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スメラギさん
しおりを挟む「あはは、ほらこっちだよー」
「ぶにゃー」
「スメラギ、面倒くさそうに動くなあ」
ぶさ猫は真理愛にねこじゃらしで遊ばれているが、体は動かさずに手だけを振っていて、むしろしかたなく真理愛に合わせてやっているような感じもする。
「この子、そんなに機敏に動き回る子じゃないのよ。だから、外に出て行ったのは本当にびっくりしたわ」
「そうなのか? でも、こいつ商店街で見たような……」
「商店街? うーん、私が見てないところで出かけていたりするのかしら……? どうなのスメラギ?」
「ぶにゃぁぁ……」
「でかいあくびだなあ。って霧夜、何やってんだ?」
まあよく見たわけじゃないし、商店街で見たやつがこいつだとは限らないかと俺は霧夜に声をかける。すると、霧夜は俺に向き直り口を開く。
「いや、女子の部屋に入るのは初めてだから緊張してな。どういったモノがあるのか見ていたんだ」
「なるほどな。まあだいたい真理愛の部屋と似たような感じだと思うぞ」
「え? 神緒君、真理愛の部屋に入ったことあるの?」
「あるよ、子供のころはよくどっちかの部屋で遊んでいたしなあ」
「うんうん!」
「幼馴染かあ、ちょっと羨ましいかも。私ってこういう家だから友達を作るのも大変だったから……」
そう言って顔を伏せる八塚。小学生くらいはあまり気にならないだろうが、成長するに従って気負う人間も出てくるだろうなとは思う。俺でも真理愛が居なかったらここに来ることは無かったろうしな……
ちょっと暗い話になったなと思い、話題を変えようと頭を捻っていると部屋のドアがノックされた。
「お嬢様、ケーキとお茶をお持ちしましたよ」
「ありがとう加藤さん、今開けるわ」
八塚が部屋の扉を開けると、先ほどの加藤さんがお盆を持って立っており、俺はケーキの配膳を手伝うため立ち上がる。すると、加藤さんの後ろからまた人が歩いてくるのが見えた。
「やあ、怜が友達を連れてきているって聞いてね。私は八塚 健。怜の父親だ、よろしく」
短めの髪に顎髭をたくわえた長身の男性は八塚の親父さんだとのこと。社長だっていうからもっと怖い人だと思ったけど、意外と気さくな挨拶でホッとする。
「興津 真理愛です! 怜ちゃんと仲良くしてまーす!」
「こんちは、神緒です」
「初めまして、坂家と言います」
「む……!」
俺と霧夜が挨拶をすると、親父さんの眉が小さく動き、続けて八塚にギギギ、と首を曲げてぎこちない笑顔で尋ねる。
「……男子とは聞いていなかったぞ?」
「友達に男とか女とか関係ないと思うんだけど?」
「……」
あっさり言い切られ項垂れる親父さん。
すると今度は俺と霧夜を連れて部屋の奥へと移動し、ひそひそと俺達に話してきた。力強いな!?
「……どっちだ」
「「は?」」
「どっちが怜の彼氏だ。君か?」
「何で肩をひくひくさせてるんですか?」
「いいから答えるんだ……!」
前言撤回。娘大好きの駄目親父だった。
とりあえず勘違いしている親父さんに俺はハッキリ言うことにした。ここでしどろもどろに答えるとエスカレートしかねない。マンガやアニメではよくあることだし。
「あー、親父さん、俺達はそういうんじゃないから安心してくれ。今日もあそこに居る真理愛にどうしてもと言われてついてきただけなんだ」
「そ、そうなのか?」
「ええ。俺も修も友達になって一週間程度だからそういうことを考える期間としては短いんですよね。それに修は幼馴染の興津がいるし」
「いるからなんだよ!?」
俺が抗議していると、親父さんは真理愛を見て俺を見る。
「それなら良し! まあ、怜と同じくらい可愛いからいいじゃないか、なあ? 羨ましいぞ!」
「掌返しがすごい」
「なにかね?」
「いえ、なんでも」
霧夜が口笛を吹いて肩を竦めると、不審な顔をした八塚が親父さんに声をかけた。
「お父様、私の友達に何か?」
「い、いや、ちょっと怜の話を聞いていたのさ、なあ?」
「うんうん」
「うんうん」
「本当……?」
棒読みで頷く俺達に訝しげなまなざしを向けてくるが、とりあえず合わせたので後は親父さんが何とかしてほしい。そう願っていると、また部屋に誰かが入ってくる。
「あなた! 邪魔をしないよう言っておいたのに怜の部屋へ来たのね!」
「げ、母さん……」
「げ、じゃありませんよ! ごめんね怜、お母さんが不甲斐ないばかりにお父さんを野放しにしてしまったわ」
「ううん。大丈夫よ。折角だし、お母様にも紹介しておくわ」
今度は八塚が俺達を紹介してくれ、軽く会釈をする。
「八塚 生子よ、よろしくね。……で、どっちなのかしら♪」
「何が?」
「あら、みんなの前では言いにくいかしら? それじゃお夕食の時に聞かせてね。真理愛ちゃんも可愛いわね」
「えへへー」
「それじゃごゆっくり♪ いくわよ、あなた」
「あああああ、ネクタイを引っ張らないでくれ母さんっ!?」
「では私も行きますね」
慌ただしく出ていく夫妻にを追って加藤さんも部屋を後にする。堅物かと思ったけど、面白そうな両親だ。だから八塚も気さくなのかもしれないな。
俺は苦笑しながら八塚を見ると、考え込むような仕草をしていた。しかし、やがて顔を真っ赤にして部屋から出ていく。
「そういうことか……! お母様、違います――」
「にぎやかでいいねー」
「だな……」
俺はため息を吐きながらケーキの前に座ると、
「ぶにゃー」
「お、なんだ? ケーキはやらないぞ?」
急にぶさ猫が俺の膝に乗っかってきた。デブというわけではないので重くはないが、身動きが取りずらい。どけるかと手を伸ばしたところで、ぶさ猫と目があう。
「……」
「なんだ……?」
吸い込まれるような金色の目から視線を逸らせない……! こめかみに痛みが走ると、頭の中がぱちぱちと弾けるような感覚に襲われた。
不意に現れた映像は白い修道服を着た女の子……それが笑顔で手を振っていた。この顔……どこかで……
「ただいま! お母様たちには厳重注意をしてきたわ! さ、それじゃお茶が冷めないうちに食べましょうか。……って、どうしたの神緒君?」
「ハッ!?」
「ぶにゃー」
俺は八塚に話しかけられ、我に返るとぶさ猫を取り落とす。心臓の鼓動がやけに大きく聞こえ、冷や汗を流していた。
「な、何でもない……ケーキ、食おうぜ!」
「はーい! いっただきまーす♪」
「大丈夫か?」
「ああ、何かぼーっとしてた」
霧夜にそう返し、俺はケーキを食べ始める。
何だったんだ今のは……?
その後はぶさ猫を見ても触っても何も起こらず、その日は夕方まで遊んで帰宅するのだった――
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