63 / 196
第五章:スヴェン公国都市
その58 場違いな人達
しおりを挟む<???>
「……」
「……」
森の中を豪華な馬車が二台突き進む。
通常の荷台と異なり、幌ではなく屋根まで全て木材でできていて、ちょっとやそっとでは壊れないであろう。
乗っているのはもちろん――
「ふう……忌々しい聖職の肩書を持つ者達め……おかげで予定の半分にも満たない数しか集められなかった。まあ、時間はあるので構いませんがね? そうでしょう公王?」
「……ああ」
――と、公王に声をかけたのは裏オークションで執事風の男に変化していた魔族のセーレだった。逃げおおせた後、公王と合流して町から公国都市へと戻っている。
セーレ以外には公王を含め、後は騎士が四人。いずれも手練れの騎士たちだが、うつろな目をして押し黙っていた。
「結構。クク……城に戻って捕らえた者達の吟味と行きましょう。楽しみですね?」
セーレが目を向けるとそこには縛られたシロップが横たわっており、セーレを睨みつけて唸っていた。
「がるるる……」
「クク……威勢が良くて大変よろしい。ここへ呼び寄せた時の困惑顔は傑作でしたよ。不思議でしたか? 私は触れた相手に刻印を入れると自分の手元へ引き寄せることができるんですよ。もちろん制限はありますがね? まあ、あなたのような子供に説明しても分からないと思いますが、私は親切ですから教えてあげたんですよ!」
まるで誰かに言い聞かせるかのように説明をしながら、ぐりぐりとシロップの頭を撫でまわしていると、今度は別の方向から、
ぐぎゅるるるるるる……
と、腹の音が鳴り響いた。
「うるさいですね!? びっくりするではありませんか!?」
「す、すみません……お、お腹がすいて……何か食べ物を……」
と、もぞもぞ動いていたのはこちらもやはりオークション会場で売られていたエルフの娘。もう限界とばかりに声を出す。
「奴隷のくせにお願い事とは身の程を知りなさい! ……とはいえ餓死でもされたらたまりませんか。これでいいでしょう」
「あ、わたしも食べたい!!」
セーレが食料ボックスから取り出したのはパンと大きめの肉。それを見たシロップが興奮するが、セーレは意に介さずエルフの口の前に差し出すと――
シュ!
「お、おや? パンと肉がありませんね……落としたかな……?」
「美味しかったです!」
「た、食べたのですか!? 早食いとかそういうレベルではありませんよ!?」
「フッ、村では誰よりも食べていましたからね。そうしてついたあだ名が『底なしのティリア』……そんなこんなでいつか食料を食い尽くすと恐れられ村を追い出されたんですけどね……」
「ほ、ほう……あなたは魔力が高いですが、もしかして食べもので魔力を底上げしているのですかね……?」
「良く分かりません!」
がくっとセーレが崩れながら口を開く。
「ま、まあいいでしょう。調べつくしてあげますから」
「ご飯をくれたら何でもいいですよ」
緊張感もクソもないなとセーレが思っていると、バサバサと羽音が近づき、荷台のドアを開けていかにもという感じの魔族がセーレに話しかけてきた。
「セーレ様、後続からこちらへ向かってくる馬車を発見しました」
「ほう、乗合馬車では? それなら放っておいて構いませんよ?」
「それが……荷台がとんでもなくボロい馬車で……。ただ馬は若いのか速度はかなり出ています。追いつかれるのは時間の問題かと」
「ふむ、別に追いつかれてもにっこり挨拶をして先に行かせても構いませんが、もし聖職の連中が追ってきているなら厄介ですね。では足止めをお願いします」
「御意に」
そういって魔族は再び飛び去っていった。
◆ ◇ ◆
「シロップが居なくなったってどういうこと?」
「言葉の通りさ! シルバとシロップを寝かしつけようとベッドへ運んでいたら忽然とアタシの腕から居なくなったんだ……」
「僕もびっくりしちゃった……」
犬……もとい狼姿のシルバががっくりと項垂れている。状況は良くないが仕草がかわいい……それはともかく、レジナさんへ問う。
「心当たりは?」
「無い。だけど、かすかな匂い頼りにここまで来たらお前たちに出会った。この道に出てシロップの匂いが濃くなったから、ここを通ったのは間違いない」
なるほど、僕達にシロップの匂いがついていたかもね。で、匂いが濃くなったということは恐らくこの先にシロップを捕まえたやつ、セーレが居るはずだ。
そこへルビアが話しに加わってきた。
「恐らくあの時の魔族が絡んでいるのは間違いないと思います。あたし達はこれから公国都市へと向かう予定ですが、一緒に行きますか?」
「助かる。だが、アタシは一足先に匂いの後を辿ってみるよ。代わりにシルバを連れて行ってくれないかい?」
「いいですけど大丈夫ですかおひとりで?」
エリィが心配そうに言うと、レジナさんは笑いながら返す。
「アタシはこれでも村じゃかなりの腕っぷしさ。それじゃ、時間が惜しいから急ぐよ! シルバ、大人しく言うことを聞くんだ」
「うん! ルビアお姉ちゃん!」
「わわ……あら、ふかふかね」
「きゅん!」
「ハッ!」
また狼に変身したレジナさんは弾丸のような速さで駆けて行った。
「うわあ、速いですねえ。流石はシルバーフェンリル」
「関心している場合じゃないよ、僕達も急ごう!」
バス子が幌の上に乗って眺めているのを制し、僕達は再び馬車を走らせる。ちょっと申し訳ないけど、速度を上げてもらうよ!
「そら、君達後で豪華なご飯をあげるからちょっと頑張ってよ!」
「ひひひーん!」
「ぶるぶるぶるー!!」
僕が声をかけて手綱でお尻を引っぱたくと、俄然やる気を出した馬二頭の回転数が上がった。言葉が通じるのかって? まあ、伊達に七万回も転生してないからね。僕が転生した生き物なら何となく意思疎通ができるもんだよ。
「それにしても速いなぁレジナさん。おや?」
御者台でガタゴトと揺れながらふと空を見上げると、羽の生えた生物が飛んでいるのが見えた。
「……あれって、魔族かなもしかして?」
「みたいですねえ」
「うわ!? バス子!?」
「倒してきましょうか? 姐さんに働けって言われてるんで」
「どうしてルビアの言うことを聞いてるのか分からないけど、大丈夫だよ。僕達を狙っていなければスルーしよう。無用な戦いは避けたいからね」
「レオスさんはお優しいですねえ、えっへっへ……」
「時間が無いし、ケガしたくないからね。って、うわ!? あいつ魔法を撃ってきた!」
「おっと、中級魔法ですね。どうしますか?」
「あっちが撃ってきたならこっちも容赦はしないよ! <ファイヤーボール>」
僕は右手で手綱を持ち、左手を魔族に向かって掲げ、元の世界で使っていた魔法を放つ!
「でかっ!? な、なんですかそれ!?」
「いけ!」
バス子が驚くのも無理はない。ファイヤーボールの大きさは直径一メートルはあるくらいのものだったから。これくらいないと相手の魔法を打ち消せないから馬車に被害が出るんだよね。空中だから燃えないだろうし、と思ってこれをチョイスした。
ファイヤーボールは目論見通り魔法を打ち消し、魔族へ向かい――
◆ ◇ ◆
「なんだ? ……狼か? 速いな。まあいい、俺の任務は馬車の足止め……見つけたぞ」
ニィィ……と口の端を上げて笑う魔族。自信たっぷりの表情で両手を馬車へと向ける。
「弾速を計算するとこの辺りでいいか……殺すなとも言われていないし、派手にやっておくか。《フレイム》!」
魔族の手から炎の渦が巻き起こり、竜巻のような動きをしながらレオス達の馬車へと――
「え?」
向かわなかった。
というより向かえなかったのだ。レオスのはなったファイヤーボールがフレイムよりも強いため、それを飲み込み、勢いを殺さず魔族へと飛んでくる。
「嘘だろ!? え、ちょ、でかっ!? 逃げ――」
ずどぉぉぉん!
勢いが殺されていないので当然弾速も速い。逃げる間もなく魔族に直撃したのだった。
そして――
「よし! 攻撃してきたってことは多分セーレの手先だろうね。僕達が追っているのに気付いたなら急がないと!」
「そ、そうですねえ。レ、レジナさんが心配ですからレッツゴーゴーゴー!」
「耳元で騒がないで!?」
11
あなたにおすすめの小説
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる