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第六章:『神霊の園』
その108:蓋を開けてみれば
しおりを挟む「え? ユースリアさん帰ったんですか?」
「ああ、俺と話し終えた後に発った」
「……大魔王にさらわれないでしょうか……」
「ま、ユースリアさんなら大丈夫でしょ。それより私達よ」
ファムが心配そうにするが、ルーンベルがフォローをする。
あいつはユースリアが【王】であることを知っているから、問題としていないのだろう。
確かにどちらかと言えば『俺達の方』が危険度が高い。
「……」
「あれ? ほっかむりなんかしてどこに行くんですかイスラさん?」
「ぎくぅ!? は、離してファムちゃん! あんた達とはここでお別れです! 大魔王と戦うだなんてとんでもない! この施設の奪還は終わりました、もういいでしょう……わたしを自由にしてください……」
「まあ、漏らすくらいだし……」
「シャラップ!? 記憶から消しなさい!」
「ふむ。まあ、俺達のことを言いふらさなければ解放しても構わんぞ?」
俺が顎に手を当ててそう言うと、イスラは満面の笑みで手を握ってきた。
だが、この言葉にはもちろん後に続くものがある。
「言いふらすと体がバラバラになる呪いをかけて放逐するがな。ギルドでバラバラになると他の人間の迷惑になるが――」
「どこまでも着いていきますザガム様ぁ!!」
「そうか」
どうやらついてくるらしい。そこでファムが笑いだす。
「あはは、ザガムさんが冗談を言うのは珍しいですね!」
「いや、冗談じゃないぞ?」
「逆にタチが悪いけど……」
ため息を吐きながら苦笑するルーンベル。
俺は今後のことを踏まえて彼女に声をかける。
もうここに滞在して七日、そろそろ移動してもいい時期だと判断したからだ。
「ルーンベル、『神霊の園』はどうだ? お前やメリーナ達が居なくても大丈夫そうか?」
「あ、そうね。クラフィアート様に話をしに行きましょうか」
「そういえばメリーナやミーヤ達も休ませてやらないとな」
「そういうところは気が利くんですねえ……」
イスラが呆れたように口を開いていたが、部下は大切にしないといけないからな。
一人でなんでも出来るように鍛えられたがやはり限界はある。
この先、メギストスと戦うならなおのことだ。
それはともかく、俺達はイザールやメリーナ、ミーヤと合流。
「ああ……メリーナお姉さま、行ってしまうのですね……」
「是非わたしも連れて行ってください!」
「ミーヤさんのかっこよさに憧れます!!」
「素敵……」
「大人のおじさま……好み、です!」
「うふふ、わたしはザガム様のモノだからねぇ♪」
「かっこいいなんて照れるにゃあ」
「はっはっは、わたくしめのような老いぼれにご冗談を。もっといい人が見つかりますよ」
大人気だった。
「ここにルックネスさんが居たら女の子の大半はそっちに行ったかもしれませんね」
「なに? イケメン?」
「イスラさんも帰れば会えますよ! ザガムさんほどじゃないですけどかっこいいです!」
「うーん……ファムはザガム以外の男は芋と同じ扱いか。というかありがとうメリーナ、色々手伝ってくれて」
「大丈夫ですよぉ♪ ……ザガム様の手駒にするのにちょうどい……いえ、なんでもありませぇん♪」
「本当に大丈夫なの……?」
大半は元気になったらしい聖女見習いたちをその場に置き、俺達は聖女の下へ。
そういえばあのヘッベルとかいうやつがどうなったか気にしてなかったな。
そんなことを考えていると、聖女の居る部屋へと到着した。
「クラフィアート様、今よろしいですか?」
「どうぞ!」
元気な返答が返って来て、ルーンベルは扉を開ける。
中へ入るとそこには、お茶を嗜む聖女が柔らかに微笑んでいた。
「すみませんクラフィアート様、休憩されていましたか」
「大丈夫ですよ。丁度、見習いの子達のお話を聞いていたところですから。それで私になにか?」
「ああ、そろそろここも落ち着いたようだし帰ろうと思ってな」
「え!?」
俺の言葉に椅子から転げ落ちる。
そんなに驚くことだろうか?
「だってまだザガム様と子作りをしておりませんよ!? 逞しいナニで私の――」
「わー!? なに言い出すんですか!? ザガムさんはそういうの結婚するまでしないって言ってました! ちなみに私とルーンベルさんがお嫁さんです」
「あ、そうなんですね。では結婚しましょうザガム様!」
「どうしてそうなる。お前は聖女だろうが、国を支えなくてどうする」
「ザガム様の竿を支える方が……」
「嫁は間に合っている。悪いが結婚するつもりはない」
「うう……ならルーンベルさん、聖女代わって……」
「軽いなあ……」
なんかよく分からんが聖女を落ち着かせ、踏みとどまってくれた。
曰く、ヴァラキオンに憑かれていた時に俺のことを目を通して全部見ていて惚れたのだとのこと。
「うう……早く聖女を交代したい……」
「ならば早く育てることだな。女性だけで回せばそれなりに問題は減るだろう。もしくはこの施設を破棄して城下町に作るとかだな」
「コホン……そうですね、それについては進めています。そもそも私が魔族に操られさえしなければこんなことにはならなかったのですが……」
不意に真面目な表情を作り、聖女は俯く。
そういえばあいつのこと、もう少し思い出していないか聞いてみるか。
「ヴァラキオンは魔族らしいが、大魔王も見たことがないと言っていた。あいつはどこから来たんだ?」
「そのあたりは警戒してかなにも話していませんでしたね。ただ『復活』のためには女性が必要ということと、極北を気にしていたようですが」
「極北……?」
ファムが不思議そうに呟くが、それも無理はない。
極北は人の住まない荒れ果てた大地。
実態は不明で、俺達のような魔族でも近づくことが無いからだ。
そもそも、海も荒れていて空を飛ぶ以外に辿り着く方法が無いので、人間はなおのこと見ることのない大地だ。
「そこから来たとでも言うのか……?」
「わかりません。ただ、ヘッベルがどこかへ女性を売っていたらしいですが、消息は不明なんです。奴隷商人に売ったなら証明書があるはずですが」
「そういえばルーンベルさんの時もそうでしたね」
「ええ」
「ヘッベルは人間なのか?」
少し気になることを聞いてみたところ、聖女はにやりと笑って言う。
「ええ、彼は人間でしたね。他の男性と一緒におちん――」
「はいストップ!? 拷問にかけたんですねわかります! ……ってことはそのヴァラキオンってやつが全部知っていたってわけなので。なんで殺したの?」
「……メギストスのやつが殺した。あいつはなにかを知っている口ぶりだった」
「ということはやっぱり大魔王と戦うことが近道なんですかねえ……」
イスラが諦めたように言うが、それしかない。
結局、この『神霊の園』を魔族であるヤツが占拠した理由が不明のまま。
女が必要らしいが、どうしてなのか? 仲間は居るのか? そこが気になっている。
城下町に建設を勧めるのもそれが一つで、もしヴァラキオンに味方が居ればまたこの施設を掌握する可能性が高いからだ。
「まあ、そこは聖女である私がなんとかします。もし襲撃などがあれば連絡させていただきたいので、居場所だけ教えてくださいね」
「……直接来たりしないですよね?」
「……?」
ファムが怪しいと目を向けるが、聖女はニコニコと笑顔のまま首を傾げていた。
まあ、そういう訳でこの『神霊の園』を巡る戦いは終わった。
ルーンベルの暴走から始まった事件だったが、思いの外、進展と謎が残る、後味の悪いものとなった。
「帰りましょうか、ザガムさん!」
「……そうだな」
黒髪の女と大魔王は知り合いのようだが、やはり直接聞くしかないか。
後ろ髪惹かれる思いでグェラ神聖国を後にした。
聖女が大魔王と戦う際は協力するという言葉を残して。
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