老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
30 / 385

第30話 竜、さっそく仕事をする

しおりを挟む
「よし、完成じゃ!」
「やりましたね、あなた」
「あーう!」

 『山の管理者証 ディラン・トワイト・リヒトの三名は、クリニヒト王家が管理者として認める』
 
 ディランがマイティオークの木材を加工し、そう書かれた看板を家の前に建てた。
 看板の装飾は、金色に光るディランの鱗を使った縁に、ミスリールの金属板に文字を書いてクリスタル加工した板がはめられているというものだった。
 それを大人の目線でわかる高さに足をつけ、地面に埋めて固定した。
 陽光でキラキラと輝き、装飾品としても一級品と言える品である。

「良いものをもらったのう。リヒトの名前もちゃんとあるわい」
「私が書いてと頼みましたからね!」
「あー♪」

 モルゲンロートの帰り際にトワイトが頼んでリヒトの名前も書いてもらった。
 大きくなれば山を出ていくかもしれないが、息子として育てているので家族なのだからと承諾させていた。

「今度は山をぐるりと一周するのもいいかもしれませんね」
「うむ。魔物の種類を把握しておくのもいいじゃろう。冒険者が尋ねてきた時に生息しているか聞いてもらえれば無駄足を踏むこともあるまい」
「ええ。ここまでの道ももう少し舗装しておけば自然とここに足を運ぶかもしれないわ」
「おお、いい案じゃ」
「こけー!」

 ひとまずリビングへと戻り、今後なにをするか話し合う二人。やることが出来たので色々と考えるのが楽しいようである。
 
「まずは整備から行くか」
「近くにはいつも行く村しかありませんし、そっちを歩きやすきしましょう」
「ワシがやるからお前はリヒトと遊んでいてくれ」
「ええ、やりますよ? 交代ならいいじゃありませんか」
「むう」

 妻にやらせるのは忍びないと思って言ったが、トワイトは自分のやりたい性格なのでリヒトを餌にしても釣られなかった。
 二人で交代しながら下山しつつ道を整備していく。里を作った時のノウハウがあるため、実はそれほど苦労しなかったりする。

「こけこけ」
「小石を拾ってくれておるのか、助かるわいジェニファー」
「こけー♪」

 昼をお弁当で済ませてそろそろ陽が傾き始める時間になってきた。もうすぐ地上になるくらい進めていた。ジェニファーは元気に歩き回り、虫を食べたり小石を脇にどけたりして手伝っていた。

「すぴー……」
「「「ぴよー……」」」
「困ったわ。交代しようと思ったんですけど、リヒトがお昼寝しちゃいました……」
「寝かせておいたらええ。後はワシがやるからのう」
「ごめんなさい」

 トワイトが謝るが、ディランは妻とリヒトの頭を撫でてからにっこりと微笑んで作業に戻った。
 胸中ではトワイトが作業ができなくなったのでリヒトを『よくやった』と褒めていた。

「がんばってー」
「おうさ」

 そしてさらに数時間ほど続けて見事、歩きやすい山道が完成した。少しずつ蛇行するような形にしているので急な坂にならず、ゆったりと歩くことができる。
 
「ふむ、悪くない。これなら人間も体力を残して登れるじゃろうて」
「こけっこ」

 ディランが腕組みをして満足気に頷くと、ジェニファーがトタトタと坂を上っていった。
 そして少し高いところから飛び降りて、バサバサと羽を広げながらゆっくり着地する。

「ふふ、上手に飛べたわねえ」
「こけ!」

 ひよこ達が寝ているため、いつもの面倒見が良いお母さん役はなりを潜めてジェニファーは遊んでいた。
 そこでディランがジェニファーを抱えてから草原が広がる場所を見る。
 視線の先には村の外壁が小さく見えていた。

「ふむ、村に伝えてもいいのじゃが迂闊に足を踏み入れると魔物に出くわすかのう」
「そうですねえ……でも折角ここまで来ましたし村へ行きましょうよ。お伝えする時にそう言えばいいですもの」
「そうするか。村に宿と食堂があったようじゃし、晩飯はそこで食おう」
「いいんですか?」
「婆さんの飯が一番美味いが、今日は疲れたじゃろ。たまには作らんで楽をしよう。金はあるしの」

 さらりとのろけを入れつつ、トワイトに並んで歩き出す。すっかり陽も暮れて、狼の遠吠えが聞こえてきた。

「こけー」
「ワシらがいるから大丈夫じゃ。この前のアッシュウルフかのう」
「毛皮にされずにすんだ子達ですね♪」
「あー……」
「はいはい、ちゃんといますよリヒト」

 トワイトが山の方へ首だけ向けてそういうと、リヒトが寝ぼけながら彼女の頬に手で触れていた。しばらくして村へ到着すると、いつもとは違う門番が居た。
 昼間と違って門は閉じられており、鉄柵が下げられ、その向こうにある詰め所のようなところから顔を出して尋ねてきた。

「ありゃ、こんな時間に珍しいね」
「おお、時間が違うと様相と人間が違うのだな」
「そりゃあ夜になれば魔物も活発になるし、盗賊みたいなのも居るからな。ま、そこの狼さんの木彫りが置かれてから魔物は減ったよ」
「それはなによりですね」

 トワイトが微笑むと、門番は鉄柵を開けて招き入れてくれた。そのまま話を続ける。

「でも最近、面白いことがあってさ」
「面白いこと?」
「ああ。夜、寝静まったくらいにアッシュウルフが村に来るんだ。別になにをするわけでもなく、木彫りの前に座ったり寝そべったりしていてな」

 月が出ている間は離れないのだと門番が言う。寝静まっているので村に被害がでることはないから放置しているけどと笑う。

「あいつらかのう」
「そうかもしれませんね。次、見つけても襲ってこなかったらそっとしておきましょうか」
「まあ、毛皮以外あまり使い道がないから襲われでもしないかぎり放置だよなあ。で、なにしに来たんだい?」
「飯を食いにじゃ。旅人に食べさせるための食堂があったじゃろ」

 それを聞いた門番は目を大きく開けた後、笑いながら食堂の場所を教えてくれた。
 ディラン達は食堂に居た村人に家までの道が歩きやすくなったと話し、ザミールに伝えておくよと返されていた。
 
「お、遠吠えだ。またあいつらかな。ご夫婦は大丈夫だと思うけど、アッシュウルフに気を付けてな」
「うむ、ありがとう」

 もうすっかり村人たちに受け入れてもらえているため、気遣ってくれていた。

「あー……」
「ふふ、可愛いわねえリヒト君。ひよこ達も」
「……というかひよこ達、まだこの姿なのか? そろそろ大きくなってもおかしくないけど……」

 そんな話をしながら夜が更けていく――

◆ ◇ ◆

「……ドラゴンだと?」
「ああ、俺は見たんだ。ひと月くらい前のキリマール山にでかいドラゴンが二頭、降り立つのが」

 王都の冒険者ギルド。
 その端で冒険者が二人、声を潜めて話をしていた。一人の男はドラゴンを見たと口にする。

「でも、そんな話は他の奴等から聞いたことがないぜ? というかあそこって最近、国から管理者が選定されたんだ。ドラゴンなんているわけねえ」
「わからんぜ? ドラゴンを隠したくてそう言っているだけかもしれない。……行ってみないか?」

 聞き役の男は腕組みをして噂すら聞いたことがなく、むしろ山に管理する者が増えたと口にした。ドラゴンが居る山に派遣はしないだろうと返す。
 だが、国がなにかを隠しているからという可能性を示唆した。

「ふむ」
「な?」

 そして――
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...