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第234話 リヒト、思いなおす
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「あう……!」
昨日はグラソンという新しい家族を迎えて楽しく過ごした。
特にリヒトははしゃぎすぎるくらいはしゃいでおり、夜はミルクを飲んだらすぐに寝てしまうほどだった。
そんなリヒトは今日も元気に目を覚ます。
「あー?」
しかし、そこはいつものベッドではなくどこかボヤっとした白い空間だった。
霧のようなものが立ち込めており、すぐにいつもと違う場所だと気づいて周囲を見渡しながら声をあげる。
「あーい!」
お父さんとお母さん、そしてアッシュウルフやジェニファー達を思い浮かべながら大きな声を出していた。
いつもなら必ず誰かが来てくれるが、今日に限っては誰も来ることが無く、返事も無かった。
「あう?」
不思議だなと思ったリヒトは立ち上がり、もう一度周囲を見渡して声をあげた。
「あーい!」
しかし、それからしばらく待っても返事も気配も無かった。
さしものリヒトも心細くなってきて、自分から探しに行こうと歩き出す。
「あう」
よちよちと歩きながらきょろきょろと歩く。しかし、どこまで行っても見つからなかった。
「あうー……」
いよいよ、よく分からない状態にリヒトの目に涙が浮かぶ。ディランとトワイトはどこへ行ってしまったのかとその場にへたり込む。
「ふぐ……」
泣きそうになった瞬間、霧の向こうに気配があった。
「……!あーい♪」
そこで笑顔になったリヒトが気配の方へ笑顔を向けた。もしかしたらグラソンかもしれないと思っていると――
「……」
「あー……!?」
――スッと現れたのはあの土偶だった。
もちろん、リヒトは怖いと思っているため、目を見開いて驚く。
「ふぐ……あああああああああああん!」
もちろん怖がっているリヒトはすぐに大泣きを始めた。その瞬間、土偶はカタカタと揺れる。
そして、何故か動くはずのない片腕を挨拶するように上げた。するとそのままスーッとリヒトに近づいてきたのだ。
「あう……!」
「……」
リヒトはハイハイで土偶から逃げる。立って走るよりまだこっちの方が速いからである。
「ああああああん!」
しかし、土偶もそれなりに移動速度があり、リヒトについてくる。
泣きながら振り返るとやはりついて来ており、リヒトはどんどん不安になっていく。
「あーい……!」
そこでひときわ大きな声を上げた。
――すると
「……!」
「……」
「あー♪」
なんとリヒトと土偶の間にあの埴輪が立ちはだかった。
なぜか自身と同じ材質の剣と盾を持ち、背中にはマントも羽ばたかせていて、リヒトが満面の笑みを見せた。
「……!」
「……」
「あい!」
そして埴輪が土偶を剣でバシバシと叩き始めた。
土偶は反撃をせず、無機質な目を向けたまま成すがままになっていた。
リヒトは勇敢な埴輪を見て拳を握って応援をしていた。
「……」
「あー♪」
そして間もなく土偶はその場に倒れた。埴輪は剣を掲げて鼓舞すると、リヒトは拍手をして喜ぶ。
「……!」
「あい」
埴輪は剣を片付けるとリヒトの手を取った。
空いた手を別の場所に向けているため『あっちだ』と言っているようだ。
リヒトはついていくため立ち上がった。その時、背後でゴトリと音がした。
「あーう?」
「……」
すると土偶が起き上がっていた。斜めになっているので、横になっているようにも見える。
「あー……」
怖い顔の土偶だが、リヒトはその時なんだか怖さを感じず、なんとなく気になった。
「……!」
「あい」
そのまま埴輪に連れられて霧の中を進んでいくと、だんだん睡魔が襲ってきてリヒトは眠ってしまった。
「……あーい!」
「ぴよー!?」
「うぉふ!」
そして次の瞬間、リヒトが大きな声を出して目をぱっちりと開ける。
枕元に居たトコトがびっくりし、ベッドを覗き込んでいたヤクトが尻尾を振りながら喜んでいた。
「あーう?」
「おはようリヒト♪ なんだか叫んでいたけど怖い夢でも見ていたのかしら?」
「あい」
トワイトもベッドを覗き込む。しかしリヒトはベッドから降りてカバンをごそごそと漁り出す。そして埴輪を取り出した。
「あら、急にどうしたの?」
「あーい」
助けてもらったと言いたいようだがもちろん伝わらない。
だが、その件は特に問題ないためそれをヤクトの頭に乗せた後、トワイトの袖を引く。
「なあに?」
「あーい!」
トワイトは笑顔でリヒトについていくと、部屋を出て奥の倉庫へと向かった。
昨日、グラソンのどっちからでも押して開けられる専用扉をつけたので倉庫の扉は二つある。リヒトも通れるが、今回はトワイトが開けた。
「アー?」
「あーい!」
グラソンが氷のベッドの上でくつろいでいた。なにごとかと身体を起こすも、リヒトは挨拶だけして宝箱へ。
「あーい!」
「開けて欲しいの?」
「あい♪」
リヒトが宝箱を開けてくれと頼み、トワイトが開ける。そして抱っこをしてもらい中を覗いて取り出したのは――
「あーい!」
「ア!?」
「あらドグウを? リヒト、怖いんじゃなかったの?」
「あう」
頷く。
しかし、リヒトは土偶を手にした後に降ろしてもらい、ヤクトの頭に乗せた埴輪をも手にして遊戯室へと走った。
「ぴよー?」
「うぉふ?」
「どうしたのかしら?」
みなが首を傾げて追いかけると、リヒトが遊戯室に置いているテーブルに埴輪と土偶を並べていた。
「あーい♪」
「わほぉん?」
クッションで寝ていたダルが体を起こしてやはり首を傾げる。そしてリヒトは埴輪と土偶の頭を撫でて笑っていた。
「……どうしたのかしら? わかる?」
「うぉふ……」
「ぴよー?」
「ア?」
部屋に入ったトワイトは分からないのでヤクト達に聞いてみるも、やはり分からない。結局、リヒトはその日、遊戯室で埴輪と土偶を見てニコニコするのだった。
――実は夢の中で最後に見た土偶の顔が、リヒトには寂しそうに見えていた。寄って来ていたのは仲良くなりたいからかも? と考えたようだ。
「あー♪」
「わん!」
「……」
そんな頭を撫でられている土偶は、心なしか嬉しそうに見えた。
昨日はグラソンという新しい家族を迎えて楽しく過ごした。
特にリヒトははしゃぎすぎるくらいはしゃいでおり、夜はミルクを飲んだらすぐに寝てしまうほどだった。
そんなリヒトは今日も元気に目を覚ます。
「あー?」
しかし、そこはいつものベッドではなくどこかボヤっとした白い空間だった。
霧のようなものが立ち込めており、すぐにいつもと違う場所だと気づいて周囲を見渡しながら声をあげる。
「あーい!」
お父さんとお母さん、そしてアッシュウルフやジェニファー達を思い浮かべながら大きな声を出していた。
いつもなら必ず誰かが来てくれるが、今日に限っては誰も来ることが無く、返事も無かった。
「あう?」
不思議だなと思ったリヒトは立ち上がり、もう一度周囲を見渡して声をあげた。
「あーい!」
しかし、それからしばらく待っても返事も気配も無かった。
さしものリヒトも心細くなってきて、自分から探しに行こうと歩き出す。
「あう」
よちよちと歩きながらきょろきょろと歩く。しかし、どこまで行っても見つからなかった。
「あうー……」
いよいよ、よく分からない状態にリヒトの目に涙が浮かぶ。ディランとトワイトはどこへ行ってしまったのかとその場にへたり込む。
「ふぐ……」
泣きそうになった瞬間、霧の向こうに気配があった。
「……!あーい♪」
そこで笑顔になったリヒトが気配の方へ笑顔を向けた。もしかしたらグラソンかもしれないと思っていると――
「……」
「あー……!?」
――スッと現れたのはあの土偶だった。
もちろん、リヒトは怖いと思っているため、目を見開いて驚く。
「ふぐ……あああああああああああん!」
もちろん怖がっているリヒトはすぐに大泣きを始めた。その瞬間、土偶はカタカタと揺れる。
そして、何故か動くはずのない片腕を挨拶するように上げた。するとそのままスーッとリヒトに近づいてきたのだ。
「あう……!」
「……」
リヒトはハイハイで土偶から逃げる。立って走るよりまだこっちの方が速いからである。
「ああああああん!」
しかし、土偶もそれなりに移動速度があり、リヒトについてくる。
泣きながら振り返るとやはりついて来ており、リヒトはどんどん不安になっていく。
「あーい……!」
そこでひときわ大きな声を上げた。
――すると
「……!」
「……」
「あー♪」
なんとリヒトと土偶の間にあの埴輪が立ちはだかった。
なぜか自身と同じ材質の剣と盾を持ち、背中にはマントも羽ばたかせていて、リヒトが満面の笑みを見せた。
「……!」
「……」
「あい!」
そして埴輪が土偶を剣でバシバシと叩き始めた。
土偶は反撃をせず、無機質な目を向けたまま成すがままになっていた。
リヒトは勇敢な埴輪を見て拳を握って応援をしていた。
「……」
「あー♪」
そして間もなく土偶はその場に倒れた。埴輪は剣を掲げて鼓舞すると、リヒトは拍手をして喜ぶ。
「……!」
「あい」
埴輪は剣を片付けるとリヒトの手を取った。
空いた手を別の場所に向けているため『あっちだ』と言っているようだ。
リヒトはついていくため立ち上がった。その時、背後でゴトリと音がした。
「あーう?」
「……」
すると土偶が起き上がっていた。斜めになっているので、横になっているようにも見える。
「あー……」
怖い顔の土偶だが、リヒトはその時なんだか怖さを感じず、なんとなく気になった。
「……!」
「あい」
そのまま埴輪に連れられて霧の中を進んでいくと、だんだん睡魔が襲ってきてリヒトは眠ってしまった。
「……あーい!」
「ぴよー!?」
「うぉふ!」
そして次の瞬間、リヒトが大きな声を出して目をぱっちりと開ける。
枕元に居たトコトがびっくりし、ベッドを覗き込んでいたヤクトが尻尾を振りながら喜んでいた。
「あーう?」
「おはようリヒト♪ なんだか叫んでいたけど怖い夢でも見ていたのかしら?」
「あい」
トワイトもベッドを覗き込む。しかしリヒトはベッドから降りてカバンをごそごそと漁り出す。そして埴輪を取り出した。
「あら、急にどうしたの?」
「あーい」
助けてもらったと言いたいようだがもちろん伝わらない。
だが、その件は特に問題ないためそれをヤクトの頭に乗せた後、トワイトの袖を引く。
「なあに?」
「あーい!」
トワイトは笑顔でリヒトについていくと、部屋を出て奥の倉庫へと向かった。
昨日、グラソンのどっちからでも押して開けられる専用扉をつけたので倉庫の扉は二つある。リヒトも通れるが、今回はトワイトが開けた。
「アー?」
「あーい!」
グラソンが氷のベッドの上でくつろいでいた。なにごとかと身体を起こすも、リヒトは挨拶だけして宝箱へ。
「あーい!」
「開けて欲しいの?」
「あい♪」
リヒトが宝箱を開けてくれと頼み、トワイトが開ける。そして抱っこをしてもらい中を覗いて取り出したのは――
「あーい!」
「ア!?」
「あらドグウを? リヒト、怖いんじゃなかったの?」
「あう」
頷く。
しかし、リヒトは土偶を手にした後に降ろしてもらい、ヤクトの頭に乗せた埴輪をも手にして遊戯室へと走った。
「ぴよー?」
「うぉふ?」
「どうしたのかしら?」
みなが首を傾げて追いかけると、リヒトが遊戯室に置いているテーブルに埴輪と土偶を並べていた。
「あーい♪」
「わほぉん?」
クッションで寝ていたダルが体を起こしてやはり首を傾げる。そしてリヒトは埴輪と土偶の頭を撫でて笑っていた。
「……どうしたのかしら? わかる?」
「うぉふ……」
「ぴよー?」
「ア?」
部屋に入ったトワイトは分からないのでヤクト達に聞いてみるも、やはり分からない。結局、リヒトはその日、遊戯室で埴輪と土偶を見てニコニコするのだった。
――実は夢の中で最後に見た土偶の顔が、リヒトには寂しそうに見えていた。寄って来ていたのは仲良くなりたいからかも? と考えたようだ。
「あー♪」
「わん!」
「……」
そんな頭を撫でられている土偶は、心なしか嬉しそうに見えた。
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