老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第375話 双子、目を輝かせる

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「はーい、あたらしいお着がえですよ~♪」
「あーい!」
「あーう!」
「あ、可愛いー」

 お昼寝から数時間ほどが経過した。
 その間、リヒトとライルはぐっすり眠り、しばらくして目が覚めたペット達は庭駆けまわっていた。
 そして陽が山の向こうへ落ちていくころ、双子も目を覚ますのだった。
 すっきりした顔で目を覚ました二人へトワイトが新しく作成した服を着せる。
 カバンに入れていた裁縫道具と自分の鱗を使い、東の国でポピュラーな甚平という着物を作った。
 相変わらず防御力は高いが、ハーフパンツのような感じなので膝などは出ていた。

「おお、ええのう」
「わほぉん」
「あい♪」
「草履か下駄がいいんだけど、多分転んでしまうから止めておきました」
「ふうん、いいじゃねえか!」
「あう!」
「うぉふ♪」

 眠って元気が回復した双子は新しい着物を身につけてテンションが上がっていた。
 
「夜店も出ているじゃろうし、行くとするか」
「鬼さん達はどうするんですか? ここで待っていて欲しいって言ってましたけど」
「すぐ戻ってくればええじゃろ。ノブヒコに伝言を頼んでおこう」

 ディランが腰を上げて敷物を片付けながらそう告げる。
 ケイレブが鬼達の長が来ることについてどうするかを尋ねると、ディランが待ってもらうようにすると伝言を残すと返した。

「行ってらっしゃいませ!」
「頼むぞい」
「あーい」
「あうー」
「わほぉん」
「わん」

 ノブヒコに見送られ、ディラン達は再び町へと向かう。
 階段はすべり台で慣れているが、危ないのでダルとルミナスがそれぞれ背に乗せて下っていく。

「なんだか柔らかい灯りの飾りがありますね」
「提灯というランタンに近いものじゃな。中には油かろうそくが入っていて灯りを照らしておる」
「へえ、キレイね」
「あー♪」

 シスが優しい灯りだと言いながら階段にずらりとならんだ提灯に目を向けていた。
 そして地上まで降りたところでリヒトとライルもダル達の背中から降りた。

「歩くの?」
「あう!」
「元気いっぱいだな。お、なんかさっきまで無かった店? があるぜ」
「夜店じゃな。適当に回るとしよう」
「そうですね」
「こけー」
「ぴよ」
「あい」
「アー」

 ギーラが双子を見てにこやかに笑う。
 元気になった双子は明らかにきびきびとした動きだからだ。
 するとそこでリヒトがひよこ達を手にする。小さいのではぐれないようにしたいようだ。リヒトの肩にトコトとレイタが乗り、ライルの肩にソオンが乗る形となった。

「いらっしゃい、いらっしゃい! 美味しいリンゴはいかがかなー」
「あーう♪」
「もらおう」
「毎度!」」
「僕たちもいいんですか?」
「大丈夫じゃ。お土産屋でお釣りをもらったから買えるしのう」
「お、冷えているな」

 お昼寝を食べずに寝たので剥いたリンゴを出店で買ってリヒト達に与える。
 ケイレブやシス、ギーラにも買ってあげた。
 トワイトはさっとすり下ろして双子に食べさせる。

「あーん」
「あー」
「あうー」
「お主達は後でご飯じゃ。ワシらもまだ食っておらんしのう」
「わほぉん」
「紐で連れていないのにできたわんちゃんだなあ」

 モグモグとすりおろしリンゴを食べる双子を尻目にディランがペット達へ言う。
 自分たちは我慢できるといった感じでダルが片方の前足を上げて声を出していた。
 リヒト達が食べ終わるのをおすわりして待つ姿に、リンゴ売りの叔父さんが苦笑していた。

「色々出ていますね。あ、提灯!」
「あ、小さいやつだね」
「これ可愛いかも!」
「あうー♪」
「ライルも欲しいの?」

 再び出店を見回ると、シスが提灯を売っているお店を見つけた。
 飾ってあるものより小さく、コレクションや部屋に置いて灯りをつけるタイプのものだった。
 シスがいいなと頬を緩ませていると、ライルが提灯を欲しがる。ちょうどリヒトとライルが手に持つと馴染む大きさである。

「それじゃあシスちゃんとライルにプレゼントね」
「え、後でお金を払いますよ!?」
「まあまあ、ここまで来てくれたしね」
「毎度! 異国のお嬢さんが提灯を可愛いと言ってくれるのは嬉しいねえ。坊主も」
「あーう♪ ……あう?」

 トワイトは支払いを済ませるとライルとシスに提灯を渡す。
 ご満悦のライルがリヒトに見せようと周囲を探す。
 しかし、いつの間にかディランと一緒に別の店へ行っていた。

「あう♪」
「うぉふ」

 兄の背中を見つけたライルがヤクトに掴まって近づいていく。背中をポンと叩いた瞬間、リヒトが振り返る」

「あーい?」
「あーう……!?」
「うぉふ!?」

 しかし、振り返ったリヒトの顔はいつもの兄ではなく、狐の顔だった。
 ライルが口をぽかんと開けて呆然とし、ヤクトも目を丸くしていた。

「お、提灯を買ったのか良かったのう。リヒトはお面――」
「あー……あああああああああん!」
「お、なんじゃ」
「あーい!?」

 ディランがほほ笑みながら提灯を褒めたが、ライルは大きな声で泣き始めた。
 ディランとリヒトがびっくりして声をかけるもライルは泣き止まない。

「あああああああん! にいちゃー!」
「あい。らーる?」

 左手提灯を握りしめたライルが舌足らずに兄ちゃんと呼んだ。リヒトは返事をし、こちらもまたライルと思わしき発言をした。
 するとライルは泣きながら片手でリヒトのお面を外そうと手を伸ばした。

「わああああん!」
「あーい!」
「ど、どうしたんですかね……」
「ふむ、お面にリヒトが乗っ取られたと思っているのかもしれん。ならこうしよう」

 大きな声で泣くのでケイレブがオロオロしながらライルを心配する。
 お面に手をかけたので、ディラン推測を口にする。そのまま手を伸ばし、リヒトのお面をくるりと後頭部へ回した。

「……あーう♪」
「すぐ泣き止んだわね」
「にいちゃ!」
「あい♪」

 覚えた言葉を使い、いつもの顔になったリヒトに、ライルは鼻水を出しながらにこっと微笑みかけていた。
 するとすぐにリヒトの手を握って離さない。

「あう」
「あい?」
「はは、リヒトがどっか行くと思って怖くなったんじゃねえか?」
「これはお面をリヒトにつけるのは行かんかもしれんのう。もう買ってしまったからひとまずルミナスの頭に乗せておくか」
「わん」

 ディランは狐のお面をリヒトから外し、ルミナスの頭に乗せた後、顎紐で固定した。

「むー」
「警戒してる……」
「あらあら」
「あーい、らーる!」

 ルミナスの頭に乗せられたお面をみたライルは、明らかに不満げな顔になり頬を膨らませるのであった。
 リヒトはそんな弟の手をぎゅっと握り、先を進むのだった。
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