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第172話 人間、交渉の内容に違和感を覚える
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「わほぉん……」
「ぴよーん」
「あーい♪」
大あくびをするダルの髭をひよこ達がびよんと揺らして遊び、リヒトがそれに合わせて太鼓を鳴らしてリズムを取っていた。
ここ二日ほど外が雨なので出ることができず、室内遊びになってしまっている。
お散歩もできないのでアッシュウルフ達は遊戯室で寝そべり、リヒトが遊ぶのに興味を持った時だけ動く感じである。
「せっかくスコップを作ったのに残念じゃわい」
「とりあえず耕したところで遊ばせるつもりだったのにねえ」
ダルをおもちゃにしているリヒトを見ながらがっかりするディランの背を、トワイトが苦笑ながら撫でていた。
大きな家を作ろうと張り切っていたのだが、この雨で耕した部分はぐしゃぐしゃになってしまったのだ。
畑や水田は水はけがいいのと、囲い部分はしっかり固めてあるので影響は無い。
「晴れても数日は泥んこだから遊ばせられないものね」
「じゃのう。明日は雨が降っても止んでもエメリとデランザの様子でも見に行くか」
「あ、いいですね。デランザ君が降りる場所がどこまで出来ているかも見たいわ」
「手伝ってもいいかもしれんのう」
「みんな、明日はお出かけよ♪」
明日のことを話し合い、トワイトがリヒトやペット達に声をかけた。
いつの間にか髭遊びは止めて、リヒトはダルやルミナス、ヤクトの頭に積み木を乗せていた。
「うぉふ!」
「わん♪」
「あー!」
お出かけと聞いてヤクトとルミナスが頭を上げると積み木が崩れ、リヒトが『なんで動くの』といった感じで大きな声を上げた。
「う、うぉふ……」
「あう」
ヤクトがハッとしてまた頭を下げる。リヒトはまた積み木を手にして乗せようとしていた。
「あらあら、それはヤクトが大変ねえ。リヒト、こっちでお母さんと遊びましょう♪」
「あい♪」
トワイトが呼ぶと積み木を一つだけ掴んでハイハイをして持っていく。そしてまた別の積み木を取りに戻っていった。
「ぴ、ぴよー……!」
「ぴー!」
「ぴよぴー!」
「お、やるのう」
「「「ぴよー♪」」」
そんな彼を手伝うため、ひよこ達が積み木を体で押す。体が軽いので三羽で一つがやっとだが、褒められて満足そうである。
ヤクトとルミナスも積み木を咥えてトワイトのところへ持っていく。ダルだけは相変わらず頭に積み木を乗せたまま寝ていて、弟と妹に肉球でグリグリされた。
「明日が楽しみじゃな」
「あーい♪」
お気に入りのおもちゃとぬいぐるみも手元に置いてご機嫌なリヒトを見てほほ笑むディランだった。
そして翌日――
◆ ◇ ◆
「なに? ドラゴンが拾った子がオルドライデ王子の息子?」
「その可能性がある、という話です。一度、陛下にお目通りをお願いできないかと」
――モルゲンロートの前にドルコント国からの使者が訪れていた。
謁見内容はもちろん夫婦の拾った赤ちゃんに関してだった。言葉を紡いだ後、訝しんでいたモルゲンロートとローザへ書状を差し出す。
それを読んだモルゲンロートはため息を吐いた後に口を開く。
「確かにウォルモーダ王から直々に申し出のようだ。その赤ん坊にも覚えがある」
「それはお話が早くて助かります。では取り計らいを――」
「その前に」
「?」
間違いない書状ということで確認の言葉をモルゲンロートが言う。そこでドルコント国の使者がほほ笑みながらその子に会わせてもらうよう取り計らいをと口にする。
しかし、そこで隣に座っていたローザが、珍しく眉間にしわを寄せてから使者へ告げた。
「どうして王子は子を捨てるような真似をしたのでしょう? それにどうして王子からではなく、ウォルモーダ様からの書状なのでしょう? それについても不可解ですが、本人がこの場に来ていないのに今さら会いたいというのも虫が良すぎる気がします」
「そ、それは……」
普段はおっとりとした人柄だが、王妃だけあってこういった話には敏感だ。
ヴァールは先日の件で失態を犯したが、実は公になっていない場所でローザにこっぴどく叱られていたりする。
そのような剣幕を目の当たりにし、ドルコント国の使者は冷や汗を流す。実際、彼女の言っていることは正しいからだ。
もし、オルドライデの耳に入っていれば本人が駆けつけてくるのは間違いない。
少し考えた後、使者は答えた。
「陛下としてみれば孫なので庇護をしたいということでしょう。わたくしは経緯を存じ上げませんが、母親である者が赤ん坊を連れて行方をくらましたのを探していたようです」
言葉が速くなり焦ったものの内容としては悪くないはずだ。実際に真実は知らないため、事実だけを口にした形ではあるが。
探し出してどうするのか? そんなことを知る由もない。
使者の言葉に引っかかるものを感じたが、モルゲンロート夫妻は顔を見合わせて頷いていた。
「話は分かった。その赤ん坊についてはこちらから育ての親へ打診する。しばらく待つように伝えてくれ」
「……どのくらいかかるでしょうか?」
「そうだな、五日ほど待ってくれ。赤ん坊だけをお前たちに渡すわけにもいかないのでな。我が息子であるヴァールが夫妻と赤ん坊を連れて国《そちら》へ向かうと伝えてくれ」
「……承知しました」
ドルコント国の使者は小さな声で承諾し、謁見の間を出ていく。
そんな彼へ外で待っていたお付きの騎士と兵士が駆け寄ってくる。
「終わりましたか」
「ああ……」
「顔色が悪いようですが……」
「ひとまず保留となった。後からヴァール王子とともに育ての親と一緒に連れてくるそうだ」
「……」
「ひとまず出ましょう」
通路を警備しているロクニクスの兵士がひそひそと話している使者たちに目を向ける。場が悪いと城外へ行き、馬車に乗り込んでから話し出す。
「……ヴァール王子が来ればオルドライデ様が出てくるのは明白。そうなれば秘密裏に赤ん坊を陛下へお渡しすることができなくなる」
「話は聞きましたが……本当にオルドライデ様の子供なのでしょうか?」
「知るか。ただ、オルドライデ様は今、貴族至上主義に異を唱えておられる。そうなれば陛下と王妃様は失脚するだろう。そうなれば我々の暮らしも少々危うくなる」
「ふむ……」
貴族の豪遊は騎士たちもご相伴にあずかることがあるため理解はしていた。
確かにそれは勿体ないことだと各々悩む。
「子供を預かればその活動を辞めるかもしれない。その足掛かりなのさ。仕方ない、モルゲンロート陛下よりも先に赤ん坊の居場所を聞いて連れて行くとしよう。普段着に変えて聞き込みをするぞ」
使者はそう言うと、一同が承知した。それを聞いて頷いた後、背もたれに寄りかかり息を吐く。
「……さて、どうやって連れていくか。いざ戦闘になったらドラゴンの相手なぞできたものではないが――」
「ぴよーん」
「あーい♪」
大あくびをするダルの髭をひよこ達がびよんと揺らして遊び、リヒトがそれに合わせて太鼓を鳴らしてリズムを取っていた。
ここ二日ほど外が雨なので出ることができず、室内遊びになってしまっている。
お散歩もできないのでアッシュウルフ達は遊戯室で寝そべり、リヒトが遊ぶのに興味を持った時だけ動く感じである。
「せっかくスコップを作ったのに残念じゃわい」
「とりあえず耕したところで遊ばせるつもりだったのにねえ」
ダルをおもちゃにしているリヒトを見ながらがっかりするディランの背を、トワイトが苦笑ながら撫でていた。
大きな家を作ろうと張り切っていたのだが、この雨で耕した部分はぐしゃぐしゃになってしまったのだ。
畑や水田は水はけがいいのと、囲い部分はしっかり固めてあるので影響は無い。
「晴れても数日は泥んこだから遊ばせられないものね」
「じゃのう。明日は雨が降っても止んでもエメリとデランザの様子でも見に行くか」
「あ、いいですね。デランザ君が降りる場所がどこまで出来ているかも見たいわ」
「手伝ってもいいかもしれんのう」
「みんな、明日はお出かけよ♪」
明日のことを話し合い、トワイトがリヒトやペット達に声をかけた。
いつの間にか髭遊びは止めて、リヒトはダルやルミナス、ヤクトの頭に積み木を乗せていた。
「うぉふ!」
「わん♪」
「あー!」
お出かけと聞いてヤクトとルミナスが頭を上げると積み木が崩れ、リヒトが『なんで動くの』といった感じで大きな声を上げた。
「う、うぉふ……」
「あう」
ヤクトがハッとしてまた頭を下げる。リヒトはまた積み木を手にして乗せようとしていた。
「あらあら、それはヤクトが大変ねえ。リヒト、こっちでお母さんと遊びましょう♪」
「あい♪」
トワイトが呼ぶと積み木を一つだけ掴んでハイハイをして持っていく。そしてまた別の積み木を取りに戻っていった。
「ぴ、ぴよー……!」
「ぴー!」
「ぴよぴー!」
「お、やるのう」
「「「ぴよー♪」」」
そんな彼を手伝うため、ひよこ達が積み木を体で押す。体が軽いので三羽で一つがやっとだが、褒められて満足そうである。
ヤクトとルミナスも積み木を咥えてトワイトのところへ持っていく。ダルだけは相変わらず頭に積み木を乗せたまま寝ていて、弟と妹に肉球でグリグリされた。
「明日が楽しみじゃな」
「あーい♪」
お気に入りのおもちゃとぬいぐるみも手元に置いてご機嫌なリヒトを見てほほ笑むディランだった。
そして翌日――
◆ ◇ ◆
「なに? ドラゴンが拾った子がオルドライデ王子の息子?」
「その可能性がある、という話です。一度、陛下にお目通りをお願いできないかと」
――モルゲンロートの前にドルコント国からの使者が訪れていた。
謁見内容はもちろん夫婦の拾った赤ちゃんに関してだった。言葉を紡いだ後、訝しんでいたモルゲンロートとローザへ書状を差し出す。
それを読んだモルゲンロートはため息を吐いた後に口を開く。
「確かにウォルモーダ王から直々に申し出のようだ。その赤ん坊にも覚えがある」
「それはお話が早くて助かります。では取り計らいを――」
「その前に」
「?」
間違いない書状ということで確認の言葉をモルゲンロートが言う。そこでドルコント国の使者がほほ笑みながらその子に会わせてもらうよう取り計らいをと口にする。
しかし、そこで隣に座っていたローザが、珍しく眉間にしわを寄せてから使者へ告げた。
「どうして王子は子を捨てるような真似をしたのでしょう? それにどうして王子からではなく、ウォルモーダ様からの書状なのでしょう? それについても不可解ですが、本人がこの場に来ていないのに今さら会いたいというのも虫が良すぎる気がします」
「そ、それは……」
普段はおっとりとした人柄だが、王妃だけあってこういった話には敏感だ。
ヴァールは先日の件で失態を犯したが、実は公になっていない場所でローザにこっぴどく叱られていたりする。
そのような剣幕を目の当たりにし、ドルコント国の使者は冷や汗を流す。実際、彼女の言っていることは正しいからだ。
もし、オルドライデの耳に入っていれば本人が駆けつけてくるのは間違いない。
少し考えた後、使者は答えた。
「陛下としてみれば孫なので庇護をしたいということでしょう。わたくしは経緯を存じ上げませんが、母親である者が赤ん坊を連れて行方をくらましたのを探していたようです」
言葉が速くなり焦ったものの内容としては悪くないはずだ。実際に真実は知らないため、事実だけを口にした形ではあるが。
探し出してどうするのか? そんなことを知る由もない。
使者の言葉に引っかかるものを感じたが、モルゲンロート夫妻は顔を見合わせて頷いていた。
「話は分かった。その赤ん坊についてはこちらから育ての親へ打診する。しばらく待つように伝えてくれ」
「……どのくらいかかるでしょうか?」
「そうだな、五日ほど待ってくれ。赤ん坊だけをお前たちに渡すわけにもいかないのでな。我が息子であるヴァールが夫妻と赤ん坊を連れて国《そちら》へ向かうと伝えてくれ」
「……承知しました」
ドルコント国の使者は小さな声で承諾し、謁見の間を出ていく。
そんな彼へ外で待っていたお付きの騎士と兵士が駆け寄ってくる。
「終わりましたか」
「ああ……」
「顔色が悪いようですが……」
「ひとまず保留となった。後からヴァール王子とともに育ての親と一緒に連れてくるそうだ」
「……」
「ひとまず出ましょう」
通路を警備しているロクニクスの兵士がひそひそと話している使者たちに目を向ける。場が悪いと城外へ行き、馬車に乗り込んでから話し出す。
「……ヴァール王子が来ればオルドライデ様が出てくるのは明白。そうなれば秘密裏に赤ん坊を陛下へお渡しすることができなくなる」
「話は聞きましたが……本当にオルドライデ様の子供なのでしょうか?」
「知るか。ただ、オルドライデ様は今、貴族至上主義に異を唱えておられる。そうなれば陛下と王妃様は失脚するだろう。そうなれば我々の暮らしも少々危うくなる」
「ふむ……」
貴族の豪遊は騎士たちもご相伴にあずかることがあるため理解はしていた。
確かにそれは勿体ないことだと各々悩む。
「子供を預かればその活動を辞めるかもしれない。その足掛かりなのさ。仕方ない、モルゲンロート陛下よりも先に赤ん坊の居場所を聞いて連れて行くとしよう。普段着に変えて聞き込みをするぞ」
使者はそう言うと、一同が承知した。それを聞いて頷いた後、背もたれに寄りかかり息を吐く。
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