老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第208話 竜、たくさんの人に囲まれる

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「ただいまー!」
「戻ったぞい」
「あーい♪」
「うぉふ!」

 ディラン達は屋敷に戻りホールで声をかけた。途中に会ったガルフ達と一緒に戻ってきた。
 その声を聞いた女子会組のメンツがレイカの部屋から出てきてホールで顔を合わせる。

「あ、おかえりなさい」
「ガルフ達も終わったんだ!」
「ただいまー! ママ、ユリ! あら、フレイヤとエメリもいるのね」
「お、シスもか」

 トワイトを筆頭に、ユリが顔を見せた。すぐ後にフレイヤとエメリも出て来た。

「やっほー♪ ウチの馬鹿どもは?」
『こんにちは皆さん!』
「フレイヤさん、エメリさんこんにちは」
「ウェリス達はどっか狩りに行ってるんじゃねえかな。今日は見てないぜ」

 シスがガルフにウェリス達のことを尋ねる中、リーナとヒューシがそれぞれ挨拶をする。ホールに人が集まったのを見て、ユリが階段の上から声を上げた。

「うわ、大所帯になったわねえ。レイカの部屋に入るのも大変だし、食堂へいこっか! あそこが一番広いし」
「レイカは大丈夫なのか」
「はいはい、病気じゃないから大丈夫よパパ」
『そうだよパパ』
「フッ、そうだなパパ」
「なんだよお前ら!?」

 早速、レイカを心配したガルフがパーティメンバーにいじられていた。ガルフは照れながら言葉を返す。

「ま、事実だもんね~? 頑張らないと、パパ♪」
「呼んだかトーニャ? ワシはなにかすればええのか?」
「あーう?」
「うぉふ?」
「あ、違う違う!」
「トーニャがパパって言ったらそりゃディランのおっちゃんが反応するよな」

 さらにトーニャがガルフの肩に手を置いてからかうと、ディランが首をかしげていた。ひとまず食堂へ行くかと移動しようとしたところで、抱っこされていたリヒトが降ろしてくれとせがむ。

「あーう」
「む、歩くか?」
「あー♪」

 ディランが床に立たせると、リヒトは早速トワイトの下へ駆け出した。

「おかえりリヒト♪」
「あーい♪ うー……あい!」
「あら」
「わほぉん」

 トワイトがしゃがんで頭を撫でると、リヒトはカバンに手を入れて例のハニワを取り出して目の前に掲げた。

「なんだい?」
「東の方に伝わるお守りみたいなものじゃな」
「あ、ハニワじゃない」
「知っているの?」

 ヒューシが立ち止まりリヒトの掲げたものを見て首をかしげる。ディランとトーニャがそれぞれ答えると、フレイヤが尋ねた。

「悪いゴーストを倒してくれる、お墓と一緒に入れるとあの世まで護衛してくれるみたいな感じの置物よ。人によって、それこそ貴族と平民だと解釈が違うわね」
「そうなのか、面白いな……って笛が差さっている……」
「あー♪」
「これは苦しいかもしれないから取っておきましょうね」
「うー? ……あい!」

 トーニャの説明にヒューシも興味深いとしゃがんで観察する。しかしその口には伸びる笛がはめ込まれており、困惑していた。
 トワイトが見かねて笛を取り、カバンにしまいこむ。

「リヒトが選んだから買ってきたのじゃ。ザミールのところはいろいろとあって良かったわい」
「……! ウィズエルフ! ウィズエルフの集落にもそういうのが……!!」
「あるのかのう?」
「あーう?」
「……いえ、すみませんありません……」
「なんで見栄を張ったのよ……」

 そこでエメリが手を上げてウィズエルフにも伝統的な道具があると言いかけたが、突っ込まれて無いと判明した。ユリに呆れられていたところ、フレイヤが口元に手を当ててにやりと笑う。

「そりゃザミール――」
「ふん!」
「うわあ!?」
「あー♪」
「あらあらリヒト」

 フレイヤがなにかを言おうとした瞬間、エメリが襲い掛かりホールを転がった。
 遊んでいると思ったのかリヒトも二人に体当たりをする。

「ああ、リヒト様!?」
「あーう!」
「あはは、リヒト君も元気がいいねー! でも危ないから突っ込んできたらダメだよ?」
「うー?」
「うぉふ」

 ハニワを手にしたリヒトがフレイヤに抱き留められて首をかしげていた。そこへヤクトがやってきてリヒトの服を咥えると自分に乗るよう引っ張っていく。

「なにやってるのよ二人とも。ほら、行くわよ。みんな、おいでー」
「わほぉん」
「あーい♪」
「わん!」
「うぉふ!」
「ぴよー」

 ユリがパンパンと手を叩くとダルが背伸びをしてから移動しはじめ、ルミナスとリヒトを乗せたヤクト、ひよこ達が移動する。

「……聞き分けがいいわね」
「こけー」
「シスも慣れたものよね」
「ウチも実家で飼っていたの。懐くから可愛いわよねニワトリとかひよこ」

 そしてジェニファーはシスに抱えられていた。トコトは寝ているのでレイカが手にもって運ぶ。
 食堂はかなり広く、宴会をするにも適しているほどなので全員がきれいに入り切った。リーナが水さしを持ってきて帰宅組が水を飲む。

「ぷはあ……疲れた体に染みるなあ」
「おじさん臭いぞパパ」
「もうやめてくれよヒューシ。んで、今日は遊びに来てくれたんだって?」
「あーい♪」

 水を飲みほした後、もう一回ヒューシが笑いながらガルフに言うと、肩を叩きながら彼も笑う。その後リヒトに笑いかけると、ディランが口を開く。

「本当はリヒトの散歩目的で来たのじゃよ。しかし王都に行くならせっかくだからと屋敷に来たんじゃ」
「そういうことでしたか」
『元気だもんねリヒト君』
「あい!」
『なんかボーっとした顔ねー』

 リーナがリヒトと目線を合わせると、またハニワを掲げた。リーナはつるんとしたハニワの頭を撫でながら、ぽっかりと空いた目と口を見て苦笑する。

「ハニワ、よっぽど気に入ったのね」
「子供ってなにがツボに入るかわからないものね」

 トワイトが微笑み、トーニャが腰に手を当てて笑う。

「ぴよ?」
「うわ、レイタが入っていたの?」
「あー♪」

 すると逆さまになった下からにゅっとレイタが顔を覗かせていた。先ほども入っていたが気に入ったらしい。
 そのまま食堂で適当にくつろぐことになった。

「夕食の材料じゃ」
「ありがとうございました、あなた。楽しかったみたいだし良かったわ」
「お主達は……聞いてもいいのかのう?」
「別にいいですよ! エメリの好きな人のことだったり、トワイトさんの過去を聞いたんです」
「む、そうか」
「ん、どうしたんだディランのおっちゃん」

 ディランが何をしていたのか問うと、トワイトの過去である記憶がないことを知ったとフレイヤから返って来た。
 瞬間、ディランの眉が少しだけピクリと動いていた。ガルフが雰囲気が変わったことに気づき尋ねる。

「なんでもないぞ。どこまで聞いたのか気になるくらいか」
「うふふ、記憶が無かったくらいですよ」
「えー……ディランさんを狙っていた女の人の話は怖かったけど……」
「うふふ……あの方はしつこかったもの」
「トワイトさん怖いんだけど!?」
「あーう!」
「わほぉん」
「これ、ハニワをダルの頭に乗せてはいかん」
「賑やかでいいわねえ」
「竜神様とご一緒できるのは光栄だ。そ、そういえばザミールさんは……?」
「ああ、途中で帰ったよ。仕事があると言っていたぜ」

 がっかりするエメリを見て一同が笑い、そんな調子で会話は弾んだ。
 久しぶりにガルフ達やフレイヤ、エメリにシスという大所帯で楽しく過ごすのだった。

「あーい♪」
「うぉふ♪」
「ぴよぴー♪」
「わほぉん!」
「リヒト君、元気すぎる……」

 いっぱい人が居て興奮気味のリヒトは屋敷を駆けていた。一緒に遊んでいたユリがホールでへたり込みながら肩を竦めていた。
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