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因縁渦巻く町

キノンの町

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 「キノンの町へようこそ。冒険者かな?」
 「ええ。これで分かりますか?」
 
 町の入り口で装備に身を固めた人間が兜のバイザーを上げながら尋ねてきたのでプリメラが首に下げたカードを見せて返答する。

 「二人ともか。お嬢さんの護衛をしているのかと思ったよ」
 「どうしてですか?」
 「ん? 服もいい素材みたいだし、装備もなにもつけていないからな。お前さんは魔法使いって感じだけど」
 「ま、まあ、この町で買うつもりだったんですよ。なりたてでよくわからなくて」
 「お、そうなのか? ま、ゆっくりしていきなよ……と言いたいところだけど、今はあんまりオススメはしないかな」
 「?」

 僕とプリメラが顔を見合わせて首をかしげていると、男が小声で周囲を気にしながら言う。

 「この町は領主様がおられるんだが、まあ評判の悪い方でな。やりたい放題なんだよ。で、そんなのを領主にしていられないと別の貴族が名乗りを上げてね。陛下に直訴をしたら、民の意見を聞いて決めるのだとか言い出して」

 簡単に言うと領地という住む土地の一番偉い人間が好き勝手してみんなが困っていた。で、一番偉い人間をもう一度町の人で決めようということになっている……らしい。

 「よくわからなかったけど大変なんだなあ」
 「よくわからないのに適当なこと言うと変なのに絡まれるわよ」
 「そう?」

 とりあえず次の町まではまだかかるし、一日くらいは泊っていこうと歩きながらさっきの話について話をしていると、

 「オリゴー党! オリゴー党をよろしくお願いいたします!」
 「いいや、今まで領地を築いてきたのはヒドゥン・グラニュー様だ!グラニュー党を支持するのだ! お、そこのカップル、ぜひグラニュー党に一票を」
 「今ここに来たばかりなのでそういうのはちょっとよくわからないです」
 「わからなくていいんだよ! とりあえず『はい』か『うん』って言っとけよガキが!」
 「失礼ね! 外から来た私達には関係ないでしょ、行こうディン」
 「そうだね。おじさんの息、臭いし」
 「なんだと……!」
 「こらぁそこ争うな!」
 「チッ、ずらかるぞ」

 僕達に絡んできた男が武装した男に怒鳴られて場を離れていく。その様子を口をへの字にしたプリメラが怒りながら言う。

 「ちゃんと警護団は仕事してほしいわね」
 「あの人間、警護団って名前なんだ」
 「人の名前じゃないからね? なるほどね……見ればあちこちで自分の支持する貴族のアピールをしているみたい。長居しない方がいいかも」

 プリメラが腰に手を当てて口を不満そうに曲げてそんなことを言う。確かにこの騒ぎで依頼という雰囲気でもなさそうだ。

 「貴族同士の争いって巻き込まれるともんのすごく面倒臭くなるのよ。なんか領主争いっぽいけど、こういうのって数が重要だからよそ者の私達を取り込んだりしたいと考えているはずよ」
 「そうなんだ。詳しいね、そういうことがあったのかい?」
 「あ! あー……叔父さん達と住んでいた町でそういうのがあったのですわよ」
 「ですわよ?」
 「うるさい! さ、宿へ行きましょ」

 乱暴に僕の手を取って荒い鼻息を出しながら歩き出す。特に返すことも無いので黙ってついていきながら周囲を確認すると、町中あちこちで『オリゴー党』と『グラニュー党』という声が響き渡っていた。

 聞いているとプリメラが言う通りどちらかの人間が『領主』というものになるために争っているらしい。
 それになんの意味があるのかわからないけど全員凄い顔で声を出し続けていた。

 「本人はいないのかな?」
 「……そうね、多分いないわ。貴族ってそういうものよ。色々タイプがあるけど、どっちかの貴族が悪い人なんじゃないかな? だから町の人に選ばせようとしているみたいだし」
 「自分のことなんだから自分でやればいいのに」
 「それが貴族ってやつなのよ。あ、ここ、いいじゃない」

 程なくして大きな建物に到着すると不機嫌だったプリメラがパッと笑う。ここならゆっくり休めると思ったのだろう。
 ここまでの道中は僕を捕まえるために手配されているかもしれないってことで彼女の案ということもありずっと野営をしていた。

 まあ料理ができず虫や魔物にいちいち悲鳴を上げたりするんだけどね。
 だけどプリメラはこんな僕と一緒に居てくれるので暇はしないし、彼女の目的が終わるか飽きるまで居てくれればいいと思う。

 「お二人様ですね。同じ部屋でよろしいでしょうか」
 「ええ、お金が勿体ないしそれで」
 「ま、今さらだしね」

 あの時、勢いで一緒に行くことになったので最初は同じテントに入るのも怖がっていたけど段々慣れてきたのと僕がなにもしないということで一緒に横になることができている。

 「寝相が悪いけど」
 「なんか言った?」
 「なにが?」
 「こっちが聞いているんだけど……」

 代金を支払い部屋に入るとプリメラの荷物を収納魔法から取り出して渡すと、ベッドに座り込んでから口を開く。

 「さて、とりあえずフライラッド王国に無事入れたからあんたへの追跡も無いでしょうね。とりあえずこれからどうするか考えましょうか」
 「そうだね。僕はギルドとかに行ってこれを見せようかなって思っているよ」

 そういって四人が映っている写真を見せる。
 僕は残りの三人、特にカレンさんを探すことを目的であることを告げるとプリメラが眉を動かして写真を見つめていた。

 「これは……」
 「どうかした? あ、これがじいちゃんの若いころでこっちの人間がカレンさん」
 「え、あ、そ、そうなの? で、このカレンさんって人がお爺さんの恋人だったから探したいってわけね」
 「そう」
 「でも同じ年くらいなら八十歳を越えているんでしょ? お爺さんは賢……薬草とかの知識が凄そうだから長生きできたけど流石に亡くなっているかもしれないわね……」
 「まあその可能性は十分にあるよね。基本的にはプリメラの両親探しでいいと思うよ」
 「うん、ありがと。私も見つかるかは怪しいけど……」

 少なくともプリメラが元居た国と僕が居た国では確認ができていないそうだ。
 その後も写真が気に入ったのか彼女はずっと見ていたけど、お腹の音で顔を隠して返してくれた。

 「お昼ご飯を食べたらギルドに行こうかな?」
 「うーん、この町では止めておかない? 領主を決めるんなら違う領の方がいいかもしれないわ」
 「そう?」

 とりあえずご飯を食べて考えようと提案して僕達は再び町中へと足を運ぶ。
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