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第170話 竜、交渉がまとまり――
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「こいつはいいな。一本で金貨五枚と銀貨五枚ってところだな」
「ふむ、通常の木が金貨一枚程度と考えればかなり高額だが大丈夫か?」
「その分、家とか家具の価値を上げれば問題はねえ。買うやつがいるかどうかにはなるが」
しばらくゼクウが一本一本確認していき、途中で結論を口にした。概ねザミールが言っていた金額と同じだが、少し高めを見積もっていた。
しかし高いため買い手がつかない可能性があることも口にする。
実際、高い椅子などは貴族以外に買うものはいないのでもし売るとしてもお金持ちになるだろうとのこと。
「売れないとエメリ達の益にならないですね」
「ネクターリンの木自体不可抗力で出来たものだからそれほど高くなくても構わないが……」
「いや、ここで安売りをしちまうと後から価格を上げるのは難しい。高いのを安くは簡単だが、安いものが高くなるのは抵抗ができるからな」
「ふむ」
エメリは適当に処理してくれればいいと言うがゼクウは煙草の煙を吐きながら首を振っていた。売るならしっかり売るべきだろうと。
「しかしその金額では確かに完成品は相当な金額になりそうですね。騎士の給料でも三か月くらい貯めて買えるかどうかという感じですよ」
「ルーブ団長でそれなら私は一体いつになるのか……」
「なら貴族向けにだな――」
そんな調子で議論が始まった。
やはり価格がネックとなり、いくらタダとはいえ貴重な木。示しを見せるためにも適正価格で売りたいと強く語った。
「大変そうじゃのう」
「あーい」
「なにができるか楽しみですね♪ 小屋を強固にするのに使えたりとか?」
「うぉふ」
【なんでモいいガ、美味いモのが食べたイな】
ディラン達にはあまり関係がないので椅子に座ってその様子を見ていた。ケーキを口にしながらディランが大変そうだと言う。
「でも私の作った絨毯も高くて売れていないようですしあまり高いと見向きもされないかもしれませんね」
「じゃのう」
「あー」
「まだリヒトは食べてはいかんぞ」
「うー」
「こけー♪」
「ぴよー」
トワイトが自身の絨毯について言及し、そういえば三枚売れた後は買い手がないなとディランは思う。
リヒトがイチゴに手を伸ばしてきたのでそれをやんわりたしなめていた。リヒトが口を尖らせる中、テーブルの上ではお土産の豆をジェニファーがついばんでいた。
「そうじゃなあ。なあ、数は多いわけじゃしお試しでいくつか作って少し値を下げたものを出してみてはどうじゃ?」
「安価タイプの道具か? まあ、数量限定にすればなんとかなるかもしれんが、そのあと続くかはわからんぞ」
ディランが最後のイチゴを口に入れながら離れたところにいるゼクウ達へ声をかけてみた。
すると悪くない提案だがその後は続くかわからないと返された。
「それでも目に留まらないよりは良かろう。なに、売れなければワシがウィズエルフの家に変えてやるわい」
「ま、このままだと文字通り腐らせるか。まずはウチに置いて販売してやるよ」
「なら仲介手数料はこれくらいで? エメリさんも話に加わってください」
「え? あ、ああ」
ひとまず仮ではあるがゼクウのお店で木材を扱うことに決まった。それを各職人が見て購入し道具を作る形になるだろうとのこと。
木材を売った場合、手数料をゼクウが少しもらうようにも決まった。プラス、各職人へ木材をいくつか無料で配布して使用感を確かめてもらうことも検討すると書面にて交わしていく。
「あわわ……」
「エメリ、しっかり!?」
「こういうのには慣れていないでしょうしねえ」
ウィズエルフは売買、商売の概念がないため目をぐるぐるさせて話を聞いていた。
フレイヤが肩を揺するとザミールが困った顔で笑っていた。
「あー♪」
「ぴよー」
「目が回るわよリヒト?」
ケーキを食べ終えて近くまで来ていたドラゴン一家。リヒトがぐるぐる目になったエメリの真似をして喜んでいた。
「さて、これでたたき台としては十分か」
「そうですね。エメリさんは何日か滞在してくれたりしますか?」
「え? さ、さすがにそれは……毎日やってくるのではダメだろうか?」
【我は構わなイぞ。というカお土産は……?】
いろいろと決定し、ザミールがエメリに王都で滞在できないか尋ねていた。
しかし、いきなり人間の町で滞在は敷居が高いと目を泳がせる。
デランザと一緒に毎日来るというと、彼は構わないと言う。お土産はないと伝えたらガックリと項垂れていた。
「では明日から実際に販売などを見ていただき、料金の精算も立ち会っていただく形に」
「おかしい……運んでお金をもらうだけでは……」
「いやいや、商売はそう簡単にはいかないよエメリ。いい機会だし、人間の暮らしも見ていったら? 役に立つこともあるかもしれないよ。私が一緒にいることになりそうだから」
「フレイヤ……!」
町にいる間はフレイヤがお世話をすることになり、エメリがフレイヤへ抱き着いていた。
「これで商談は終わりだ。ディラン殿、ザミール。これでいいだろうか?」
「ワシは勿体ないと思っていたくらいじゃからなんでもええわい」
「私も仲介しただけですから。でもこういう機会を与えていただき楽しかったですよ。ねえリヒト君」
「あい♪」
ザミールがリヒトのでんでん太鼓を指で鳴らしながら答えていた。
それからがっかりしているデランザのために宴会が開かれることになった。
【おオ、この肉ハ美味いナ! キャベツもくレ】
「はい、トマトもありますよ♪」
【助かル、フレイヤ】
「よく食うな、そういうやつは好きだぜ! これからも頼むぜデランザ」
「発着場は早めに作るよ」
【ああ。ゼクウ、ルーブよろシくな】
デランザは上機嫌で人間の名前を憶えるなど交流が深まり、ディラン達もその日はご相伴にあずかり帰宅した。
「わほぉん♪」
「わんわん♪」
「うぉふ♪」
「あなたたちもいいものを食べられて良かったわね」
「あー♪」
「リヒトは一年もすれば食べられるようになるじゃろう。もう少しじゃな」
「あう。……あふ……」
人がいっぱいいて興奮状態だったリヒトも静かな山道に入ったところでおねむになった。トワイトが背中を軽くたたいてげっぷを出させると、そのまま寝息を立て始める。ぬいぐるみはディランが預かり、ひよこ達はポケットの中ですでに眠っていた。
「これでいろいろ片付いたのう。またゆっくり畑仕事ができるわい」
「ザミールさんにはお世話になったわねえ。結局、あの方が利益を得ることがなかったのは残念でしたけど」
「そこは分かっておったみたいじゃし、またなにか飯でも奢るか木彫りの人形でも作ってやればええじゃろ」
「そうしましょうか。リヒトにもお土産を買ってきてくれているし、お礼をしないといけませんね」
そんな話をしながら家路へとつく夫婦であった――
◆ ◇ ◆
――ロクニクス王都:昼
「ドラゴンの奥さんが連れていた赤ちゃん可愛かったよねー」
「うんうん、よく笑うからこっちも笑顔になるよね」
「……」
先日、トワイト達がオープンテラスでお茶をしていたのが好評だったらしく、カフェでオープンテラスをする人が増えた。
そこではそれこそトワイトやリヒトの話が出ていた。通りでリヒトを見かけた人が手を振ると笑顔で返していたからだ。
ひよこ達やアッシュウルフ達も可愛いので注目を浴びていた。
「でも、あの子って捨て子だったらしいわよ」
「ふうん。今の時代に捨て子って珍しいね。そこまで生活に困る感じじゃないし」
不意にそんな話が出た瞬間、通り過ぎようとした男が足を止めた。
「……!」
「他国だったらわからないわよ? ドルコント国って貴族が幅をきかせているって聞くし、平民だったらさ」
「まあねえ。でもお父さんドラゴンも赤ちゃんと一緒で金髪だし、本当かなあ」
「あ、見たの?」
「顔合わせ? ってやつやってたじゃん――」
「……」
男はそこまで聞いてからその場を離れていく。
「金髪の捨て子……ドルコント国の王子が赤ん坊と妻になるはずだった女性を探しているとか噂があったな。金になるか……?」
そんなことを呟きながら。
「ふむ、通常の木が金貨一枚程度と考えればかなり高額だが大丈夫か?」
「その分、家とか家具の価値を上げれば問題はねえ。買うやつがいるかどうかにはなるが」
しばらくゼクウが一本一本確認していき、途中で結論を口にした。概ねザミールが言っていた金額と同じだが、少し高めを見積もっていた。
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「ふむ」
エメリは適当に処理してくれればいいと言うがゼクウは煙草の煙を吐きながら首を振っていた。売るならしっかり売るべきだろうと。
「しかしその金額では確かに完成品は相当な金額になりそうですね。騎士の給料でも三か月くらい貯めて買えるかどうかという感じですよ」
「ルーブ団長でそれなら私は一体いつになるのか……」
「なら貴族向けにだな――」
そんな調子で議論が始まった。
やはり価格がネックとなり、いくらタダとはいえ貴重な木。示しを見せるためにも適正価格で売りたいと強く語った。
「大変そうじゃのう」
「あーい」
「なにができるか楽しみですね♪ 小屋を強固にするのに使えたりとか?」
「うぉふ」
【なんでモいいガ、美味いモのが食べたイな】
ディラン達にはあまり関係がないので椅子に座ってその様子を見ていた。ケーキを口にしながらディランが大変そうだと言う。
「でも私の作った絨毯も高くて売れていないようですしあまり高いと見向きもされないかもしれませんね」
「じゃのう」
「あー」
「まだリヒトは食べてはいかんぞ」
「うー」
「こけー♪」
「ぴよー」
トワイトが自身の絨毯について言及し、そういえば三枚売れた後は買い手がないなとディランは思う。
リヒトがイチゴに手を伸ばしてきたのでそれをやんわりたしなめていた。リヒトが口を尖らせる中、テーブルの上ではお土産の豆をジェニファーがついばんでいた。
「そうじゃなあ。なあ、数は多いわけじゃしお試しでいくつか作って少し値を下げたものを出してみてはどうじゃ?」
「安価タイプの道具か? まあ、数量限定にすればなんとかなるかもしれんが、そのあと続くかはわからんぞ」
ディランが最後のイチゴを口に入れながら離れたところにいるゼクウ達へ声をかけてみた。
すると悪くない提案だがその後は続くかわからないと返された。
「それでも目に留まらないよりは良かろう。なに、売れなければワシがウィズエルフの家に変えてやるわい」
「ま、このままだと文字通り腐らせるか。まずはウチに置いて販売してやるよ」
「なら仲介手数料はこれくらいで? エメリさんも話に加わってください」
「え? あ、ああ」
ひとまず仮ではあるがゼクウのお店で木材を扱うことに決まった。それを各職人が見て購入し道具を作る形になるだろうとのこと。
木材を売った場合、手数料をゼクウが少しもらうようにも決まった。プラス、各職人へ木材をいくつか無料で配布して使用感を確かめてもらうことも検討すると書面にて交わしていく。
「あわわ……」
「エメリ、しっかり!?」
「こういうのには慣れていないでしょうしねえ」
ウィズエルフは売買、商売の概念がないため目をぐるぐるさせて話を聞いていた。
フレイヤが肩を揺するとザミールが困った顔で笑っていた。
「あー♪」
「ぴよー」
「目が回るわよリヒト?」
ケーキを食べ終えて近くまで来ていたドラゴン一家。リヒトがぐるぐる目になったエメリの真似をして喜んでいた。
「さて、これでたたき台としては十分か」
「そうですね。エメリさんは何日か滞在してくれたりしますか?」
「え? さ、さすがにそれは……毎日やってくるのではダメだろうか?」
【我は構わなイぞ。というカお土産は……?】
いろいろと決定し、ザミールがエメリに王都で滞在できないか尋ねていた。
しかし、いきなり人間の町で滞在は敷居が高いと目を泳がせる。
デランザと一緒に毎日来るというと、彼は構わないと言う。お土産はないと伝えたらガックリと項垂れていた。
「では明日から実際に販売などを見ていただき、料金の精算も立ち会っていただく形に」
「おかしい……運んでお金をもらうだけでは……」
「いやいや、商売はそう簡単にはいかないよエメリ。いい機会だし、人間の暮らしも見ていったら? 役に立つこともあるかもしれないよ。私が一緒にいることになりそうだから」
「フレイヤ……!」
町にいる間はフレイヤがお世話をすることになり、エメリがフレイヤへ抱き着いていた。
「これで商談は終わりだ。ディラン殿、ザミール。これでいいだろうか?」
「ワシは勿体ないと思っていたくらいじゃからなんでもええわい」
「私も仲介しただけですから。でもこういう機会を与えていただき楽しかったですよ。ねえリヒト君」
「あい♪」
ザミールがリヒトのでんでん太鼓を指で鳴らしながら答えていた。
それからがっかりしているデランザのために宴会が開かれることになった。
【おオ、この肉ハ美味いナ! キャベツもくレ】
「はい、トマトもありますよ♪」
【助かル、フレイヤ】
「よく食うな、そういうやつは好きだぜ! これからも頼むぜデランザ」
「発着場は早めに作るよ」
【ああ。ゼクウ、ルーブよろシくな】
デランザは上機嫌で人間の名前を憶えるなど交流が深まり、ディラン達もその日はご相伴にあずかり帰宅した。
「わほぉん♪」
「わんわん♪」
「うぉふ♪」
「あなたたちもいいものを食べられて良かったわね」
「あー♪」
「リヒトは一年もすれば食べられるようになるじゃろう。もう少しじゃな」
「あう。……あふ……」
人がいっぱいいて興奮状態だったリヒトも静かな山道に入ったところでおねむになった。トワイトが背中を軽くたたいてげっぷを出させると、そのまま寝息を立て始める。ぬいぐるみはディランが預かり、ひよこ達はポケットの中ですでに眠っていた。
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「ザミールさんにはお世話になったわねえ。結局、あの方が利益を得ることがなかったのは残念でしたけど」
「そこは分かっておったみたいじゃし、またなにか飯でも奢るか木彫りの人形でも作ってやればええじゃろ」
「そうしましょうか。リヒトにもお土産を買ってきてくれているし、お礼をしないといけませんね」
そんな話をしながら家路へとつく夫婦であった――
◆ ◇ ◆
――ロクニクス王都:昼
「ドラゴンの奥さんが連れていた赤ちゃん可愛かったよねー」
「うんうん、よく笑うからこっちも笑顔になるよね」
「……」
先日、トワイト達がオープンテラスでお茶をしていたのが好評だったらしく、カフェでオープンテラスをする人が増えた。
そこではそれこそトワイトやリヒトの話が出ていた。通りでリヒトを見かけた人が手を振ると笑顔で返していたからだ。
ひよこ達やアッシュウルフ達も可愛いので注目を浴びていた。
「でも、あの子って捨て子だったらしいわよ」
「ふうん。今の時代に捨て子って珍しいね。そこまで生活に困る感じじゃないし」
不意にそんな話が出た瞬間、通り過ぎようとした男が足を止めた。
「……!」
「他国だったらわからないわよ? ドルコント国って貴族が幅をきかせているって聞くし、平民だったらさ」
「まあねえ。でもお父さんドラゴンも赤ちゃんと一緒で金髪だし、本当かなあ」
「あ、見たの?」
「顔合わせ? ってやつやってたじゃん――」
「……」
男はそこまで聞いてからその場を離れていく。
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そんなことを呟きながら。
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