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第15話 ひとまず様子見をしよう

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「フリンク様は本当に色々出来るんですね!」
『えへへー! 僕は万能なんだよ!』
「……」
「……」

 というわけでお茶をいただきながら雑談に以降したのだが、フリンクが席を移動してカイ様のところへ。
 するとずっと触りたかったのかカイ様がフリンクを甘やかし始めたのだ。
 恐れ多くも彼女の膝に顎を置いて自分と俺のことを語っていた。
 俺とサーナはその様子を見ながらお茶を飲む。カイ様のお付きメイドという感じできちんと横に立っていた……俺の横だが。

「仲良しになっちゃいましたねえ」
「まあ、今日だけだと思うけどな。ひとまずカイ様以外、全員の記憶から消して明日からはフリンクは姿を隠すつもりだ」
「そういえばわたしの記憶を消しちゃったんですよね。またやるんですか?」
「帰るときにな。サーナには申し訳なかったけど、もう一回頼む」
「体目当てのクズ男みたいな言い方!? むー、わたしは外して欲しいです」
「!?」

 そう言いながらサーナは俺の膝に乗って来た。小柄な身体は見た目通り軽い。

「ダメだって」
「なんでですかー!」
「お前、口が軽そうだからだ」
「大丈夫ですって……! あなたのこと忘れたくない」
「うふふ、フリンク様は可愛いですね! ……あ!?」

 と、俺に抱き着きながらチラチラとカイ様を見るサーナ。茶番だなと思っていると、こちらに気づいたカイ様が急に立ちあがった。

「サーナ! なにをしているの!」
「神様の加護があるいい男にモーションをかけているところです……!」
『凄いね、この子……』

 ハッキリと欲望を口にしたサーナに珍しく可愛い声の方で呆れるフリンク。俺も茶番だと思っているため動向を見守っていると、カイ様がこちらに来てサーナを俺から引き剥がした。

「神様の御加護があるレン様に失礼でしょ!」
「えー、でも彼女はいないって言ってますし、チャンスかなって。お嬢様……カイもそう思ってるから今、そうしたんじゃないの?」
「ち、違いますぅ!」

 急にニヤニヤとしながら挑発するように言うサーナ。カイ様は慌てて口を尖らせて否定する。お嬢様だけど妙に可愛い顔だ。
 意図は不明だが、カイ様をからかったのだと思う。それで言う通り、二人が割と近しい間柄というのもわかったかな。

「それじゃそろそろお暇させてもらいます」
「え? もう少しフリンク様と遊んでは駄目ですか?」
「さすがに貴族の方のお屋敷に居るのは緊張するので、申し訳ありませんがこれにて」
『なにかできるといいんだけどねー。そうなる前になにか変わったことはなかった?』

 そこへふわりと浮いたフリンクがソファから立ち上がった俺の横に並びながら尋ねた。
 
「変わったこと……? あ……」
「なにか?」
「あ、いえ、すみません、すぐに思い出せることはなさそうです……」
『ああ、いいんだ! またなにか分かったら教えて! カイだけ記憶が残るから、手紙でも出してよ』
「わかりました! また遊びに来てくださいね」
「機会があればね」
「わたしの記憶は残しておいてくださいよ――」

 俺はフリンクにまたがって窓から出ていくことにした。サーナが慌ててそう口にするが、ひとまずイルカアローを使っておく。

「んが!?」
『まあ今回は僕に関する記憶だけ消しておくから大丈夫だよ』
「それじゃ」
「あ……レン様、必ずまた来てくださいね!」
「はは、俺は加護があるっていってもただの村人だし、レンでいいよ!」

 それだけ口にしてからフリンクと共に、外へ。
 屋根の上へ登るとそこからまた森の中へ移動し、屋敷全体にイルカアローを撒いておいた。

「……これでいいかな」
『だな。それにしても、あのカイという娘、なかなか良かったぞ』
「その声で言ったら犯罪だからな? さ、見つからないよう家へ戻るぞ」

 膝枕となでなでが良かったと言いたいのだろうが、低いおっさん声では良くない意味に聞こえる。
 さて、原因は分かったとしても宮廷魔法使いが苦戦するレベルの症状、か。
 できることがあればと思ったが、俺のイルカ魔法は戦闘系に振り分けられているから手を出す案件じゃなさそうだ。
 
『どうするんだ? お嬢さんを助けたら金銀財宝、両親に楽をさせることができるぞ』
「古いなお前……うーん、なにかあるかなあ」

 俺達はかなり上空へ舞い上がり、視認しにくいところまで急上昇。雲の上についてから腕を組んで考えるが、今はまだなにも思いつくことは無かった。

 様子を見る。それだけだろう。
 記憶を消す手間が増えるけど、俺達……いや、俺の自己満足だからな――

◆ ◇ ◆

「レンさん……フリンク様……」

 私はレンさんとフリンク様が出て行った窓を見て空を仰いでいた。
 木の上でこっちを見ていた人が視察に来た時、お母さんと一緒に挨拶をしていた
のを思い出したから手を振ったのよね。
 まさか神様の加護と精霊だとは思わなかったけど。

「あばばば」
「あ、しっかりしてサーナ」

 多分、記憶を消されたであろう、ソファでひっくり返っているサーナを揺すると、すぐにぱちりと目を開けて起き上がった、

「うう……さっきもこんなことがあったような……」
「サーナ、フリンク様は覚えている?」
「フリ……? あ、そういえばレンさんは!?」
「もう帰りましたよ」
「ちぃ……ところで彼はどうです? って、なんでここに居たんでしたっけ……」

 首を捻るサーナを見て『レンさんのことは覚えている』ことがわかる。
 彼はあっさりとやってのけるけれども、この力は凄いことだわ。
 結界を張れなくなったから様子を見に来たのだと思うけど、神様の加護のある彼ならもしかしたら――

「このままだとお嬢様は緩やかに死んでしまうんです。そう遠くない、とおっしゃっていまったけ……ここなら少しは草木から回収できるでしょうけど……」
「……」

 そこでサーナが渋い顔で俯く。
 彼女は冗談が多いけど優しいから、私が死ぬと分かってなにもできないのが辛いと他のメイドに吐露していたのを聞いたことがある。
 
 私はまだ諦めていない。
 取り寄せた本を読んでなにか手がかりが無いか? 私は新しい環境でそう誓うのだった。
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