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第百六十話 人を頼るというもの

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「彫刻が出来る人を探そう」
「いきなりどうしたんだい?」
「それがねぇ――」
 
 噴水の形は完成したけど、ユキさんの造形はどうしても僕には無理だった。
 しかし一度思いついた以上は実現せずにはいられない。
 ラースさんならなにか知らないかと思い、ボルカノと作業中の彼の下へ向かった。そしてベルナさんが説明をしてくれる。

「なるほど、それで彫刻家かあ」
「知り合いとか居たりしませんか?」
「芸術家系は特に少ないから役に立てないかもしれない。騎士達にも聞いてみるから少し待ってくれると助かるよ」
「大丈夫です! とりあえず浄化の魔石は適当に設置しておくので」

 とりあえず協力をしてもらえることになったのでひとまずユキさんの像は置いておこう。やはり僕をここに送ってくれた彼女がここの守り神みたいなオブジェだと安心できる。

『みなさんそうおっしゃいますぅ』

「ん? いま何か聞こえたような……」

 ユキさんらしい声が聞こえた気がしたけど周囲を見てもそれらしい姿は無かった。まあ気のせいだろうね。久しぶりにユキさんのことを思い出したせいだと思う。

「それじゃ次は下水道を作ろうかな」
「わたしはお仕事に戻るねぇ」
「私はご一緒させてください」

 ベルナさんはお仕事に戻るため籠を背負ってどこかへ立ち去って行った。
 ヨグスさんとハリヤーは僕と一緒についてきてくれた。

「下水道とは?」
「えっと、王都だとどうしているか分からないんだけど各家庭の汚水を一か所にまとめて流すんだ」
「ふむ……糞尿などですか? 王都だと汲み取り式で回収業者がいますが」
「やっぱりそうだよね。実家もそうだった」

 トイレで水を流すけど、最終的に行きつく先は肥溜めになるんだよね。どうしても衛生管理上良くないからいつか水洗トイレと上下水道というものを作りたかった。
 主に自分のためだけど。

「かといって川にそのまま流すと下流の人の迷惑になる。そこで浄化の魔石の登場というわけ」
「……そんな貴重なものをよく銭湯に使いましたね」

 ヨグスさんが呆れた調子で僕に言う。ハリヤーに乗っているから目線はほとんど同じなので視線を反らしながら返す。

「ま、まあ、みんなの為だよ」
「確かに士気は上がりましたからありがたいのですけどね」

 あれも主に自分のためなんだけどとは言えないなあ……。
 それはともかく下水道の意味を伝えると、頭のいいヨグスさんはすぐに理解してくれた。

「そこで噴水の下に汚水が溜まるようにして、そこから川へ戻すというわけですね」
「うん。いつか技術が上がれば魔石なしの浄水ができるようになると僕は思っているけど」
「それは……ウルカ様の知恵をお借りすればできそうな気もします。そういう人間を何人か知っています」
「いいですねー」
 
 日本の上下水道システムはどうなってるか僕には分からないのでふわっとした話しかできないと思うけどね。
 それに今の異世界の文明レベルが『まだ』低いだけであってこれから先、百年もあれば車などが走り出す可能性は高いと思う。
 それまではやれることでこの領地を良くしていきたい。

「噴水の下に汚水が来るように導線を引かないといけないね」
「策はあるのですか?」
「一応、用意はしていたんだけど――」

 と、尋ねてくるヨグスさんの手を引いてからとある場所まで歩いていく僕達。
 到着したところで、地面にある木の蓋をどけてヨグスさんへ言う。

「ということでここから地下へ入ります。ハリヤーは通れるかな?」
「これは一体……」

 実は下水道は池を掘り進めていた時に思いついていて、少しだけ村から離れたところに、蓋つきの地下へ続く入り口を作っていたりする。なので入り口は結構おおきめに取られている。
 なぜかというとフォルテに固めるのを手伝ってもらわないといけなかったからマンホールタイプではなく斜めに下る緩やかな坂にしているのだ。

「これは……凄いですね」
「昔、秘密基地を作っていたんだけどこういう感じだったんだ」

 だいたい地下五メートルほどまで下ったところで平地になる。そこはさらに水が流れるコの字型の水路があった。

「ここを汚水が流れる予定なんだ。各家庭からあの穴を通ってこの水路に落ちる。で、地下から川に繋げようかなって」
「ふむ」

 ヨグスさんに説明すると顎に手を当てて上下左右を見渡し、なにか考え始める。
 手で高さなどを調べているようだけど……?

「なにか問題がありそうかな?」
「そうですね。申し訳ないですがこのままだとこの下水道というのは使えませんね」
「おや!? ど、どうして?」
「川から池まで引いて来たと思うので説明すればわかると思いますが、今、立っている場所は川よりも低いところになりますよね」
「うん」

 黙って説明を聞いてみる。
 すると――

「このまま川まで掘り進めたとしましょう。そうなると川の中に穴が空くことになります」
「そこから汚水が流れ出て行かないかな?」
「いえ、逆です。川の水が大量に入り込んできてこの地下水路は水でいっぱいになるでしょう」
「……あ!?」

 そう言われて確かにと脳裏をよぎる。
 川の中に直通だと水が流れ込んでくるのは当たり前だ。そういえば二つ目の秘密基地を作った時、涼しくするため池から水を引いた穴は流れ込むようにしていたんだっけ……。

「ダメだねえ」
「ですね。ただ、案として噴水に汚水を集めて浄化して川に流すのはとても面白いと思うので、少し私に預からせてもらえますか?」
「いいの?」
「はい。穴掘りはウルカ様の方が早いと思うので協力していただきますが」
「もちろんいいよ! ならここはヨグスさんに任せるね」
「承知しました」

 微笑んで頭を下げるヨグスさんは自信がありそうだ。
 餅は餅屋じゃないけど、自分だけじゃ難しいことを考えてくれる人がいるのは頼りになっていいね。

【とりあえず頼れるところは頼ろうぜ】
「うん」

 頭の上でゼオラが笑いながらそう言って撫でてくれた。
 まだ時間はあるし、少しずつ進めて行けばいいよね?
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