死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~

八神 凪

文字の大きさ
16 / 48
ケース2:ドラゴン

3. 冒険者ギルドと出発準備

しおりを挟む

 「しゃーい……お、クリス様か? いよいよ冒険者に?」

 ギルドへ入ると開口一番、受付に居るひげのおっさんに呼び止められる。
 このおっさんは、ボルボ。ギルドマスターと言う奴らしいが、書類仕事が無い時はこうして入り口のカウンターに座って冒険者やお客さんと世間話をするという。

 「いや、両親に止められたからまだ保留だ」

 「なんだよ、面白くねぇ……クリス様の体なら盾として重宝するんだがなあ」

 一応領主の息子なんだが、それを盾にするってすげぇな。まあ分かるけど。

 「で、今日は何の用なんだ?」

 「何かグレイス山にドラゴンがやってきたらしいじゃないか。ちょっと行ってみようと思ってな。必要な道具とかアイテム……被ってるな、食料は必要か、とか山頂までどれくらいかかるかとか、地図とか楽な道とか無いかなと思って」

 「欲張りだな……そうだなあ、山頂までは麓から休みながら7、8時間ってとこだな。あの山はそんなに高くないが夕方とかに登り始めるならキャンプは必要だ。魔物はそれなり……とはいってもこの辺よりは確実に強い。クレイジージャッカルは菌を持ってるから噛まれたら……ああ、クリス様にゃ関係ないか……」

 ふむふむ、俺は次々とメモをしていく。

 「後、どっかにオークの集落があるらしいぜ。気をつけないとさらわれて……いや、これも心配ないか」

 俺は魔物より危ない奴みたいで嫌な感じだな……。とりあえずオークもゴブリンと同じく知性があるため魔物としてのランクは動物系より高い。会わないに越したことは無いので、注意して進もう。

 「サンキュ、助かるよ」

 「冒険者の護衛とか雇わねぇか? クリス様なら余裕だろ。金儲けさせてやってくれると助かるんだが……」

 あー毛皮回収とかなら頼むんだけどなあ……ドラゴンだし、もし期待通り俺が死んじゃったら冒険者のせいになるのでそれはちょっと可哀相だ。

 「ドラゴンがどんなヤツかも分からないし、今回は悪いけど無しで頼むよ。今度埋め合わせするから」

 ボルボさんは「絶対だぞ」と言い放ち、俺を見送ってくれた。

 帰り道、リカルド商店という道具屋へ山登り道具を買うため足を運ぶ。
 
 ちなみにリカルド商店は息子と二人で切り盛りしている、普通の道具屋だなのだが、その昔、経営不振で無理をした奥さんが病気で倒れたらしいが、息子が冒険者になって治療する薬を見つけて来たと言うのだから泣かせる話だ。
 親父さんのリカルドは最初反対していたらしいけど、壮絶な親子げんかの末に息子さんは出て行ったとか。

 数年して、いよいよ店も奥さんも危うい所に息子さんが帰ってきて冒険者として稼いだお金、薬、そして商売のノウハウを持って帰り今に至り、仲良く親子で商売が続けられているんだとか。

 「リカルドさんの店はちょっと高いけど品質は間違いないから、冒険者の道具買うならここだよな」

 リュックにザイル、登山ブーツに手袋やロープなどを買い、これで完璧とホクホクしていたら、おまけでポーションをもらった。俺には必要ないが何かの役に立つかもしれない。

 ---------------------------------------------------


 そして家へ帰ると、フィアが出迎えてくれた。

 「あ!?」

 ちょっとうきうきオーラを出しているフィアの顔見て思い出す。

 「すまん、ケーキ……忘れた……」

 「ガーン(た、楽しみにしていたのに……ううん、でも元々ついでだったじゃない。クリス様は悪くないわ! でも、くすん……残念)」

 口でガーンと表現するくらいショックだったのだ。俺は反省したが、今から町に戻っても売り切れているに違いない。別の日に買ってくると約束して事なきを得た。


 その夜、夕飯時に俺は話を切り出した。

 「明後日からちょっと山へ行ってくるよ」

 すると母さん

 「最近外に出てるわね、いいことだわ。次は何を作るのかしら? 楽しみだわ」
 別にニートについて言及している訳ではないだろうが、心が痛い。
 で、また何か思いつくと考えているようで、あっさりOKがもらえた。

 「クリスのおかげでお金は困らないが使い道が無いな……何か人を使って給料にできるようなアイデアが欲しいなあ父さん」

 チラチラっと俺を見ながらシチューを食べる父さん。元々貴族だからね、仕方ないね。
 ドラゴンの所で死ぬ予定の俺は父さんをスルーした。

 「あれ!?」
 
 「海の次は山かい、クリスは忙しいね。一人で行くのかい?」

 「もちろんわたくしが……!」

 「行かせないよ? 俺一人で行くよ、今度のは旅行じゃないし」

 アモルがガーンとなり、ウェイクもガーンとなっていた。流石双子だ。

 「何しに行くの?」

 すぐに復帰したウェイクに目的を尋ねられ、そういえばと考える。バカ正直にドラゴンに会いに行くなどと言えば確実に止められること必死。

 「あ、ああ。キノコの研究にちょっとな。薬屋に行く機会があったんだけど、キノコって薬にするだろ? 何か新種でもないか気になってな……」

 嘘にはホントの事を混ぜるとばれにくい。そんな話を思い出しながら、説明しウェイクも他の家族も納得してくれた。

 「これがまた新しい開発になるのよねきっと……! お金は別に要らないけどクリスの作るモノは楽しみにしてるわよ」

 母さんは欲が無いので、化粧もほどほど、宝石の類も欲しがらない。逆に言えば誕生日とかで欲しいものが分からないので困るくらいだ。だいたいアニメとかラノベの貴族ってわがままだったり見栄っ張りだったりするもんだけどな……。

 「くっ……お、お兄様。どれくらい家を空けるのですか?」

 「ん? まあ、2、3日くらいかな?」
 もしかすると永久に帰らないかもしれないが。

 「んほう!? 3日!? 3日も会えないなんてひどすぎますわ!? やはりわたくしも着いて……」

 「お前は学校があるだろうが。元気なのに休んじゃう子はお兄ちゃん好きじゃないなあ」

 「ふふ、わたくしが学校を休むわけありませんわ。(うう、残念ですが嫌われたくありませんし、我慢を!)」

 
 とまあ、いつもどおりアモルが少しわがままを言ったが、今回はすんなり話が通り一人で旅立つことになった。
 冒険者にならなくても、旅行って言っておけば色々行けるんじゃないかと気づけたのは僥倖だ。

 そしてオルコスが静かな今の内に計画を進めねばうるさいからな。 

 だが、俺は山に登り始めた早々にとんでもないモノと遭遇することになる。
 


 ---------------------------------------------------



 ドラゴンに会うためいよいよ山を登り始めるクリス。

 途中で出会ったモノの正体とは?

 そして、本当にドラゴンは居るのだろうか。

 次回『困惑するオーク』

 ご期待ください。

 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。予めご了承ください。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

処理中です...