老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第157話 竜、話し合いに臨む

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「陛下、ドラゴン一家との話は終わりました。ロクロー殿とゆっくり話した感じ、ディラン殿の友人という感じでしたな。気性は少し荒らそうですが、恐らくギリアム様と性格は合うかと」
「そうか、それはなによりだ。テストケースではあるが、ディラン殿はともかく、ロクロー殿が『別の国』で暮らすことで今後、ドラゴンの移住がどの国でもできるかもしれない、という施策だからな」

 バーリオの報告にモルゲンロートは神妙な顔で頷き、今回の施策の意図を口にする。
 彼は会議中で『今後もドラゴンが里から出てくることが起こり得る可能性が高い。いきなり現れて戦いになるより、事例を通達しておいたほうが諍いは無くなるのでは?』という結論に至っていた。
 別に山であればどこで誰が住もうが構わないというのが暗黙であるが、やはりドラゴンは別物なのだ。
 
「さて、なら次の議題は木材の件だな。ザミールに連絡はできたか?」
「まだ商会には帰ってきていないようです。ガルフ達も見に行ったようですが、店舗の者がそう言っていたと」
「東の国へ行ったのではないだろうな……? むう、それならまずはロクロー殿の件を終わらせるか」
「そうですな。ギリアム様のところへ行く形になりますな」

 ザミールはどこかへ遠征しているらしく、帰ってきていないとのこと。
 相変わらず忙しい奴だとモルゲンロートが苦笑しながら、問題は一つずつ解決するかと言う。
 そこでバーリオがドラゴン一家をいつ連れて行くかという話に変えた。

「そうだな。歓迎する準備をすると言っていたが、そろそろいい頃合いかな」
「では、明日にでも出発しますか? 馬車は何台――」
「いや、ギリアムの希望で飛んで行って欲しいらしい。ドラゴンの存在をアピールしたいと書状に書いていた」
「なんと……相変わらず豪快な……」

 ギリアムが依頼したオーダーはディラン達の誰かに空から訪問してきて欲しいとのことだった。
 バーリオは驚くが、同時に今後を考えるとそれもアリなのかと思いなおす。

「木材の件はまたということで、皆さんにそう伝えましょう。隣国なので問題ないでしょう」
「旅人や別の地域から来た冒険者がどう思うかが心配ではあるがな。すまないがまたディラン殿のところへ行ってくれ。ロイヤード国へ行ったヒューシとユリも声をかけておいてくれ」
「かしこまりました」

 そう言ってバーリオに指示を出すと、彼は胸に手を当ててから頭を下げ、退室する。

「……さて、いい結果になることを祈るとしよう」

◆ ◇ ◆

 ――翌日

「わ、可愛い! トワイトさん、これ私にも作ってほしいかも! あ、ダル達のとか作れないですか? ていうか売れるクオリティですよ!」
「あー♪」
「こっちはハバラさんの娘さんに似せたぬいぐるみか。リヒト君も大事にしているな」
「あらあら、ぬいぐるみは人気ねえ」

 バーリオはヒューシとユリを連れて再びディランのところへやって来た。
 挨拶をした後、リヒトが持っていたでんでん太鼓とリコットのぬいぐるみを見てユリが大興奮だった。
 実はリヒトぬいぐるみと同時にリコットぬいぐるみも作っており、お互いのセットとして持っている。
 そしてユリはペット達のぬいぐるみは売れると言い出した。

「うぉふ!」
「ほら、ヤクトもやる気みたいですよ」
「えー、作ってほしいの?」
「ぴよー!」
「あらあら」

 ユリが他のぬいぐるみも欲しいと口にした瞬間、目を光らせてヤクトが凛と立ってアピールをし、レイタがその頭の上に載ってやはりアピールしていた。
 トワイトが頬に手を当てて微笑む中、バーリオはディランに話をする。

「というわけでロクロー殿との会談へはドラゴンの姿で城まで行ってもらえますか?」
「それは構わんが、ええのか?」
「わしは高く飛べんからディランかトワイトちゃんに運んでもらおうかのう」
「あ、そうなのですね」
「ドラゴンも様々じゃ。飛ぶのが得意なトワイトみたいな個体もいるからのう。それはともかく、行くとするか。ヒューシとユリは前も行ったからじゃな」

 ディランとロクローの説明にバーリオが納得し、ロイヤード国へはお祭りの時のメンバーであることを確認するディラン。
 早速出発するかと、各々リビングから移動して荷物をまとめだす。

「ダル達は特徴のある顔だから簡単よ」
「わほぉん?」
「へー、凄いなあ」
「あら、リヒト、ぬいぐるみは置いていくの?」
「あい」
「わしの風呂敷はどこに置いたかのう」
「宿の方じゃろ」

 リヒトはでんでん太鼓を持ったがリコットぬいぐるみは置いていくようだ。
 汚れるのが嫌なのかもしれない。
 一家とロクローはそんな調子で準備を進め、表へ出る。

「さて、それじゃ変化するかのう」
「たまには私でもいいですよ?」
「まあ、こういうのはワシがやるべきじゃろ。それ」
「わあ、やっぱりすごいねディランさん」
「わんわん♪」

 表へ出てディランがあっという間に変身すると、ユリが見上げながら感嘆の声をあげていた。

「我々が載っても全然余裕がありますな……」
「近くで見るとデカすぎるな。あの二人組はなんで勝てると思ったのか」
「不思議だよなあ」

 バーリオ以下、クリニヒト王国の騎士達も同行するのだが、ディランの背中の大きさに興奮気味であった。
 ウェリスとバルドがますますアホだったのかと口にする中、ディランはロイヤード国へ向けて出発。
 本来なら五日はかかる道中を、数分で到着した時にはさすがに騎士達も呆れていた。

「お、見えて来たぞい。なにやら賑やかな感じじゃ。どこに降りればいいかのう?」
「あなた、あそこ。町の外にバツ印がありますよ」
「おお、本当じゃ。『歓迎』と書いておるのう」
「ベタだけど分かりやすいですね」

 ディランはゆっくりとその場所へ降下していくと、段々手を振っている人達が見えて来た。
 そこには騎士達が待機しており、見物人も居るようだった。

「ようこそドラゴン殿! お話しは聞いております」
「前にも来たことがあるぞい」
「は? ……ああ!?」
「こんにちは♪」

 変身を解くと、お祭りの時に来ていた一家だと気づく騎士達。
 そこでバーリオが礼をしてから口を開く。

「本日、ドラゴンのロクロー殿を連れてまいりました。ギリアム様への謁見、よろしいでしょうか?」
「もちろんです。というか、もう来てますね」
「え?」
「うぉふ!」
「はっはっは、久しぶりだな!」
「ヤクトー!」
「皆さんお久しぶりですね!」

 声のする方を見ると、王族が馬車に乗ってこちらに来ていた。バーリオは目を丸くして『外に来なくても……』と漏らすのだった。

「わざわざすまぬのう。こっちがワシの友人でアースドラゴンのロクローじゃ」
「初めましてじゃな。よろしく頼む」
「ああ。それじゃちと話をしますかねえ」
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