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旅の始まり
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「――ということなの?」
「ああ、後は『これ』をいつ使うかだけだ、ある程度ヤツの言う人形は確保できたからな。どれも失敗作だが」
「ふ……くく、いいじゃない。楽しくなってきたわ」
――夜
山の中腹で町が見える場所から男女が並んで物騒な会話が繰り広げられる。
男には落胆が、女には愉悦が混じった調子の声色が風に流れていく。
あいにくの曇り空……暗闇に紛れたその姿は見えない。
含み笑いをする女へ、男はスキットルのキャップを外しながら尋ねる。
「ふん、そんなにあの娘が憎いか」
「……お互いの詮索をしないって約束よね? あんただってこんなことをやっているのをギルドに通報されたくないでしょ」
「まあな。完成に近づけるためにはもっと命が必要だ、失敗作と分かった時点で改造を施しているからあの町を壊滅に追いやるくらいには使える」
「悪い男ね」
「お前が言えたことか」
その言葉に『それもそうね』と肩を竦めて女は苦笑する。そこで男は酒を一口呷った後、思い出したように言う。
「ああ、そうだ。町を襲撃する時、ディンってヤツが町に居ない時にしてもらうぞ」
「……どうして?」
「……ここ最近の訓練を見ていたがあいつは強い。特に杖を持った時の魔法は強力だ。失敗の確率を下げるならそうした方がいい」
「それもそうね……いきなりCランクスタートでいいくらいだもの。わかったわ。旅に出ると言っていたけどいつになるか分からないし……まあ、チャンスはあるか――」
そう言うと女はこの場から離れていき、男は気配が遠ざかっていくのを感じ取りながら一人呟く。
「……あの子が生きていたらあれくらいの歳だったからな……取り返すんだ……絶対に――」
◆ ◇ ◆
「行くわよ、ディン」
「うん、いつでもいいよ」
――あれから数日。
訓練終了まで僅かとなった現在、僕とプリメラは訓練場で対峙していた。
いつものように彼女が僕に怒る……ということではなく対人相手の訓練だからだ。
魔法と近接両方の訓練は特に彼女にとって良かったようで、特に魔法の上達は目を見張るものがあった。
相反属性が使える点で素質はあるだろうと思っていたけど訓練によって魔法というものを理解してからは震えながらではなく、堂々と使えるようになったのは大きい。
じいちゃんは『魔法を使うことはさほど難しくない。重要なのは応用だ』とよく言っていた。
魔力を練るのは細心に、放つときは大胆にと僕に教えてくれていた時はそれを考えて使っていたことをプリメラに教えるとすんなり受け入れ、実践した結果でもある。
「<炎槍>!」
「<凍剣>」
プリメラの放った炎の槍が僕に飛んでくる。
ケガをしないように魔力を抑えているのは彼女の『やさしさ』というやつだと思う。
僕は手に生成した氷の剣でそれを振り払うと小規模の爆発音と共に相殺。
いつもならここで終わりだけど――
「隙あり……! <水射」
「おっと、それは当たらないよ」
「わ!? えい!」
爆発の隙を狙って水の雫を撃ち出してきたプリメラ。
だけど僕もその時点で身をかがめて前に出ていたため予測で放った魔法は当たらず、彼女の近くへと躍り出る。
プリメラからすると急に目の前に現れたように見えたのだろう、慌てた様子で木のダガーで突いてくるがそれをステップで回避しプリメラのお腹に軽く拳を当て決着がついた。
「あれ?」
だけど少しずれていたようで僕の手はプリメラの胸に当たった。
うん、これは――
「どさくさに紛れてどこ触ってるのよ! 相変わらずえっちなんだから……!!」
「ぐあ!?」
――やはりというかプリメラに平手打ちを受けて僕は大きくのけぞることになった。防具をつけていない女の子の胸は柔らかいのだと知る。
そこでマハーリさんが手を上げて口を開く。
「そこまでよ。うん、プリメラちゃんはいい感じね。あまり強くない動物系の魔物ならいい戦いができるところまではいっていると思うわ」
「あ、本当ですか? ありがとうございます!」
「でもゴブリンとかオークみたいな弱いけど魔族には気を付けないとね? 可愛い子はすぐ襲われてそれこそエッチなことをされちゃうわ。まだ処女ならディン君としておいた方がいいかもね」
「ななななななななな!? なんてこと言うんですかマハーリさん!! なんでディンと!」
「うふふ、冗談よ。でも、女の子の冒険者って男よりもそういう意味では危険だから強くなりなさい。……子供が出来たら妊娠中に戦いなんてできないからね」
「あ、はい……」
プリメラを見ながらそんなことを言い出すマハーリさんにプリメラが言葉を詰まらせてなんとか返事をする。
そうか、襲われて無理矢理セックスすれば子供が出来てしまう危険性があるのか。じいちゃんたちが倒した『魔族』と呼ばれる存在もまだ生き残っているって言ってたけど『そういうことをする』個体もいるのかもしれないのか。
講義やゲンさん達が僕とプリメラを見ながら『守ってあげなさい』と強く言ってくる理由が分かった気がするな。
そういえば僕ってついていることはついているけど、できるんだろうか?
「ま、それはディン君に任せるとして今日で訓練は終了よ! 夜はギルドの食堂で打ち上げをやるから参加しなさいね。ほらガーンズが呼んでいるわ」
「……」
「どうしたのディン?」
「ん、あれ? なんで僕プリメラと手を繋いでいるんだろ」
「知らないわよ……。まあいいや、行きましょう」
「そうだね」
プリメラが僕の手を引っ張って集合場所に向かい、ガーンズさんが今日でここでやる訓練は終了と話す。
ただし希望すれば手の空いている人間が居れば訓練に付き合ってくれるらしいので、依頼をこなしながら頼むことも可能。
「よう、ディン。今日から冒険者だな!」
「そうだね。カーチスは依頼を?」
「おう! って言いたいところだけど、もう少し訓練をするかもな。サラがまだ戦いに慣れてないし」
するとカーチスのパーティにいる、あまり喋らなかった男が二人の頭に手を置いて口を開く。
「……俺はまだいいが、死なせるわけにもいかないから提案したのさ。君たちも依頼を受けるなら注意をしなよ」
「子ども扱いするなってナッシュー。そんじゃまた後でな! 今日はいいもん食えそうだ」
「あ、待ってカーチス。プリメラさん、またね!」
「うん!」
三人が訓練場を立ち去り僕達も歩き出す。
夜まではまだ長いので一度休むのだろう。ギルドが用意してくれた宿は今日まで使えるけど明日からは自分たちでお金を払わないといけない。
少し考えていることがあるのでもう少し薬屋に間借りできないかとプリメラに提案したところで彼女が言う。
「……死んじゃった人のこと、話に出ないね」
「うん。僕達に伝えても仕方がないからだと思うよ」
「せめてお墓参りとか――」
「じいちゃんが言っていたけど、冒険者にそれは必要ないんだって。この仕事は危険だから自分で考えて選んだのなら仕方ないんだ。その前に死んじゃったのは残念だと思うけど」
「でも……」
それでもプリメラは俯いて言葉を詰まらせていた。
仕方がないこと……とはいえ、僕も襲撃者に対して考えないことが無いわけでもない。あの山は僕の家があるし、隠しているとはいえあそこを荒らされるのは困る。
だから――
「じゃあ僕が盗賊達を探して倒そうかな。なんだっけ『ヤミウチ』?」
「かたき討ち、でしょ? 危なくない……?」
「僕は強いから大丈夫だよ。でもプリメラは町で待ってて」
――僕は盗賊探索のメンバーに入れてもらうことに決めた。
「ああ、後は『これ』をいつ使うかだけだ、ある程度ヤツの言う人形は確保できたからな。どれも失敗作だが」
「ふ……くく、いいじゃない。楽しくなってきたわ」
――夜
山の中腹で町が見える場所から男女が並んで物騒な会話が繰り広げられる。
男には落胆が、女には愉悦が混じった調子の声色が風に流れていく。
あいにくの曇り空……暗闇に紛れたその姿は見えない。
含み笑いをする女へ、男はスキットルのキャップを外しながら尋ねる。
「ふん、そんなにあの娘が憎いか」
「……お互いの詮索をしないって約束よね? あんただってこんなことをやっているのをギルドに通報されたくないでしょ」
「まあな。完成に近づけるためにはもっと命が必要だ、失敗作と分かった時点で改造を施しているからあの町を壊滅に追いやるくらいには使える」
「悪い男ね」
「お前が言えたことか」
その言葉に『それもそうね』と肩を竦めて女は苦笑する。そこで男は酒を一口呷った後、思い出したように言う。
「ああ、そうだ。町を襲撃する時、ディンってヤツが町に居ない時にしてもらうぞ」
「……どうして?」
「……ここ最近の訓練を見ていたがあいつは強い。特に杖を持った時の魔法は強力だ。失敗の確率を下げるならそうした方がいい」
「それもそうね……いきなりCランクスタートでいいくらいだもの。わかったわ。旅に出ると言っていたけどいつになるか分からないし……まあ、チャンスはあるか――」
そう言うと女はこの場から離れていき、男は気配が遠ざかっていくのを感じ取りながら一人呟く。
「……あの子が生きていたらあれくらいの歳だったからな……取り返すんだ……絶対に――」
◆ ◇ ◆
「行くわよ、ディン」
「うん、いつでもいいよ」
――あれから数日。
訓練終了まで僅かとなった現在、僕とプリメラは訓練場で対峙していた。
いつものように彼女が僕に怒る……ということではなく対人相手の訓練だからだ。
魔法と近接両方の訓練は特に彼女にとって良かったようで、特に魔法の上達は目を見張るものがあった。
相反属性が使える点で素質はあるだろうと思っていたけど訓練によって魔法というものを理解してからは震えながらではなく、堂々と使えるようになったのは大きい。
じいちゃんは『魔法を使うことはさほど難しくない。重要なのは応用だ』とよく言っていた。
魔力を練るのは細心に、放つときは大胆にと僕に教えてくれていた時はそれを考えて使っていたことをプリメラに教えるとすんなり受け入れ、実践した結果でもある。
「<炎槍>!」
「<凍剣>」
プリメラの放った炎の槍が僕に飛んでくる。
ケガをしないように魔力を抑えているのは彼女の『やさしさ』というやつだと思う。
僕は手に生成した氷の剣でそれを振り払うと小規模の爆発音と共に相殺。
いつもならここで終わりだけど――
「隙あり……! <水射」
「おっと、それは当たらないよ」
「わ!? えい!」
爆発の隙を狙って水の雫を撃ち出してきたプリメラ。
だけど僕もその時点で身をかがめて前に出ていたため予測で放った魔法は当たらず、彼女の近くへと躍り出る。
プリメラからすると急に目の前に現れたように見えたのだろう、慌てた様子で木のダガーで突いてくるがそれをステップで回避しプリメラのお腹に軽く拳を当て決着がついた。
「あれ?」
だけど少しずれていたようで僕の手はプリメラの胸に当たった。
うん、これは――
「どさくさに紛れてどこ触ってるのよ! 相変わらずえっちなんだから……!!」
「ぐあ!?」
――やはりというかプリメラに平手打ちを受けて僕は大きくのけぞることになった。防具をつけていない女の子の胸は柔らかいのだと知る。
そこでマハーリさんが手を上げて口を開く。
「そこまでよ。うん、プリメラちゃんはいい感じね。あまり強くない動物系の魔物ならいい戦いができるところまではいっていると思うわ」
「あ、本当ですか? ありがとうございます!」
「でもゴブリンとかオークみたいな弱いけど魔族には気を付けないとね? 可愛い子はすぐ襲われてそれこそエッチなことをされちゃうわ。まだ処女ならディン君としておいた方がいいかもね」
「ななななななななな!? なんてこと言うんですかマハーリさん!! なんでディンと!」
「うふふ、冗談よ。でも、女の子の冒険者って男よりもそういう意味では危険だから強くなりなさい。……子供が出来たら妊娠中に戦いなんてできないからね」
「あ、はい……」
プリメラを見ながらそんなことを言い出すマハーリさんにプリメラが言葉を詰まらせてなんとか返事をする。
そうか、襲われて無理矢理セックスすれば子供が出来てしまう危険性があるのか。じいちゃんたちが倒した『魔族』と呼ばれる存在もまだ生き残っているって言ってたけど『そういうことをする』個体もいるのかもしれないのか。
講義やゲンさん達が僕とプリメラを見ながら『守ってあげなさい』と強く言ってくる理由が分かった気がするな。
そういえば僕ってついていることはついているけど、できるんだろうか?
「ま、それはディン君に任せるとして今日で訓練は終了よ! 夜はギルドの食堂で打ち上げをやるから参加しなさいね。ほらガーンズが呼んでいるわ」
「……」
「どうしたのディン?」
「ん、あれ? なんで僕プリメラと手を繋いでいるんだろ」
「知らないわよ……。まあいいや、行きましょう」
「そうだね」
プリメラが僕の手を引っ張って集合場所に向かい、ガーンズさんが今日でここでやる訓練は終了と話す。
ただし希望すれば手の空いている人間が居れば訓練に付き合ってくれるらしいので、依頼をこなしながら頼むことも可能。
「よう、ディン。今日から冒険者だな!」
「そうだね。カーチスは依頼を?」
「おう! って言いたいところだけど、もう少し訓練をするかもな。サラがまだ戦いに慣れてないし」
するとカーチスのパーティにいる、あまり喋らなかった男が二人の頭に手を置いて口を開く。
「……俺はまだいいが、死なせるわけにもいかないから提案したのさ。君たちも依頼を受けるなら注意をしなよ」
「子ども扱いするなってナッシュー。そんじゃまた後でな! 今日はいいもん食えそうだ」
「あ、待ってカーチス。プリメラさん、またね!」
「うん!」
三人が訓練場を立ち去り僕達も歩き出す。
夜まではまだ長いので一度休むのだろう。ギルドが用意してくれた宿は今日まで使えるけど明日からは自分たちでお金を払わないといけない。
少し考えていることがあるのでもう少し薬屋に間借りできないかとプリメラに提案したところで彼女が言う。
「……死んじゃった人のこと、話に出ないね」
「うん。僕達に伝えても仕方がないからだと思うよ」
「せめてお墓参りとか――」
「じいちゃんが言っていたけど、冒険者にそれは必要ないんだって。この仕事は危険だから自分で考えて選んだのなら仕方ないんだ。その前に死んじゃったのは残念だと思うけど」
「でも……」
それでもプリメラは俯いて言葉を詰まらせていた。
仕方がないこと……とはいえ、僕も襲撃者に対して考えないことが無いわけでもない。あの山は僕の家があるし、隠しているとはいえあそこを荒らされるのは困る。
だから――
「じゃあ僕が盗賊達を探して倒そうかな。なんだっけ『ヤミウチ』?」
「かたき討ち、でしょ? 危なくない……?」
「僕は強いから大丈夫だよ。でもプリメラは町で待ってて」
――僕は盗賊探索のメンバーに入れてもらうことに決めた。
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