老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
10 / 385

第10話 竜、とんでもないものを作る

しおりを挟む
「あばぶー」
「ぴーよ、ぴーよ」
「ふんふんふふ~ん♪」

 村へ行った翌日。
 膝にリヒトを乗せたトワイトが楽しそうに鼻歌を歌いながらなにかを編んでいた。
 ちなみに今日のリヒトと遊んでいるひよこはレイタで、頬にすり寄ったり撫でられたりしている。
 お昼も食べており後はまったりと過ごすいつもの日常。そこで薪割りから戻って来たディランが声をかけてきた。

「薪割りが終わったぞ。お、なにを作っておるんじゃ?」
「おかえりなさい」
「だー♪」

 ディランを見つけて嬉しそうに声を出すリヒト。彼をトワイトの膝から抱えてあげると、レイタが慌ててディランの足を駆け上ってリヒトの肩にやって来た。

「ぴよー……」
「あうあー」
「お主らホントにリヒトが大好きじゃのう。それで婆さんや、それはなんじゃ?」

 もう一度尋ねてみると、トワイトが一度手を止めてから背伸びをして返事をする。

「羊毛も交換してくれるかもしれない話をしたじゃないですか。それで思いついたの。私もなにか作って物々交換か、それを買い取ってもらえないかと」
「おお、なるほど。確かにワシらは金を持っておらんし、いいかもしれん」

 行商人が来る、という話も興味深かったようで村の人が買ってくれなくてもそっちで売れないだろうかと考えた。

「それで前に作ったことがある絨毯を試しに作っておこうかと思ったんです」
「糸がよくあったもんじゃ」
「荷物の中にまだ残っていたの。私の髪とあなたの髭も縫い込んでいるから耐久性はばっちりですよ」
「出来上がりが楽しみじゃな。のうリヒトや」
「きゃっきゃ♪」

 トワイトが軽く力こぶを作ってウインクをしてディランへ説明した。そんな妻にディランは楽しみだと告げてリヒトを高い高いしてやる。

「どれくらい作る予定じゃ?」
「このペースなら三枚くらいかしら。歳は取りたくないわねえ」
「そのクオリティなら十分じゃろ。なら三日後の行商人に合わせるんじゃな?」
「そのつもりですよ」

 歳は取りたくない、とトワイトがため息を吐くが、ディランの言う通り絨毯を完全な手作業で一日一枚作れるのは人間にはできない。
 まして、縦二百、横二百五十とそれなりの大きさがあるのだ。織機も使わずそれをやっている。
 竜の素材を織り込んでいるので火事で焼けたりもしない上に、なんなら防御アイテムとしても使える代物だったりするのである。

「ならリヒトはワシと遊ぶか。洞穴にハバラが使っていたおもちゃがあったはずじゃ」

 ディランは邪魔をしないようにリヒトを連れて洞窟の倉庫でおもちゃを探そうと言い出した。

「気を付けてくださいね。リヒトは人間の子なんですから」
「大丈夫じゃて。それじゃちと行ってくる」
「はーい」
「あー」

 トワイトは笑顔でリヒトに手を振ると、抱っこされていたリヒトも手をぴこぴこと動かしていた。

「こけー」
「ぴよ」

 そこでジェニファーとひよこのソオンが移動することに気づきディランの後についてきた。特に止める必要もないためそのまま裏口へと向かった。

「まだ首もすわっておらんから気を遣わんとな」
「だー」
「積み木か。ちと早いかのう。なんか先っぽに虫がついた適当に振り回す棒があったはずじゃが……」

 裏口から直結で洞窟に繋がっているため、苦も無く宝箱の前へとやってきた。ディランはなにか遊べるものが無いかを探す。
 膝に乗せたまま宝箱を漁り、積み木や馬の形をした揺れる木彫りなどを取り出していく。

「あー? う」
「こけ!?」
「ぴよ!?」
「あー♪」

 その時、膝に乗せていたリヒトが近くにあった積み木を手に取り、その辺を警戒していたジェニファーへ投げた。
 もちろん大して飛ばないし威力はないが、ジェニファー達はびっくりして飛び上がった。

「こりゃ、投げちゃいかん」
「むー」

 もうひとつ掴んで投げようとしたところ、ディランが取り上げてから窘めた。
 それが不満なのかリヒトは唸りを上げていやいやをしだす。
 
「すまんすまん。ほら、落ち着こうなあ」
「うー……」

 ディランはリヒトを抱き上げて背中を撫でてやる。まだ不満そうな声を上げているなと思った瞬間、リヒトが暴れ出した。

「あーうー!」
「あ、こりゃ暴れちゃいかんぞい。……おう!?」
「う……!? うああああああああああ!」
「ぴ、ぴよ!?」

 手をバタバタさせながら暴れたため、ディランの口に手が当たってしまった。
 あまりそう見えないがディランの歯は牙のようになっている箇所がある。リヒトの手はそこに当たってしまい、すぱっと甲を切ってしまった。
 大泣きした反動で懐に居たレイタが転がり落ちた。

「ああ、怪我をしてしもうたか」
「あなた! 今の声は!」
「早い!?」

 傷を治そうかと思ったところで泣き声を聞きつけたトワイトが現れた。すぐにリヒトを取り上げられてしまう。

「痛かったわね。よしよし」
「傷を治そう」
「ええ」

 ディランは自身の親指を歯で切り裂いた。じわりと浮かんだ血をリヒトの傷へ一滴落とす。

「あー」
「よし、これで良かろう」

 すると傷があっという間に塞がり、痛みが無くなったからかリヒトが大人しくなる。竜の血は治療薬として使えるのだ。基本的には薄めて使うのだが、今回は緊急のためそのままつけた。

「ふう、脅かさないでくださいよ」
「いやあ、すまん。積み木をジェニファーに投げつけておったから窘めたんじゃ」
「まあ、そんなことが? まだ赤ちゃんだから大目に見てあげましょう大きくなってそういうことをしていたら注意するくらいで」
「確かにのう」
「きゃっきゃ♪」

 トワイトに抱っこされて喜ぶリヒトを見ながらディランは苦笑するのだった。
 そして三日後、行商人が来るという日になった。
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...