43 / 48
ラストケース:全ての決着
3. 新生活応援キャンペーン!
しおりを挟む「あなたー、これはどうするのー?」
「足こぎボートの設計図か……一応持っていくか」
「あの海岸にあったアレ? ってことはドミンゴさんが作ったんでしょうね」
「察しがいいな……」
――とまあそんな感じで和やかにやっているが、セルナを家に迎えてからすでに半年が経過していた。そしていよいよ俺専用の屋敷ができたので、その引っ越し準備の最中という訳だ。
ちなみにすでに終えた結婚式はセルナにクロミア、フィアと行って皆が祝福してくれた。もちろんゴブリンやオーク達も出席してくれ、これで山は生涯平和になるなどと訳の分からんことを言われた。死なないけど不老ではないんだが。
そしてもちろんタダで終わらず、駆けつけてきたのは……クロミアのお母さんに絡まれた。
『お主がクロミアの旦那になるという男じゃな? 私が認めねばクロミアはやれん!』
「む、クロミアのお母さんか、俺はクリス。今日からクロミアも俺の嫁になった、宜しく頼む」
『ぬぬう……いけしゃあしゃあと、わらわの所に挨拶に来たときは冗談かと思うておったが……しかも妾とは馬鹿にされたものじゃ』
「妾とはいってもちゃんとセルナと同じ扱いにする。安心してくれ」
『いーや! やはり嫁にはやれん……! じゃが、わらわもドラゴン。むやみに引き離してはクロミアに恨まれるであろう……じゃからわらわの一撃……耐えることができたら考えを改めても良い!』
「は、母上! ダメじゃクリスは……!」
『よく見ておくのじゃクロミアよ! 人間とはひ弱な生き物。わらわ達と一緒に生きるには脆い生き物じゃということを! ……安心せい、殺しはせぬ……! せい!』
「きゃあああああ! クリスさぁぁぁぁん!」
ドラゴンに変身したお母さんが、出席客が逃げ惑う中、俺に拳を振り降ろしてきた。確かに並の人間ならこれを受けたら手加減されていてもほぼ死ぬことは請け合いだが……。
ガツゥゥゥン!
まるで鋼鉄を殴ったかのような音が響き渡り、お母さんの動きが止まる。そしてニヤリと口を歪ませた後、ボソッと呟いた。
『かったぁ……』
しおしおとクロミア似の黒髪をした美人さんの姿になり、その顔は涙目だった。
「だからダメじゃと言ったのじゃ! わらわが全力攻撃してもまったく歯が立たなかったと説明したのに……」
『そ、そうじゃったかのう……し、しかし人の子でありながらわらわの山をも砕く一撃を受けるとは見事よ! これは孫が楽しみじゃて! 邪魔したな、いつでも遊びに来てくれ、クロミアをたーのーむーぞー……』
それだけ言うと豪快に笑いながら一瞬で飛び立ち、豆みたいに小さくなっていった。嵐のような人だったな……もう少し話したかったのに……。
「も、もう母上は……」
純白のドレスの裾を掴んでもじもじしているクロミアを尻目に観客も騒いでいた。
「すげえ! 流石はクリス様! ドラゴンの一撃を耐えたぜ!」
「ああ……恐ろしい人を主にもったな我等は。だが、だからこそ仕えるに値すると思わんか?」
ニック……俺が恐ろしいってそんなこと思ってたのか……。
とか色々あったけど結婚式はクロミアのお母さんの乱入以外は何とか無事に幕を閉じた。
その後は俺の屋敷ができるまで実家で花嫁修業! ……とはならず、宿の運営をしていたからむしろセルナの家事は、メイドのフィアとほぼ同レベルなのでその必要は無かった。
母さんも元は貴族じゃなかったらしいけど、武王時代が長かったので野趣あふれる料理(まずくない、むしろ美味い)くらいしかできないので、ここはセルナの圧勝であった。
だが結婚後はこんなこともあった……
「うう……」
「クロミアちゃん、猫の手ですよ! こう!」
「こ、こうか!」
「ああ!? また……」
ビシュっと指を包丁で切るクロミアを見てオロオロするセルナだが、クロミアの皮膚は人型でも包丁程度ではなんともない。
とはいえ慣れの問題はあるだろうけど……。
「クリス様……(クロミアはどうですか? 新居には私達だけと聞いていますからクロミアも料理ができなければいけませんし……)」
「ん? フィアか、まああまり進展はないよ。そもそもドラゴンだし、そのまま食べるか出された料理しか食べる事がないからな……俺としてはお前かセルナが作ればいいと思ってたけどスパルタだったんだな」
最近は一言でもフィアが何を言っているのか何となくわかるようになってきた。そのフィアとクロミアは『やはり旦那さんには手料理!』と言いだしてクロミアの特訓が始まったのである。
というかクロミアの好きな食べ物は魚肉ソーセージだし、料理とは無縁だもんな。
結果は……察してくれ。
――と、箱に荷物を詰めながら物思いにふけっていると、部屋にクロミアとフィアがやってくる。
「クリスー! いよいよ明日じゃな!」
「楽しみ……(四人での新しい生活ですね!)」
「お、どうしたテンション高いな。準備はもう大丈夫なのか?」
「うむ! わらわはそもそも荷物が無かったからクリス母上からもらった服だけじゃ!」
そういや山暮らしだったし、ウチに遊びに来ていた時も何も持ってなかったな。服は母さんが買ってあげていたし。
「フィアは?」
「終わり……(私も終わりましたよ! おばあ様に手伝ってもらいました! お茶にしませんか?)」
「そうか、こっちももう終わるからその後で……」
「ふふ、いいじゃない。もし忘れ物があってもまた取りに来ればいいだけだし、私は賛成よ」
「セルナが言うなら仕方ない。行こうか!」
セルナも結婚してからは敬語で話さなくなり俺としても気が楽になっていた。この三人とならうまくやっていけるかと笑いながらお茶にする俺達。
そして引っ越し当日……
「いつでも帰ってきていいからね」
「クリス……一家の主として、頑張るんだぞ。……うう……」
「僕の時はそんなにならなかったのに……大丈夫、クリスなら僕よりうまくやるよ」
母さんと父さん、そしてデューク兄さんが俺の肩を叩きながら応援してくれ、思わず泣きそうになる。
「お兄様、わたくし強くなってお家を守れるようになりますから! その時は……」
「まだ言ってるの? やめなよアモル……あ、僕はたまに遊びに行くからね! (家にいると特訓させられちゃうからさ……)」
アモルは母さんの跡継ぎよろしく、最近メキメキと強くなっているらしい。ウェイクもこの通り嫌々ながらも付き合って特訓しているのはやはり双子だからだろうか。母さん曰く、ウェイクはかなり潜在能力があるらしいけど、こればかりはやる気次第だもんな。
「それじゃまた!」
新婚に新しい屋敷……穏やかな日がこのまま続き、オルコスが出てきてもきっと冷静にいられる。そして寿命がきたらあいつをぶん殴ればいい。
そう思っていたけど……。
---------------------------------------------------
出番の無かったオルコス。
四人だけの生活が始まり幸せに暮らせる礎を手に入れたクリス。
二人の明暗を分ける運命の歯車が軋む時が来た。
そして始まる新生活に差す影とは?
次回『些細な事』
ご期待ください。
※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません
紫楼
ファンタジー
母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。
なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。
さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。
そこから俺の不思議な日々が始まる。
姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。
なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。
十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる