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第25話 竜、気持ちを込める
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「ひんやり、いや、寒いな」
「そこの宝箱を冷蔵庫として使っておるのじゃ。その冷気が漏れておるから仕方ない」
「凄いな……」
「それしかないのかよ」
「でもそれ以外に感想、ある?」
倉庫になっている洞穴に案内されたモルゲンロート以下、人間達はひんやりを通り越してちょっと寒いと漏らしていた。
リヒトのミルクを保管している宝箱から冷たい風が出ていて、村人はごくりと喉をならしていた。
そんな中、ディランはさらに奥にある宝箱と風呂敷がある場所まで案内し、モルゲンロートへ向き直る。
「ここじゃ。ワシが覚えておるものなら持って行ってもらって構わん。山を使わせてもらうお礼じゃな」
「……!? これは……本当にいいのか……?」
「ああ。どうせ金にするしかないからのう」
「おおおおお……!? これはまさか、ロッカーニュ石の食器!?」
「わかるのか? 九百三十年くらい前に人間が作った物じゃ。適当に寝ていたブルードラゴンのレイクが近くの集落から崇められていたらしくてのう」
当時、まだ文明がそこまで発達していないころに友人が崇められたとのことだった。害もないので人間を守ってやっていたが、災害で集落は全滅してしまったと語る。
「そんなことが……しかし、これは歴史的価値が高い。大陸のずっと北で栄えていたヨンハ族がこの石を使っていたらしいんです」
「持って行くか? ワシに託したレイクも百年くらい前に死んでしもうた。その時にもらったものじゃて」
「もらえませんねえ……!?」
ザミールがちょっと涙ぐみながら慌てて元の場所に戻していた。そこで苦笑しながらバーリオが話しだす。
「ドラゴンはどうか分からんが、人間は割と出自を気にする。良くも悪くもな。亡くなった者の形見のようなものは受け取れない。そういったものは避けたいのだが、よろしいか?」
「おお、そういうことか。いや、ここにあっても眠ったままじゃから使ってもらえるならと思っておったがそういう考え方もあるのう。すまんなレイス」
「長生きしていたらそういうこともあるよなあ……」
お供え物に使われていたであろう食器を見て微笑むディランに、村人たちは目を潤ませていた。
ひとまずそういった思い出の品みたいな物は避けようと、分かるものは一度退避した。
「ふう、すまんな。寒いから早く選ぶとええ」
「では」
そうしてまずは騎士達がお宝を探りだす。モルゲンロートは最後でいいということで、次に村人、ザミールが探索する。
「あまりいいものを持って帰っても贔屓になるか?」
「いや、お主らはワシらが害のある者だった場合、戦うつもりだったのじゃろう。その勇気に見合うと思うぞ」
「そ、そうかい?」
「中年騎士には勿体ない言葉だぜ、なあ?」
「アハハ、違いない」
そう言っても古銭や親指の先くらいの大きさをした宝石、昔拾ったという錆びた人間の武器といったものを手にして騎士達は各々、笑い合っていた。
一方、村人はドラゴンの牙や鱗、貴重な薬草などを手にしていた。
「加工して村に飾っておくよ。ディランさんは山の守り神だな」
「お!? よしてくれ、ただの老いぼれじゃぞ」
「そう思ってるのはあんた達夫婦だけだってことだよ! 村に来た時はまた歓迎するさね」
「この薬草を煎じれば怪我に良く効く。狩りをする者に分けるよ」
正直、その場に居た全員は金目の物が欲しくないわけではなかった。しかし、気のいい夫婦のことを考えると俗っぽい考えが少し恥ずかしいと思ったので、みんなの為になるようなものを選んだ。
騎士達の選んだ宝石は魔法道具を作るのに使えるし、古銭は研究材料だ。
そしてザミールは――
「ぐぬう……これって、希少金属……こっちは見たことが無い形をした剣だ……価値が高そう……」
「お、流石は商人じゃのう。それはカタナという武器らしい。物凄く遠いところから旅してきた剣士が持っておったのじゃ。ドラゴンと手合わせをと竜の里まで来たから戦ったのう。ワシの鱗を一振りで落としたのはそやつ以外おらん」
「……!? ま、まさか……東方の国の!? これは受け取れないなあ……」
ザミールが悶えながら刀を置くと、モルゲンロートが口を開く。
「そういうこともあったのだな。その剣士は?」
「うむ。ワシに倒された後、修行が足りんと笑いながら去っていった。それから三十年ほど経ったくらいにまたワシのところに訪れ、竜の里の近くで余生を過ごしておったよ。刀を置いて亡くなったわい」
「切ない話が多いな!?」
「まあ、仕方ないだろう」
生きている時間が違いすぎると騎士の一人が苦笑する。ザミールが唸っている中、モルゲンロートは壁に立てかけられている盾に気付く。
「ディラン殿、あれはどういった経緯の代物かな?」
「ん? ああ、それはワシが若かったころの鱗じゃ。昔は人間化をしていなかったからたまに落ちるのじゃよ。人間の髪も何にもしていなくても抜けるじゃろ?」
「なるほど……」
「少し小さいのが若いころの証拠じゃ。人間が病気に効くとかで欲しがっておったのう」
ディランが懐かしいといい、数枚の鱗に目をやる。するとモルゲンロートは鱗に近づき、拳でノックをするように叩いた。
「……硬い。高価なタワーシールドより強固だ」
「魔物との戦いにはいいかもしれませんね」
「よし、私はこれを貰おう」
「いいのか? 他にも探せばいいものがあるかもしれんぞ?」
ディランが意外だという顔をしたが、モルゲンロートはニヤリと笑って答えた。
「友人の証なら、当人の物がいいだろう。それに背負って帰れば盾のようにも見える」
「ワシは構わんぞい。人間が加工すれば役に立つかもしれんしな」
「あ、じゃあ村にも一枚もらっていくよ!」
「ええぞー」
「軽い!?」
そんな調子でプレゼントは進み、最後に残ったザミールはかなり悩んだ挙句、比較的きれいな形を保っていたブレイドドラゴンの爪を選んだ。
「それは切れ味がいいから包丁にするとええぞ」
「できませんよ!?」
「あははは! ディランさんは面白いなあ」
岩にぶつけて取れてしまったというブレイドドラゴンの爪は、ちょっとした剣くらいの長さがあった。
なんだか持つとひやっとすると言いつつ、ザミールは少しはみ出る形になったが、カバンにしまいこんだ。
その後、トワイトのお茶を騎士達がいただきそろそろ帰る時間がやってきた。
「そこの宝箱を冷蔵庫として使っておるのじゃ。その冷気が漏れておるから仕方ない」
「凄いな……」
「それしかないのかよ」
「でもそれ以外に感想、ある?」
倉庫になっている洞穴に案内されたモルゲンロート以下、人間達はひんやりを通り越してちょっと寒いと漏らしていた。
リヒトのミルクを保管している宝箱から冷たい風が出ていて、村人はごくりと喉をならしていた。
そんな中、ディランはさらに奥にある宝箱と風呂敷がある場所まで案内し、モルゲンロートへ向き直る。
「ここじゃ。ワシが覚えておるものなら持って行ってもらって構わん。山を使わせてもらうお礼じゃな」
「……!? これは……本当にいいのか……?」
「ああ。どうせ金にするしかないからのう」
「おおおおお……!? これはまさか、ロッカーニュ石の食器!?」
「わかるのか? 九百三十年くらい前に人間が作った物じゃ。適当に寝ていたブルードラゴンのレイクが近くの集落から崇められていたらしくてのう」
当時、まだ文明がそこまで発達していないころに友人が崇められたとのことだった。害もないので人間を守ってやっていたが、災害で集落は全滅してしまったと語る。
「そんなことが……しかし、これは歴史的価値が高い。大陸のずっと北で栄えていたヨンハ族がこの石を使っていたらしいんです」
「持って行くか? ワシに託したレイクも百年くらい前に死んでしもうた。その時にもらったものじゃて」
「もらえませんねえ……!?」
ザミールがちょっと涙ぐみながら慌てて元の場所に戻していた。そこで苦笑しながらバーリオが話しだす。
「ドラゴンはどうか分からんが、人間は割と出自を気にする。良くも悪くもな。亡くなった者の形見のようなものは受け取れない。そういったものは避けたいのだが、よろしいか?」
「おお、そういうことか。いや、ここにあっても眠ったままじゃから使ってもらえるならと思っておったがそういう考え方もあるのう。すまんなレイス」
「長生きしていたらそういうこともあるよなあ……」
お供え物に使われていたであろう食器を見て微笑むディランに、村人たちは目を潤ませていた。
ひとまずそういった思い出の品みたいな物は避けようと、分かるものは一度退避した。
「ふう、すまんな。寒いから早く選ぶとええ」
「では」
そうしてまずは騎士達がお宝を探りだす。モルゲンロートは最後でいいということで、次に村人、ザミールが探索する。
「あまりいいものを持って帰っても贔屓になるか?」
「いや、お主らはワシらが害のある者だった場合、戦うつもりだったのじゃろう。その勇気に見合うと思うぞ」
「そ、そうかい?」
「中年騎士には勿体ない言葉だぜ、なあ?」
「アハハ、違いない」
そう言っても古銭や親指の先くらいの大きさをした宝石、昔拾ったという錆びた人間の武器といったものを手にして騎士達は各々、笑い合っていた。
一方、村人はドラゴンの牙や鱗、貴重な薬草などを手にしていた。
「加工して村に飾っておくよ。ディランさんは山の守り神だな」
「お!? よしてくれ、ただの老いぼれじゃぞ」
「そう思ってるのはあんた達夫婦だけだってことだよ! 村に来た時はまた歓迎するさね」
「この薬草を煎じれば怪我に良く効く。狩りをする者に分けるよ」
正直、その場に居た全員は金目の物が欲しくないわけではなかった。しかし、気のいい夫婦のことを考えると俗っぽい考えが少し恥ずかしいと思ったので、みんなの為になるようなものを選んだ。
騎士達の選んだ宝石は魔法道具を作るのに使えるし、古銭は研究材料だ。
そしてザミールは――
「ぐぬう……これって、希少金属……こっちは見たことが無い形をした剣だ……価値が高そう……」
「お、流石は商人じゃのう。それはカタナという武器らしい。物凄く遠いところから旅してきた剣士が持っておったのじゃ。ドラゴンと手合わせをと竜の里まで来たから戦ったのう。ワシの鱗を一振りで落としたのはそやつ以外おらん」
「……!? ま、まさか……東方の国の!? これは受け取れないなあ……」
ザミールが悶えながら刀を置くと、モルゲンロートが口を開く。
「そういうこともあったのだな。その剣士は?」
「うむ。ワシに倒された後、修行が足りんと笑いながら去っていった。それから三十年ほど経ったくらいにまたワシのところに訪れ、竜の里の近くで余生を過ごしておったよ。刀を置いて亡くなったわい」
「切ない話が多いな!?」
「まあ、仕方ないだろう」
生きている時間が違いすぎると騎士の一人が苦笑する。ザミールが唸っている中、モルゲンロートは壁に立てかけられている盾に気付く。
「ディラン殿、あれはどういった経緯の代物かな?」
「ん? ああ、それはワシが若かったころの鱗じゃ。昔は人間化をしていなかったからたまに落ちるのじゃよ。人間の髪も何にもしていなくても抜けるじゃろ?」
「なるほど……」
「少し小さいのが若いころの証拠じゃ。人間が病気に効くとかで欲しがっておったのう」
ディランが懐かしいといい、数枚の鱗に目をやる。するとモルゲンロートは鱗に近づき、拳でノックをするように叩いた。
「……硬い。高価なタワーシールドより強固だ」
「魔物との戦いにはいいかもしれませんね」
「よし、私はこれを貰おう」
「いいのか? 他にも探せばいいものがあるかもしれんぞ?」
ディランが意外だという顔をしたが、モルゲンロートはニヤリと笑って答えた。
「友人の証なら、当人の物がいいだろう。それに背負って帰れば盾のようにも見える」
「ワシは構わんぞい。人間が加工すれば役に立つかもしれんしな」
「あ、じゃあ村にも一枚もらっていくよ!」
「ええぞー」
「軽い!?」
そんな調子でプレゼントは進み、最後に残ったザミールはかなり悩んだ挙句、比較的きれいな形を保っていたブレイドドラゴンの爪を選んだ。
「それは切れ味がいいから包丁にするとええぞ」
「できませんよ!?」
「あははは! ディランさんは面白いなあ」
岩にぶつけて取れてしまったというブレイドドラゴンの爪は、ちょっとした剣くらいの長さがあった。
なんだか持つとひやっとすると言いつつ、ザミールは少しはみ出る形になったが、カバンにしまいこんだ。
その後、トワイトのお茶を騎士達がいただきそろそろ帰る時間がやってきた。
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