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第五十七話 出ましたいつものやつのようなもの

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 さて、ゼオラのことが少しわかったのは僥倖だった。彼女が居て困ることはないけどこのまま幽霊のままにしておくのは忍びない気がする。

 ……僕も一度死んでユキさんに転生させてもらい、今はとても楽しい。次の人生がどうなるかわからないけど、きっと幽霊なんかより楽しいはずなのだ。
 未練がなにかわかれば成仏できるのだろうか?
 せめてどこで死んだか分かればその地へ行くのもいいと思うんだけどね。

【お祭りサイコー! くぅー酒が飲みたいぜ】

 本人はいたって気にした風もない。むしろ楽しそうだけど、なんとかしてあげたい気がする。
 とはいえ五歳の身体ではどうしようもないのでこれは僕が大きくなるまでに終息の地を調べてから現地に行ってみるのがいいと思う。

「はい、ウルカ君あーん」
「ありがとうリカさん」
「あはは、みんなちゃんと躾けられているわね」
「うぉふ!」
「こけっこ!」
「にゃー」

 それはひとまず置いといて昼食だ。
 野菜と肉のクリームシチューに食パン、それと住宅街へ行く前に見たソーセージを見繕い、飲み物はスイカのジュース。
 まさかスイカがあるとは思わなかったけど、瑞々しい中にあるほんのりとした甘さは熱くなった体を冷やしてくれる。
 氷魔法はメジャーなのでこれは嬉しいところ。コップは返却式なので後で返さないとね。

「っと、人が増えてきたな」
「そうだね。そろそろステージでもイベントが始まる時間だし」

 お昼を過ぎてから大道芸人さんや楽器の演奏が入り、夜になると踊り子さん達の出番や個人でのど自慢大会みたいなものもプログラムにある。
 のど自慢は意外と集まった……娯楽が多いとは言えないこの世界なので楽器と歌は人気のようだ。

「あのひと凄いー!」
「応援してあげましょうね」

 母子がステージのジャグリングを見て楽しそうに笑う。こういうのがあるとやって良かったと思えるし嬉しい。

「アニーやステラ達も楽しんでいるかな」
「あ、彼女? ませてるわねー。でも、結婚できるのって一人だけだから今のうちに決めておかないと大変なことになるかも……?」
「え、そうなの? 兄ちゃん達知ってた?」
「そうだぞ。まあ、まだ五歳だしまだいいかなって思ってよ」
「それもそうか」

 マリーナさんとロイド兄ちゃんが笑い合う。なるほど……ならどちらかを決めないといけないのか。

「まあ領主とか王族になれば話は別だけどな」
「ダメですよギルバード君、期待を持たせるようなことを言ったら。どっちもなかなかなれないんだから」
「ま、まあ、まだ先の話だろう?」

 兄ちゃんズの立ち位置がよく分かる会話をありがとう。ごちそうさま!
 意外とギル兄ちゃんが迂闊で意外だ。
 とはいえ先の話なのは間違いないので記憶にとどめておくくらいでいいと思う。

「ごちそうさま! それじゃ巡回の続きをしよう」
「食った食った! たまには母さんやバスレ以外の食べ物も悪くないな」
「……バスレって誰よ?」
「え?」
「ウチのメイドさんなんだ。僕と仲良しで、ロイド兄ちゃんとは普通だよ」
「そ、そう……」

 不穏な空気になりそうだったのでさりげなくフォローを入れる僕。ロイド兄ちゃんから小声で「助かるぜウルカ」と聞こえ、ホッとしている様子だった。

 そんな小話を経て再び巡回の旅へ。
 この町は城壁的なものがない開けた町なのでここからが時間的にも本格的に警戒をする必要があると考えている。
 女子二人もそのままついてくるというので真ん中にシルヴァに乗った僕。その両脇にマリーナさんとリカさん。そして挟むように兄ちゃんズである。
 日が暮れるにつれて人が増えて賑やかになっていく。 仕事が終わった人からやってくるからだろう。
 農場を使っていない人は家の近くで畑を持っているので人の気配というものがする。
 だけどお祭りで離れるとまあ空き巣とかに狙われやすくなるためそういう監視も含めているのだ。

「怪しい動きをする人が居たら報せるんだぞ」
「わん!」
「こけ」
「にゃっ!」
「賢いなあ」

 シルヴァが前方、ジェニファーが僕の頭の上で後方を担当。タイガはロイド兄ちゃんの肩で首を動かす。
 そして大通りから少し離れると畑のある背が低い家の地域へと足を踏み入れる。

「おー、双子じゃないか。なにやってんだこんなところで」
「巡回だ。弟と一緒にな。楽しんできてくれ」
「いや、マリーナとリカを連れているお前達の方が絶対楽しいんだが!? ……チェ、ナンパでもしてくるわー」
「行ってこい行ってこい」
「そんなこと言っているからモテないのよ♪」

 周囲を警戒しながら歩いていると兄ちゃん達の友達らしき人とすれ違う。貴族なんだけど気さくに話しかけてくれる友達ばかりなので兄ちゃんズの人柄もよくわかる。家族全員が偉そうにしないんだよね。

「またねー弟君!」
「はーい」

 そんな感じで数組の友人たちと挨拶を交わしていると少しずつ陽が暮れていく。そろそろ外周を回ろうかと思った矢先――

「わんわん!」
「ん? あれは……馬車だ」
「どこかの貴族だろうな。この前の椅子が好評だったから」
「あれ? こっちにくるわよ」

 マリーナさんが言う通り向きを変えてこっちに向かってくるのが見えた。そのまま僕達の近くへ来ると停車し、後ろの乗車部分の窓から知らない顔が出てきた。

「おや、これはこれはガイアス家の地味な双子じゃあないか」
「げ、フェリガ」
「おう、祭りに参加か?」

 ロイド兄ちゃんが不機嫌そうに口を開く。そういえばフェリガって兄ちゃんズに絡んでくる貴族だって言ってたな。
 顔を見てみると、ジェルで固めて整えたようなピタッとした髪型にたれ目がちな三白眼。嫌らしい笑いが『いるいるこういう人』って感じだ。

「そしてそこに居るのはマリーナさんにリカさん! これも運命、どうですここから一緒にパーリィに行くというのは!」
「普通にお断りしますね」
「あ、わ、私も……巡回、してますし」
「なんだと!? おのれ……二人を解放したまえ!」
「「いや、別に強制じゃないし」」

 スン……とした顔をする二人の声がはもった。
 ああ、だいたいの関係が分かった気がする……。
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