老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第377話 双子、太鼓を欲しがる

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「あー♪ らーる」
「アー!」
「リヒト、ライル。あんまり走るとこけるわよ」
「あーう! にーちゃ!」

 キラキラした櫓を目指して双子は手を繋いでてくてくと歩いていく。お互い引っ張らないよう気を使ってゆっくりである。
 同じ背の高さであるグラソンがぺたぺたと隣を歩いていて微笑ましい。

「元気いっぱいね」
「お昼寝をしっかりしたからだろうね」
「赤ちゃんはすぐ寝るのよ。ライルも今は元気だけど、リヒトよりよく眠るからすぐ抱っこすることになると思うわ」
「まあ赤ちゃんだしなあ」

 ペット達に囲まれて通りを歩く双子は髪の色で異国人と分かる。
 だが、町の人間は特に気にした風もなく通りすがりに可愛いと褒めていた。
 やがて櫓に辿り着くと、そこには人が多く集まっていた。

「おー」
「あーう」
「こけー」

 その人の多さはとんでもなく、双子としては誕生日の集まり以来の光景だった。
 あの時はテーブルで並んでいたのですっきりしていたが、今は混雑しているので小さい二人は視界が塞がれている。

「ダル達に乗っても目線は高くならんか。母さんや、肩車をしてやろう」
「そうですね♪」
「ほれ、リヒトにライル。父ちゃんが肩車をしてやるぞい」
「とーちゃ? あい!」
「ライルもね」
「うー……」
「あら、嬉しそうじゃないわね」

 ディランがしゃがんで目線を合わせると、リヒトは手を上げて承諾した。しかしライルは口を尖らせていた。
 手を離すのが嫌なのかもしれない。

「大丈夫よ、お父さんとお母さんも近くに居るから。ほら、高い方が良く見えるわよ」
「あーう」
「あい」
「うー、あう」

 リヒトにも説得され、渋々手を離すライル。その瞬間二人は抱えられて目線が一気に高くなる。

「あーい♪」
「あーう♪」

 さしものライルも高いところに来てテンションが上がったようで、リヒトに手を振っていた。

「お、高いな」
「あい!」
「あ、こら俺の髪を引っ張るなよ」
「ギーラはオコノミヤキを見せびらかすように食べていたからねえ……」

 目線が高くなったリヒトにギーラが近づくと、髪の毛を引っ張られた。ケイレブは苦笑しながら理由を口にする。
 そこで人の流れが変わり、櫓を囲むように集まりだした。

「よーし、みんな! 今から踊りの時間だ。適当に踊って行ってくれよな!」
「「「おー!」」」
「わほぉん……」
「おー」
「あーう」
「ぴよー」

 櫓にいるさらしを巻いた短髪の男が眼下に向かって大きく叫ぶ。周囲はそれを聞いて声を上げた。
 ダルは大きな声を聞いて耳をぱたりとと閉じ、リヒトとライルは感嘆の声を上げた。肩に乗っているひよこ達も見上げてポカーンと口を開けていた。
 そして出てきた大きな太鼓を男がリズミカルにたたき出す。

「あー♪」

 ドドンドンドン、カッカッと重い音と縁を叩いた時の軽い音が響き渡り、それに合わせて人が踊りだす。
 リヒトはそれを見てでんでん太鼓を取り出してからぽこぽこと鳴らし始めた。

「あら、可愛いお子さん。でんでん太鼓で真似をしているのね」
「あーい! とーちゃ!」
「あうー! にーちゃ」
「む、どうしたのじゃ?」
「あいー!」

 ディランの頭をぺちぺちと叩き、なにかを訴えるリヒト。ライルも真似をしているようで、なにごとかと肩車から降ろして抱っこに変えた。

「なんじゃ?」
「あー♪ ……あい!」
「一瞬、喜んでいたわね」
「抱っこされて嬉しかったのかも?」

 ディランが顔を見合わせるとリヒトはへにゃっと笑顔になった。しかしすぐに目的を思い出してとある場所へ指を向ける。

「あーい!」
「太鼓か?」
「あい♪ あいあーあい!」
「なんだあ?」
「多分、太鼓を叩きたいのかな?」

 太鼓だとディランが尋ねると満面の笑みでリヒトは両手を上げた。
 その後、でんでん太鼓を持った手をふわふわと動かす。ギーラが眉を顰めるが、ケイレブはポンと手を打って太鼓を叩いている動作だと気づいた。

「ふうむ、流石にあれは大きいし今はみんなが踊っておる。今は無理じゃ」
「あー……」
「がっかりしてる。可愛い」

 抱っこして言い聞かせると、首を振ったディランで理解したのか残念そうに声を出した。シスが困った顔で頭を撫でていると、背後から声がかかった。

「なるほど、話は聞かせてもらったよ。わしがなんとかしてやろう」
「あら、おばあさん」
「待っておれ」

 するとそこにお土産屋のおばあさんが現れた。
 トワイトが声をかけるも、おばあさんはニヤリと笑みを浮かべた後、踵を返して帰っていく。
 一同が首を傾げてまたお祭りと太鼓の音を聞いていたが、しばらくしておばあさんが戻ってきた。
 そして抱えているものを見てリヒトの目が大きくなる。

「あー……♪」
「あ、太鼓! ちょっと小さいけど、同じのよね」
「そうじゃ。坊やが使いたいみたいだったから店から持ってきた」
「ああ、すみません。言ってくれたら一緒に行きましたのに」
「構わんわい。ほれ、そこの空いているところで遊べばええ」

 そうしておばあさんが土台を置き、その上に太鼓を設置した。
 リヒトとライルを地面に降ろすと、おばあさんが子供用のバチを取り出して二人に渡す。

「あーい♪」

 そしてリヒトが櫓の男の真似をしてバチを叩きつけ、ドコドンと音が鳴る。
 その音に喜び、ドンドコと鳴らして遊ぶう。

「あう! にーちゃ」
「ライルはこっちかしら?」

 ライルは反対側に連れていかれ、そちらで叩く。すると音がリヒトの方へ鳴り、リヒトはきゃっきゃと笑う。

「あーい!」
「あうー♪」
「上手よー♪」
「はは、楽しそうだ」
「俺もやってみてえな」

 今度はそれを返すと、ライルの方に音が鳴る。楽しそうにドンドンカッと好きに鳴らす。
 音楽とはいいがたいが、楽しそうなので誰も気にしない。トワイトとシスは手を叩いて合わせてあげていた。

「持ってきて良かったわい」
「すまんのう。あれも買って帰るからよろしく頼む」
「いいぞ、ちゃんと売り物じゃからな。ん? おやおや」
「ぴよー♪」
「ぴよぴー♪」
「こけー♪」
「アー♪」
「うぉふ♪」

 ディランがおばあさんに礼を告げて買い取ると言う。売るのは問題ないと言った矢先に、ひよこ達が太鼓の上に乗りぴよぴよと踊りだした。

「なんだ? ひよこが踊っているぞ」
「赤ちゃんが叩いているの? 可愛い~ねえ、こっちこっち!」
「外国の子が甚平を着てるの似合うねえ」
「嬉しいよな」
「あーい♪」
「あうー♪」

 いつの間にか人だかりができてリヒトとライルが注目されていた。
 でもそんなことはおかまいなしに双子は太鼓を叩くのだった。

「お、なんだ? おお、赤子が太鼓を叩いてらあ! はは、こりゃあ主役を取られちまったな!」

 そんな光景を櫓から見ていた男が笑うのだった。
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