帝国少尉の冒険奇譚

八神 凪

文字の大きさ
93 / 136
FILE5.キョウキノカガクシャ

90.

しおりを挟む
 「――今頃、五番目の『遺跡』に行っているんですかね」
 「ま、そうだろうね。少なくともNo.5は回収されるのは間違いない」
 「自爆スイッチでも仕込んでいるかと思いましたけど」
 「……僕はこれでも科学者という立場を弁えているからねえ。くっく……きちんと完成したものを自分から壊すなんて馬鹿なことはできないさ」
 「子供を実験材料にするあたり博士が壊れていると思いますがね」

 モルゲン博士とウォールは六番目の『遺跡』へと足を踏み入れていた。
 罠を解除しながら慎重に進む中で後ろをついてくるウォールがそんなことを口にする。それを聞いたモルゲンはぴたりと立ち止まると首だけを後ろに向けて言う。

 「実験に犠牲はつきものだ。そうだろうウォール。そうでなければこの『戦争を終わらせる』ことなどできはしない。大人、子供、女……なんでも使わないとさ!」
 「やれやれ、仲間で良かったと思いますよ……」
 「無駄口を叩いている暇はない。まったく、ガイラルのやつめ厄介な罠を仕掛けているものだよ」
 「向こうは終末の子を何人連れているのでしょうかね?」
 「さあね。少なくともNo.8と5は手のウチと考えて良い。ただ気になるのは……あの小娘かな? あれは僕が作った”レーヴァテイン”を扱っていた。だけどあの娘はNo.4と容姿がまるで違う」

 声色を変えず気にした風もなさそうな言い方をし、しばらく無言で歩き続けていた二人。その空気に耐えられなくなったウォールがそっぽを向いて頭を掻きながら口を開く。

 「……じゃあアレは何者なんですかね」
 「さあ。ただ、カ……プロトタイプが一緒に居たし、元のNo.4は消されてあの娘に力を与えたとも考えられるんじゃあないかな」
 「No.0……カイル。あいつが普通に生活しているのが驚いたんですが『これも計画の内』ってことですか」
 「いいや、ガイラルの裏切りでカイルが向こう側にいるのは面白くない。正直なところ‟終末の子”を8人揃えるよりプロトタイプを持っていた方が僕はいいんだけど。そんなつまらないことより、君は仕事をしてきたのかね?」
 「ええ、もちろん。帝国に入った時、楔は打っておきましたよ」
 「結構。では解放してあげようじゃないか!」

 大仰に手を広げながら『遺跡』の最深部へ到着したモルゲンが最後の扉を開き、イリスが居たようなガラスの棺と、巨大な三つ首をした犬のような魔物が姿を現した。

 「ここも、か。博士、油断しないように」
 「君がメインで戦うから問題ないよ」
 「疲れるからそういうのは勘弁してくださいって」

 そんな話をしながら散歩にでも行くような足取りで二人は三つ首の犬……ドラゴンと同じく伝説の魔物、ケルベロスに近づいていく――


 ◆ ◇ ◆


 ――そしてカイル達も『遺跡』に足を踏み入れ、すでに地下も深いところへ降りていた。

 『シュー、大丈夫ですか?』
 「わふ」
 「2時間くらいならお前が乗っていても余裕だって。というかここは随分と入り組んでいるな」
 「『遺跡』は作成者によってかなり意匠が違うからな。イリスの居た場所はどうだった?」
 「罠が多かったな。それと最深部に伝説の魔物、ドラゴンが居てかなり苦労したぞ。なあブロウエル大佐」
 「うむ」
 「そういやオートス達は元気かねえ」
 『フルーレおねえさんやエリザおねえさんにも会いたいです』

 イリスがシュナイダーの背中からカイルへ振り返りそんなことを口にする。そんな彼女の頭に手を乗せながらガイラルが言う。

 「そうだな、こんな戦いは早く終わらせてゆっくり過ごしたいものだ。『遺跡』を作った際に工夫を凝らしたと言っていたから伝説の魔物を置いたのがそれなんだろう」
 『あなたは関わっていないのか?』

 一応の事情を聞いていたヤアナが後ろからガイラルへ話しかけると、彼の方に顔を向けながらその言葉に反応した。
 
 「私は地上の拠点を作ることを任されていたから『遺跡』はノータッチというやつなんだ。だから――」
 「っと」
 『おー』
 「わんわん!」

 カイルとガイラルは天井から強襲してきた巨大コウモリを二匹、真っ二つにして続ける。

 「こういうのも知らないというわけさ」
 『なるほど……。俺達はコールドスリープされていたから気づかなかったが、あなたが裏切る前に色々あったんだな』
 「そういうことだ」
 「……陛下、お話はここまでのようです。ありました」

 周囲を警戒しながら進んでいると一番前を歩いていたブロウエルが立ち止まり、ランタンを掲げたところに豪華な装飾をした豪華な扉があった。

 「イリスの居た場所の扉に似ているな。ってことはここが目的地らしいな」
 「そのようだ。準備が出来たら開けます。……いや、待つまでもなさそうだなカイルは」
 「まあな」

 にやりと笑うカイルを見て帽子の位置をブロウエルが手を扉にかけると重々しい音を立てながら内側へ開いていく。

 そして――

 『あ、大きい犬さんです』
 「……フェンリルか、ドラゴンもそうだが子供一人を護衛するには過ぎた戦力だな」
 「ヤツらは終末の子にそれくらいの期待をしていたからだろう」
 「あのデカブツを生み出せるなら投入すれば良さそうなもんだがなあ」
 『それが出来ないからか、それよりも俺達の方が強いのか……そういうことだろうよ。出ろ、ニルヴァース』

 ヤアナが大剣をどこからともなく取り出すと、その声に気づいたフェンリルが頭をゆっくり上げてカイル達を視認。一瞬、目を細めたと思った瞬間――

 「わぉぉぉぉぉん……!!」
 「なに……!? チッ!」
 『わっ』

 フェンリルの姿がフッと消え、瞬きをした間にカイル達の目の前に迫っていた。危険を察したシュナイダーがイリスをカイルの方へ振り落としフェンリルの胴体へ体当たりを仕掛ける。

 「グルルルル……!!」
 「オオオオオオン!」
 「無理するなよシュナイダー! 食らえ!」

 吠え合う二頭の魔獣。
 カイルは隙を見せたフェンリルへ赤い銃を向けて発砲。だが、スッと姿をかき消す。

 「速い……!」
 「眼だけで追うな、気配を追え」
 「気配か……ってそうは言ってもよ! うらあ!」
 「わおぉぉん!!」
 『シューが頑張ってます! イリスも戦う!』
 「イリスは俺んとこに来い!」
 『ここは任せて援護を頼む。……行くぞ』

 「グルルルル……」

 散開したカイル達は消えるフェンリル相手に戦闘を開始する――
しおりを挟む
感想 266

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...