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第33話 竜、知らない内に支援をする
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「じゃあ、トワイトさんもドラゴンで、リヒト君は捨て子だったんですね……」
「そうなの。酷いことをする人間も居るわね!」
「うー?」
「ホントよ! こんなに可愛いのに!」
「「「ぴよ!」」」
「はいはい、あんた達もね?」
「「「ぴよー♪」」」
正体が発覚した後、再び家へ戻った。そこでディラン達が事情を話すと、里を追い出された経緯に世知辛いと四人が言い、さらにリヒトの境遇に心を痛めていた。
「あのままだと魔物に食べられてしまいそうだったから拾って育てているの」
「いえ、拾って育てるのはお人よしというか……」
「ドラゴンじゃが?」
「ってことはお竜よし……?」
「こけ……」
「ガルフは黙っていてくれ……」
ガルフが謎の指摘をし、膝に置いたジェニファーがあくびをする。呑気な状況にヒューシが呆れていた。そこで商人のザミールは険しい顔で手を叩く。
「はい、とりあえず注目。ディランさん達はこれでいいけど、君たちは本当に気を付けるんだよ? 陛下は優しいし、こちらのご夫婦も色々気にしないけど、なにかあったら陛下からなにかしら罰を受けることはある」
「言うつもりはねえけど、ディランのおっちゃんは強いしトワイトさんもドラゴンだろ? なにかあるとは思えないんだけどなあ」
ザミールは至極真面目に注意をするが、ガルフはジェニファーの背中を撫でながらおかしなことは起こらないのではと返す。
だが、ザミールはガルフに顔を近づけ、リヒトを指しながら声色を変えて言う。
「なら、ドラゴンが居ると知られ、興味本位でたくさんの人が来るとしよう。命を狙ってきたならず者をディランさんやトワイトさんが倒すのは難しくない。だが、リヒト君はどうだろう?」
「……あ!?」
「人質ないし殺される可能性は捨てきれない。『絶対』というのはあり得ない。その結果、この二人が怒り狂って国が亡ぶことだって考えられるとは思わないか?」
「確かに。リヒト君は人間でしかも赤ん坊だ。この先、数十年経ってもまだ子供と考えれば危険だな……」
さすがにガルフもザミールの剣幕にびっくりし、ヒューシも冷や汗を一筋流しながら意図を理解する。
「そっか、君は人間だもんね」
「あーう?」
「うん、私は言わないよ!」
レイカとユリもトワイトに抱っこされているリヒトに触りながら決意の表情を見せていた。
「わかったぜザミールさん。というか俺達だけが知っているっていうのも悪くないしな! 陛下には……言っておきたいんだけど、謁見できるかなあ」
「そうだね……それは私がなんとかしよう。商品の売買で行くことがあるから、その時一緒に頼むよ」
「わかりました。はあ……ドラゴンと戦うよりも厄介なことになった気がするぞ?」
「ま、いいじゃねえか! また遊びに来やすくなったろ。なあ、リヒト」
「あーう♪」
ひとまず彼等の話を聞いていたディランは話がまとまったところで口を開く。
「まあ、静かに暮らせればワシらはなんでもいい。ただ、交戦するなら死を覚悟してもらわねばならんから、心無い人間に知られないようにした方がええじゃろうな」
「わお、強者の言葉……」
あっさりと『なんかしたら死ぬぞ』というディランにユリが戦慄する。しかし、それができる力を持っているのは先ほど見た通りなので全員が冷や汗を掻く。
「逆にみんなに知らしめても……」
「いや、さっきも言ったけどドラゴンを倒そうとか考える人間が出てくるだろう? 今なら知っている人間の方が少ない。村の人達は知っているけど、あそこから移動することも殆どないのと不可抗力だから仕方ないのさ」
「あー、そういうことな」
もしこれがたくさんの人間に知れ渡っているなら、大々的に『ドラゴンに手を出すな』となるが、知られていない以上広げない方が無難であると言える。
「まあ、喋る相手も居ないし陛下を敵に回すのはあり得ないから言わない! 後は考えていることがあるけど、後でまとまったら話に来るよ。それじゃ帰るとすっか」
「オッケー。お金にはならなかったけど、楽しかったわね」
「そうだねえ。リヒト君とひよこ達が可愛いし」
「なんじゃ? 金儲けに来たのか?」
「お恥ずかしながらそうなのです。ドラゴン素材は高く売れるからと」
ディランが首を傾げていると、ヒューシが顔を赤くしてガルフ以外の目的を告げた。
「なるほどのう。モルゲンロート殿に迷惑がかかるから冒険者のお主達にドラゴンの素材を渡すわけにはいかんが、それ以外ならなにか上げられるものがあるかもしれん」
「ディランさん!?」
「そうですねあなた。冒険者さんだとなにがいいかしら?」
「ちょっと見てくるわい」
「ええー……?」
またなにかプレゼントするという夫婦にザミールが悲鳴に近い声を上げる。しかしまったく気にせずディランはまた宝物洞穴へと向かった。
やがて戻ってきたディランの手には大きな四枚の羽根があった。
「これでいいかのう。売れるかは知らんが、まあ土産じゃ」
「これは?」
「ああ、グリフォンのアライさんの羽ですね!」
「グリフォン……!? あの魔獣グリフォン、ですか?」
「お、知っておるか? あんまり強くないやつじゃが、昔よく突っかかってきていてな。弱いブレスで吹き飛ばしたら素直に負けを認めておったわい。その時に拾った羽じゃな」
「風圧勝負で私に挑んでも来ましたよね」
「じゃなあ。ストームドラゴンのお前に勝てるわけないのにのう」
その話を聞いて五人は黙り込む。
魔獣グリフォンはドラゴンまではいかないが巨大な魔物で、その風圧は大木を何十本もなぎ倒す程の威力があるとされている。
それほど目撃数は少ないが、もし町の近くに出没すれば討伐隊を組むほどの相手だ。それを歯牙にもかけないと二人は言う。
「……売ったら金貨五十枚にはなるよ」
「え!?」
ザミールが値段をつけるとレイカとユリが驚きの声を上げた。だけどヒューシが眼鏡をくいっと直しながら言う。
「僕は売りませんよ。持っているとお守りになりますよ」
「ほう、そうなんじゃ?」
「つーか、ディランのおっちゃんの土産を売るかよ!」
「そ、そうよね!」
「もちろん売らないよ!」
ヒューシに続きガルフ達も売ることは無いと口にした。ザミールはちょっと買い取りたかったのかもしれない。
「ふふ、お金に困ったら売ってもいいのよ? 私達も色々売りましたしね。あ、お茶のおかわりは?」
「大丈夫! 二杯も飲んだし、お腹がタプタプになって下山しにくくなるわ……」
「だなあ。そんじゃそろそろ帰るよ! また来ていいか?」
「待っておるぞ」
「あーい♪」
「ぴよー!」
レイカが笑いながら首を振り、ガルフが帰ると言い出した。もちろんまた来ることに抵抗はないためディラン達はいつでも来いと笑う。
そして外に出て、一旦小屋の中に入れていた馬を外に放つ。それを見ていた夫婦に、ザミールが近づいてきて小声で言う。
「……あまりお土産を持たせないでくださいね? グリフォンなんてこの辺りでは何年も見ていないので、彼等もどうなるか」
「ふむ? そうか、なら次から気を付けるとしよう。ドラゴンの素材でなければいいかと思ったのじゃが」
「意外と難しいですね、あなた」
人間の世界は複雑じゃとディランは難しい顔で首を捻っていた。そして馬を連れて出てくると、リヒトが馬を見て声を上げた。
「あー! あーい♪」
「ぶるる♪」
「え? リヒト君、馬が怖くないの?」
「うー?」
「まあ、ドラゴンを見て大喜びするくらいだもんな。鍛えたら強くなるかも!」
「あんたは弱いくせになにを言っているのよ」
「うるさいよ!? じゃあな!」
「こけー」
「「「ぴよー!」」」
そんな感じでガルフ達一行とザミールは夫婦の家を後にした。二人は賑やかで良かったなと見えなくなるまで送っていた。
そして――
「いやあ、びっくりしたけど面白かったな!」
「そうだな。ガルフのアホなこともたまには役に立つ」
「グリフォンの羽だなんてオシャレでいいわよね。腰につけておこうかな?」
「私、鞘に結んでおこうっと♪」
「本当に気を付けてくれよ?」
山を下り、村を経由して一路王都へ向かう一行。各々、グリフォンの羽をどこにつけるか話し合い、装備する。
ザミールが呆れながら何度目かの注意をしていると、街道の脇から大きなアリが飛び出して来た。
「アシッドアント……!? チッ、止まったらまずい。駆け抜けろ! ヒューシ、魔法で牽制だ」
現れたのはアシッドアントという、強力な蟻酸で馬などの動物の足を潰して動けなくし、その肉を食べるという中程度の強さを持つ魔物だった。
「ああ……!」
「あいつって皮膚が硬いから剣だと面倒なんだよね。魔法も種類によっちゃ効かないし」
ユリが冷や汗を流しながら視線を合わせて言う。ヒューシが魔法を使おうとしたその時、馬車の前に一匹のアシッドアントが回り込んで来た。
「まず……!?」
「ガルフ君!」
「さ、先に行ってくれ! こっちはなんとかして追いつくから!」
ガルフ達の馬車が止まり、ザミールの馬車はそのまま駆け抜けていく。だが、商人が残るよりはと、ガルフは剣を抜いて威嚇する。
「レイカは荷台から降りないでね!」
「ユリ、無茶しないでよ! ヒューシ!」
「分かっている! <ファイヤーボール>!」
「あれ!? なんかでかくない!?」
ギチギチと顎を鳴らしながら近づいてくるアシッドアント。いつ飛び掛かられてもおかしくない距離で、ヒューシの魔法が飛んで行く。
ガルフが驚いている中、ファイヤーボールがアシッドアントに直撃し、近くに居た一体と共に爆散した。
「ど、どういうことだ……? 僕のファイヤーボールではあの硬い皮膚はせいぜい背中を焦がす程度のはず……」
「いいじゃねえか! 倒したならラッキーだ!」
「ガルフ!」
「お!? 野郎!」
予想外の威力に一同が驚いているが戦闘はまだ終わっていない。ガルフに狙いをつけたアシッドアントの攻撃をレイカが気づいて声をかけた。
もちろん剣で応戦するガルフだが――
「よっと! ……ありゃ!?」
「嘘!?」
剣で追い払いつつ首の付け根を狙って倒すのが定石のアシッドアントだが、牽制で振った剣が硬い頭を一撃で割った。
「そんなに強かったっけ?!」
「いや、なんかやけに身体が軽いし、力が漲ってくるんだよ。ユリ、お前はどうだ?」
「え? う、うーん? ……あ、確かに……これならもしかして――」
ガルフに言われてユリが剣を握ると確かにいつもと違う力の流れを感じていた。そのまま近くに居たアシッドアントを攻撃すると、鋭い振りを見せて手足を瞬時に切り落とし、それと同時に首を落とした。
「す、すご!?」
「よ、よく分からないけど好機だ! 僕が魔法で散らす、ガルフとユリで単騎を潰してくれ!」
「「了解!」」
そして二十は居たはずのアシッドアント達はあっという間に駆逐されるのだった。
トワイトの出しているお茶を二杯飲んだ彼等の身体能力が少し上がっていたからである。
さらに魔力が増幅する効果のあるグリフォンの羽でヒューシの魔法力は飛躍的に上がっていたのも原因の一つだった。
以前、モルゲンロートの便秘が治ったのもあのお茶のおかげで、彼は胃腸が強くなっていたりする。
不調な者は元気に。元気なものはより元気にという謎のお茶であった。
しかし、あのお茶が人間に対して色々な効能を持つというのを知る者は、ディラン達も含めて誰も知らない――
◆ ◇ ◆
作家の八神です
本年はありがとうございました!
年越しということでちょっと長めにしております(笑) まだまだ続きますのでよろしくお願いいたします!
「そうなの。酷いことをする人間も居るわね!」
「うー?」
「ホントよ! こんなに可愛いのに!」
「「「ぴよ!」」」
「はいはい、あんた達もね?」
「「「ぴよー♪」」」
正体が発覚した後、再び家へ戻った。そこでディラン達が事情を話すと、里を追い出された経緯に世知辛いと四人が言い、さらにリヒトの境遇に心を痛めていた。
「あのままだと魔物に食べられてしまいそうだったから拾って育てているの」
「いえ、拾って育てるのはお人よしというか……」
「ドラゴンじゃが?」
「ってことはお竜よし……?」
「こけ……」
「ガルフは黙っていてくれ……」
ガルフが謎の指摘をし、膝に置いたジェニファーがあくびをする。呑気な状況にヒューシが呆れていた。そこで商人のザミールは険しい顔で手を叩く。
「はい、とりあえず注目。ディランさん達はこれでいいけど、君たちは本当に気を付けるんだよ? 陛下は優しいし、こちらのご夫婦も色々気にしないけど、なにかあったら陛下からなにかしら罰を受けることはある」
「言うつもりはねえけど、ディランのおっちゃんは強いしトワイトさんもドラゴンだろ? なにかあるとは思えないんだけどなあ」
ザミールは至極真面目に注意をするが、ガルフはジェニファーの背中を撫でながらおかしなことは起こらないのではと返す。
だが、ザミールはガルフに顔を近づけ、リヒトを指しながら声色を変えて言う。
「なら、ドラゴンが居ると知られ、興味本位でたくさんの人が来るとしよう。命を狙ってきたならず者をディランさんやトワイトさんが倒すのは難しくない。だが、リヒト君はどうだろう?」
「……あ!?」
「人質ないし殺される可能性は捨てきれない。『絶対』というのはあり得ない。その結果、この二人が怒り狂って国が亡ぶことだって考えられるとは思わないか?」
「確かに。リヒト君は人間でしかも赤ん坊だ。この先、数十年経ってもまだ子供と考えれば危険だな……」
さすがにガルフもザミールの剣幕にびっくりし、ヒューシも冷や汗を一筋流しながら意図を理解する。
「そっか、君は人間だもんね」
「あーう?」
「うん、私は言わないよ!」
レイカとユリもトワイトに抱っこされているリヒトに触りながら決意の表情を見せていた。
「わかったぜザミールさん。というか俺達だけが知っているっていうのも悪くないしな! 陛下には……言っておきたいんだけど、謁見できるかなあ」
「そうだね……それは私がなんとかしよう。商品の売買で行くことがあるから、その時一緒に頼むよ」
「わかりました。はあ……ドラゴンと戦うよりも厄介なことになった気がするぞ?」
「ま、いいじゃねえか! また遊びに来やすくなったろ。なあ、リヒト」
「あーう♪」
ひとまず彼等の話を聞いていたディランは話がまとまったところで口を開く。
「まあ、静かに暮らせればワシらはなんでもいい。ただ、交戦するなら死を覚悟してもらわねばならんから、心無い人間に知られないようにした方がええじゃろうな」
「わお、強者の言葉……」
あっさりと『なんかしたら死ぬぞ』というディランにユリが戦慄する。しかし、それができる力を持っているのは先ほど見た通りなので全員が冷や汗を掻く。
「逆にみんなに知らしめても……」
「いや、さっきも言ったけどドラゴンを倒そうとか考える人間が出てくるだろう? 今なら知っている人間の方が少ない。村の人達は知っているけど、あそこから移動することも殆どないのと不可抗力だから仕方ないのさ」
「あー、そういうことな」
もしこれがたくさんの人間に知れ渡っているなら、大々的に『ドラゴンに手を出すな』となるが、知られていない以上広げない方が無難であると言える。
「まあ、喋る相手も居ないし陛下を敵に回すのはあり得ないから言わない! 後は考えていることがあるけど、後でまとまったら話に来るよ。それじゃ帰るとすっか」
「オッケー。お金にはならなかったけど、楽しかったわね」
「そうだねえ。リヒト君とひよこ達が可愛いし」
「なんじゃ? 金儲けに来たのか?」
「お恥ずかしながらそうなのです。ドラゴン素材は高く売れるからと」
ディランが首を傾げていると、ヒューシが顔を赤くしてガルフ以外の目的を告げた。
「なるほどのう。モルゲンロート殿に迷惑がかかるから冒険者のお主達にドラゴンの素材を渡すわけにはいかんが、それ以外ならなにか上げられるものがあるかもしれん」
「ディランさん!?」
「そうですねあなた。冒険者さんだとなにがいいかしら?」
「ちょっと見てくるわい」
「ええー……?」
またなにかプレゼントするという夫婦にザミールが悲鳴に近い声を上げる。しかしまったく気にせずディランはまた宝物洞穴へと向かった。
やがて戻ってきたディランの手には大きな四枚の羽根があった。
「これでいいかのう。売れるかは知らんが、まあ土産じゃ」
「これは?」
「ああ、グリフォンのアライさんの羽ですね!」
「グリフォン……!? あの魔獣グリフォン、ですか?」
「お、知っておるか? あんまり強くないやつじゃが、昔よく突っかかってきていてな。弱いブレスで吹き飛ばしたら素直に負けを認めておったわい。その時に拾った羽じゃな」
「風圧勝負で私に挑んでも来ましたよね」
「じゃなあ。ストームドラゴンのお前に勝てるわけないのにのう」
その話を聞いて五人は黙り込む。
魔獣グリフォンはドラゴンまではいかないが巨大な魔物で、その風圧は大木を何十本もなぎ倒す程の威力があるとされている。
それほど目撃数は少ないが、もし町の近くに出没すれば討伐隊を組むほどの相手だ。それを歯牙にもかけないと二人は言う。
「……売ったら金貨五十枚にはなるよ」
「え!?」
ザミールが値段をつけるとレイカとユリが驚きの声を上げた。だけどヒューシが眼鏡をくいっと直しながら言う。
「僕は売りませんよ。持っているとお守りになりますよ」
「ほう、そうなんじゃ?」
「つーか、ディランのおっちゃんの土産を売るかよ!」
「そ、そうよね!」
「もちろん売らないよ!」
ヒューシに続きガルフ達も売ることは無いと口にした。ザミールはちょっと買い取りたかったのかもしれない。
「ふふ、お金に困ったら売ってもいいのよ? 私達も色々売りましたしね。あ、お茶のおかわりは?」
「大丈夫! 二杯も飲んだし、お腹がタプタプになって下山しにくくなるわ……」
「だなあ。そんじゃそろそろ帰るよ! また来ていいか?」
「待っておるぞ」
「あーい♪」
「ぴよー!」
レイカが笑いながら首を振り、ガルフが帰ると言い出した。もちろんまた来ることに抵抗はないためディラン達はいつでも来いと笑う。
そして外に出て、一旦小屋の中に入れていた馬を外に放つ。それを見ていた夫婦に、ザミールが近づいてきて小声で言う。
「……あまりお土産を持たせないでくださいね? グリフォンなんてこの辺りでは何年も見ていないので、彼等もどうなるか」
「ふむ? そうか、なら次から気を付けるとしよう。ドラゴンの素材でなければいいかと思ったのじゃが」
「意外と難しいですね、あなた」
人間の世界は複雑じゃとディランは難しい顔で首を捻っていた。そして馬を連れて出てくると、リヒトが馬を見て声を上げた。
「あー! あーい♪」
「ぶるる♪」
「え? リヒト君、馬が怖くないの?」
「うー?」
「まあ、ドラゴンを見て大喜びするくらいだもんな。鍛えたら強くなるかも!」
「あんたは弱いくせになにを言っているのよ」
「うるさいよ!? じゃあな!」
「こけー」
「「「ぴよー!」」」
そんな感じでガルフ達一行とザミールは夫婦の家を後にした。二人は賑やかで良かったなと見えなくなるまで送っていた。
そして――
「いやあ、びっくりしたけど面白かったな!」
「そうだな。ガルフのアホなこともたまには役に立つ」
「グリフォンの羽だなんてオシャレでいいわよね。腰につけておこうかな?」
「私、鞘に結んでおこうっと♪」
「本当に気を付けてくれよ?」
山を下り、村を経由して一路王都へ向かう一行。各々、グリフォンの羽をどこにつけるか話し合い、装備する。
ザミールが呆れながら何度目かの注意をしていると、街道の脇から大きなアリが飛び出して来た。
「アシッドアント……!? チッ、止まったらまずい。駆け抜けろ! ヒューシ、魔法で牽制だ」
現れたのはアシッドアントという、強力な蟻酸で馬などの動物の足を潰して動けなくし、その肉を食べるという中程度の強さを持つ魔物だった。
「ああ……!」
「あいつって皮膚が硬いから剣だと面倒なんだよね。魔法も種類によっちゃ効かないし」
ユリが冷や汗を流しながら視線を合わせて言う。ヒューシが魔法を使おうとしたその時、馬車の前に一匹のアシッドアントが回り込んで来た。
「まず……!?」
「ガルフ君!」
「さ、先に行ってくれ! こっちはなんとかして追いつくから!」
ガルフ達の馬車が止まり、ザミールの馬車はそのまま駆け抜けていく。だが、商人が残るよりはと、ガルフは剣を抜いて威嚇する。
「レイカは荷台から降りないでね!」
「ユリ、無茶しないでよ! ヒューシ!」
「分かっている! <ファイヤーボール>!」
「あれ!? なんかでかくない!?」
ギチギチと顎を鳴らしながら近づいてくるアシッドアント。いつ飛び掛かられてもおかしくない距離で、ヒューシの魔法が飛んで行く。
ガルフが驚いている中、ファイヤーボールがアシッドアントに直撃し、近くに居た一体と共に爆散した。
「ど、どういうことだ……? 僕のファイヤーボールではあの硬い皮膚はせいぜい背中を焦がす程度のはず……」
「いいじゃねえか! 倒したならラッキーだ!」
「ガルフ!」
「お!? 野郎!」
予想外の威力に一同が驚いているが戦闘はまだ終わっていない。ガルフに狙いをつけたアシッドアントの攻撃をレイカが気づいて声をかけた。
もちろん剣で応戦するガルフだが――
「よっと! ……ありゃ!?」
「嘘!?」
剣で追い払いつつ首の付け根を狙って倒すのが定石のアシッドアントだが、牽制で振った剣が硬い頭を一撃で割った。
「そんなに強かったっけ?!」
「いや、なんかやけに身体が軽いし、力が漲ってくるんだよ。ユリ、お前はどうだ?」
「え? う、うーん? ……あ、確かに……これならもしかして――」
ガルフに言われてユリが剣を握ると確かにいつもと違う力の流れを感じていた。そのまま近くに居たアシッドアントを攻撃すると、鋭い振りを見せて手足を瞬時に切り落とし、それと同時に首を落とした。
「す、すご!?」
「よ、よく分からないけど好機だ! 僕が魔法で散らす、ガルフとユリで単騎を潰してくれ!」
「「了解!」」
そして二十は居たはずのアシッドアント達はあっという間に駆逐されるのだった。
トワイトの出しているお茶を二杯飲んだ彼等の身体能力が少し上がっていたからである。
さらに魔力が増幅する効果のあるグリフォンの羽でヒューシの魔法力は飛躍的に上がっていたのも原因の一つだった。
以前、モルゲンロートの便秘が治ったのもあのお茶のおかげで、彼は胃腸が強くなっていたりする。
不調な者は元気に。元気なものはより元気にという謎のお茶であった。
しかし、あのお茶が人間に対して色々な効能を持つというのを知る者は、ディラン達も含めて誰も知らない――
◆ ◇ ◆
作家の八神です
本年はありがとうございました!
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