前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

文字の大きさ
170 / 196
第八章:動乱の故郷

~Side8~ それぞれの思い

しおりを挟む


 「おい、いいのか? レオスの使いようは全然あると思うが……」

 レオスの病室から出たバス子にバルバトスが声をかけると、バス子は立ち止まり、振り返らずに声を出す。

 「いいんです。あの大けがをしたレオスさんを連れて行くわけには行きませんからね」

 「ワザと、か? ま、それよりとりあえずどうする?」

 モラクスが尋ねると、バス子はようやく振り返り質問の答えを口にした。

 「レオスさんのお父様が一緒に来てくれるそうです。この国最強の騎士だった人ですから、期待できます。……言い方は悪いですが囮としては優秀でしょう。彼に足止めをお願いして、悪魔総出で叩き潰すしかありませんね」

 「俺達にはそれが似合っているってところか」

 バルバトスが帽子をかぶり直しながら呟き、モラクスが隣に立つ女性の肩に手を置く。

 「ルキル、そういうことだ。君とはここでお別れだ」

 「……」

 「どうやら聖職みたいですが、姐さんやエリィさんであのザマです。行かない方が無難でしょうね。それじゃ、打ち合わせに行きましょうか。幸い拠点にはすぐ戻れるので」

 うさぎのメモ帳を取り出してふいに泣きそうになるバス子に、ルキルが喋り出した。

 「わたくしも行きます」

 「い、いや、話聞いてたかい!? 君じゃ戦力にならないんだよ!?」

 モラクスが焦ってルキルに問うと、ルキルはキッと目を吊り上げて悪魔達へ声を上げて言う。

 「あの貧乳共……! わ、わたくしと決着をつけておりません! 黒いのは……あ、あんな死に方をして、勝ち逃げをしたんです! こうなったら拳聖を倒すしかありません!」

 「……敵討ちなら俺達がやる。やめとけ」

 「いいえ、そうはいきませんわ! ここであの拳聖を助けてやればそれだけでマウントが取れると思いませんこと? ……だから行きますわ」

 「はあ……自己責任ですからね? 死んでも知りませんよ。ま、生きていてもアマルティアの存在を知った今、ほぼ死んだも同然でしょうけどね。残りの人生をびくびくして過ごすことになるでしょうし」

 「そういうことですわね! 見てなさい……!」

 ルキルは鼻息を荒くして、バス子の前を歩いていく。三人は頷き、アシミレートと打ち合わせを始める。だが、次の日の朝、レオスがメディナを連れて抜け出したことを知り、

 「あのケガでどうやって……!? い、急ぎましょうみなさん!」

 慌てて悪魔達の拠点に戻るのだった。


 ◆ ◇ ◆




 「うっ……うっ……」

 「泣くなアニス。僕達を逃がしてくれたルビアさん達に報いるためには今は逃げるしかないんだ」

 ラーヴァの城から逃げ出したクロウとアニスのふたりは一週間、町から町へ移動し故郷のペンデスを目指していた。幸い、ルビアと行動した時の報酬があったので馬車から馬車を使い、ペンデスは目前まで来ていた。

 「でも……レオスさん達が勝てないのに、カクェールさんやおじいちゃんが勝てるかなあ……」

 「レオス達は正直もうダメかもしれない。あの状態で勝てるとは思えないからね……。となると、あのアマルティアという男はこの世界に残ることになる。そうすれば今度は僕達の故郷が何か被害を受ける可能性があるだろ? 勝てないまでも、対策は講じておいた方がいいだろう」

 クロウは冷静にそう言い放ち、アニスから目を逸らす。レオス達を見捨てるような言葉のため、また泣き出しそうだったからである。
 クロウも口ではああいったものの、世話になったレオス達がこのまま死んでしまうのは忍びないと思っていた。それでも今の自分には何もできないと、一路故郷を目指していた。

 <ペンデス国>

 クロウ達はさらに進み、何とかペンデス国へ到着していた。転がるように馬車から飛び出るとすぐにギルドを目指す。

 「す、すみません! カクェールは居ますか!」

 「ん? カクェールさんはレリクス様に呼ばれてお城に居るよ。久しぶりだねクロウ、少し逞しくなったかな?」

 「アニスも元気そう。はい、お水」

 「あ、はい、ありがとうございますトレーネさん! んぐんぐ……。ぷは! 実はちょっと急いでいて……クロウ君、お城だって!」

 「そうだね、グランツさんまた来ます!」

 ふたりはバタバタと外に出ると今度は城を目指し走り出す。

 「何だったんだろ?」

 「わからないけど、ワクワクする」

 ギルドマスターとその妹はきょとんとした顔のまま、クロウ達を見送った。そしてクロウ達はすぐに城へ辿り着く。

 「おや、クロウ殿ではないか。修行の旅は終わったのか?」

 「い、いや、それどころじゃなくて……。カクェールは謁見の間かな?」

 「ああ、ラーヴァ国やハイラル王国から書状が届いて、それについて話があるとかで入って行った。アニスちゃんも元気そうでよかった。フェアレイター様も喜ぶことだろう」

 そう笑って門番はクロウ達を通し、ふたりはさらに足を速め一気に謁見の間を目指す。アニスの祖父は引退したが城の一団を率いる隊長を務めていたこともあり、アニスは孫、クロウはその弟子なので顔パスだったりする。
 クロウが扉を開けると、深刻な顔をした国王レリクスと、槍を手にした冒険者カクェールがクロウへと目を向け声をかけてきた。

 「お前……!? クロウか! 修行の旅は終わったのか?」
 
 「やあ、久しぶりだね。再会を祝して、と言いたいところだけどそれどころじゃなくてね」

 「……知っています。旅の男……ラーヴァ国に現れた神を名乗る男、アマルティア……」

 「……!? お前、どうしてそれを」

 カクェールが驚愕の表情でクロウを見ると、クロウとアニスはこれまでの経緯を話し始めた――


 ◆ ◇ ◆


 「――そんなことがあったとはね」

 「レオスにルビアとエリィの聖職はスヴェン公国で冥王との戦いで共闘したことがある。あいつらかなりの強さだったんだけどな……」

 「僕も何度か手合わせしたけど、敵わなかったよ。でも、あいつはものともしなかった。たった一人で聖職とレオスに悪魔達を一蹴したんだ」

 そこへ眼鏡をかけた小柄な女性がクロウに声をかけた。
 
 「逃げきれたのは僥倖だったね。無事でよかった……。でも途中で離脱したってことは彼らがどうなったかはわからないんだね」

 「うん。ルルカさん、何とかならないかな?」

 「うーん。ボクもエリィさんと聖職を争えるくらいの力はあるけど、『この世界の人間』の攻撃が効かないのはネックだよね」

 ルルカと呼ばれた女の子が肩を竦めると、カクェールが槍に話しかけた。

 「何かいい方法はないか?」

 クロウが疑問の目を向けていると、

 <そうねぇ……>

 槍が震えて喋り出したのだ。クロウがぎょっとして指さしながら口を開く。

 「それは……?」

 「ああ、レオスと共闘した理由はこいつ、攫われたティリアを取り戻しに行ったんだよ。で、ここへ戻って来る途中エルフの勘とやらで、風の精霊の祠を見つけたんだ。そこで俺が風の精霊を倒して使役したってわけだ」

 <久しぶりに外の世界も悪くないわー。あたしはジャンナ、よろしくね。で、さっきの話だけど、異世界の者なら攻撃ができるのよね? ……なら、目には目、歯に歯ってのはどう?>

 「どういうことだ?」

 <こっちも大魔王や神クラスの人物を召喚するのよ!>

 「な、なにぃ!?」
 
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...