「わほぉん」

 リヒトとライルはペット達がついてこないことに名残惜しそうだったが、ダル達が前足を上げて見送るとお店の中へと入っていった。

「ふうむ、ええ天気じゃ。さて、戻ってくるまで日向ぼっこでもするか」
「わほぉん……」
「うぉふ」
「わん!」

 ディランは自身のカバンから折り畳み式の椅子を取り出して座る。ダルやヤクト、ルミナスはその周辺で寝そべり、ひよこ達は膝の上やヤクトの背中に乗ったりと様々だ。

「ふむ、作ってから使う機会が無かったがまあまあ悪くないのう。試せてよかったわい」
「あの……」
「ん?」
「わふ?」

◆ ◇ ◆

「いらっしゃいませ! あら、外国の方!」
「こんにちは」
「あーい!」
「あーう!」
「こんにちはー」
「ど、どうも……」
「こんちゃっす」

 トワイトを先頭にしてお店へ入ると、二十代くらいの若い女性が出迎えてくれた。
 店のつくりはシンプルで、商品は並んでおらずカウンターと囲炉裏があった。
 女性がカウンターから出てくると、リヒトとライルたちが挨拶をする。

「あら、元気な赤ちゃんも。今日はどういったものをお探しで?」
「お醤油とお味噌を買いにきたんです。種類も見せて欲しいわ」
「まあ、外国の方でお醬油とお味噌をご所望とは珍しいです!」
「うふふ、お料理で使うんですよ。前は元気なおじいさまがいらっしゃったと思うのだけれど?」
「あ、おじいちゃんを知っているんですか? 今は裏で仕込みと訓練をしているんじゃないかしら? お父さんと兄と継ぐのが決まったので」
「あら、そうなんですね。久しぶりだからご挨拶をしたかったわ」

 女性は異国人がこの調味料を二つも見せて欲しいというのは珍しいと言う。
 そのついでに前にいた店主にも挨拶をしたいとトワイトが口にすると、裏にいると答えた。

「呼んできましょうか?」
「いいえ、お忙しいなら買い物だけで済ませるわ」
「ではお品書きです。あ、そうそう商品を購入してくれたお客さんにサービスをしているんです。用意するので少々お待ちください」
「あーい!」
「わかったわ。さてと、白と赤の味噌と濃いお醬油でいいかしら? 黒竜の島にも少し置いておきたいし……」
「お金は……」
「とりあえず出しておくわ。もし気に入って買いたいとなったらお金を稼ぐしかないけれど」

 女性はひとまずお品書きと書かれた紙をトワイトに渡して奥へと行く。
 トワイトがお品書きを見ながらどれにするか考えていると、ケイレブが黒竜の島用のはお金が無いと告げた。 
 だが、最初の投資は自分がやると笑う。

「うーん、なにかあるといいけどなあ」
「ギーラがやる気になっているのは……珍しいね……」

 お金を稼ぐためにギーラが悩む。
 一番といっていいほど自由に生きてきたのが彼なのでケイレブが首を傾げていた。

「俺達の黒竜全員のためならまあ、やってもいいかなってよ。お前もそうだからここまできたんだろ? 平和に日向ぼっこばっかしているのによ」
「ま、まあ……」
「いいことじゃない。みんなでそういうふうになれば多分上手くいくと思うわよ。ねー?」
「あーう♪」
「だといいねえ」

 ギーラが真面目な顔で答え、シスが応援するとライルと一緒に笑う。ケイレブがそれを見てほっこりしながら、そうだといいと口にした。

「はーい! お待たせしました! 一人一本、こちらを食べてください!」
「え? あら、味噌田楽♪ 美味しいですよね」
「ミソデンガク……? 美味しいってことは食べ物か……!」
「ええ。これはお餅かしら? この子たちは食べられないからみんなで食べて」
「あーい……」
「あうー」

 そこで女性が持ってきたのは餅に味噌を塗った味噌田楽だった。香ばしい匂いが数位を包み、ギーラの目が輝いた。

「へへ、悪いな」
「喉に詰まらせないように少しずつね」
「うお、伸びるだと……!?」
「あ、凄い!」
「あー♪」
「あ、でもこりゃうめえな!」

 早速ギーラがかぶりつき、ケイレブがびよんと伸ばして焦っていた。
 それを見ていた双子が手を叩いて笑う。

「そっかあ、まだ食べられないんですね」
「今はフルーツまでね。そうそうドラゴンフルーツも探しているの」
「え、ドラゴンフルーツということは竜玉の実、ですか?」
「ええ」
「……うーん、今はこの国では手に入らないかも……」
「ええ?」

 ドラゴンフルーツのことを尋ねると、女性は腕組みをしてうなりを上げた。
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...