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第一章
第15話 依頼
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「お願いとは?」
「はい。ガエインから聞いたと思いますが、私達はグライアード王国の手から逃げています。このまま東にあるヘルブスト国へ移動する予定なのですが、見ての通り脱出できたのは騎士やメイドと私達のみ……」
相手は魔兵機《ゾルダート》を持っているため、隠れながら逃げているけど追いつかれる可能性が高く、捕まってしまえばどうなるか分からない。
魔兵機《ゾルダート》を倒す手段もこの状況では使えないため、勝ち目がないという。
「そこで俺か」
「ええ。ゲイズタートルを止めるほどの力があれば魔兵機《ゾルダート》を退けることができるのでは、と。お礼は……出来る限りのことを……」
「姫! 怪しげな魔兵機《ゾルダート》に頼むことはありません!」
「そうです! 出来る限りのことなど……。我々には姫様しか残されていません! 迂闊な発言はやめましょう」
「だ、男性なら私が体を使って……」
不穏なメイドが居る。が、冗談というわけではなく本気の目だ。アウラ様もそれくらいは考えているのかもしれない。俺は片膝をついて話を続ける。
「ガエイン爺さんは知っているが、今、俺の肉体はズタボロらしくて精神だけがこの機体『ヴァイス』に乗り移っている状況だ。で、どうしてここに来たのか分からないし、できれば戻りたい」
「……それは」
「だから、なにかしら情報を貰える人脈を紹介してくれる条件であんた達を助ける。報酬はそれでどうだ?」
「……!」
その瞬間、アウラ様の顔が泣き笑いのような顔になり胸の前でお祈りポーズを取った。そして爺さんが口を開く。
「すまんのうリク。今、姫様を失う訳にはいかん。事情は聞いたし、ワシも尽力する」
「いや、いいんだ。俺も理不尽な戦争を仕掛けられた側の人間だからな。どうせ行くところも無いしこっちからお願いしたいくらいだ」
「仕掛けられた側……?」
「ああ――」
と、その場に居た全員にここに来た経緯をもう一度話す。すると最初は不信感を持っていた騎士達が、
「そんなことが許されてなるものか……!」
「貴様も苦労していたんだな……。俺達は同志だ! 共に戦おう!」
あっさりと手のひら返しをしていた。気のいい奴等ばかりでフェルゼのケーニッヒ達を思い出すぜ。
だが、そんな歓迎ムードの中、一人だけ不満げな顔をして俺の足を叩いている奴が居た。
「……ふん、ゲイズタートルはなんとかなったかもしれないけど、実際に魔兵機《ゾルダート》と戦って役に立つのかしら?」
金髪ショートボブでややきつい感じの目をした女の子騎士。彼女はお気に召さないらしい。
「そんなことを言っては駄目よシャル。一人でも魔兵機《ゾルダート》と戦える者がいるのは心強いではありませんか」
「でもお姉さま……」
「お姉さま? おお、そういえば似ているな。俺も困っているんだ、よろしく頼むよ」
「わ、分かっているわよ……。あたしはシャル。シャルル・エトワールよ。あいつらべっこべこにしてよね!」
こっちは気が強いなあ。そんなことを考えていると、ガエイン爺さんがシャルの横に立って言う。
「ワシの一撃をかわして一本取った男じゃ。期待できるぞ」
「え!? ガエイン師匠から!? ……へえ」
どうやらシャルは爺さんの弟子らしい。そういえば腰に剣を下げているな。そう思っていると微笑んでいたアウラ様が真顔になって指示を出し始めた。
「ではそろそろ出発しましょう。森の中に隠れながらとはいえ向こうは疲れ知らずの魔兵機《ゾルダート》で追ってきているはずでしょうから」
「ですな」
休憩と相談を終了し、移動となる。ここからヘルブストとという国へは十日ほどかかる予定だそうだ。辺境付近の町や村ならまだ抑えられていないはずなのでまずはそこを目指すらしい。
「王都と周辺の町はすでに壊滅したからな……」
爺さんは険しい顔でそんなことを言う。襲撃されたのが三日前らしい。国王や王妃といった偉い人が体を張って姉妹を逃がしたそうだが、恐らく生きてはいまいとのこと。
<周辺情報の収集を完了。マップ情報のロード……80……90……>
そこでAIのサクヤが喋り、脳裏(といっていいのか分からないが)に情報が浮かぶ。
<ここから先は木々も少なくなります。マスターは目立つかと>
「なら俺も身をかがめて移動するか……」
<どこかでこの国のマップが手に入るといいのですが。国土領域は把握しておきたいので>
「そうだな」
「誰と喋っているのよあんた」
「お」
匍匐前進で進み始めるとシャルが馬で下がって来ていた。そういえばガエイン爺さんはなにも言わなかったがサクヤの声は聞こえていないようだな?
「いや、独り言だ。それよりどうした? アウラ様と一緒でなくていいのか?」
「あたしは剣が使えるから平気よ。というかそんな格好悪い状態で移動しないで、もっと堂々としなさいよ」
「そうしたいが、背が高いからな。森を抜けると目立つんだよ」
「あ、そっか……」
シャルはハッとして周辺に目を向けた。そこまで考えていなかったって感じだな。
「ま、魔兵機《ゾルダート》どこまでやれるかわからないが。よろしく頼むぜシャル。っと、シャル様か」
「いいわよ。どうせ今は国を獲られた状態なんだからシャルで。師匠が認めたなら頼りにさせてもらうわ」
そういって再び前へと馬を走らせていく。そうだな……今度はちゃんと戦う。
生き残って元の世界へ戻るために。
「はい。ガエインから聞いたと思いますが、私達はグライアード王国の手から逃げています。このまま東にあるヘルブスト国へ移動する予定なのですが、見ての通り脱出できたのは騎士やメイドと私達のみ……」
相手は魔兵機《ゾルダート》を持っているため、隠れながら逃げているけど追いつかれる可能性が高く、捕まってしまえばどうなるか分からない。
魔兵機《ゾルダート》を倒す手段もこの状況では使えないため、勝ち目がないという。
「そこで俺か」
「ええ。ゲイズタートルを止めるほどの力があれば魔兵機《ゾルダート》を退けることができるのでは、と。お礼は……出来る限りのことを……」
「姫! 怪しげな魔兵機《ゾルダート》に頼むことはありません!」
「そうです! 出来る限りのことなど……。我々には姫様しか残されていません! 迂闊な発言はやめましょう」
「だ、男性なら私が体を使って……」
不穏なメイドが居る。が、冗談というわけではなく本気の目だ。アウラ様もそれくらいは考えているのかもしれない。俺は片膝をついて話を続ける。
「ガエイン爺さんは知っているが、今、俺の肉体はズタボロらしくて精神だけがこの機体『ヴァイス』に乗り移っている状況だ。で、どうしてここに来たのか分からないし、できれば戻りたい」
「……それは」
「だから、なにかしら情報を貰える人脈を紹介してくれる条件であんた達を助ける。報酬はそれでどうだ?」
「……!」
その瞬間、アウラ様の顔が泣き笑いのような顔になり胸の前でお祈りポーズを取った。そして爺さんが口を開く。
「すまんのうリク。今、姫様を失う訳にはいかん。事情は聞いたし、ワシも尽力する」
「いや、いいんだ。俺も理不尽な戦争を仕掛けられた側の人間だからな。どうせ行くところも無いしこっちからお願いしたいくらいだ」
「仕掛けられた側……?」
「ああ――」
と、その場に居た全員にここに来た経緯をもう一度話す。すると最初は不信感を持っていた騎士達が、
「そんなことが許されてなるものか……!」
「貴様も苦労していたんだな……。俺達は同志だ! 共に戦おう!」
あっさりと手のひら返しをしていた。気のいい奴等ばかりでフェルゼのケーニッヒ達を思い出すぜ。
だが、そんな歓迎ムードの中、一人だけ不満げな顔をして俺の足を叩いている奴が居た。
「……ふん、ゲイズタートルはなんとかなったかもしれないけど、実際に魔兵機《ゾルダート》と戦って役に立つのかしら?」
金髪ショートボブでややきつい感じの目をした女の子騎士。彼女はお気に召さないらしい。
「そんなことを言っては駄目よシャル。一人でも魔兵機《ゾルダート》と戦える者がいるのは心強いではありませんか」
「でもお姉さま……」
「お姉さま? おお、そういえば似ているな。俺も困っているんだ、よろしく頼むよ」
「わ、分かっているわよ……。あたしはシャル。シャルル・エトワールよ。あいつらべっこべこにしてよね!」
こっちは気が強いなあ。そんなことを考えていると、ガエイン爺さんがシャルの横に立って言う。
「ワシの一撃をかわして一本取った男じゃ。期待できるぞ」
「え!? ガエイン師匠から!? ……へえ」
どうやらシャルは爺さんの弟子らしい。そういえば腰に剣を下げているな。そう思っていると微笑んでいたアウラ様が真顔になって指示を出し始めた。
「ではそろそろ出発しましょう。森の中に隠れながらとはいえ向こうは疲れ知らずの魔兵機《ゾルダート》で追ってきているはずでしょうから」
「ですな」
休憩と相談を終了し、移動となる。ここからヘルブストとという国へは十日ほどかかる予定だそうだ。辺境付近の町や村ならまだ抑えられていないはずなのでまずはそこを目指すらしい。
「王都と周辺の町はすでに壊滅したからな……」
爺さんは険しい顔でそんなことを言う。襲撃されたのが三日前らしい。国王や王妃といった偉い人が体を張って姉妹を逃がしたそうだが、恐らく生きてはいまいとのこと。
<周辺情報の収集を完了。マップ情報のロード……80……90……>
そこでAIのサクヤが喋り、脳裏(といっていいのか分からないが)に情報が浮かぶ。
<ここから先は木々も少なくなります。マスターは目立つかと>
「なら俺も身をかがめて移動するか……」
<どこかでこの国のマップが手に入るといいのですが。国土領域は把握しておきたいので>
「そうだな」
「誰と喋っているのよあんた」
「お」
匍匐前進で進み始めるとシャルが馬で下がって来ていた。そういえばガエイン爺さんはなにも言わなかったがサクヤの声は聞こえていないようだな?
「いや、独り言だ。それよりどうした? アウラ様と一緒でなくていいのか?」
「あたしは剣が使えるから平気よ。というかそんな格好悪い状態で移動しないで、もっと堂々としなさいよ」
「そうしたいが、背が高いからな。森を抜けると目立つんだよ」
「あ、そっか……」
シャルはハッとして周辺に目を向けた。そこまで考えていなかったって感じだな。
「ま、魔兵機《ゾルダート》どこまでやれるかわからないが。よろしく頼むぜシャル。っと、シャル様か」
「いいわよ。どうせ今は国を獲られた状態なんだからシャルで。師匠が認めたなら頼りにさせてもらうわ」
そういって再び前へと馬を走らせていく。そうだな……今度はちゃんと戦う。
生き残って元の世界へ戻るために。
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