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第六話 何故かいつもより元気というもの

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 「ん……」
 「おお、目を覚ましたか!」
 「父さん? 僕は」
 「ウルカちゃぁぁぁぁぁん!」
 「うは!? か、母さん、苦しいよ!」

 目が覚めると父さんの歓喜した顔が入り、すぐに母さんが抱き着いてきた。えーっとなにがあったんだっけ……?
 よく見ると服はパジャマではなく泥だらけの外出着。
 
 「母さん落ち着いて、僕は大丈夫……だと思う」
 「本当に!? 痛いところはない?」
 「うん。なんだかスッキリしているよ」

 頭が冴え体が軽い気がする。
 そこで僕は倒れる前になにがあったのかを思い出してきた。

 「あ!? そうだ、僕はでかい蛇に襲われて――」
 「そうよウルカちゃん……地響きみたいな音がしてママが急いで駆けつけた時にはウルカちゃんが鼻血を出して白目を剥いていて……」
 「ああ、そうだった……美人幽霊のおかげで倒せたんだった……」
 「ん? 美人の幽霊?」

 父さんが首が首を傾げていたので経緯を説明……しようと思ったけどややこしくなりそうだからどうするかな。

 「あと少し私が到着するのが早かったらズタズタに引き裂いてやったのにっ!」
 「あはは……。それじゃ母さんが連れて帰ってくれたんだ?」
 
 僕の問いに父さんが頷き、あの後のことを教えてくれた。
 鼻血を出して白目を剥いていた僕を母さんが抱き上げ、すぐに屋敷へ戻ると父さんに報告。
 兄さん二人を呼び戻すのと丘の下にある町の近衛兵を連れてくるため執事のウオルターを使者に出したとのこと。
 ちなみに窓から外を見るとすでに真っ暗で結構な時間気絶していたことが伺える。

 「今はどうなっているの?」
 「あの蛇について調査中だが……恐らく池に封印されていた魔物が復活したようだ。池の水を抜いたところ巨大な魔石が沈んでいたらしいよ。怖かったろう、パパ泣いちゃったよ!」
 「まったくね! それじゃお風呂に行きましょう、泥を落としてゆっくり寝ましょう――」

 目を離したのが良くなかったと母さんは寝るまで僕にべったりだったけど、今日くらいはいいかと目を瞑ることにした。
 
 そして翌日――

 「ふあ……よく寝た……昨日も思ったけど体が軽いなあ。……ん? なんか腕が重い……
 「すぴー……ウルカちゃん……」
 「いつの間にベッドに!? 母さん過保護すぎるよー」
 
 だけど目の下にクマがあるところを見ると僕が眠った後も心配でついていてくれたんだと思えば嬉しいものだ。
 まだ起きそうにないので絡まれた腕を外し……外――

 「外れない……!? 力強っ!? 流石に五歳児でもこれくらいは出来……あ、トイレに行きたくなってきた!? だ、誰かー!!」
 「呼んだかウルカ!?」
 「あ、ロイド兄ちゃん! 母さんの手を外して、トイレに行きたい」
 「おしっこか! 任せとけ。母ちゃん、起きろウルカが困ってんぞ」

 あ、そこは起こすんだ。
 色々台無しになった気がするけど漏らすよりはいいかとロイド兄ちゃんに任せることに。

 朝食の席についたところでギルバード兄ちゃんとロイド兄ちゃんから声をかけられた。

 「ウルカ、昨日は本当に心配したんだぞ? 一人で森へ足を踏み入れるなよ」
 「ごめんなさい。そんなに離れていないし魔物も出てこないから大丈夫かなって思ってたんだ」
 「や、でも兄貴やオレも森で遊んでいたし大丈夫だと思うぜ? ありゃあ運が悪かっただけだ!」
 「パパも遊びたい」
 「それは私もですわ。ところであの池の魔物はどうなったんです?」
 
 真面目な顔で変なことを言う父さんに、母さんが質問を投げかけると僕達を見渡してから小さく頷いて言う。

 「……あれは五百年ほど前にさる大賢者が封印した邪神……」
 「え!?」
 「かもしれないしそうじゃないかもしれない」
 「なんだよ!?」

 父さんの真剣な表情から繰り出された冗談により僕達は派手にずっこけ危うくコーンスープを零しそうになった。
 
 「ぬっはっは! 昨日の今日で正体がわかるはずないではないか! まあ遺体は引き渡したし、報奨金も出るみたいだ」
 「へえ、凄いじゃないか」
 「しかし問題もある」
 「問題?」
 「あれを倒した人物についてだ」
 「あー……」

 常識的に考えて僕が倒せるとは思えないだろうからそういう話になるのも道理である。となると次にあがる話題は――

 「ウルカはあの魔物が倒されるのを見ていないかい? 物凄く正確に脳天を撃ち抜いている技量はさぞ名のある人物だと近衛兵が口々に言っていた」
 「い、いや、僕は追いかけられた時に転んでそこからは……」
 「だよなあ。……案外ウルカが倒してたりして」
 「あはははははは、そんなわけ無いじゃない! ……痛っ」
 
 まあバレても困ることは無いと思うけど面倒ごとっぽいし適当に笑ってごまかし、パンを口に入れると下唇を噛んだ。

 「どうしたのウルカちゃん!?」
 「笑いながらパンをかじってたから唇を噛んじゃったよ。……ん? あれ、なんか片方の歯が鋭いような……欠けた?」
 「……血が出ているぞ、これで拭き取っておけ」
 「ありがとうギルバード兄ちゃん!」
 「……」

 とりあえずアレの正体はおいおいということで話は終わり、兄ちゃんズは学院へ出かけて父さんも仕事へ。
 僕の屋敷は使用人らしき人は父さんの執事であるウオルターさんと母さんについているメイドさんだけなので必然的に母さんも家事をすることになり、朝食後のこの時間は割と暇になる。

 「ウルカ様ー、ウルカ様ー」
 「ちゃんと居るよー」
 「ああ、良かった。昨日の今日でさすがに出て行っていませんでしたね」

 部屋でくつろいでいると、メイドのバスレさんが部屋をノックしながら僕が居ることを確認していた。
 僕が産まれた時からここに居る人でショートボブの赤い髪に眼鏡が印象深い美人さん。

 美人なんだけど――

 「部屋のお掃除をさせてくださいね」
 「うん」
 「では……」
 「なんでさ!?」

 ベッドで寝転んでいた僕の隣にバスレさんが添い寝するみたいにしてきた。
  
 「ああ……可愛いウルカ様……」
 「ちょ、抱き着かないでよ、暑苦しい!」
 「も、もう少しだけ!」
 「ええー……」

 という困った人なのである。
 年は十四歳で兄ちゃんズより少し年下で今年から雇ったメイド。学院には行かず働いている娘さんだ。
 この世界は平民が学校に通うのはなかなか難しいようなので別に特殊というわけでもないみたい。

 「ウルカ様ー、大きくなったらわたしと結婚するんですものね。するって言ってください」
 「はいはい、バスレさんは美人だから僕じゃなくてもいいと思うけどね」
 「大人ぶって可愛い」
 「もう……」

 初対面から僕が大好きなので掃除にかこつけて愛でに来るのにも慣れてしまった。まあ十四歳なのに出るとこは出ているし美人だから悪い気はしないけど――

 【……】
 「うお……!?」
 「どうしました?」
 「い、いや……。あ、ちょっと庭に出てくるよ、部屋の掃除お願い!」
 「あ、ウルカ様! ちぇー 」

 窓の外で恨めしそうに見ているあの幽霊に気づいた僕は庭へ行くことにした。
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