老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第378話 竜、鬼の長と会う

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「あー……♪」
「あうー……♪」
「うふふ、お疲れ様♪」
「あーい!」
「はいはい、太鼓は俺が持つぜ」
「またね、双子ちゃん達~」
「いやあ、元気な赤ちゃんだったな。子供はこれくらいでいいな」

 踊りの時間が終わり、櫓の周りにいた人たちが撤収していく。
 リヒトとライルは櫓の太鼓音がなくなったところで、満足げにバチを掲げてディランとトワイトに笑顔を向けた。
 トワイトが頭を撫でて褒めると、ダルとヤクトにまたがる。
 そしてリヒトはギーラに太鼓を運ぶようにぺちぺちと叩く。ギーラは苦笑しながら太鼓セットを抱えた。
 集まっていた人たちはリヒトとライルに手を振って立ち去っていく。
 愛想のいい双子は町の人たちをほっこりさせていた。

「さて、坊やたちの可愛い姿も見れたし帰ろうかねえ」
「あ、戻られるんですか?」
「うむ、店は締めておるが、晩御飯はまだじゃ。爺さんに食わせてやらにゃならん。竜神様達はどうするんじゃ? 祭りは夜中まであると思うが回るのかえ」
「ワシらは食い物を買ってから神社へ戻るつもりじゃ。鬼の長が来るみたいじゃからな」
「ほう、珍しいのう。坊やたちが泣かないといいけど」

 おばあさんは太鼓を渡したし、から帰ると言って手を上げる。次はどうするのか尋ねられてディランが答えた。
 酒吞童子を見て泣かないかと心配するおばあさんだが、シスが双子の頭に手を置いて言う。

「赤鬼と青鬼を見ても気にしていなかったし、大丈夫じゃないかしら? ていうか、ディランさんのドラゴン姿に喜ぶくらいだもんね」
「あい」
「あう」
「あ、ちょっと疲れてるね」

 リヒトとライルはシスの言葉に頷くが、いつもより精彩を欠いており、ケイレブが笑う。

「強い子達じゃな。まあ、竜神様もおるし心配はないか。また店へ来てくれ。というか一年に一回くらいは来てほしいもんじゃな。国王にも会っておらんじゃろうし」
「そのうちにな」
「あーい!」
「あーう!」
「またのう坊やたち」

 そのままおばあさんは踵を返して去っていく。双子は太鼓のお礼をするように手を振って見送る。

「ではみなのご飯を買ってから神社へ向かうか」
「わほぉん」
「アー!」
「ぷひー♪」

 ディラン達も再び祭りの喧騒へ戻り、屋台やお店を巡っていく。
 串焼きに野菜、魚、そして果物など主にペットたちのものが多い。

「あ、おにぎり! 誕生日パーティでトワイトさんが作っていたわよね」
「ええ。あら、ドラゴンフルーツがあるわ」
「いらっしゃい! お大名様が竜玉の実をまともに流通させられるようになったから店に出したんだ」
「おお、もうお触れを出したのか。早いのう」

 どうやらイブキはドラゴンを目の当たりにして信じる気になったようだ。
 毛嫌いしていたドラゴンフルーツも許可したらしい。

「こいつは相当熟したやつを収穫しているから甘いぜ! どうだい?」
「いただくわ。五つほど包んでください」
「リヒトとライルに食べさせるのができたわい」
「置いといたらもっと美味しくなるかもね」
「いや、ドラゴンフルーツは収穫してしまうとそれ以上味は変わらないのじゃ。できるだけ遅く収穫するのが肝心じゃ」

 店主がこのドラゴンフルーツは美味いと口にする。早速トワイトが買っていた。
 シスが放っておいたらまだ美味しくなるかもというが、ディランはあっさりと否定した。

「へえ、そうなんだな。美味いのか?」
「熟していないとほとんど味がしないから微妙だ。それで嫌いな奴も多いなあ」
「そうなんですね。これって育てるのは難しいですか?」
「いや、種さえあればいけるぞ。まあ日当たりとか肥料とかは必要だけど」
「肥料はロクローが居れば何とかなるぞい。種は食べた後の残した種でもいいかもしれん」
「わかりました」

 そうして念願のドラゴンフルーツを買い、一行は再び境内へ戻る。
 するとそこには数人の鬼が待っていた。

「すまん、待たせたかのう」
「む? おお、竜神殿! 久しぶりだ!」

 するとその中に一人、立派な衣装をまとった鬼がいた。
 頭には二本の角、朱色の肌、長い犬歯があり迫力が凄かった。
 ディランが挨拶をすると、酒吞童子も軽く手を上げて和やかに握手を交わした。

「……この人が酒吞童子……」
「怖そうだけどいい感じ?」
「……いや、こいつは強ぇぞ。ケイレブ、お前もわかるだろ」
「ま、まあ……でも殺意とかは無いし大丈夫だと思うよ」
「わかるんだ。黒竜のギーラ達が強いって言うなら相当ね……」

 握手を交わす二人を見て、ケイレブが冷や汗を流す。
 シスが首をかしげて呟くと、ギーラが険しい顔で口を開いた。
 ギーラ自身、ディランの娘であるトーニャとぶつかり合える実力がある。
 その彼が真顔で「強い」と警戒していた。

「あーい!」
「あーう!」
「そうね、ダル達みたいねー♪」
「わほぉん」
「うぉふ」
「わん」

 そこでリヒトとライルが酒吞童子を見てダルに口を開けるように示唆する。
 牙があるねと言いたいらしい。
 気づいたヤクトとルミナスも口を開けて牙を見せていた。

「おや、赤子がいるのだな? わしの牙は立派だろう?」
「あい!」
「あう!」
「うむ、元気だな! それとそっちの男二人は竜か」
「わかるんですね」
「匂いでな。さて、ノブヒコに宴の席を用意してもらった。近況を聞かせてくれ」

 警戒する黒竜たちをよそに、酒吞童子は笑いながら境内に設置されたテーブルへ案内するのであった。
 
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