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ラストケース:全ての決着
2. セルナの決断
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ガラガラと大型の馬車を揺らしながら俺は父さんと母さんと共にセルナさんを迎えに行っている最中だ。挨拶なので、兄妹とクロミア、フィアは連れてきていないが、代わりにデューク兄さんと奥さんのアンジュさんに残ってもらっている。
で、この馬車内では軽い詰問が始まっていた……。
「フィアとクロミアちゃんから話は聞いたよ。やっぱりなあとしか言えないけど、クリスはどうしたいんだい?」
「私は二人も好きだし、貰っちゃえばいいと思うけど」
「一応、俺の前世だと一夫一妻だったから複数嫁を貰う事には抵抗があるかなあ。それはセルナさんも同じだと思うよ? だから……」
俺がそう言うと、母さんが俺の肩をバンバン叩きながら笑っていた。
「あっはははは! いいじゃない、前世がどうでも今はこの世界の住人でしょ? お金もあるし、後は甲斐性があればいい訳でしょ?」
「じゃあどうして母さん達は他に居ないんだよ……」
「そりゃママ以上の相手が居なかったからねぇ」
ふふんとネクタイを直しながらドヤ顔でそんな事を言う父さんが珍しくイラっと見えた。
「ま、どっちにせよセルナさん次第だよ。嫌だったら諦めてもらう。それでいいだろ」
「そうねー折角だから孫は一杯ほしいけど……」
残念そうに母さんが言う。
ふう、と俺はため息を吐いて窓の外へと目を移す。もうすぐ俺の屋敷もできるらしいし、セルナさんとそっちへ行ってしまえば口を出すこともないだろう。
やがて温泉街の湯けむりが見えはじめ、そろそろ俺は覚悟を決める。
◆ ◇ ◆
「こんにちは」
宿『パーチ』の玄関をくぐり、声をかけるとセルナさんの親父さん、カルワンドさんがバタバタとでてきて挨拶をしてくれた。
「おお! クリス様! 遠いところわざわざありがとうございます! ……この度はセルナを貰って頂き本当に……」
「はは、セルナさんなら大歓迎ですよ。それで、そのセルナさんは?」
「今は紹介してくれたグエラ夫妻とティンダさんに最後の引き継ぎをしています。グエラさん達も本当に良い人で……」
「改装もうまく行ったようだし、良かった良かった」
ボロボロだった宿を父さんと俺の資金から改装を行い、外見は変えずに中を今風にかえた。それに伴い、仕事を探していたグエラさんという30代半ばの夫婦にここを紹介した。
繋がりはかなり前に別の領地(ヨード達が酷い目にあわされたやべーやつがいるところな)から流れてきた所で、ゴブリン山に行き倒れていたのが切っ掛けで、ウチの庭師をしてもらっていたんだけど、どうかなと思って声をかけたら二つ返事でOKしてくれた。
「クリス様のご期待にかならずや!」
うん、軍隊じゃないから……。
で、もう一人のティンダさんは酒場で働いていた人で、父さんと母さんが是非にと誘ったらしい。人柄はいいが、粗野なので良い人に恵まれないままいい歳になり、ゆっくり遠くで暮らしたいと言っていたのを思い出したそうな。
「温泉街にある宿で働かない? 温泉はタダだし、美味しいもの食べられるよ」
「あたしが? 接客には向いてないけどねぇ……」
「変なお客さんとかも来るからティンダくらいがいいのよーいざとなったら私が行くから、どう?」
「シャルロッテ様にそう言われたら断れないじゃないか……」
と、少し前にこの宿に送り込んで実地をしてもらっていたのだ。そんなこんなで、ティンダさんがセルナさんを連れてロビーへ戻ってくる。
「あ、クリスさん!」
テテテ、とかけてくるドストライクの見た目をしたセルナさん。俺は笑いながら手を上げて挨拶をし、ティンダさんは親父さんの所へ行く。
「カルワンドさん、もうばっちりだよ! 娘さんが居なくなってもあたしがしっかり切り盛りしてやるからね!」
「はは、頼もしい。そろそろ営業再開だし、宜しくお願いしますよ」
ニコッと笑いかけると、ティンダさんが顔を赤くしてうつむいた。ありゃ、意外。ま、そういう事もあるかと、思いセルナさんに向き直る。
「約束通り迎えに来たよ。その、これからよろしく頼むよ」
「はい! クリスさんに恥をかかせないようお母様に色々教えてもらいますね!」
「お母様……! アンジュの時も聞いたけど、ちょっと感動するわね……。もうバッチリよ! 私も貴族の暮らしに苦労したけど、あなたならできるわ!」
なぜ熱血なのか? 格闘家だからなのか?
とりあえず母さんとうまくやれそうなのでホッとする。
「今日はお泊りに?」
「ええ、最後の親子の夜になりますしね。あ、もちろん里帰りはさせてもらいますから!」
「ははは、ありがとうございます。次は孫を抱いて戻ってくる事を期待していますよ」
「も、もうお父さん! そ、それじゃまた後で!」
「あ、うん」
まだグエラ夫妻に教える事があるとセルナさんが戻って行く。あまり意識しないようにしていたけど……やっぱりドストライクだわ。
金持ちに産まれて、理解があって好みのある嫁をもらうとかラッキーだな……。
やはりオルコスが居なければこの生活に全く不満は無いな。
嫁ももらってしまったし、死ぬのを追及するのもこれで終わりか……結婚はもう少し後になるかしないつもりだったんだけどなあ。そもそも死んでやるつもりだったし……どうしてこうなったのだろう……。
「さ、それじゃ私達も部屋へ行きましょう」
「こっちですよ!」
「あいよっと」
ま、幸せである事はいいことだ、独身最後の夜を満喫しますかね。
そして、その夜――
「ふう、気持ち良かった……」
温泉から出た俺はロビーでくつろいでいた。
「はい、冷たいジュースですよ!」
「ひぇ!?」
俺の首筋に冷えたグラスを当てられて俺は変な声をあげる。
「ふふ、びっくりしすぎですよー? はい」
「あ、ああ、ありがとう。ん、美味い」
ジュースを飲む俺をニコニコしながら見ていることに気づき、尋ねてみる。
「どうしたんだ? 嬉しそうだけど」
「えへへ、それは嬉しいですよ! 結婚ですよ! ちょっと年齢的に早いかと思いますけど、この世界だと珍しくないですしね。それに……クリスさん……ううん、真さんと結婚できるなんて思ってなかったから……」
真。
俺の前世での名前。この世界に来る前にあの世で月菜さんに自己紹介し、この世界に来たときに失った名前……。
それをどうして今だしたのか?
「何で? って顔をしてますね。実を言うとあの世で会ったのが初めてじゃないんです。きっと覚えていないと思うけど――」
曰く、会社でしつこく言い寄ってくる男が居たらしい。
ある日、その男と資料室で資料整理をする事になったがその時に襲われかけた。しかし徹夜連勤常習で資料室を寝床にしていた俺がその騒ぎで目が覚め、怒鳴り散らしてその男を蹴散らしたことがあったそうな。
「おかげで襲われずに済みましたし、その人の事を上司に告げてクビに……で、あんなところで寝ている人ってどんな人なんだろう? って興味が湧いて色々調べたんですよね」
「……そうだったのか。確かになんか騒がしくてめちゃくちゃ怒った記憶がある」
「ふふ、調べていたら徹夜はしょっちゅうで、いつも不機嫌そうな顔をしている有名人……でも、本当は他の人の仕事を変わって徹夜していたんですよね」
「……古い話だよ」
「この人は優しいんだな、って思ってずっと話す機会を狙っていたんですよ?」
で、あの世でバッティングか。
「奇妙な縁だな……」
「でも、本当に嬉しいです。話してみて、攫われて、助けに来てくれて……思った通りの人でした!」
「そう言われると恥ずかしいけど……ま、俺もセルナさんで良かったよ」
「セルナ、でいいですよ。もう結婚するんですから」
屈託なく笑うセルナに、俺は一つ告げる必要がある事を思い出す。
「……一ついいか?」
「ん? なんですか?」
「セルナも知っていると思うけどクロミア、そしてフィアというメイドも俺と結婚したいと言って聞かないんだ、でももう俺にはセルナがいる。セルナも「いいですよ」嫌だ……え?」
い、今いいですよって言った?
「クロミアちゃんとフィアさんですよね! クロミアちゃんは私を助けに来てくれたあの子ですよね? フィアさんはあの美人さん……この世界の貴族は奥さんが何人いても問題ないし、命の恩人と同じ人が好きってなんかいいですよね!」
「あ、えっと、いいの、か?」
「はい!」
マジか!? まさかOKだとは思わなかった!?
う、うーん……フィアは確かに性格はあれだけど美人だし、クロミアは可愛い。で、重婚も問題なし……お姉さん、幼馴染、ロリっ子(ただしドラゴン)をまとめてゲットだぜ?
「わ、分かった。それじゃ……よろしく頼む」
「はい……」
俺達は身を寄せ合い、月明かりの下でキスをするのだった。
◆ ◇ ◆
「あ、え、っと、いいの、か?」
そう言って私の大好きな人が冷や汗をかきながら後ずさる。ふふ、そりゃそうよね、まさかクロミアちゃんとフィアさん……フィアの結婚を私が許すとは思っていなかった、そんな顔だ。
実はこれには訳があって――
「頼む! お主からもクリスに言ってくれ! わらわもあやつが好きなのじゃ!」
「わ、私からもお願いします……! あの人以外の子を作るのは嫌で、す」
「え、ええー……」
クリスさん達が帰ってから数日、二人は毎日私の所へ来て頭を下げていたのです。クロミアちゃんはドラゴンなので、この距離を日帰りするのは問題なかったからだ。
複数人と結婚するのは法律で問題ないのは知っていたけど、まさか私がそうなるとは……でもクリスさん優しいからこうなるよね。
でも断っていたのがクリスさんらしいかな? 普通の男性なら喜んで迎えるでしょうし。
それで二人の事をもっとよく知りたいということで数日一緒に過ごしていたのだった。結果、最初は警戒していたフィアも打ち解け、クロミアちゃんはいわずもがな、その人懐っこさで私達はすぐ仲良くなった。
クリスさんにもずっと言ってたらしいけど、ダメだったから最後は私に委ねられたという訳だ。
――そして、私は二人を受け入れた。
いいじゃない、この世界のルールで問題ないなら!
これからの暮らしは幸せでありますように……。
私はこの世界のお母さんに、見守ってくださいとお願いをした。
---------------------------------------------------
結婚問題が片付き、いよいよ終局への幕があがる。
このままクリスは穏やかに一生を遂げる事ができるのか?
そして、オルコスはどうなってしまうのか。
次回『完成! 完全変形クリスの新居』
ご期待ください。
※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。
で、この馬車内では軽い詰問が始まっていた……。
「フィアとクロミアちゃんから話は聞いたよ。やっぱりなあとしか言えないけど、クリスはどうしたいんだい?」
「私は二人も好きだし、貰っちゃえばいいと思うけど」
「一応、俺の前世だと一夫一妻だったから複数嫁を貰う事には抵抗があるかなあ。それはセルナさんも同じだと思うよ? だから……」
俺がそう言うと、母さんが俺の肩をバンバン叩きながら笑っていた。
「あっはははは! いいじゃない、前世がどうでも今はこの世界の住人でしょ? お金もあるし、後は甲斐性があればいい訳でしょ?」
「じゃあどうして母さん達は他に居ないんだよ……」
「そりゃママ以上の相手が居なかったからねぇ」
ふふんとネクタイを直しながらドヤ顔でそんな事を言う父さんが珍しくイラっと見えた。
「ま、どっちにせよセルナさん次第だよ。嫌だったら諦めてもらう。それでいいだろ」
「そうねー折角だから孫は一杯ほしいけど……」
残念そうに母さんが言う。
ふう、と俺はため息を吐いて窓の外へと目を移す。もうすぐ俺の屋敷もできるらしいし、セルナさんとそっちへ行ってしまえば口を出すこともないだろう。
やがて温泉街の湯けむりが見えはじめ、そろそろ俺は覚悟を決める。
◆ ◇ ◆
「こんにちは」
宿『パーチ』の玄関をくぐり、声をかけるとセルナさんの親父さん、カルワンドさんがバタバタとでてきて挨拶をしてくれた。
「おお! クリス様! 遠いところわざわざありがとうございます! ……この度はセルナを貰って頂き本当に……」
「はは、セルナさんなら大歓迎ですよ。それで、そのセルナさんは?」
「今は紹介してくれたグエラ夫妻とティンダさんに最後の引き継ぎをしています。グエラさん達も本当に良い人で……」
「改装もうまく行ったようだし、良かった良かった」
ボロボロだった宿を父さんと俺の資金から改装を行い、外見は変えずに中を今風にかえた。それに伴い、仕事を探していたグエラさんという30代半ばの夫婦にここを紹介した。
繋がりはかなり前に別の領地(ヨード達が酷い目にあわされたやべーやつがいるところな)から流れてきた所で、ゴブリン山に行き倒れていたのが切っ掛けで、ウチの庭師をしてもらっていたんだけど、どうかなと思って声をかけたら二つ返事でOKしてくれた。
「クリス様のご期待にかならずや!」
うん、軍隊じゃないから……。
で、もう一人のティンダさんは酒場で働いていた人で、父さんと母さんが是非にと誘ったらしい。人柄はいいが、粗野なので良い人に恵まれないままいい歳になり、ゆっくり遠くで暮らしたいと言っていたのを思い出したそうな。
「温泉街にある宿で働かない? 温泉はタダだし、美味しいもの食べられるよ」
「あたしが? 接客には向いてないけどねぇ……」
「変なお客さんとかも来るからティンダくらいがいいのよーいざとなったら私が行くから、どう?」
「シャルロッテ様にそう言われたら断れないじゃないか……」
と、少し前にこの宿に送り込んで実地をしてもらっていたのだ。そんなこんなで、ティンダさんがセルナさんを連れてロビーへ戻ってくる。
「あ、クリスさん!」
テテテ、とかけてくるドストライクの見た目をしたセルナさん。俺は笑いながら手を上げて挨拶をし、ティンダさんは親父さんの所へ行く。
「カルワンドさん、もうばっちりだよ! 娘さんが居なくなってもあたしがしっかり切り盛りしてやるからね!」
「はは、頼もしい。そろそろ営業再開だし、宜しくお願いしますよ」
ニコッと笑いかけると、ティンダさんが顔を赤くしてうつむいた。ありゃ、意外。ま、そういう事もあるかと、思いセルナさんに向き直る。
「約束通り迎えに来たよ。その、これからよろしく頼むよ」
「はい! クリスさんに恥をかかせないようお母様に色々教えてもらいますね!」
「お母様……! アンジュの時も聞いたけど、ちょっと感動するわね……。もうバッチリよ! 私も貴族の暮らしに苦労したけど、あなたならできるわ!」
なぜ熱血なのか? 格闘家だからなのか?
とりあえず母さんとうまくやれそうなのでホッとする。
「今日はお泊りに?」
「ええ、最後の親子の夜になりますしね。あ、もちろん里帰りはさせてもらいますから!」
「ははは、ありがとうございます。次は孫を抱いて戻ってくる事を期待していますよ」
「も、もうお父さん! そ、それじゃまた後で!」
「あ、うん」
まだグエラ夫妻に教える事があるとセルナさんが戻って行く。あまり意識しないようにしていたけど……やっぱりドストライクだわ。
金持ちに産まれて、理解があって好みのある嫁をもらうとかラッキーだな……。
やはりオルコスが居なければこの生活に全く不満は無いな。
嫁ももらってしまったし、死ぬのを追及するのもこれで終わりか……結婚はもう少し後になるかしないつもりだったんだけどなあ。そもそも死んでやるつもりだったし……どうしてこうなったのだろう……。
「さ、それじゃ私達も部屋へ行きましょう」
「こっちですよ!」
「あいよっと」
ま、幸せである事はいいことだ、独身最後の夜を満喫しますかね。
そして、その夜――
「ふう、気持ち良かった……」
温泉から出た俺はロビーでくつろいでいた。
「はい、冷たいジュースですよ!」
「ひぇ!?」
俺の首筋に冷えたグラスを当てられて俺は変な声をあげる。
「ふふ、びっくりしすぎですよー? はい」
「あ、ああ、ありがとう。ん、美味い」
ジュースを飲む俺をニコニコしながら見ていることに気づき、尋ねてみる。
「どうしたんだ? 嬉しそうだけど」
「えへへ、それは嬉しいですよ! 結婚ですよ! ちょっと年齢的に早いかと思いますけど、この世界だと珍しくないですしね。それに……クリスさん……ううん、真さんと結婚できるなんて思ってなかったから……」
真。
俺の前世での名前。この世界に来る前にあの世で月菜さんに自己紹介し、この世界に来たときに失った名前……。
それをどうして今だしたのか?
「何で? って顔をしてますね。実を言うとあの世で会ったのが初めてじゃないんです。きっと覚えていないと思うけど――」
曰く、会社でしつこく言い寄ってくる男が居たらしい。
ある日、その男と資料室で資料整理をする事になったがその時に襲われかけた。しかし徹夜連勤常習で資料室を寝床にしていた俺がその騒ぎで目が覚め、怒鳴り散らしてその男を蹴散らしたことがあったそうな。
「おかげで襲われずに済みましたし、その人の事を上司に告げてクビに……で、あんなところで寝ている人ってどんな人なんだろう? って興味が湧いて色々調べたんですよね」
「……そうだったのか。確かになんか騒がしくてめちゃくちゃ怒った記憶がある」
「ふふ、調べていたら徹夜はしょっちゅうで、いつも不機嫌そうな顔をしている有名人……でも、本当は他の人の仕事を変わって徹夜していたんですよね」
「……古い話だよ」
「この人は優しいんだな、って思ってずっと話す機会を狙っていたんですよ?」
で、あの世でバッティングか。
「奇妙な縁だな……」
「でも、本当に嬉しいです。話してみて、攫われて、助けに来てくれて……思った通りの人でした!」
「そう言われると恥ずかしいけど……ま、俺もセルナさんで良かったよ」
「セルナ、でいいですよ。もう結婚するんですから」
屈託なく笑うセルナに、俺は一つ告げる必要がある事を思い出す。
「……一ついいか?」
「ん? なんですか?」
「セルナも知っていると思うけどクロミア、そしてフィアというメイドも俺と結婚したいと言って聞かないんだ、でももう俺にはセルナがいる。セルナも「いいですよ」嫌だ……え?」
い、今いいですよって言った?
「クロミアちゃんとフィアさんですよね! クロミアちゃんは私を助けに来てくれたあの子ですよね? フィアさんはあの美人さん……この世界の貴族は奥さんが何人いても問題ないし、命の恩人と同じ人が好きってなんかいいですよね!」
「あ、えっと、いいの、か?」
「はい!」
マジか!? まさかOKだとは思わなかった!?
う、うーん……フィアは確かに性格はあれだけど美人だし、クロミアは可愛い。で、重婚も問題なし……お姉さん、幼馴染、ロリっ子(ただしドラゴン)をまとめてゲットだぜ?
「わ、分かった。それじゃ……よろしく頼む」
「はい……」
俺達は身を寄せ合い、月明かりの下でキスをするのだった。
◆ ◇ ◆
「あ、え、っと、いいの、か?」
そう言って私の大好きな人が冷や汗をかきながら後ずさる。ふふ、そりゃそうよね、まさかクロミアちゃんとフィアさん……フィアの結婚を私が許すとは思っていなかった、そんな顔だ。
実はこれには訳があって――
「頼む! お主からもクリスに言ってくれ! わらわもあやつが好きなのじゃ!」
「わ、私からもお願いします……! あの人以外の子を作るのは嫌で、す」
「え、ええー……」
クリスさん達が帰ってから数日、二人は毎日私の所へ来て頭を下げていたのです。クロミアちゃんはドラゴンなので、この距離を日帰りするのは問題なかったからだ。
複数人と結婚するのは法律で問題ないのは知っていたけど、まさか私がそうなるとは……でもクリスさん優しいからこうなるよね。
でも断っていたのがクリスさんらしいかな? 普通の男性なら喜んで迎えるでしょうし。
それで二人の事をもっとよく知りたいということで数日一緒に過ごしていたのだった。結果、最初は警戒していたフィアも打ち解け、クロミアちゃんはいわずもがな、その人懐っこさで私達はすぐ仲良くなった。
クリスさんにもずっと言ってたらしいけど、ダメだったから最後は私に委ねられたという訳だ。
――そして、私は二人を受け入れた。
いいじゃない、この世界のルールで問題ないなら!
これからの暮らしは幸せでありますように……。
私はこの世界のお母さんに、見守ってくださいとお願いをした。
---------------------------------------------------
結婚問題が片付き、いよいよ終局への幕があがる。
このままクリスは穏やかに一生を遂げる事ができるのか?
そして、オルコスはどうなってしまうのか。
次回『完成! 完全変形クリスの新居』
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※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。
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