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第四章:魔族領からの刺客
その69:ファムとザガム
しおりを挟む「ミーヤさん、行きますよ!」
「来るにゃ!」
「ファム、盾を意識しろ。ミーヤの動きは速いぞ」
「はい! こっち……!」
「ほう……やるにゃね……?」
「いいぞ」
「えへへ、やあ!」
「うにゃ!?」
庭でファムとミーヤの戦いを観戦しながら、時折指示を出す。
今日のファムは俺以外の相手と戦ってみる訓練を行っているのだが、手加減しているとはいえミーヤのスピードについていくので中々面白い。
さて、早いもので屋敷の宴とユースリアの訪問からすでに五日。
屋敷は相変わらず平和だが、あの日から訪問者が結構な頻度で来るようになった。
例えば今は――
「そのベッドいいわよね、どこで買ったの?」
「商店街の雑貨屋にあったのよ。好きなものを買っていいって言われたから」
庭の一角にはルーンベルと話すマイラが。
「イザール、このテーブルもうちょっといいのにならない?」
「かしこまりました」
「ユースリア様ぁ、お菓子食べますかぁ?」
「ファムちゃんの訓練が終わったら一緒に食べましょ」
花壇にはユースリアといった具合に、あちこちで来客がくつろいでいるのだ。
今日はザガートのパーティも休みらしく、ニコラはルックネスを探して邸内にいる。当の本人はレティとデートなんだそうだ。
それと夜になるとスパイクやクーリもやってくるので、この五日間で俺とファム、ルーンベルにだけになったのは依頼を受けた二日だけである。
資産を換金した分があるので金はある。
故に依頼はそれほど積極的ではないが、ファムのランク上げには必要だからやらないわけにもいかない。
幸い、ミーヤやメリーナという同性で強い者が来たのでファムは勉強になると思う。
「んぎぎ……」
「にゃにゃにゃ……」
「……ぷは!?」
「もらったにゃ!」
「わわわ!? 痛っ!? ま、まいりました……」
「そこまでだ。二人ともご苦労だったな」
激闘の末、ミーヤが押し切ってファムに勝利。手加減しているが、今のはなかなか肉薄していたな。
「ファム様はまだまだ体力をつけないといけませんみゃねー。私が動きまくるとそれについてくるのが精一杯でへとへとですにゃ」
「そうだな。明日から早朝のランニングを一緒にするか?」
「や、やります! ……最近独り占めできないからこういう時くらいは……!」
「ファム様は素直だにゃぁ……」
腕組みをしている俺の首にしがみついてため息を吐くファムに、ミーヤが困った顔で笑いながら木剣を肩に担ぐ。
「いいことだと思いますわぁ」
「わあ!? メリーナさん! ユースリアさんのところに居たんじゃ?」
「ザガム様にそんなにくっつけるファム様は特別なんですよぉ? わたしなんてホラ」
「……」
「あ、避けた」
メリーナが俺の腕に絡みつこうとしたので、スッと距離を取る。
「女性はダメだ」
「それだと私がそうじゃないみたいなんですけど……」
「ふふ、大丈夫。ファム様はちゃんと女の子ですよぉ。あ、そうそうユースリア様がお待ちだから呼びに来たんです」
「あ、お菓子? いきまーす♪」
「引っ張るな。お前達だけで行ってこい、代わりにイザールを呼んできてくれ」
「えー」
「ファム様以外には相変わらず女性に弱いにゃね」
「迷惑をかけていないから大丈夫だ」
ファムが不満げな声を出すが、俺はイザールと話をするため女性陣から離れる。
見ればルーンベルとマイラもグールのごとく、お菓子の匂いでユースリアのテーブルにフラフラと向かっていた。
「お呼びですか、ザガム様」
「ああ、すまないな。お前から見てファムはどうだ?」
「ファム様はとても良い娘でございますな。明るく優しいですし、とてもザガム様を好いております。勇者と聞いて最初は驚きましたが、結婚はいいと思いますぞ」
「……何故そんな話に?」
「ファム様のことをどうだと聞かれたからですが?」
俺は別段間違ったことは言っていない顔で首を傾げるイザール。
少し沈黙が流れた後、俺が先に口を開く。
「そうじゃない、ファムの勇者としての素養のことだ。年配の意見を聞きたい」
「ああ、そっちでしたか! それは失礼を……。ファム様はまだ未知数ですが、ユースリア様を吹き飛ばした力は間違いなく本物。恐らく大魔王様……いえ、メギストスを倒すキーにはなると思います」
「ムラがあることについては?」
「ルーンベル様がいうに感情で上下するようですが、なにかきっかけがあれば化けるのではないか、と」
なるほど、老齢のイザールから見ても能力はありそうならこのまま続けることに意味はありそうだな。しかしきっかけか……俺はチラリとファムの方を見る
(ザガムはいい子に育ってくれるといいけど、どうかしら)
「……っ!?」
「どうされました!?」
「なんでもない……」
ファムが楽し気に笑う姿に、また、俺の目の前で胸を貫かれた女性の姿が浮かび頭痛が走る。
今度は笑いかけてくれていた。だが、顔は靄がかかったようになっていて判明しない。
しかし確かに『ザガム』と言った。俺が知っている女性なのか……?
思考を巡らそうとしたその時だ――
「……! これは……」
「魔法陣、ですかな……? これほど巨大なものを空に描けるとは……」
何も無かった空は急に巨大な魔法陣に覆われて俺達は訝しむ。一応、ユースリアに目を向けても首を振ったので心当たりは無いらしい。空を飛んで調べてもいいが今は目立ちすぎる。
その後、注視してみるも特になにかが起こることは無く、不気味な魔法陣はそのままに、夜が訪れた――
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