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八塚の家
しおりを挟む八塚の猫騒動から早1週間以上が経過した。
彼女が稀にお昼へ来ることが増えた以外は何事もなく1日が過ぎていった。
怪しげな事件は絶えないのと、八塚は車での送迎があるため、放課後に八塚を連れて遊びに行くということは無かった。
しかし残念そうな表情を見逃さなかった真理愛によって俺たちは休みである今日、彼女の家へ遊びに行くことになっていたりする。
「まさか遊びに行くことになるとは……お土産が母ちゃんの作ったケーキで大丈夫かねえ」
「怜ちゃんってお金持ちだけど、どちらかと言えばあたし達みたいな食べ物とかに興味あるみたいだからいいんじゃないかな? おばさんのケーキ美味しいし♪」
そういやハンバーガーを食べたことがないから連れて行って欲しいとか言っていたような気がする。なるべく出歩くなというお達しなので出かけられなくはないけど、何かあったときに責任は取れないので自嘲しておく。
真理愛と家の前で待っていると、程なくして自転車に乗った霧夜がウチへとやってきた。
「来たぞー。遅くなったか?」
「まだ迎えは来ていないから、大丈夫だぜ。っと、あれか?」
「おーい!」
最近見慣れてきた八塚家の送迎車がゆっくりと近づいてくるのが見え、真理愛が手を振る。
俺達の前で止まると窓が開き、元気な声が聞こえてきた。
「お待たせ! さ、乗って乗って!」
「お邪魔しまーす!」
「助かるよ」
「おお……広いな……お、今日は村田さんか、よろしくー!」
「……」
俺は運転手の村田に気さくに挨拶をしたが、無言で俺達を一瞥した後、前を向いて車を発進させる。相変わらず不愛想な男だなと、俺は嘆息して車の椅子に背を預ける。
「今日はお父様もお母様も居るんだけど、初めてお友達を家に呼んだからこっちを優先したの」
「忙しいんだよね? 家族で過ごさなくて良かったの?」
「いいのよ、こっちの約束の方が先だったもの。家には居るんだから、心配もさせないし」
真理愛とはかなり仲良くなったものの、男子である俺と霧夜が行ってもいいものかと一応言ったが、真理愛はみんな一緒に行くんだと強制的に連行。ま、お金持ちの家ってのがどんなものなのか気になるから楽しそうではあるんだけどな。
「高級住宅地か、ここからだと自転車と電車か、車じゃないと無理だな」
「そうなのよ。中学生くらいまでは正直、車での送迎は恥ずかしかったわ……」
「でも社長令嬢なら身の危険もあるだろ? 両親の心配は分かる気はするぞ」
「まあね。だけど、友達と遊ぶのも難しいから嫌になるわ」
八塚は天井を見ながらため息を吐き、お嬢様なりの悩みを吐露していた。そして俺と真理愛の家から車で二十分ほどで八塚の家へと到着した。ちなみに村田は最後まで無言を貫いていた。
そして、目の前に現れた建物を見て、俺と霧夜は口をあんぐりと開けて見上げて呟く。
「……でけぇ……」
「ああ……この町にこんな豪邸が存在するんだな……」
庭付き一戸三階建てで、相当広い家だ。俺の家も一戸建てでそれなりにあるけど二倍以上あるんじゃないか……?
そんな驚きをよそに、八塚は俺達を手招きし、家の中へと案内してくれた。
「ただいま。お友達を連れてきたから部屋に居るわね」
「おかえりなさいませ怜様。かしこまりました、旦那様には戻ったことをお伝えしておきますね」
「あ、これも切ってもらえるかな? スメラギを見つけてくれたこっちの神緒君のお母さんが焼いたケーキなの」
「はい、もちろん構いませんよ。皆さん、ごゆっくり」
「ども」
「ありがとうございます!」
柔和な表情をしたおばさんがケーキを受け取り、俺達にぺこりと頭を下げてきたので挨拶をして八塚の後についていく。
「さっきのは家政婦の加藤さん。小さいころからウチで働いてくれているベテランさんなの。で、ここが私の部屋よ!」
「おっじゃましまーす♪ あースメラギさんみっけ!」
「ぶにゃー」
扉を開けると早速クッションの上に鎮座するぶさ猫を確認する。真理愛が一直線に抱きかかえているのを横目に、俺はドアを閉めた。
◆ ◇ ◆
「はっ……ガキは元気でいいな……クソ、男のどっちかがお嬢様の彼氏か? 逆玉もいいところだぜ。イライラするが給料はいいからな……」
修達を降ろした後、村田(26)は車を別の場所へ持っていき、タバコを咥えて洗車をしながらぶつぶつと悪態をつく。怜が中学の終わりごろから雇われた運転手で学歴は良いが、プライドが高い男である。
八塚コーポレーションの運転手となれば響きは良いが、その実、子守のようなものなので給料はいいが仕事内容に不満があった。
「出会った頃よりいい女になってきたし、そういう年ごろか……折角だし、どこかに連れ込んで脅して……いやいや、殺されるな……」
一瞬、エッチなゲームのようなことを考えるが、雇い主である怜の父親の顔を思い浮かべて首を振る。プライドは高いがそんな度胸はない小心者の村田であった。
しかし――
「あ? なんだお前、昼間っから人んちを覗き込んで、怪しいやつだな」
「……」
気配がして振り返ると、塀の途中が柵になっている場所からフードを目深に被った人物が村田を見ていた。
「おい、聞いてるのか?」
「オマエ、ツカウ――」
「……!?」
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