Rich＆Lich ～不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する～

第百十八話 苦肉の策というもの

「ではウルカよ、お前がクリエイトの魔法を使えることに関して私からのお願いを聞いてもらいたい」
「お願い、ですか？」

　ものすごく悩んだ末、国王様は僕と目線を合わせてからそんなことを口にする。
　その提案に僕達一家は怖い顔で僕の後ろに鎮座する。

「この国の辺境には人の手があまり入っていない地域があるのだ。お前が行ける歳になったらそこに住んで開拓をして欲しい」
「開拓……」
「それは体のいい追放なのでは」

　ギル兄ちゃんが訝しげに呟くと国王様は立ち上がってから僕達に目を向ける。

「フレイムドラゴンは脅威な存在だ。それが復活しただけでもよろしくない。さらに博物館の目玉でもあった。それを無くした対価だ。確かに辺境だが、必要なものは用意するから、移住というやつだな」
「黙っていればいいじゃないですか父上。まだ五歳のウルカには可哀想でしょう」
「う、うん……わたしも……そう、思う……」
「うむ。だからウルカが大きくなるまで待つのだ。さすがに五歳で放逐はできんからな」

　あまり無理を言いそうにない国王様がルース様とデオドラ様にぴしゃりと言う。追放という分かりやすい罰を与えるのは簡単だけど、僕の年齢もあるし、母さんというジョーカーが控えているので下手に刺激しないためもあるのだと思う。
　
「……ふむ」
「母さん？」

　申し訳なさそうに言う国王様をよそに母さんが顎に手を当ててなにやら呟く。僕達が注目した瞬間、母さんが真剣な顔で口を開く。

「……フレイムドラゴソだった、というのはどうかしら？　ドラゴンじゃなければ大丈夫なんでしょう？　ウルカちゃんはお屋敷から出すつもりはないわ」
「おや！？　というか変な生き物になった……！？　ダメだよ母さん、これは僕が迂闊だったから国王様のお願いを受けるつもりだよ。オオグレさんの時に学習できていなかったんだ」
「ウルカちゃん……。わかりました。そういう決断をされるというなら、私達にも考えがあります。パパ、この国を出て新しい土地へ行きましょう。辺境からちょっとずれたらどの国にも属さない土地のはずですから、私達の国を建て――」

　ぐるぐる目になった母さんがなんだかとんでもないことを言いだした！？　すると父さんが羽交い絞めにして耳元で話しかけた。

「落ち着いてママ！？　ママは飛べるから辺境まですぐだろう？　死ぬわけじゃないし大きくなってからならそういうこともあるさ」
「ぐぬう……」
「くっ……」
「こればかりはねえ」

　するとエリナ様が僕の頭に手を置いて撫でながら僕へ言う。

「ごめんなさいね。フレイムドラゴンが展示から消えるのは事実だから、その理由は必要なの。ウルカちゃんの能力は伏せるけど、ゾンビとしてよみがえったから開拓地へ送ったことにしますわ」
「なるほど……」
「で、でもウルカがそれをする必要は……」

　ロイド兄ちゃんが困惑するけど、そこは国王様が説明を続けてくれる。

「あの地域をどうしようかと考えていたのは事実なのだ。そしてウルカが大きくなればさらに賢くなるだろう。もちろん領主ロードとして仕切ってもらう」
「マジ……ですか！？」

　それは破格ではないだろうか。父さんですらただの貴族なので、領主となるとさらに上の階級になる。物資も必要なら送ってもらえると考えればお得感はある。

　……というか下手に断ってやっぱり罰を与えると言われて全面戦争になるよりずっといい。
　
「いいよロイド兄ちゃん。僕はその話お受けします！」
「すまぬな。開拓状況によっては褒賞も出す」
「わかりました」

　父さんが返答し、僕達は詳しい話を詰めるため家族だけで残った。クライトさんとステラは謁見の間を出ていく。
　決まったことはそれほど難しいことじゃなく、僕が大きくなったら向かう。
　物資は持って行ける。
　選定した人間は連れて行って良い。ただし母さんはダメ。やはりヴァンパイアロードが単独の領地に移住は色々としがらみが出てくるようだ。　

　そのまま必要な話を終えると、フレイムドラゴンを早く移送するべきだという意見が一致し、明日僕達は出立することになった。

　部屋に戻るとステラが袖を掴んでから僕へ言う。

「大丈夫。私はついていく」
「それは俺が寂しいから止めて欲しいなあステラちゃん」

　クライトさんがそう言ってステラを抱きかかえると、頬を膨らませた彼女がクライトさんをポコポコと叩いていた。
　そこへ僕達家族の後を追ってきたルース様とデオドラ様も声をかけてくる。

「ウルカ！　ごめんよ、止められなかった」
「……うう……辺境……怖いところ……」
「お、脅かさないでよデオドラ様……。大丈夫、シルヴァ達も連れて行けるだろうし、クリエイトの魔法があるから何とかなると思うよ」

　実際、秘密基地を作ったりしているので移住はなんとかなると思う。問題は食かなというくらいだ。まあ物資は運んでくれるらしいので問題ない。

「大丈夫だ。俺もついていくし」
「だな」
「そこはわたしが行きますので。ギルバード様とロイド様はたまに顔を見に来ていただければ」
「し、しかし……」
「バスレさんの言う通りだよ兄ちゃん達。大丈夫、さっきのことで色々考えていることもあるし楽しみでもあるんだ」
「僕からは頼りになる騎士を派遣しようかな」

　ルース様が頼もしいことを言ってくれ、逆にギル兄ちゃんは歯を食いしばっていた。

「うおおん……ウルカちゃぁぁぁん！」
「わぷ！？　母さん、苦しいよ。死ぬわけじゃないし、飛べるなら会いに来てよ。お前達は来てくれるよね」
「わん！」
「こけっ！」
「にゃー！！」
「……わ、わたしもなにか考える……」
　
　デオドラ様が頼もしい。
　それとペット達が居れば寂しくはない……と思う。
　
【ま、数年したら劇的に変わるだろ。罪罰はともかく、なにかしらウルカにペナルティは与えないといけないからな王として。それは子供でも、だ。たまたまなにも無かったが、フレイムドラゴンが暴れて人が死んでいたらとんでもないことだったしな】

　ゼオラがもっともらしいことを頭の上で言い、同時に気づかなくてすまないと謝罪をした。こういうことが昔にもあったのかな？

　そして翌日、僕達はフレイムドラゴンゾンビを伴って町へ帰ることになった。

【ふむ、我はしばらくお前の屋敷で暮らして、いつか遠い地へ行くのか】
「そういうこと。その間に君が暴れたりしたら討伐対象になるから大人しくしていてよ？」
【リンダとやらと再戦できれば死んでもいいが……】
「それは主人である僕の意向を組んで欲しいかな。折角仲間になったし、死んでほしくないよ」

　僕はフレイムドラゴンゾンビの首に乗って街道を歩き、そんな話をする。するとフレイムドラゴンゾンビは首をチラリとこちらへ向けてからカタカタと骨を鳴らす。

【我は最強のドラゴン。それに臆さず死ぬなときたか。久しぶりに面白い者に出会えたかもしれんな。だが、決闘はさせてもらうぞ？】
「リンダさんに会えたらね」
【む？】

　会えるなら僕も会えるのでそれはそれでいいかもしれない。

　そんなことを考えながらカチャカチャと骨を鳴らしながらフレイムドラゴンゾンビは家族の馬車を追うのだった。
　あ、ちなみに皮も全部もらえたからその内クリエイトで外装をつけてみてもいいかもしれない。
　そんなことを考えながら色々とあった王都を後にするのだった――