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第二章:実家はまだ遠い
その35 収束できた事態と深まる謎
しおりを挟む「うむ、いい朝だな!」
「父上、大丈夫なのですか!?」
「問題ない、やはり筋トレは偉大だな、病を吹き飛ばしてやったわ!」
うん、昨日僕がフルシールドをかけたと同時にリカバーもさりげなくかけたからだけどね? まあそれをわざわざ言って面倒ごとを増やす気はないので黙っておく。
ちなみに休む前にあの偽医者であるティモリアを拘束しようと思い窓の外へ出向いたんだけどいつの間にやら消えていた。
あいつはあいつで捕まえておきたかったんだけど、あの喧噪では仕方ないかと諦めた。一応ギルド経由で指名手配してもらうよう頼んでおいたけどね。
で、割れた窓ガラスの前で仁王立ちしている領主様はさておき、今後のことを話し合うためアレクとリーエルを連れてここまで来たわけだけど――
「とりあえずグレゴールのやつを問い詰めねばならんな。ワシだけならともかく、アレク達にまで危害を加えようとは呆れ果てる。証人は多いしすぐに呼び寄せるぞ。アレクは屋敷修繕の手配を頼む」
「はい、父上」
「僕はどうしましょうか?」
「君はグレゴールの件が片付くまで居てくれないだろうか。報酬は弾ませてもらう」
ま、そうなるよね。完全に後始末が終わるまでは気になるし、それでいいと僕はうなずく。直後、入り口で叫ぶ声が聞こえてきた。
「アレク様、居るかー!」
「あ、あの声ってサッジさん? どうしたんだろう?」
「行ってみましょう」
リーリエがぞろぞろと降りていくと、そこにはサッジさんと、縄でしばられた神経質そうなおじさんが立っていた。
「サッジ! それにグレゴールか!」
「ぐ……ぴんぴんしているな……」
「当然だ、筋トレは毎日かかさず行なっているからな! そんなことよりグレゴールよ、今回の騒動どう始末をつける気だ?」
ゲルデーンさんが目を細めてドスを利かせた声を出すと、グレゴールはビクッと体を震わせて下を向く。
「自分でけじめもつけられんのか? ……ならワシから伝える。財産と家の没収、そして辺境への移住だ!」
「そ、そんな……! あんな何もないところへ行けというのか!?」
「多くのものに迷惑をかけた自覚がまだ無いか! 我が弟ながら情けないやつめ!」
ボグッ! ごろごろ……ガシャン!
「うげえ!?」
ゲルデーンさんの一撃で派手に吹き飛び転がっていくグレゴール。起き上がったところで襟首を掴み、睨みながら口を開いた。
「……爵位を剥奪しなかっただけありがたいと思えよ? 身内でなければ丸裸で捨ててやるところだ。辺境で頭を冷やして心から反省しろ。あと、常に監視がいると思え」
「う、うぬう……」
グレゴールが冷や汗をかいて呻いていると、サッジさんがため息をついてから話し始めた。
「とっ捕まえた野盗達からこいつの存在を聞いてな。この町の別荘にいたところを抑えたんだよ。状況が呑み込めていなかったから楽だったがな。それじゃ、さっきの通り話を進めるってことでいいな?」
「ああ、手間をかける。国王様へはワシから書状を送っておこう。それまで別荘で軟禁しておいてもらえるか?」
「任されたぜ。ほれ、立ちな」
「サッジ、たかがギルドマスターのお前ごときがそんな態度を――」
悪態をつくグレゴールの頭をサッジさんがポカリと殴りながら言う。
「ギルマスってのは割と権限があるんだぜ? 悪さした貴族よりは確実にな。そら、行くぞ」
「くそお……絶対に始末できるからと言っていたのに……あの男め……!」
「あ、ちょっと待ってください!」
歩き出した二人を止めて、僕はグレゴールに近づき、訪ねる。
「あの男、というのは野盗の誰かですよね? 昨日僕とサッジさんが相手をしたのは魔族だった。それは知っていましたか?」
「ま、魔族だと……!? い、いや、それは知らん……私のところに来た男は野盗の一人だった。他にも数人いたが、野盗どものはずだ」
「ちなみにですが、あなたは領主になってどうするつもりだったんです? それと何を言われて協力する気になったか。教えていただけませんか?」
僕がそう尋ねると、グレゴールはドカッと胡坐をかいて思い出すようにポツポツと話し始める。
「……あの男たちが来たのはいつだったかな……あの男が現れて私にこう言ったんだ『大魔王が倒された今、あの領地は空白。領土拡大のチャンスです。そのために兄を引きずりおろしてあなたが手に入れてはいかがでしょう』とな」
……大魔王が倒されてから告知までは確かに早かったけど、ダッツ達がゴブリンを操って街道を荒らしていたのはもっと前だったはず。それにここまでの計画が短期間で行われているのは時間軸が合わない……
もしかして大魔王が倒される前からこの計画は始まっていたのか? それを確認する手段はもうない。やはりあの魔族を逃がしたのは痛かったかな……六魔王の一人、冥王のことも気になるし……
そんなことを胸中で考えていると、サッジさんが呆れたようにしゃべりだしていた。
「で、それに乗ったわけか。かあー、裏があってもおかしくねぇだろが。身内を殺そうとするなんざ馬鹿げてるぜ。坊主、もういいか?」
「……」
憮然とした顔で黙りこくるグレゴール。反省しているかどうかはわからない。どちらにせよ、彼を捕まえたことで一連の話はこれで終息に向かうに違いない。
「うん、ありがとうサッジさん。僕が聞きたかったことはもうないよ」
僕がそういうと、サッジさんがグレゴールを引っ張り歩き出す。しかし、不意に立ち止まり振り向いて僕に訪ねてくる。
「あの魔族の襲撃はあると思うか?」
「うーん、僕の考えだともう来ないと思いますよ。グレゴールを領主にする、という目的が潰えたからここに固執する理由はないはずですし」
まあ、この『領地が欲しかった』場合は何度でも来る可能性はあるけどね。でも『ここ』は重要ではない気がする。
「了解だ。警戒はしておくぜ」
「よろしくお願いします」
「旅立つ前にギルドに顔出していけよ?」
それにはあえて答えず、愛想笑いをしながら手を振って見送った。
「ふう、こちらから出向く手間が省けたか、サッジのやつ腕は衰えておらんな。さて、ワシはグレゴールについての手続きに入る。レオス君と言ったか、襲撃がないとわかるまでもうしばらくアレン達の護衛を頼む」
……さっきはグレゴールの件が片付くまでって言ってたのに……仕方なく僕は頷き、屋敷の片づけを手伝うことにした。
――さらに二日後
「それじゃ、行きますね」
「うむ、魔族とやらも諦めたようだし、本当に助かった。礼を言うぞ」
「さみしくなりますね……」
僕は報酬をもらい、屋敷を後にすることにした。特に野盗の生き残りが復讐してくることも、魔族が帰ってくることもなかったからだ。
もっとも、僕がここにいるせいで戻ってこないという可能性も捨てきれないため、離れてから何かある可能性は高い。
「街道の襲撃からここまで、本当にありがとう! またこの町に寄ったときには是非訪ねてきてくれ」
「うん、アレクとリーエルも無事でよかったよ。でもしばらくは注意した方がいいからね?」
「ああ、分かっている。自警団とギルドが町の警備強化を兼ねて、僕たちの屋敷も注意してくれるらしいからきっと大丈夫だ」
魔族とて無敵ではないから冒険者がまとめてかかれば倒せなくはないし、大丈夫かな?
「お元気で!」
「また必ず来てくださいねー!」
泣きながら手を振るリーリエに手を振り返しながら僕は歩いていく。ここから国境までは乗合馬車は使えず、歩いて移動することになるので、来た道とは逆の門から外へと出た。
「んー! いい天気だ!」
気になるのは逃がした魔族。そして冥王という言葉。冥王は僕の故郷、ラーヴァを活動拠点として動いていた魔王の一人で、止めを刺したのを記憶を取り戻す前の僕がこの目で見ているのでよく知っている。
「偽物だった? でもそれなら大魔王との最終決戦に現れそうなものだけどなあ……」
考えても答えは出ない。
それに、僕が関わることはもう無いと思うから考えても仕方がない気もする。そうと決まれば――
「さっさと国境を越えて商売かな! <レビテーション>!」
僕はレビテーションを使い、スキップ感覚で国境を目指した。
だけどこの時の僕はまだ知らなかった。この後とんでもない修羅場が待ち受けているということを――
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