老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第131話 竜、商売をする?

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「ふむ、最近家に居なかったから少し獲れすぎてしまったのう」
「こけー」
「あーう」
「うぉふ」

 とある日。
 ディランは腕組みをして収穫した野菜を見ていた。足元にはジェニファーとヤクトに掴まったリヒトが立っていた。
 靴が気に入ったのか、最近は外に出たがるのは男の子らしかった。
 それはともかく、トマトにトウモロコシ、ナスとキャベツが山になっていて、米もわずかに余っていたりする。

「村に分けに行くか。ザミールでも来れば買い取ってもらうんじゃが」
「うぉふ♪」
「あうー♪」

 麓の村に行くと言った瞬間、木彫りの狼に挨拶が出来るとヤクトは尻尾を振る。
 そのパタパタと揺れる尻尾を掴もうとリヒトが手を伸ばしていた。
 ディランはリヒトを抱えると自宅へ戻り、トワイトへ声をかける。

「婆さんや、でかいカゴを作ってくれんか?」
「はいはい。いいですけど、どうしたんですか?」
「わん!」
「ぴよー!」

 遊戯室でルミナスとソオンのボール遊びに付き合っていたトワイトがボールを放ってディランの方を向く。
 ルミナスとソオンは我先にとボールへダッシュをかけていた。残ったトコトとレイタは寝そべっているダルの髭を引っ張って遊んでいた。

「野菜が多くなってしまったから村におすそ分けに行こうかと思ってのう」
「まあ、それはいいですね。さっそく作りましょう」
「あーい♪」

 トワイトが手を合わせ、笑顔で承諾する。その笑顔につられてリヒトも片手を上げながら声を出していた。
 そのままトワイトが籠を作るため藁とロープを取りに裏の倉庫と宿泊施設の近くへと向かった。

「わんわん♪ ……わふ?」
「ぴよ?」
「む? トワイトはちょっと外しておるぞ」

 そこへボールを転がして戻って来たルミナスとソオンがトワイトの姿が無いことに気付く。そこでしゃがんだディランが声をかける。

「わん……」
「ぴよー……」

 褒めてもらえると思っていた一頭と一羽はがっくりとしていた。

「あーい♪」
「わん? わん♪」
「ぴーよ♪」

 しかしそこでリヒトが手を伸ばしてルミナスとソオンを撫でる。気を良くしたのか機嫌のいい声を上げていた。

「よくわからんが撫でればいいのかのう」
「わほぉん……」
「「ぴよーん」」

 とりあえずトワイトに代わりディランとリヒトが遊び相手となり、ジェニファーを交えて遊戯室が賑やかになった。

 そして数十分後――

「できましたよ」
「お、早いのう。流石じゃて」
「ひとつでいいかしら?」

 ――トワイトはペット達が全部入っても余るくらいの籠を作って来た。

「うぉふ?」
「こけー」
「ぴよー」
「あーい?」

 ディランとトワイトが話す後ろで、早速、大きな籠に興味津々といった感じでリヒトとペット達が寄ってくる。
 そしてヤクトが前足で籠を倒すと、ぽっかりとした穴が目の前に現れ、一同は目を輝かせる。

「うぉふ♪」
「あーい♪」
「こけー♪」
「わんー♪」
「「「ぴよー」」」
「わほぉん」

 そして大きな籠へリヒトとペット達が入り込み、すっぽりとおさまっていた。
 いつの間にかダルもやって来ていて、一緒に潜り込んだ。

「それじゃ持って行けない分は私が抱えて行きますね」
「うむ。頼む。……ん? リヒト達はどうした?」
「あら? ……もしかして」

 トワイトが籠に注目した瞬間、ごろっと籠が転がった。二転、三転すると中に居たリヒトが楽しそうに声を上げた。

「あーい♪」
「あ、やっぱり。ダメよみんな。これは今からお野菜を運ぶのに使うの」
「うー?」
「うぉふ」

 トワイトがリヒトを引っ張り出すと、他のペット達もぞろぞろと出てくる。
 残念そうな声をヤクトが上げると、トワイトが少し考えてから頭を撫でた。

「帰ったら中に入れる籠を作ってあげましょうか♪ 底が無い方が面白いかもしれないわね」
「……! うぉふ♪」
「あいー♪」

 ひとまず新しいおもちゃが作れそうだとトワイトも乗り気だった。
 ペット達が喜んだところで一家は戸締りをして野菜を籠に詰めると村までお散歩となった。

「お、来た来た」
「「「わおーん」」」

 いつもの門番が笑顔で手を振ると、アッシュウルフ達は木彫りの前で遠吠えをしていた。

「今日は野菜を持ってきたわい。交換品も欲しいが、基本的には貰ってくれると助かる」
「お、いいねえ。ディランさんとこの野菜は美味いからな。そういや、ドラゴンだって知られたそうじゃないか」
「あらもうご存じなんですか?」
「ああ、今日お触れが回って来たんだ。まあ、驚きはするだろうけど、基本的に山から出ないしすぐ落ち着くと思うけどな? ま、入ってくれ」

 すっかり慣れたよと門番が口にし、門を開けてくれた。
 よくみるとその門は少しいいものになっていて、近くには詰め所のようなものが出来ている。

「なんだか強固になったのう。鉄か?」
「ん? そうそう、前に陛下がディランさんが近くにいるこの村を大きくしたいと言っていたんだけどそれが着々と進んでいるって感じだ」
「なるほど、そういえば言っておった気がするわい」

 ディランが門を抜けながら納得する。
 門番が後でなと言いながらアッシュウルフ達も入れて門を閉じた。

「あー! わんわんとにわとりー!」
「わほぉん……」
「こけー!」
「あーい♪」
「リヒト君もいるー!」

 そこでいつもの子供たちがやってきた。あっという間に囲まれてディラン達が身動きが取れなくなる。

「ふふ、お久しぶりトワイトさん、ディランさん」
「あ、ガレアさんお久しぶりです」
「今日はどうしたんだい? 最近、姿を見なかったけど」

 そこへジェニファーとひよこ達を売ってくれたガレアおばさんがやってきた。
 姿を見なかった件について、ドラゴンとして王都に行っていたことを告げると、目を丸くした後に笑っていた。

「あははは! ま、ドラゴンってのがバレたらそうなるよねえ。あたし達はもう知っているけど、最初は驚いたしさ」
「まあ、取って食ったりせんから安心してくれ。それで、今日は獲れすぎた野菜を交換してもらいに来たのじゃ」
「あら、いいねえ。みんなを呼んでくるよ。というか、ドラゴンになれるなら王都や他の村とか町に売りに行ってもいいんじゃないのかい?」
「む? いや、あまり姿をさらすわけにはいかんからな。もしそうするならザミールに頼むわい。とりあえず今日のところは交換で頼む」
「そうかい? まあ、うちらは助かるけどね」

 ガレアは笑いながら皆を呼んでくるとその場を後にした。その間、アッシュウルフ達は子供たちに撫でまわされていた。

 そこで背後からディラン達を呼ぶ声が聞こえて来た。

「おや、ディランさん達ではありませんか……!」
「ん? おや、ザミールか?」

 それはいつもの荷馬車を引いていたザミールだった。

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