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第八十六話 久しぶりに秘密基地へ赴くというもの
しおりを挟む「さむ……」
【もう厳寒の月か、あっという間だなあ。寒い時は酒であったまるんだよな】
【むう、拙者は下戸でござるからお茶しか無理でござるよ】
「というか今まさにお茶が畳を水浸しにしているからね?」
囲炉裏のあるオオグレさんの小屋で暖まろうとやって来たのだけど、骸骨だからと防寒処理をしていない小屋は寒く、火があっても寒かった。
湯飲みを作ってと頼まれたので生成してあげたんだけど、オオグレさんはそれを使ってお茶を飲むのだ。もちろん喉もないし食道も胃もない。だから口に入れた瞬間全部床へ流してしまう。
【いやあ、雰囲気でござるよ!】
「それで畳を汚されたらたまらないよ。シミになってるじゃないか」
【ぐぬ……面目ない……】
【ただの地面ならいいし、作り変えてもらえばいいのに】
【むう……土間に座る……それは嫌でござるな】
「ならお茶は控えてよ?」
僕がそういうと雑巾で畳を拭きながら『体……肉体が欲しいでござる……』とアンデッドっぽいことをぶつぶつ呟いていた。夜に見たらマリーナさんは失神するであろうこと請け合いだ。村の時も最後まで目を覚まさなかったからねえ……。
それはともかく、村へ行ってから約二か月半ですっかり外は寒くなった。時折、雪が降ってきた日には布団から外へ出たくないと思わせるほど。
昨年までは屋敷で過ごしていたけど今年はオオグレさん小屋もあるし秘密基地もあるから退屈はしないかな。
なんだかんだで兄ちゃんズは学校があるし父さんは仕事。母さんは遊んでくれるけど、ゼオラやオオグレさんと訓練をするのを見守ってくれる方が多いんだよね。
村に駆け付けてくれたとおり溺愛はしてくれているんだけど、僕がヴァンパイアハーフに覚醒してから接し方が変わったような気がする。
【あー、身体が欲しいぜ。早く大きくならねえかなウルカ】
「お酒を飲みたいからでしょ? 僕の身体がお酒に弱かったらダメだからね」
【拙者の体をクリエイトできんでござるかなあ】
【やめとけやめとけ、『ガワ』がついても中身が無かったら味も感じねえし意味ねえよ。ゴーレムと一緒だからな】
ま、お茶がこぼれなくのはいいかもしれないけど多分ごついから動きが鈍くなりそうだよね。
「ふう、紅茶を湯飲みで飲むのも不思議だけど、日本じゃよくやってたなあ」
【ニホン、とは?】
「ああ、説明していなかったっけ。僕はこの世界の人間だけど、精神は別の世界だった人間なんだよ。前の世界では十七歳で死んだんだっけ」
【なんと……!? ということは中身は大人でござるか! ううむ、通りで賢いと思ったでござる】
オオグレさんが腕組みをしながら驚愕の声を上げる。相変わらずどこから話しているか分からない。そこでゼオラが口を開く。
【異世界人ってのはこの世界の人間と違う知識があるから面白いんだよな。昔、話で聞いたことはあったけどこの目で見るのは初めてだ】
「あれ? なんか思い出したの?」
【ん? そういやなんで今あたしこんなことを言ったんだ? うーん。異世界人……異人……】
「別のなにかになっている!? ……お?」
ゼオラがなにかを思い出しかけた時、小屋の隅で寝ていたシルヴァが首を上げ、固まっていたジェニファーとタイガも身を起こす。
何気に寒さに強い動物達が集まっているんだけど、小屋は寒いので身を寄せ合っていた。なにかに反応したのかと思い視線の先である入り口に目を向けると、外から元気な声が聞こえてきた。
「ウルカ君ー!」
「遊びに来たぞー」
「うう……寒い……」
いつもの三人だ。
僕はすぐに入り口を開けて招き入れるとステラが早速囲炉裏の前を占拠。どうやら寒いのは苦手のようである。
「はふん……」
「寒かったろ? シルヴァ、ステラにくっついてあげなよ」
「わおん」
「ふさふさ尻尾……」
シルヴァを呼んで隣へ座らせると珍しくうっとりとしながら尻尾に抱き着くステラに苦笑する。一瞬見えた外は積もっていないまでも雪がちらついていた。
アニーはお気に入りのポンチョの下に毛糸のセーターに手袋。フォルドも手編みのセーターと毛糸の帽子に手袋で、ステラはさすがというべきか毛皮のコートである。
「アニーも帽子があるといいかもね。はい」
「かわいいー! うさぎさんの帽子だー!」
「ステラはイヤーマフでいいかな」
「おお、これはいいものだ」
「お、俺には!?」
「フォルドはマフラーにしよう」
手持ちの毛糸で防寒具を追加してあげた。僕はそれほど動かないけど、三人は丘の上にあるここへ来てくれているからね。
まあ、クライトさんの手配した馬車で来ているから歩きではないんだけど。
「今日はどうしようか? こう寒いと体を動かした方がいいから剣術かなあ」
【雪が降っているからお休みでいいでござるよ。風邪を引いたら大変でござるからなあ】
「ござるー」
「にゃーん」
タイガを膝に乗せてオオグレさんの真似をするアニーはちょっと可愛い。なら今日は遊ぶと言いたいところだけど、なにをして遊ぶかが課題だ。
夏はミズデッポウとかで遊べたけど冬は僕も体に障るからと外に出るのはご法度だったから考えが及ばない。
その内テレビやネットの記憶を呼び起こせばいいか。とりあえずは今だ。
「あ、そういえば最近池に行って無いね。隠れ家も入らないし、鍵をかけておこうかな」
「あそこ寒いもんな。池も凍りそうだし」
「お、フォルドいいことを言った」
「え?」
池を凍らせてスケートはアリかもしれない。金属はまだあるし、スケート靴を作ってみようかな?
どちらにせよ秘密基地には行ってみよう。暇だし。それにあそこは地下なのでここより暖かいのではないかという考えもあったりする。
「よし、バスレさんを連れて秘密基地へ行くか」
「動きたくない……」
「向こうの方が暖かいかもしれないよ? とりあえず動こう」
「うん……」
シルヴァをがっちり掴んで離さないステラに声をかけた後、僕は屋敷へ行ってからバスレさんを呼ぶ。彼女もコードを装備してついて来てくれることになった。
「寒いですねえ。ステラさんはシルヴァと一体化……」
「わふわふ」
「雪がすごいねー」
思い思いの話をしながら池へと向かい、久しぶりの秘密基地へ。もうひとつ秘密基地があるけどここはここで着替えや気軽に雨宿りができるいい場所なのだ。
「ん? なんか入り口が雪で塞がっている……?」
「そんなに降ったっけ?」
「あれ? とーう!」
フォルドが空を仰ぎながら呟く。
木の根元にある扉が雪だるまみたいなものが塞いでいた。その時、アニーがなにかに気付き突撃。ジェニファーとタイガもその後を追い、雪だるまへ突っ込んでいく。
「わぷ」
「ん?」
ぼふんという効果音がつきそうな柔らかい音と共にアニーとジェニファーが雪だるまに埋もれた。
すると――
「なんだなんだ? 子供?」
「あ!」
白い塊は立ち上がり、口を開きながらこちらを振り向いた。その姿を見て僕は大きな声を上げてしまう。
「パ、パンダが喋った!?」
そう、その白いものは紛れもない……パンダだった。
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