老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第26話 竜、客人を見送る

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「邪魔をしたな」
「いや、たまの客人も良いものじゃ。リヒトも怖がっておらんし大丈夫じゃ」
「あー♪」
「本当に泣かないわねこの子」
「強いものね、リヒト♪」
「あーう♪」

 家を出て村まで一緒に連れて行くディラン達。抱っこされたリヒトがモルゲンロートや村人へ嬉しそうに手を伸ばして笑う。
 村人の女性がその手を取って握手をすると大喜びだ。

「ドラゴンに育てられて、大物になるかもしれんな。その時は王都で仕事を斡旋するぞ」
「その前に学校に通わせるとかどうです?」
「まだ気が早いですよ……」
「ほら、陣形が乱れているぞ。村人も居る、慎重にな」
「「ハッ! 申し訳ありません!」」

 騎士達もそんな話をしながら鎧の音を立ててゆっくりと下山していく。緩い空気だが魔物への警戒も忘れていない。
 
「いやあ、貴重なものをたくさん見れて今日は来てよかったですよ!」
「また来るとええ。金は必要じゃしのう」
「ありがとうございます! って、そうだ。絨毯のお金を渡すのを忘れてました!? 村についたらお渡しします!」
「おお、助かる。ミルク代が増えるのう」
「ええ。ありがたいことです」
 
 足取りの軽いエミールが絨毯代をすっかり忘れていたと頭を下げた。そして村へと戻って来た。

「おお、帰って来た! おかえりなさい陛下、みんなも!」
「うむ」
「ディランさんの家、凄かったぞ」

 いつもの門番がディラン達を視認し、立ち上がって声をかけてきた。
 挨拶を交わしていると、モルゲンロートが門のところに飾られた木彫りを見つけた。

「おや、来た時は気づかなかったがなかなか愛敬のある熊の木彫りだな」
「あ、陛下それは……」
「モルゲンロート殿、それは狼じゃ」
「え!? ……あ、ああ、確かにそう言われれば――」

 と、濁したが熊にしか見えないと思っていた。バーリオに目配せをすると、小さく首を振っており、やはり熊に見えているようだ。

「見ていると元気になるので門に設置したんですよ。またなにか作ってくれよディランさん」
「そ、そうか? 良かったのならまた作るぞ」
「うふふ♪」
「ぴよー♪」

 門番の言葉に、ちょっと照れながら腕組みをしてディランが答えると、トワイトとトコトが顔を見合わせて笑っていた。
 
「では、ワシらは戻るとしよう。王都と言ったか? 道中気をつけてな」
「ありがとうディラン殿! キリマール山はあなたが管理していることを告げておく。後で管理者証みたいなものを作って送るとしよう」

 モルゲンロートがそういうと、続けてバーリオが説明に入る。

「冒険者などが来て、困ったことが発生したりしたら村でもザミールでもいいから城へ届けてくれ。対処するよ」
「承知した。バーリオ殿。とはいえ、あそこに住まわせてもらえるだけで十分なんじゃがな」
「今はあなたが来て日が浅いが、これからどうなるかわからん。そしてドラゴンだとういうことも伏せておきたい。となれば『国が指定した管理者』という立場であれば迂闊なことはできなくなるだろう?」
「なるほどのう」

 特例中の特例だが、とモルゲンロートは苦笑する。
 しかし、ドラゴンが居ると触れ回った場合、興味本位で行く者や、討伐に行こうと考える者など、なにがあってもおかしくない。
 それで夫妻の逆鱗に触れるのはモルゲンロートにとって危惧するところ。
 かといって気のいい一家を追い出すのも忍びないと、お茶を飲みながら考えていた案がこれである。
 よしんばドラゴンだとバレたとしても『ドラゴンは国が知っている』事実は変わらず、民を怯えさせないように言わなかったというような言い訳も立つ。
 モルゲンロートは歴代でも賢い王であった。

「では、こちらが絨毯の代金です」
「あら、随分ときれいなお金ですね?」
「あー♪」

 そろそろ帰るとしたその時、ザミールが白金貨を一枚手渡した。トワイトがにっこり微笑みリヒトが手を伸ばす。

「これは金貨百枚に相当するお金です。本来は六割をお渡しする予定でしたが、今回は全部受け取ってください」
「百枚の価値……ええのかのう。婆さんの絨毯はいいものではあるが」
「(のろけた)」
「(のろけたね)」
「ええ、今回は全額受け取ってください! 私もドラゴンの爪を頂きましたし!」

 ザミールがブレイドドラゴンの爪が入っているカバンに目をやる。ディランは土産だと言うが、高価なのでそれでいいと告げた。

「細かいお金が必要になったら教えてください。しばらくは金貨十枚で暮せると思いますし」
「そうさせていただくわ。この子がミルク以外のものを口にできるようになったらなにかお願いするかもね」
「その時は是非、ザミール商会に」
「ありがとう、また遊びに来てくれ」

 恭しく頭を下げるザミールにディランが笑顔で片手を上げ、踵を返した。

「こけー」
「「「ぴよー」」」

 ペット達も手提げのカバンから顔を出してモルゲンロートや騎士、村人たちへ挨拶をしていた。

「楽しかったのう」
「あーう♪」
「たまにはお客さんというのもいいですね。食事も出せたら良かったんですけど」
「次の機会で良かろう。リヒトの抱っこ代わるぞ」
「はいはい、抱っこしたいんですね」
「うむ」
「あーい♪」
「こりゃ髭を引っ張ってはいかん」

 一家は特に困ったこともなく家路へと向かうのだった。

◆ ◇ ◆

 そして村を出ていく準備が整ったモルゲンロート一行は――

「また来てくださいねー」
「なんのお構いもできず申し訳ございませんー」
「すまんな、ありがとう村の者達よ」

 ――村人に見送られて旅立った。

「ふう……色々と驚愕だったなあ」
「しかし、これで陛下の心労が減ったのであれば良かったかと」

 馬車の荷台に揺られてモルゲンロートとバーリオが口元に笑みを浮かべながらそんな話をする。
 他の騎士達は一人一頭、馬に乗って陣形を整えていた。

「私の選択が間違っていなければいいがな」
「大丈夫でしょう。むやみに暴れる御仁でもありますまい。むしろ困った時に助けてくれるかもしれませんぞ」
「それはあまりしたくないな。確かにあの力は頼りになるが、利用するために友人になったわけではないからなあ」
「確かに、おっしゃるとおりですな。失礼しました」

 頭を下げるバーリオに手を軽く上げて構わないと言う。そう思ってしまうのも仕方がないくらいあの巨体には存在感があったからだ。

「くっく……まあ、金色のドラゴンを見た時は年甲斐もなく興奮したのだけどな」
「おや、陛下もですか」
「お前も? そうだな、城に居ては若いころの冒険心は満たされることはないから、そうだよな」

 歳の近いバーリオは十代のころから騎士としてずっと仕えて来てくれていた。
 狩りなども一緒にやっていたが、やはりああいった伝説になりうるような存在と会ったり戦ってみたいと心では思っていたらしい。

「楽しくなりそうだ」
「ええ。……む、魔物か?」

 二人が微笑んだ瞬間、周囲が騒がしくなった。本当にただの荷台なのですぐに状況は分かる。
 すると目の前に巨大な蛇型の魔物が現れた。

「あれは……ファイアヴァイパーか!」
「厄介なのが出ましたね、しかし我等には物足りぬ相手」

 すぐに騎士達が対応に入るため馬で駆ける。しかし目標はザミールの荷台のようだった。

「うわあ、こ、こっちに来た!?」
「ザミール! こっちに来るんだ!」
「は、はい! うわ、速い!?」

 ザミールの前に回り込んだファイアヴァイパー。急停止はできないうえ、すぐに向きを変えるのも難しい。
 このままではヴァイパーの餌食になってしまう。
 だがその時、石かなにかを踏んで馬車が大きく揺れた。すると反動でカバンに入れていたブレイドドラゴンの爪が弾かれるように前へ飛んで行った。

「ああ!? 貴重な爪が! ……あれ!?」
「うお、マジかよ……!?」

 大剣が二本は出来そうな大きさをした爪はくるくると回転しながらファイアヴァイパーへと飛んでいく。もちろん、魔物はそれ以上の大きさ。

 だが――

「ふ、触れた瞬間に真っ二つ……だと……」

 意思を持っているかのように飛んで行った爪は、胴体に触れた瞬間、なんの抵抗もなく切り裂いていった。ファイアヴァイパーは身体が二つに分かれてしまい、絶命した。

「……楽しく、なりそうだな」
「あまり持ち出させないようにしたほうがいいかもしれませんね……」

 事の成り行きをみていたモルゲンロートとバーリオは冷や汗をかいてそう呟くのだった――
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