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第八章:動乱の故郷
~Side8~ それぞれの思い
しおりを挟む「おい、いいのか? レオスの使いようは全然あると思うが……」
レオスの病室から出たバス子にバルバトスが声をかけると、バス子は立ち止まり、振り返らずに声を出す。
「いいんです。あの大けがをしたレオスさんを連れて行くわけには行きませんからね」
「ワザと、か? ま、それよりとりあえずどうする?」
モラクスが尋ねると、バス子はようやく振り返り質問の答えを口にした。
「レオスさんのお父様が一緒に来てくれるそうです。この国最強の騎士だった人ですから、期待できます。……言い方は悪いですが囮としては優秀でしょう。彼に足止めをお願いして、悪魔総出で叩き潰すしかありませんね」
「俺達にはそれが似合っているってところか」
バルバトスが帽子をかぶり直しながら呟き、モラクスが隣に立つ女性の肩に手を置く。
「ルキル、そういうことだ。君とはここでお別れだ」
「……」
「どうやら聖職みたいですが、姐さんやエリィさんであのザマです。行かない方が無難でしょうね。それじゃ、打ち合わせに行きましょうか。幸い拠点にはすぐ戻れるので」
うさぎのメモ帳を取り出してふいに泣きそうになるバス子に、ルキルが喋り出した。
「わたくしも行きます」
「い、いや、話聞いてたかい!? 君じゃ戦力にならないんだよ!?」
モラクスが焦ってルキルに問うと、ルキルはキッと目を吊り上げて悪魔達へ声を上げて言う。
「あの貧乳共……! わ、わたくしと決着をつけておりません! 黒いのは……あ、あんな死に方をして、勝ち逃げをしたんです! こうなったら拳聖を倒すしかありません!」
「……敵討ちなら俺達がやる。やめとけ」
「いいえ、そうはいきませんわ! ここであの拳聖を助けてやればそれだけでマウントが取れると思いませんこと? ……だから行きますわ」
「はあ……自己責任ですからね? 死んでも知りませんよ。ま、生きていてもアマルティアの存在を知った今、ほぼ死んだも同然でしょうけどね。残りの人生をびくびくして過ごすことになるでしょうし」
「そういうことですわね! 見てなさい……!」
ルキルは鼻息を荒くして、バス子の前を歩いていく。三人は頷き、アシミレートと打ち合わせを始める。だが、次の日の朝、レオスがメディナを連れて抜け出したことを知り、
「あのケガでどうやって……!? い、急ぎましょうみなさん!」
慌てて悪魔達の拠点に戻るのだった。
◆ ◇ ◆
「うっ……うっ……」
「泣くなアニス。僕達を逃がしてくれたルビアさん達に報いるためには今は逃げるしかないんだ」
ラーヴァの城から逃げ出したクロウとアニスのふたりは一週間、町から町へ移動し故郷のペンデスを目指していた。幸い、ルビアと行動した時の報酬があったので馬車から馬車を使い、ペンデスは目前まで来ていた。
「でも……レオスさん達が勝てないのに、カクェールさんやおじいちゃんが勝てるかなあ……」
「レオス達は正直もうダメかもしれない。あの状態で勝てるとは思えないからね……。となると、あのアマルティアという男はこの世界に残ることになる。そうすれば今度は僕達の故郷が何か被害を受ける可能性があるだろ? 勝てないまでも、対策は講じておいた方がいいだろう」
クロウは冷静にそう言い放ち、アニスから目を逸らす。レオス達を見捨てるような言葉のため、また泣き出しそうだったからである。
クロウも口ではああいったものの、世話になったレオス達がこのまま死んでしまうのは忍びないと思っていた。それでも今の自分には何もできないと、一路故郷を目指していた。
<ペンデス国>
クロウ達はさらに進み、何とかペンデス国へ到着していた。転がるように馬車から飛び出るとすぐにギルドを目指す。
「す、すみません! カクェールは居ますか!」
「ん? カクェールさんはレリクス様に呼ばれてお城に居るよ。久しぶりだねクロウ、少し逞しくなったかな?」
「アニスも元気そう。はい、お水」
「あ、はい、ありがとうございますトレーネさん! んぐんぐ……。ぷは! 実はちょっと急いでいて……クロウ君、お城だって!」
「そうだね、グランツさんまた来ます!」
ふたりはバタバタと外に出ると今度は城を目指し走り出す。
「何だったんだろ?」
「わからないけど、ワクワクする」
ギルドマスターとその妹はきょとんとした顔のまま、クロウ達を見送った。そしてクロウ達はすぐに城へ辿り着く。
「おや、クロウ殿ではないか。修行の旅は終わったのか?」
「い、いや、それどころじゃなくて……。カクェールは謁見の間かな?」
「ああ、ラーヴァ国やハイラル王国から書状が届いて、それについて話があるとかで入って行った。アニスちゃんも元気そうでよかった。フェアレイター様も喜ぶことだろう」
そう笑って門番はクロウ達を通し、ふたりはさらに足を速め一気に謁見の間を目指す。アニスの祖父は引退したが城の一団を率いる隊長を務めていたこともあり、アニスは孫、クロウはその弟子なので顔パスだったりする。
クロウが扉を開けると、深刻な顔をした国王レリクスと、槍を手にした冒険者カクェールがクロウへと目を向け声をかけてきた。
「お前……!? クロウか! 修行の旅は終わったのか?」
「やあ、久しぶりだね。再会を祝して、と言いたいところだけどそれどころじゃなくてね」
「……知っています。旅の男……ラーヴァ国に現れた神を名乗る男、アマルティア……」
「……!? お前、どうしてそれを」
カクェールが驚愕の表情でクロウを見ると、クロウとアニスはこれまでの経緯を話し始めた――
◆ ◇ ◆
「――そんなことがあったとはね」
「レオスにルビアとエリィの聖職はスヴェン公国で冥王との戦いで共闘したことがある。あいつらかなりの強さだったんだけどな……」
「僕も何度か手合わせしたけど、敵わなかったよ。でも、あいつはものともしなかった。たった一人で聖職とレオスに悪魔達を一蹴したんだ」
そこへ眼鏡をかけた小柄な女性がクロウに声をかけた。
「逃げきれたのは僥倖だったね。無事でよかった……。でも途中で離脱したってことは彼らがどうなったかはわからないんだね」
「うん。ルルカさん、何とかならないかな?」
「うーん。ボクもエリィさんと聖職を争えるくらいの力はあるけど、『この世界の人間』の攻撃が効かないのはネックだよね」
ルルカと呼ばれた女の子が肩を竦めると、カクェールが槍に話しかけた。
「何かいい方法はないか?」
クロウが疑問の目を向けていると、
<そうねぇ……>
槍が震えて喋り出したのだ。クロウがぎょっとして指さしながら口を開く。
「それは……?」
「ああ、レオスと共闘した理由はこいつ、攫われたティリアを取り戻しに行ったんだよ。で、ここへ戻って来る途中エルフの勘とやらで、風の精霊の祠を見つけたんだ。そこで俺が風の精霊を倒して使役したってわけだ」
<久しぶりに外の世界も悪くないわー。あたしはジャンナ、よろしくね。で、さっきの話だけど、異世界の者なら攻撃ができるのよね? ……なら、目には目、歯に歯ってのはどう?>
「どういうことだ?」
<こっちも大魔王や神クラスの人物を召喚するのよ!>
「な、なにぃ!?」
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