老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第96話 竜、道中でなごむ

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「モルゲンロート殿がトワイトの飯を食いたいと」
「王妃様も賛同しているのね」
「ええ。ロイヤード国から戻って間もないところで申し訳ないのですが、城へきていただけないでしょうか?」

 来客はいつものバーリオで、困った顔でふたりに依頼をかけてきた。
 長旅からまた王都へとなると、人ごみを嫌うディランがいい顔をしないであろうこと考えていた。

「ふむ、まあトーニャにも会えるし、ワシはいいぞい。ただ、婆さんだけに負担がかかるのは心苦しいが」
「私は構いませんよ。いつも私の手がふさがっている時はリヒトの面倒を見てもらっていますし」
「なら行ってみるかのう。しかし、ザミールが醤油と味噌をワシらの分だけ買っていたとは驚きじゃ」

 しかしディランは娘に会えるからと問題なさそうであった。
 どちらかといえばトワイトの役に立てないことへの申し訳なさがあるようだ。
 だが、トワイトも別段苦にならないという。

「いつもすみませんな。それとザミール曰く、この家に持って帰ることしか考えていなかったらしい」

 バーリオは頭を下げてからお礼を口にした。
 ザミールについては目的の品が見つかって浮かれていたので仕方ないとのこと。

「今から行けば夕方には間に合うか。向こうへ着いてから宿でも取ればちょうどいい」
「トーニャちゃんの屋敷でもいいかもしれませんね」
「そこはお城で休んでもらって構いません。陛下も承知しております」
「そうか? まあ、リヒトが休めればどこでもええ」
「宿だとアッシュウルフ達が一緒に行けないですからね」

 宿を取るか屋敷を尋ねるかというディラン達にバーリオが頼んでいるのはモルゲンロートなので城の部屋を使ってもらうように言う。
 さらに宿では魔物を入れてくれないであろうことを告げた。

「わほぉん……!?」
「あら、いつの間に」
「あー♪」

 そこでリヒトを背に乗せたダルが、一緒にいけないことを聞いてショックを受けていた。

「大丈夫じゃ、ちゃんと一緒に行けるぞい。屋敷でのんびりしてもいいしのう」
「わほぉん……」
「あうー!」

 ディランがリヒトとダルを抱っこしてからそう言うと、安堵したように鳴く。
 リヒトは目線が高くなりディランの髭を引っ張りながら高らかに声を上げた。

「では一緒に行きますか」
「そうじゃな。ダルよ、お出かけじゃ。みんなを集めてくれ」
「わほぉん……」
「あーう」

 お出かけと聞いて髭をしょんぼりさせるダルにリヒトが頭を撫でていた。
 ひとまずリヒトを乗せてリビングへ行くと、ダルとは対照的に賑やかな声の合唱が聞こえてくる。
 その様子に微笑みながらトワイトはリヒトの着替えなどを準備し、ディランは醤油と味噌の詰まった樽を抱えて外へ。

「うおお……」
「あんなでかいのを二つも軽々と……」
「荷台に載せてええか?」
「もちろんです!」

 いつもの事情を知る騎士達の下へ行くと、荷台を空けてくれた。ディランが樽を置くと、位置を変えるため手をかけるが、一人では殆ど動かせなかった。

「……う、お、重い……どうやって持ってたんだ……」
「ドラゴンだなあやっぱ……」
「鍛え方が足りんのじゃないか?」
「一緒にせんでくださいよ……」
「収穫した米も少し載せてくれるか?」
「ええ。馬も三頭連れてきましたから大丈夫ですよ!」

 騎士達が呆れながら笑い、ついでにとディラン達の荷物も載せてくれた。
 タルが重いことは事前に聞いていたので準備も完璧であった。
 
「こけー」
「ぴよっ!」
「ぴよぴー!」
「ぴー」
「あーい♪」
「よしよし、お主達はこっちじゃ」

 ディランはひよこ達をリヒトのポケットへ詰め、いつもの肩掛けカバンにジェニファーを入れる。
 そこでディランはリヒトを肩車にして移動することにした。

「あー♪」
「ぴよー♪」
「いいわねリヒト♪ まだ陽が高いからこれを被せておきましょうか」
「お、完成したのか」
「ええ。稲わら帽子よ、リヒト」
「あい!」

 ディランが腰をかがめてやると、トワイトが稲のわらで作った帽子をリヒトに被せて上げた。あごひもをしっかり締めてからぽんぽんと頭を撫でてあげる。

「あーい♪」
「うふふ、似合うわよ」
「鍵はかけたか?」
「ええ。いつでも行けますよ」
「うぉふ!」
「わん!」
「わほぉん……」

 トワイトの足元にアッシュウルフ達も並び、出かける準備が整った。ディランが頷くとバーリオが手を上げて号令をかける。

「よーし、それじゃ出発だ! 魔物への警戒を怠るなよ」
「「「ハッ!」」」
「わん」
「わほぉん」

 移動が始まると、ルミナスとダルが荷台に飛び乗り寝そべった。ひとまずヤクトだけ尻尾をくるんと巻いてトワイトの足元で歩く。

「交代で歩くのか?」
「わほぉん」
「そうみたいですね。あなたも荷台で休んでいたら?」
「うぉふ」
 
 交代するタイミングはわからないがそうらしいことを把握する夫婦。ヤクトは鍛えるためか前足を浮かせて鳴いていた。
 
「あーい?」
「ウサギじゃのう。いつもなら狩るが、食べるものがあるのに無益に殺してはならんぞ」
「あい」
「まだ生まれて間もないのでしたか? 賢いですなあ、リヒト君」
「自由に見聞きしておるし、色々な人間と出会うからかもしれんの」

 なにか見つけるたびにディランの頭を叩いて指をさすリヒトにバーリオがほっこりした顔でいい子であると告げる。
 稲わら帽子を被っていてとても可愛いというのもあった。

「くぁ……わほぉん?」
「あーう♪」

 そんな中、荷台に寝そべってあくびをするダルの鼻に蝶が止まり、ダルの目が寄り目になる。リヒトはその顔を見て嬉しそうに笑った。
 もちろんダルは追い払うことなく、そのまま目を閉じて休む。のんびりな時間だなと騎士達はそれを見て微笑んでいた。

「わん」
「わほぉん……!?」
「あー」

 しかし、目の前で蝶が居たことでルミナスはうずうずしてしまい前足を蝶へ出す。
 すると、ぺちんといった感じでダルの鼻先にヒットした。
 もちろん蝶は飛び立つ。
 びっくりして飛び上がったダルをよそにルミナスが蝶を目で追うと、リヒトの手に止まった。

「あーう♪」
「ぴよー♪」
「ちょうちょが近づいてくるなんてリヒトが優しいってわかるのかしら?」
「ぴよぴー♪」

 しばらく眺めていたが蝶はまたどこかへ飛んでいく。

「あー」
「ぴよー」

 リヒトは一瞬口を開けて追っていたが、すぐに手を振って別れを告げた。
 そんな和やかな道中を続け、たまにアッシュウルフ達が交代で護衛につく中、ディラン達は再び王都へと足を踏み入れた。

「なんだかんだと割と来るのう」
「ここに来た頃は考えられませんでしたねえ」
「では城へ。すまないが、トーニャ達を呼んできてくれ」
「かしこまりました」
「呼ぶんじゃな」
「後で発覚したら怒られそうですからな」
「あう」

 そのままディラン達は夕日を浴びながら城へ向かうのだった――
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