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第198話 竜、全てを看破する
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「何故ドラゴンがここに……ヴァール王子を連れて帰ったのではなかったですかな?」
振り返った官僚の男は頬に汗を一滴たらしながら愛想笑いを浮かべてそう口にする。
トーニャはその場を動かず、片目を瞑ってからその言葉に返す。
「ことが発覚してからパパとママがこっちも気にかけていたのよ。何十年もこの国を掌握していた人間が簡単に終わるとは思わない。城の中はもっと気を付ける必要がある……ってね」
「……」
ウォルモーダとオルドライデの確執で派閥ができていたが、黒幕の手下も紛れているはずだと。
「しかし私がそうであると気づくはずがない。一体どういう魔法を使ったのですかね?」
「リヒトが……あたしの弟がね、王子様を見て泣いていたのよ。最初は疲れて顔が怖いから、なんて言っていたけど、あんたが『奥さんと赤ちゃんは王様達に追放された、オルドライデ様はあまり眠れていない』と口にして怪しいと睨んだ」
「それがなにかおかしな――」
「あの時点で王様が二人を追放したかどうかなんて分からないはずよね? それに眠れていない理由、王子様になにか薬でも飲ませているんじゃない? リヒトは気配もそうだけど、薬の匂いも感じ取っていたのかも?」
「……どうですかね」
ディラン達が来てから官僚の男はオルドライデに近づくことが少なくなった。そのため少し緩和されていたようだ。
オルドライデには役割があるため、殺すわけにはいかない。しかし弱らせておく意味はある。
「……」
「まあ、ここにあんたが居るってのが答えだと思うけど。で、伯爵さんだっけ? もしバレれた場合現王様と王妃を始末するように告げてそうだなーってパパがあたしを置いていったの。あ、ちなみにヴァール王子もバーリオさんもコレルさんも居るわよ?」
「……帰るふりをして戻ってきていた、と」
「そういうこと。変装して町に居れば分からないし、本気であたしが足を使えば悟られずに城に入るくらいは簡単だからね? こんな風に」
「あ」
メイドが小さく声を上げた瞬間、トーニャはカーネリアの前に立っていた。官僚の男がまた振り返ると今度は明らかに動揺した様子が伺えた。
「まさか王様自ら出向くとは思わなかったけどというのはお互い様かしらね? 外に待機していたお仲間はもう居ないから安心していいわよ♪」
「……!?」
「というわけであんたが最後。殺しはしないけど、捕まって反省することね」
「ドラゴン……あなた達が来なければこんなことにはならなかったというのに……!」
トーニャは両手を広げて微笑むと、官僚の男は肩を竦めた後、剣を握って突っ込んできた。
「ま、ダルボって奴が王様に報告したのが運のツキってやつかしら? リヒトが赤ん坊に似ていなければこうはならなかったと思うけど」
「ぐ……」
トーニャは向かって来た官僚の男に対し、身をかがめてカタナを抜く。そしてすれ違いざまにカタナの背を首に叩きつけていた。
あまり加減しないと首の骨が折れてしまうのでそっとした形である。
「おしまいっと」
「ありがとうございます」
「お礼はパパとママにお願いします! あたしは従っただけですし」
「ふふ、ご両親が好きなのですね」
メイドに守られていたカーネリアがお礼を口にすると、トーニャは笑いながら振り返り、ディラン達へ言ってくれと頼む。
カーネリアが両親が好きなのかと尋ねて微笑むと、トーニャは目を丸くした後、答える。
「いやあ『大』好きですね♪」
「まあ」
「失礼します、カーネリア王妃」
その言葉に今度はカーネリアが目を丸くして笑っていた。すると、部屋にヴァールとバーリオが入ってくる。
「ヴァールさん」
「ひとまずこれで収束するといいのですが」
「そうですね……後は主人が、ウォルモーダが片付けるでしょう」
「前途は多難……しかし、家族で協力していけばきっとなんとかなるでしょう」
「そうですね――」
◆ ◇ ◆
「この度はユリウスとシエラの件でご迷惑をおかけしました。最終的に全ての決着にまで立ち会っていただき、ありがとうございます」
「なに、構わんわい。リヒトのことでここへ呼ばれておったからのう」
「あーい♪」
「だー♪」
「わほぉん……」
全てが終わってから数日が経過した。
ドルコント国の赤ん坊騒動は幕を閉じ、黒幕であるブライネルが死んだことはすぐに方々へ告げられ、歓喜する者や残念に思う者など様々だった。
ウォルモーダは旧王制に変えていくと宣言。反感もあったが、オルドライデの説得や民の声もあり、過酷な税収は徐々に取りやめていくことになるのだった。
もう少しだけ居て欲しいと、ディラン達一家は残っていた。
「ほら、ダルが困っているわよリヒト」
「あーう?」
「だう」
「ぴよ?」
「ふふ、ユリウスも元気いっぱいね」
「このままお城で暮らすみたいだし良かったわ」
「はい」
ダルのひげで遊んでいるひよことリヒト、ユリウスをトーニャが呆れた顔で窘める。
全てが終わり、シエラも正式にオルドライデの妻として迎えられることになっていた。父親と和解したオルドライデも今後は心配事もなくなったので顔色が良い。
「まさか彼が間者だったとは……かなり寄り添ってくれていたんだが……」
「欺くためには信用が必要じゃからな。トーニャの話だと割り切って生きていたような感じがあったそうじゃし、貴族至上主義というよりはブライネルのためにというところじゃ」
そういう人間は『自分が無い』ので役目を果たすのは難しくないとディランは言う。実際、ディラン達が来なければウォルモーダは動かず、シエラは人知れず誘拐されていた可能性が高い。
「紙一重、というやつですね」
「うむ。たまたまじゃが、結果的の良かったのう」
「へへ、リヒトがお手柄だったな」
「あう? あい!」
ガルフに名前を呼ばれてなんだかよく分からないがリヒトは手を上げて返事をしていた。その様子が可愛いとみんなが目を細めていた。
「結局ウォルモーダ様は続行なのですね」
そこでヴァールがオルドライデへ尋ねる。そう、ウォルモーダは退位をせずにそのまま国王としてやっていくことになった。
事情が事情なだけに複雑な話ではあるが、祖母の件を明るみにしたことによりウォルモーダへの同情が多く集まった形だ。
「私が王位を継ぐ前に整理をするつもりのようです」
「なるほど」
「ふん、息子に責任を負わせるようなみっともない真似ができるか」
「父上」
「だーう♪」
「ユリウスは元気そうだな」
「おかげさまでありがとうございます」
「父上、抱っこしていいと許可していないぞ!」
みなで話している場所へ、仏頂面のウォルモーダがやってきてユリウスを抱っこする。額にはブライネルの一撃で傷が出来ていた。
オルドライデはユリウスを抱っこするウォルモーダへ口を尖らせる。
「孫に構っているだけだ」
「追い出したくせに……」
「まあまあ」
その様子をシエラが見て二人を宥めていた。
相変わらずぶしつけな言い方をするウォルモーダだが、激昂したりするようなことは無くなった。
「初めてあった時とはだいぶ変わったのう」
「人間、時には本性を隠す必要があるということだドラゴンよ。そして何十年も続けていれば変わってしまう」
「そうかもしれんの」
「……だが、今回の件は礼を言う。おかげで両親に報いることができた。貴殿も相当な生き方をしているようだが、な」
「だー?」
ウォルモーダはディランにそう言うと、オルドライデにユリウスを渡して踵を返す。
「では、ワシらは帰るとするかのう」
「そうですね」
「あーい」
「だーう?」
「リヒト君はおうちに帰るの。バイバイって」
「また来させてもらえればリヒトを連れてくるわい」
「是非。ヴァールさんもありがとうございました」
もう、間者もいないだろうということでクリニヒト王国へ帰還することになり、ディランの背へと乗る。
『またねー!』
「だーう♪」
「あーい!」
リーナが空を飛んで手を振るとユリウスが見上げて笑っていた。まだリヒトと遊べなくなるという感じの意識は無さそうだ。
そして城が遠ざかっていき、雲の上へとやってくる。
「ふう、疲れましたねえ」
「ザミールさんはあまり関係ないし、よく来たよな」
「はは、確かに」
「あう!」
そこでガルフがヤクトを撫でながらため息を吐くザミールへ話をする。
彼は笑いながら頭を掻いて勢いで来たら巻き込まれたと口にしていた。
「リヒト君が見つけて解決したけど、どうなっていたか」
「確かに……その子は何者なのか……」
ヴァールとコレルもトワイトの膝に居るリヒトを見てそんなことを言う。
「普通の子ですよ? ちょっと成長が早いですけど♪ ねー?」
「あーい♪」
「そうだろうか……?」
「それよりコレル、ドルコント国はどうだった? 貴族主義だったけど」
「え?」
リヒトとトワイトが頬をくっつけて仲良くしているのを尻目に、ヴァールはコレルに尋ねる。きょとんとした顔をした後、少し難しい顔をしてコレルは言う。
「……難しい、そう感じた、感じました。責任を果たせば平民は使ってもいいと思う。しかし、貴族も辿ればそうではないかもしれない。そう、ディラン殿が口にしたとき、分からなくなった」
コレルはブライネルほどではないが貴族は貴族であれと言っていた。
しかし、今回の騒動を見る限り絶対ではないということに気づいたそうだ。
やるべきことをやる、というのが貴族と平民で違うだけで、人として生きるという前提は変わらないと。
「そうだねえ。私も考えを柔軟にしないといけないな」
「まあ、極端にはしらなければいいのじゃよ。コレル、お主が前にしたときのようにな」
「う、むう……」
「はっはっは、ディラン殿は強いですなあ」
「あーい♪」
「ぴよー♪」
「こけー♪」
コレルは過去のことを持ち出されて呻いていた。
バーリオが笑うとペット達もコレルの周りに集まって鳴く。
『でもやっぱりわたしはリヒト君がどこの子だったのか気になるかも。わたしの両親が出て行っちゃったのは仕方ないけど、本当のお父さん達がなんで捨てたのかはね』
「……リーナちゃん、きっと今が大事なんだよ。君がその姿になったように。商人であちこち回っていると、色々な話を聞くからね」
『まあ、そうだけど』
リーナがリヒトの鼻に指を当ててそんなことを言う。しかしザミールは気にしても仕方がないので今が大事だという。
「リヒトはみんなに好かれていいわね♪」
「あい!」
「お、そろそろ到着するぞい」
「はええな相変わらず……」
そんな調子でリヒトをドルコント国での事件は終わりを告げた。
暗躍者が居なくなり、今後はクリニヒト王国ともいい関係が築けそうだとヴァールは言う。
結果的にリヒトが何者かは判明しなかったがいつもの日常へと戻れるとディラン達は安堵するのだった。
振り返った官僚の男は頬に汗を一滴たらしながら愛想笑いを浮かべてそう口にする。
トーニャはその場を動かず、片目を瞑ってからその言葉に返す。
「ことが発覚してからパパとママがこっちも気にかけていたのよ。何十年もこの国を掌握していた人間が簡単に終わるとは思わない。城の中はもっと気を付ける必要がある……ってね」
「……」
ウォルモーダとオルドライデの確執で派閥ができていたが、黒幕の手下も紛れているはずだと。
「しかし私がそうであると気づくはずがない。一体どういう魔法を使ったのですかね?」
「リヒトが……あたしの弟がね、王子様を見て泣いていたのよ。最初は疲れて顔が怖いから、なんて言っていたけど、あんたが『奥さんと赤ちゃんは王様達に追放された、オルドライデ様はあまり眠れていない』と口にして怪しいと睨んだ」
「それがなにかおかしな――」
「あの時点で王様が二人を追放したかどうかなんて分からないはずよね? それに眠れていない理由、王子様になにか薬でも飲ませているんじゃない? リヒトは気配もそうだけど、薬の匂いも感じ取っていたのかも?」
「……どうですかね」
ディラン達が来てから官僚の男はオルドライデに近づくことが少なくなった。そのため少し緩和されていたようだ。
オルドライデには役割があるため、殺すわけにはいかない。しかし弱らせておく意味はある。
「……」
「まあ、ここにあんたが居るってのが答えだと思うけど。で、伯爵さんだっけ? もしバレれた場合現王様と王妃を始末するように告げてそうだなーってパパがあたしを置いていったの。あ、ちなみにヴァール王子もバーリオさんもコレルさんも居るわよ?」
「……帰るふりをして戻ってきていた、と」
「そういうこと。変装して町に居れば分からないし、本気であたしが足を使えば悟られずに城に入るくらいは簡単だからね? こんな風に」
「あ」
メイドが小さく声を上げた瞬間、トーニャはカーネリアの前に立っていた。官僚の男がまた振り返ると今度は明らかに動揺した様子が伺えた。
「まさか王様自ら出向くとは思わなかったけどというのはお互い様かしらね? 外に待機していたお仲間はもう居ないから安心していいわよ♪」
「……!?」
「というわけであんたが最後。殺しはしないけど、捕まって反省することね」
「ドラゴン……あなた達が来なければこんなことにはならなかったというのに……!」
トーニャは両手を広げて微笑むと、官僚の男は肩を竦めた後、剣を握って突っ込んできた。
「ま、ダルボって奴が王様に報告したのが運のツキってやつかしら? リヒトが赤ん坊に似ていなければこうはならなかったと思うけど」
「ぐ……」
トーニャは向かって来た官僚の男に対し、身をかがめてカタナを抜く。そしてすれ違いざまにカタナの背を首に叩きつけていた。
あまり加減しないと首の骨が折れてしまうのでそっとした形である。
「おしまいっと」
「ありがとうございます」
「お礼はパパとママにお願いします! あたしは従っただけですし」
「ふふ、ご両親が好きなのですね」
メイドに守られていたカーネリアがお礼を口にすると、トーニャは笑いながら振り返り、ディラン達へ言ってくれと頼む。
カーネリアが両親が好きなのかと尋ねて微笑むと、トーニャは目を丸くした後、答える。
「いやあ『大』好きですね♪」
「まあ」
「失礼します、カーネリア王妃」
その言葉に今度はカーネリアが目を丸くして笑っていた。すると、部屋にヴァールとバーリオが入ってくる。
「ヴァールさん」
「ひとまずこれで収束するといいのですが」
「そうですね……後は主人が、ウォルモーダが片付けるでしょう」
「前途は多難……しかし、家族で協力していけばきっとなんとかなるでしょう」
「そうですね――」
◆ ◇ ◆
「この度はユリウスとシエラの件でご迷惑をおかけしました。最終的に全ての決着にまで立ち会っていただき、ありがとうございます」
「なに、構わんわい。リヒトのことでここへ呼ばれておったからのう」
「あーい♪」
「だー♪」
「わほぉん……」
全てが終わってから数日が経過した。
ドルコント国の赤ん坊騒動は幕を閉じ、黒幕であるブライネルが死んだことはすぐに方々へ告げられ、歓喜する者や残念に思う者など様々だった。
ウォルモーダは旧王制に変えていくと宣言。反感もあったが、オルドライデの説得や民の声もあり、過酷な税収は徐々に取りやめていくことになるのだった。
もう少しだけ居て欲しいと、ディラン達一家は残っていた。
「ほら、ダルが困っているわよリヒト」
「あーう?」
「だう」
「ぴよ?」
「ふふ、ユリウスも元気いっぱいね」
「このままお城で暮らすみたいだし良かったわ」
「はい」
ダルのひげで遊んでいるひよことリヒト、ユリウスをトーニャが呆れた顔で窘める。
全てが終わり、シエラも正式にオルドライデの妻として迎えられることになっていた。父親と和解したオルドライデも今後は心配事もなくなったので顔色が良い。
「まさか彼が間者だったとは……かなり寄り添ってくれていたんだが……」
「欺くためには信用が必要じゃからな。トーニャの話だと割り切って生きていたような感じがあったそうじゃし、貴族至上主義というよりはブライネルのためにというところじゃ」
そういう人間は『自分が無い』ので役目を果たすのは難しくないとディランは言う。実際、ディラン達が来なければウォルモーダは動かず、シエラは人知れず誘拐されていた可能性が高い。
「紙一重、というやつですね」
「うむ。たまたまじゃが、結果的の良かったのう」
「へへ、リヒトがお手柄だったな」
「あう? あい!」
ガルフに名前を呼ばれてなんだかよく分からないがリヒトは手を上げて返事をしていた。その様子が可愛いとみんなが目を細めていた。
「結局ウォルモーダ様は続行なのですね」
そこでヴァールがオルドライデへ尋ねる。そう、ウォルモーダは退位をせずにそのまま国王としてやっていくことになった。
事情が事情なだけに複雑な話ではあるが、祖母の件を明るみにしたことによりウォルモーダへの同情が多く集まった形だ。
「私が王位を継ぐ前に整理をするつもりのようです」
「なるほど」
「ふん、息子に責任を負わせるようなみっともない真似ができるか」
「父上」
「だーう♪」
「ユリウスは元気そうだな」
「おかげさまでありがとうございます」
「父上、抱っこしていいと許可していないぞ!」
みなで話している場所へ、仏頂面のウォルモーダがやってきてユリウスを抱っこする。額にはブライネルの一撃で傷が出来ていた。
オルドライデはユリウスを抱っこするウォルモーダへ口を尖らせる。
「孫に構っているだけだ」
「追い出したくせに……」
「まあまあ」
その様子をシエラが見て二人を宥めていた。
相変わらずぶしつけな言い方をするウォルモーダだが、激昂したりするようなことは無くなった。
「初めてあった時とはだいぶ変わったのう」
「人間、時には本性を隠す必要があるということだドラゴンよ。そして何十年も続けていれば変わってしまう」
「そうかもしれんの」
「……だが、今回の件は礼を言う。おかげで両親に報いることができた。貴殿も相当な生き方をしているようだが、な」
「だー?」
ウォルモーダはディランにそう言うと、オルドライデにユリウスを渡して踵を返す。
「では、ワシらは帰るとするかのう」
「そうですね」
「あーい」
「だーう?」
「リヒト君はおうちに帰るの。バイバイって」
「また来させてもらえればリヒトを連れてくるわい」
「是非。ヴァールさんもありがとうございました」
もう、間者もいないだろうということでクリニヒト王国へ帰還することになり、ディランの背へと乗る。
『またねー!』
「だーう♪」
「あーい!」
リーナが空を飛んで手を振るとユリウスが見上げて笑っていた。まだリヒトと遊べなくなるという感じの意識は無さそうだ。
そして城が遠ざかっていき、雲の上へとやってくる。
「ふう、疲れましたねえ」
「ザミールさんはあまり関係ないし、よく来たよな」
「はは、確かに」
「あう!」
そこでガルフがヤクトを撫でながらため息を吐くザミールへ話をする。
彼は笑いながら頭を掻いて勢いで来たら巻き込まれたと口にしていた。
「リヒト君が見つけて解決したけど、どうなっていたか」
「確かに……その子は何者なのか……」
ヴァールとコレルもトワイトの膝に居るリヒトを見てそんなことを言う。
「普通の子ですよ? ちょっと成長が早いですけど♪ ねー?」
「あーい♪」
「そうだろうか……?」
「それよりコレル、ドルコント国はどうだった? 貴族主義だったけど」
「え?」
リヒトとトワイトが頬をくっつけて仲良くしているのを尻目に、ヴァールはコレルに尋ねる。きょとんとした顔をした後、少し難しい顔をしてコレルは言う。
「……難しい、そう感じた、感じました。責任を果たせば平民は使ってもいいと思う。しかし、貴族も辿ればそうではないかもしれない。そう、ディラン殿が口にしたとき、分からなくなった」
コレルはブライネルほどではないが貴族は貴族であれと言っていた。
しかし、今回の騒動を見る限り絶対ではないということに気づいたそうだ。
やるべきことをやる、というのが貴族と平民で違うだけで、人として生きるという前提は変わらないと。
「そうだねえ。私も考えを柔軟にしないといけないな」
「まあ、極端にはしらなければいいのじゃよ。コレル、お主が前にしたときのようにな」
「う、むう……」
「はっはっは、ディラン殿は強いですなあ」
「あーい♪」
「ぴよー♪」
「こけー♪」
コレルは過去のことを持ち出されて呻いていた。
バーリオが笑うとペット達もコレルの周りに集まって鳴く。
『でもやっぱりわたしはリヒト君がどこの子だったのか気になるかも。わたしの両親が出て行っちゃったのは仕方ないけど、本当のお父さん達がなんで捨てたのかはね』
「……リーナちゃん、きっと今が大事なんだよ。君がその姿になったように。商人であちこち回っていると、色々な話を聞くからね」
『まあ、そうだけど』
リーナがリヒトの鼻に指を当ててそんなことを言う。しかしザミールは気にしても仕方がないので今が大事だという。
「リヒトはみんなに好かれていいわね♪」
「あい!」
「お、そろそろ到着するぞい」
「はええな相変わらず……」
そんな調子でリヒトをドルコント国での事件は終わりを告げた。
暗躍者が居なくなり、今後はクリニヒト王国ともいい関係が築けそうだとヴァールは言う。
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